摩利「…勝者、十鬼蛇王馬…」
そう言った彼女は今でも信じられない顔をしていた。
一科生と二科生という差は、縮めることはとても難しい事だ。それに、この高校の中でも五本指に入る強者、生徒会役員という肩書を持つ……それがどうだ?
簡単に倒されてしまったではないか…魔法も使わず、全力も出さず…
真由美「…そんな…」
真由美も驚いた表情だ。鈴音もあずさも。
それは達也とて例外ではない。
前々から異質な空気を放っていた王馬を危険視していたのは事実だ。彼が強いことくらいは想定していたとしても、ここまでになるとは想定していない。
それに、達也は服部の強さくらいには気がついていた。
勝てないか、と言われれば嘘になるが、強者としては認めていた。
王馬「これで良し、と。」
服部は現在気絶している。
鼻からは血、それに何箇所か折れているかもしれない。
普通、ルールに則って禁止される行為だが、これに気がつけなかった摩利に責任が問われるだろう。
踏みつけさえ止めておけばここまでにはならなかったはずだ。だがそんな事よりも…
摩利「王馬…お前は何をした?なぜ触れた筈のお前が吹き飛ばず、服部の方が吹き飛んだのだ?」
王馬が行った事に興味が湧いた。
彼は服部から放たれた魔法を避ける事もなく正面で受け止めたはずだったが、吹き飛ばされることなくその場に立っていた。
それに奇妙なことか、吹き飛ばされたのは服部の方であった。上手く視認出来なかったが、まるで
王馬「魔法を利用したんだよ、それだけだ。」
摩利「なっ…じゃあお前は反射系の魔法を得意とするのか?」
王馬「反射、か。反射とはちょっと違ぇけどまぁ…そんな感じだな…あと俺は
驚きの嵐は連発であった。
魔法を返すなら魔法でしかない。それは誰もが分かっていること。しかし、彼は魔法式を立ち上げる素振りすら見せずそのまま反射した。
訳の分からない状況に誰もが唖然とした。
王馬「分からねぇなら試してみるかい?なぁシバタツヤ。」
達也「!」
深雪「お兄様。」
王馬「ちょうど相手が居なくなったんだ。いいところにお前が居たぜ。それに、ワタナベマリの言う
彼の達也を見る眼は服部の時とは違っていた。
服部の時は気だるげそうな顔であったが達也の時は、まるでやる気が入っている時の眼。
それに達也自身も感じ取れていた。今までよりも大きなプレッシャーを浴びせ続けていると。
達也はここで確信した。王馬に勝つには最初から全力、または
また、それでも足りないのかもしれない、と。
もはや試合は"死合"へと変化しそうになっていた。
摩利「確かに、服部があれじゃあ無理だな。達也君、出来るか?」
達也「…ええ。分かりました。それに先程の技に興味がありましたので喜んで受けさせていただきます。」
摩利「…分かった。では少し時間を「必要無ぇよ、さっさと
王馬「あんなの準備体操だよ。…シバタツヤは、
達也「!……その言葉、そっくり返すよ。」
これより急遽行われる事になった模擬戦。
普通なら服部が二人まとめて相手をする予定だったが、予定が狂わされたため"王馬VS達也"へと変更になった。
達也は普通なら勝つ気でいかないが、こればかりは集中して闘わなければいけなかった。
少しでも気を抜けば呑み込まれるのは自分だと、殺されるのは自分だと思い知らされた。
深雪は兄を優先して、応援するかと思われたがそうでもなかった。ならば王馬を応援しているのかというとそういう訳でもない。複雑な心境であった…
摩利「ルールは先程と同じだ。続行不可能となった時点で試合終了とする。」
それぞれが配置につき、構える。ギャラリーは先程よりも盛り上がっている様子だった。
真由美「ねえ、どっちが勝つと思う、リンちゃん。」
鈴音「達也君と答えたいのですが、王馬君のあれを見せられると悩みますね。広範囲魔法を避けるなど普通は出来ることじゃないので、それに彼の"素"の強さ。底が見えません。」
真由美「なるほど〜。深雪さんはどう思う?」
深雪「お兄様の強さは私が一番良く知っています。……ですが、王馬さんは"同等か或いは……"」
真由美「………そう。」
深雪は眉間にしわを寄せ、心配をする。
それは王馬に対してではなく達也に対してである。
達也は強い、それは深雪が知っていることだ。
しかしどうだ、絶対的であった兄に並ぼうとしている存在が居るではないか。
深雪は現在、手を合わせてもいない状況で二人の強さは五分五分と見ていた。
摩利「双方とも準備はいいな?それでは…」
摩利が手を挙げる。両者は戦闘態勢に入る。
摩利「はじめ!」
摩利の声が轟くと仕掛けたのは達也の方だった。
王馬に勝るとも劣らない超スピードで直様死角をとる。
そして特化型であるCADを構え、魔法を放つ。
…が。
達也「…!…居ない!」
王馬はそこに居なかった。
自分は王馬よりも速く動き、音も立てずに死角へと移動した。…しかし、それはもう気づかれていた。
王馬「速ぇじゃねぇか!」ドゴッ
達也「ぐっ…!」ザザザ…
今度は逆に達也が死角から攻撃されていた。
服部に当てた左ジャブ、達也はなるほどな、と思った。
服部のオーバーリアクションかと思ったが、これほどの威力ならば吹き飛んで当然だ。
王馬「効いたかい?」
達也「まだまだ…」
そして達也はまた高速移動を行う。今度は魔法を使って、だ。きっと素での動きでは先ず彼に攻撃を当てられない。
ならば、もっと速く移動するだけのこと。
王馬(魔法か…さらに速くなりやがったな…)
達也はこのまま距離を空けた戦闘にすることにした。
達也自身体術を会得しているが、通用しそうにないことを既に悟っていた。
だがここで達也にさらなる試練が与えられる。
達也(あの構えは…)
摩利(この場に来てやっと構えたか。なら、達也君を相手として認めたということなのか?だが、魔法を使うような素振りは見せないな。)
真由美(あの構え、ボクシング?それにしても、上体が浮いているような…)
深雪(…ッ!ここに来てやっと戦闘態勢!お兄様、御気をつけて!)
王馬はこの場にきてやっと構えをとった。
ボクシングというには上体を起こしている、そう、彼のとった構えは"キックボクシング"に近い構えだ。
達也(注意をしなければな…)
達也は王馬の背後をとり特化型を向ける、そして魔法を放つ。
王馬「速くなっても一緒だぜ!」スルッ
王馬はそれを回避し、達也を目で捉えていた。
達也(これで気づかれているのか!?)
ならばと不規則な動きをし、王馬を撹乱するように動く。
そして特化型を放つ。それを二度繰り返した時…
王馬「へ…ちょこまかとうるさいねぇ。」ダッ…
達也「何っ!?」
達也の目前まで迫ってきていた。王馬は服部との模擬戦の時も構えをとらず高速移動をしていた。
ならば構えをとって移動を行えば、それの倍以上は速くなる。素の能力で達也の世界に追いついてこれていた。
そして…
王馬「…」シュッシュッシュッ…シュッ
達也「ぐっ……」ガスガスガス…ドゴッ
左ジャブを二発そして右ボディからの左ハイキック。
達也と王馬の身体能力の差は、かなりある。
若干王馬のほうが大きい、だが、その体からありえない程のスピードで攻撃してくるため、対処の仕方が難しかった。そのうえ一撃は重いときた。
達也「ちっ…!」
王馬「逃げても無駄だぜ。」
シュッ…スルッ…ドスンッ…ドガッ…ドゴッ…ドガンッ…
達也も王馬が魔法を使ってこないため悪手を強いられていた。達也は『
武器を使わなければ魔法も使用しない、自分の体術では通用する可能性が低い。
かなり詰んでいた。
するとここで達也は余裕を見てバックステップで王馬との距離を空けた…ここで達也に試練と好機が与えられる。
達也「ぐはっ!」
摩利「何っ!?」
真由美「嘘!」
深雪「拳は当たっていないはず…なのに何故!」
達也がバックステップで王馬の攻撃を躱したが、その際に王馬は一回だけ拳を突き出した。そして、達也に攻撃がヒットした。
ギャラリー達は原理が分からなかったが、天才か、達也はこの一撃で原理が分かった。
達也「お前、拳にサイオンを纏ったな…」
王馬「頭良いねぇ。もう気づきやがったか。」
人間の体内には
彼らしいといえばそうなるが、こんな事、普通はあってはならない事だ。
王馬「反撃しねぇとまじで終わっちまうぞ!」
達也「ぐっ!」
一度踏み込んだだけで目前までやってくる。
そして両手に纏ったサイオンを放つ…いや、殴る。
達也はかろうじてそれを避け、転機を伺う。
ジャブ、ストレート、フック、ボディ、アッパー、ローキック、ミドルキック、ハイキック。
色々な攻撃を繰り出してくる、しかもその間5秒未満。
王馬ほ未だに涼しい顔をして腕を、脚を振り続けている。
達也「くそっ…」
直撃とはいかないが、掠ってしまう。
恐ろしいのが掠っただけなのに、大ダメージを受けたような感触。だんだんと蝕むような痛みが襲う。
そして攻撃の嵐は止まない。
王馬「あんた本当に終わっちまうぜ!」スッ
王馬の左ハイキックが達也の顔面に近づいてくる。
そして生徒会メンバーは達也の負けを確信しかけていた。
唯一深雪だけは挽回の余地があることを祈っていた。
そして左ハイキックが直撃……するかと思われた。
達也「待っていたぞ…」
達也は
王馬「!」
すると王馬の両手足を纏っていたサイオンが弾け飛んだ。
達也「ふん!」ガシッ
達也は王馬の脚を掴み、そのまま背負投…これに賭けた。
王馬を地面に叩きつけるがすぐさま起き上がってくると、
顔面にモロ、
達也「ガハッ!」ゴロゴロゴロ
王馬「いやぁ、あんた
王馬はなんてことのない表情をしながらまた立ち上がる。
達也は右ハイキックを喰らい、地面にゴロゴロと転がっていく。
先程、王馬の纏ったサイオンが弾け飛んだのは達也の行った"術式解体"のせいだ。
圧縮したサイオンの塊をぶつけ、対象の術式を吹き飛ばす対抗魔法。
かなりの高等技術であり、戦闘において使用するものは少ない。
生徒会のギャラリー達もこれには驚いていた。先程から王馬が目立っていたため分かりにくかったが、達也も充分、規格外の人間だという事に気がついた。
だが、それでも深雪の顔が晴れることはなかった。
あれからかなり時間が経った。サイオンを纏い、達也が打ち消して、それを何度繰り返しただろうか。それでも形勢逆転という訳にはいかなかった。
そしてしびれを切らしたのか、吹っ切れたのか、達也はいつの間にか近接戦闘へと移行していった。
両手にデバイスを持ち、魔法を放つ、そして避けられる。
何度繰り返したのかも考えられなかった。
達也「ふ…!…くっ…!」
達也は久方ぶりに勝負を楽しんでいた。
戦いとは楽しむ余地もなく、待っているのは"生"か"死"のみだ。彼は圧倒する力こそ持っているものの、楽しむ力なんてのは持ち合わせてはいなかった。
真剣に戦って、妹を守り抜いて今日を生きる、それだけだった。だが、そんな達也は今笑っている。
王馬(楽しいかい…シバタツヤ。)
この男も例外では無かった。
達也「はっ!」
王馬「…」
また、王馬の纏っていたサイオンは弾き飛んだ。
そう、術式解体だ。そして動きが読めてきた達也は王馬の右ストレートをぎりぎり躱す。そして特化型へとチェンジ、撃ち出させるのは達也の魔法であった。
だが…
王馬「惜しいな…もうちょっとだったぜ。」
それをミリ単位で躱す。
…が。
達也「そっちは惜しいがこっちは確実だ。」
王馬「…何。」ガクッ
ここにきて司波達也に勝機到来か。
特化型を向けたがそれは端から囮だ。
狙いは、魔法を回避して体制が不安定な王馬への一撃。
ここで、達也の体術が活躍するときがきた。
達也「はっ!」
自分の持っている力を振り絞り、サイオンを右手に集中させる。王馬と同じ事をして返す。
そして狙うは顔面、射程距離まで遠くとも近くもない。
ベストな角度と距離。
よりダメージが出せる位置にいた。
そして一気に突きだす。
王馬「へっ…」ニヤッ
駆け引きに敗れたのは…
摩利「な!あの動きは!」
真由美「ボクシングじゃないの!?」
鈴音「まさかあれは…」
あずさ「何が起こったんですか…?」
深雪「…そんな…お兄様が…」
驚愕する理由…それは…
達也「へ…」ガクンッ
達也が駆け引きに敗れたからだ…
王馬「残念だったねぇ…シバタツヤ。」
男の顔は笑っていた。
まず状況を整理しよう。
達也と王馬は魔法とサイオンのぶつかり合い、近接での勝負をしていた。序盤では王馬が近接での圧倒劇を見せていたものの、達也はだんだんとスピードに追いついてこれるようになっていた。
そのため、スピードでは互角の位置にまでたどり着いていた。だが、パワーでは王馬が勝っていた。
そして、達也の仕掛けた駆け引き、体術、複数デバイス操作、術式解体、と、出せるものは全て出し尽くした。
体術で渡り合い、複数デバイス操作で惑わせ、術式解体で無効化させた。それをロボットのように正確に、丁寧に繰り返した。
一瞬、王馬の打った右ストレートに微々たるブレがあった。それを狙って術式解体でサイオン無効化、攻撃を躱す、そして放たれたのは特化型からの魔法…この二つを囮に使い、真の目的は達也自身の右ストレート。
王馬に当たったかと思われたが、左手で受け止められていた。達也はダメ元で更に力を加える事にした。
押せるだけで良かった…そのはずが達也の膝は地についてしまった。
完璧な作戦だった…周りが見ても明らかだった…だが…
それでも王馬には
達也「なにをしたっ…」
王馬「知りたいかい?いや、あんたなら察してんだろうけどよぉ…」
達也「っ…!」グググ
この時、司波達也は最悪な判断をした。
頭に血が上っているのか、久しぶりの追い詰められたため、焦っているのか…どれも分からないが取った行動は不正解。
さらに力を加えてしまった。
達也「なんだと…」ガクッ
王馬「頭に血が上ってんぞ…」
王馬は不動だったが、達也だけが動いている。
王馬を中心とし、逃げられないかのように。
達也は力を乱されていた。
達也(こいつ!キックボクシングじゃないのか!…この技は"合気道"の技に違いない…!)
そう、達也は"意図的に力を乱されていた"。
生徒会メンバーも、深雪も、何が起こっているのか分からなかった。優勢に見えた達也が、いつの間にか逆転されている不可解な光景に…
達也「ならば…」
王馬「おっと止めときな…そしたらてめぇ暴走するぞ?」
達也「ッ!…気づかれたか…」
達也はもう一度サイオンを攻撃手段として使おうとしていた。サイオンで爆発させ、一旦距離をとる、それも見破られていた。
達也(
達也の推理によると、王馬の技は、自分が攻撃を仕掛けるのを見計らってほんの数グラム…数グラムだけを加重して、自分の力の流れを数ミリずらしている、のだと言う。
その結果…
達也(力の流れは乱れ、暴走する!!)ガタンッ
少しでも力を加えてしまった達也は仰向けに、地に叩きつけられた。それでも達也の右手は王馬の左手から離れることは無かった。もしあそこで違う判断をしていれば、王馬に触れなければ、勝機はあったのかもしれない。そしてここで達也は新たな出来事に気がついた。
服部が放った魔法を返されたのも反射では無い、自分と同じく
達也(十鬼蛇王馬…お前は、力の潮流を支配下に置いているのか……体術の浅い俺がたどり着ける領域では無かったのか…)
既に勝負は決していた。
達也は本気を出せば殺傷能力の高い魔法を扱う事が出来る。だが、これはそれをやるための闘いではない。
次第に摩利の声が響いていた。これ以上は危険だと察知したのだろう。
達也は初めて悔しいと感じたかもしれない。
こんなに楽しく、心躍りハラハラする闘いは滅多に出来ることではない。
達也は一言王馬に告げた。
達也「…参った。」
勝負は決した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
深雪「お疲れ様です、お兄様、王馬さん。」
達也「ありがとう、深雪。…こんなに昂ぶったのは初めてかもな…」
王馬「…へっ…アンタ本当はまだ隠してんだろ?俺にはバレバレだぜ?」
達也「そういうお前もまだまだ隠しているだろう。」
王馬「まあな。でも、アンタ強かったぜ、ありがとなシバタツヤ。」
達也「ああ…こちらこそ。」
達也はまだ力の感覚が乱されていたのか右手で体を起こそうとはしなかった。左手で重い体を起こし立ち上がると、
王馬と握手をする。この戦いによって達也から見て王馬の評価はかなり上がっただろう。相変わらず危険人物というレッテルを貼り続けているが、"悪質な事など考えていない"というのは分かりきった。
こいつはただ"強者との戦闘を好み、自分を信じて止まない"存在という事がわかった。
達也(天上天下唯我独尊…という奴かな…)
対する王馬も達也に対する評価は上がっていた。
はっきり言うと王馬は達也の事を"互角かそれ以上"の存在として認知している。
まだまだ他の魔法がある事に王馬は気づいていた。
ならばなぜ達也は敗けたのか?と疑問符を浮かべるかもしれないが、王馬のし掛けた技、
それほどに巧妙で、見抜く事が難しい技だ。
言ってしまえばこれは"負けイベ"の様なものだ。
勝負に敗れはしたものの一度の手合わせで達也はこの技について既に見抜くことが出来ている。それに王馬も気付いている。そのため、王馬は達也に対して"強者"である、と認めていた。
あ、だが服部は見抜けていないため、評価は下がっていた。
真由美「王馬くん、あの技についてなんだけど…」
王馬「あ?さっき言っただろ。」
あずさ「あれだけじゃわかりません。」
王馬「ちっ…めんどくせぇな。」
摩利「お前はキックボクシングスタイルで闘い、サイオンを身に纏い攻撃をしていた。サイオンを魔法に使うのなら分かるが攻撃に繋げるとは…まぁこれも凄いことなんだが…最後の技が気になってな。」
王馬「やだよ、さっき言ったじゃねぇか。」
深雪「王馬さん…私も知りたいのですが……ダメですか?」
模擬戦が終わると早速質問攻めときた、王馬はあまり質問されたり、受け答えたりするのが好きではない。
それに、自分の技の原理なんて話したくないのは普通だ。
王馬「はぁ…シバミユキが言うなら別にいいけどよ。」
摩利(え、甘くないか?)
真由美(私たちの方が下なの!?)
あずさ(も、もしかしてあのお二人って…)
鈴音(意外ですね…)
達也(深雪ならいいのか…)
深雪「ありがとうございます!」
それから王馬は、服部と達也に使った技の原理を説明した。『攻撃を利用した攻撃であって反射とは全く異なるもの。』相手の攻撃の軌道を変え、そこに自分の力を加えることによって相手の攻撃を乱す、という技。
体術で言えば"合気道"に近いだろう。だが、違うのは"魔法"も乱してしまうところだ。
摩利「それじゃあ相手の魔法に、自分の魔力を少し加えている、ということか?そして軌道を変える……実質反射じゃないか……滅茶苦茶だぞ。」
真由美「まさかボクシングスタイルからあんな技が出るとは思わないじゃない。脳筋系かと思ったら技巧系なのね。」
王馬「筋肉だけじゃあ足りねぇからな。」
鈴音「訂正しなければなりませんね。ですが、あなたの素行が悪い事は確かです。」
あずさ「これでCADを使ってないんですよね…」
王馬は上級生達と仲良く会話をしていた。
それを見ていた深雪は少々機嫌が悪かった。
達也はそんな原因を知るはずもない。
深雪「…お兄様、どこか怪我をしているところはありませんか?」
達也「ああ、無事だ。問題ない。」
深雪「それは良かったです。……それにしても王馬さん、強いですね。あのお兄様が負けるなんて…たしかにお兄様はあれ以上の魔法を使えますが、それは王馬さんも同じようですね。」
達也「…そうだな。あいつは強い。」
全員が二人の強さを認めていた。
学年の五本指に入る実力者を圧倒し、高校生とは思えないような戦闘能力を有しており、まだまだ底が見えそうにない。
摩利「二人共、合格だ。是非とも風紀委員に入ってくれ。」
真由美「これで暴力問題が起きても安心ね!収穫収穫!」
達也「ありがとうございます。」
王馬「フーキイーンか…一体どんな奴等が居るんだろうねぇ…"俺達のおまけ"は。」
深雪「もう……ですが、改めておめでとうございます。お兄様、王馬さん。」
摩利「確かにあんな試合を見せられたらおまけかもしれないな。」
微笑気味に摩利がつぶやく。
改めて王馬と達也は風紀委員に加入する事ができた。
王馬は風紀委員の職務についてはどうでもよかった。
ただ、強者と闘う事だけを楽しみにしていた。
王馬「楽しくなりそうだ…」
またも男は不敵に笑った。
深雪「そういえば王馬さん。生徒会長を下の名前で呼んだのはなぜですか?」
王馬「だってあいつの上の名前、何て読むのか分からねぇんだよ。」
深雪「七草と書いて"さえぐさ"ですよ。もう下の名前で呼ぶことは無くなりましたね。」
王馬「おお………怒ってんのか?」
深雪「怒ってません!」
王馬「なんだよ、怒ってんじゃねぇか。」
深雪(本当にこの人は……でも、何故か放っておけない気持ちになるのは何故でしょうか……私の敬愛すべき存在はお兄様なのに…)
深雪の気持ちとは一体…?
そして、忘れられた服部であった。
王馬の扱う技は初見殺し