ミから始まるえぐちぃ人の弟子になった。ふざけんな俺は逃げるぞ──! 作:気晴らし用
シリアス注意
11 逃亡! 魅惑のストーカー!
人一人背負う──ましてやそれが美女ならば大いに人目がつく。前世だったら通報待ったなしであろうが、ミラージュの悪魔の実のお陰で島民は全員夢の中だ。
これで後顧の憂いなく、誘拐できるというものである。
誘拐ってか、このまま事情も知らずに帰れないからな。別に催眠にかけられた島民を助けるためだとか、そんな崇高な正義感は抱かない。こんな世界だ。基本、どんなことがあろうと自己責任。運が悪かったで済ますか、身命を賭して抗うか。その二択しかない。
こう考えると治安の悪すぎる世紀末世界にしか思えない。実際そうだと思うけど。
まだドレスローザがマシに見えてくるのは気の所為?
「よいしょっと」
船の甲板にミラージュを降ろし、腰を伸ばして椅子に座る。島からパクってきた木製の椅子である。やってることが海賊じゃなくて盗賊なんよ。
てか、海賊の定義ってなんだ……? すごい今更だけど。
同じく島からパクってきたジュースを飲みながら本を読んでいると、呻くような声とともにミラージュが起き上がった。
現状を把握しかねているのか、目は虚ろだ。
俺の姿を視認すると、バッとその場から後退り油断なく俺を睨みつける。
「……なぜ殺さなかった」
「お前の命なんか興味ないね。不殺主義じゃあないが、俺はこぞって手を汚したいとは思えん。質問に答えた後は逃げてどーぞ」
「馬鹿にしているのか……ッ! 負けた相手に情けをかけられる程落ちぶれてはいない!!」
「これはとある人が言ってたんだが……弱い奴は死に方すら選べない……実際その通りだと思うよ。死にたいなら勝手に死ねばいい。その方が情けなくてダッセぇけどな。藻掻いて足掻いて醜くも今を生き抜くことに意味を見い出せないなら、海賊に向いてないと思うぜ。辞めて平和に生きれば?」
馬鹿にしてるんだよ。気づけよ。
珍しく本心で話してるけども。
ローがパンクハザード編でたしぎに言った『弱ェ奴は死に方も選べねェ』。これはまさしく金言で、こと実力が全てを制すワンピ世界の真理を突いている。
血反吐を吐いても諦めずに生にしがみつく。潔さは格好良いわけじゃない。それはただの妥協を開き直っているだけ。
ロジャーは病に臥して海軍に自首をした。
だが、奴は最後の最後に大きな時代のうねりを生み出す爪痕を残していった。まさに大海賊、海賊王だ。諦めずに死の間際でロジャーは次世代に繋いだ。
天晴だ。俺はロジャーを尊敬している。
強い奴は死に方を選べる。
ロジャー然り白ひげ然り、それを体現して死んだ。
ミラージュは涙を流しながら震えていた。
悔しいのだろう。辛いのだろう。
だが、そこで慰めれば奴は一生成長することはない。
「まッ、事情だけでも話せよ。助ける気は毛頭ねぇけど、敗者は勝者に従う。この世の理だろ?」
ミラージュは変わらずキッ、と俺を睨みつけていたが、渋々といったように話し始めた。
「……私が住んでいた島は邪教に染まっていた。島に蔓延する幻覚作用のある煙は人々に都合のいい夢を見せる。意識は泡沫の夢に。体はとある一族が支配していた。そう。マボマボの実の能力を抱えた私の一族だ。その実の能力者は幻覚に対する強い耐性を持ち、自由自在に幻を操ることができた。そしてこの実の恐ろしい特性は、能力者が親から子へ実を介さずに継承していくところにある」
「実を介さずに継承……? そんな悪魔の実があるのか……?」
いや、デッケンのマトマトの実も先祖から受け継いでいた……ような? やべぇ、さすがに細かい部分は曖昧だ。
「あぁ。その代わりに先代の能力者は子を産むと確実に死ぬ。だが、奴自身も幻覚に染まっている。子を残して死ぬことが使命だと信じ切っている。それもこれもあのクソ天竜人のせいだ!! 優しかった父親は死んだ母の代わりに私を育ててくれた。だが、奴らは父を目の前で殺し笑っていた……ッ! 幻覚に浸りながらも無意識に私を守ろうとした祖父も額を銃で撃ち抜かれ死んだ……ッ」
「なるほど? お前の一族を裏から操っていたのが天竜人ってとこか。労働力……従順な奴隷の確保……? 用途は多そうだな」
「そうだ。奴らは、産まれた子に実の耐性すらも跳ね除ける幻覚作用のある薬を飲ませる」
段々と分かってきたぞ。
なるほどね。2億超えにしては弱い理由が分かった。
能力が凶悪だという理由も当然ながら、ミラージュは世界貴族、及び世界政府に狙われていたわけだ。
ロビンと同様に。
「じゃあ、なぜお前はここにいる?」
「……私は、偶然幻覚耐性が薬の効果に打ち勝った。ゆえに逃げ出すことができた」
「つまり、お前の目的は天竜人の打倒ってとこか」
「そうだ。私は必ずあのクズどもを殺す。楽には殺さない。幻覚で散々地獄を見せ、のたうち回りながら死んでいってもらう。この世に産まれたことを後悔させてやるんだ……ッ!!」
ミラージュの表情は憎しみに歪み、復讐を語る時のみ邪悪に歪んでいた。
それにしてもやっぱり天竜人ってモノホンのクズだな。クズが権力を持ったのか、権力を持ったからクズになったのか。卵が先か鶏が先か、の論争になってしまうが、大事なのは今のあいつらがクズを超えた極悪非道だということ。
「復讐を誓ってんなら、なぜお前は死に急ぐ。どうにか逃げて生き延びることを選択するだろ」
「私は……負ければ弄ばれて死ぬ環境に身を置いていた。私も弄ばれるくらいなら死にたい。大切な両親に産んでもらった大事で貴重な体を守りたかった……」
「ふぅん、誇りか」
産まれた環境が人というものを形作る。
常に地獄にいたミラージュは尊厳を犯されるならば死にたいと願った。
俺は諦めれば死ぬ環境にいたから、何をされても最終的に生きていれば良いと思った。
相交わることはない、これは互いの価値観の相違だ。
最も、今のミラージュは復讐を再度誓ったようであるが。
この様子を見るに復讐と尊厳の割合は一対一か。
随分とまあ危うい橋を渡っているものだ。
「お前は……強い。紛れもないこの世界の強者の一人だ。どうしてそこまで強くなれた。私には何が足りない……ッ! 復讐のために得た力では強くなれないのか!?」
「知らねぇよ、そんなもん」
「なッ──!」
「足りないピースを他人に見つけてもらえば満足か? それでお前は胸を張って強くなれたと言えるのか? それにバカかお前は。復讐だろうと何だろうと力は力だ。用途がどうであれ自分のもんだろ。復讐が終わろうとその力は残ってる。難しく考えすぎだろ。やると決めたなら突っ走れ。迷ってる時間があれば修行しろ。何をどうしても分からない時は言葉に出さずに行動に移せ。まずはそこからだろ」
「強くなる道標は自分で作るべきということなのか……。私は……」
何やら迷っているようである。
まったく……初対面の俺に何を聞いているのやら。
境遇は気の毒だと思わないでもないが、同情は毒だ。経験してないやつが分かる、なんて言葉を発した日には殺したくなるね。
「まあ、事情は分かった。俺はお前を海軍に引き渡したりもしないし、殺そうともしない。なぜなら面倒だからだ。それと海軍に行ったら俺もまとめて捕まる」
「待て、お前も賞金首なのか?」
「三日前くらいからな。新聞は読んだか?」
「ちょうど読めていない……」
「まあ、良いや。俺はジュラキュール・ヨル。これから先会うか知らんが自己紹介くらいはしてやるよ」
手を伸ばすと、おずおずとミラージュはその手を取った。
……握手のつもりだったんだけどな。まあいいか。
「私はミラージュ……いや、本当の名はミラ・ミスリード。恥を忍んで頼みがある」
どうやら偽名だったらしいミラージュことミラは、その場で片膝をつき、頭を下げた。
……猛烈に嫌な予感がする。
「私を弟子にして────「断る!!」なぜだ!!」
「なんでそんな面倒なことをしないといけないんだよ! 俺にメリットがないわ。もう少し強ければ結成予定の海賊団にスカウトしてたかもしれんけど、生憎お前弱いしな」
「ぐっ……だが、強くなるための道標を見つけろと言ったのはお前だ! その発言の責任を取ってもらおう! 私はお前のもとにいれば強くなれる気がする!」
「お前の道標に俺を巻き込むんじゃねぇ……! 足手まといを連れていけるかよ!」
「ならば私が強くなれば良いのだな!!??」
何を言ってんだこのスカポンタンはよォ……。
ロリロリしい見た目通り頭まで若返ったん? さっきまで俺を睨んでたでしょ、あんた。
「とにかく嫌だね。俺じゃなく他を頼れ! ほら……えーと、海賊王の元副船長のレイリーとかさ!」
「そんな大物の所在が分かるわけないだろう! それに私が強くなるためのピースはお前だ! ヨル!」
「知らん! 俺は──逃げるぞ!!」
頑固者のミラには何を言っても無駄だろう、と砂浜にミラを投げ飛ばす。
「ふぎゃっ──何を……って逃げるなあああ!! 逃げるな卑怯者おおお!!!」
「さっきまでシリアス顔してたやつが急にギャグ線に移行してんじゃねえええ!!」
俺は大急ぎで船を発進。
後ろでわーきゃー騒ぐミラを置いて俺は逃げ出した。
「絶対に諦めないからな……ッ!!」
あーあー、聞こえなーい!!
ストーカー1名ごあんなーい
ヨル やらかした人
今回は煽りが結構冴えていたのに余計なことを口走ったせいで、変なストーカーに追われることになった。
ミラ 天竜人絶対殺す系ロリ。
ヨルに運命(恋愛的な意味ではない)を感じストーカーに変貌。最もこのままじゃ弟子にも仲間にもなることはできないので、えげつない修行を決意。
次の再開は◯◯◯◯◯◯◯◯になる。いったいどれほど成長するのか。