ミから始まるえぐちぃ人の弟子になった。ふざけんな俺は逃げるぞ──!   作:気晴らし用

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最近ネタにされすぎて悲しいよ……
シャンクス好きなのに…


7話 赤色の人

 思ったより一人旅というのは虚しい。

 転生してから何だかんだ俺の周りには人がいた。ミホークが最たる例だが、ある意味孤独を知らずに生きてきたのかもしれない。

 ミホークの長旅中に孤独味わってんじゃん、ってツッコまれると思うけど、あれは帰ってくるのが分かっていたから孤独ではなかった。

 

 本当の意味での独りは初めての経験である。

 

「うーん、親元から離れて上京した頃の俺を思い出すなぁ……」

 

 開放感たっぷりだったのは最初だけで、途中からはやけにおふくろの味というものが恋しくなったのを覚えている。

 人間、当たり前に気づかないことが当たり前なんだろうよ。

 

 ログに従って航海しているから、次の行き先も何も知らない。

 だからこそ刺激的な冒険感があって良い。暇だけどね。

 

 金はあの海賊から奪ったし、ログポースも幾つか回収してきた。壊れた時が怖いからな。

 

 

「……航海士いないとやばいかも」

 

 最低限の知識は詰め込んだが、それでも本職には大きく劣るため、航海は単に戦闘するより困難を極めている。

 大型船乗ってたら多分死んでるぞ、マジで。

 

 

「お、島が見えてきた」

 

 そろそろ仲間を集めなきゃやべぇかも、と危機感を顕にしているとようやく次の島が見えてきた。

 遠目からでも、かなりの規模がある島だ。

 

 砂漠が大半を占めているが、大きな街がある模様。

 一瞬アラバスタじゃね、と思ったけど多分過ぎてる。

 

 

「お、海賊船あるじゃん……って、ん? なんか見たことある気がする」

 

 船首がドラゴンっぽくて、口の空いたドクロの海賊旗。

 なんかで見たことあるんだよな。となれば最早うろ覚えの原作知識。

 大まかな展開はメモしててもさすがに海賊旗は知らねぇわ。

 

「口の空いたドクロ……船首が赤いドラゴン……赤髪のシャンクス……? いや、違うか?」

 

 そんな偶然は無いだろ。

 きっと原作の誰かの船だ。とりあえず近づいてみよう。

 知ってるキャラなら挨拶したいし。本音を言えばお近づきになりたい。変な意味でなく。

 

 

 

 港に船を停泊させる。

 初めて辿り着いた島の島民は全員あいつによって催眠状態に陥っていたため、しっかりコミュニケーションを交わすのは初めてかもしれない。

 見る限り街は活気づいていて地雷要素は見当たらない。

 

「へ〜、結構でかいなぁ。金はあるし食料補給がてらログが溜まるまで探索するかぁ」

 

 島一つが街、という規模ではないものの、そもそもの島自体が大きいため広く感じる。

 ウォーターセブンよりちょっと小さい程度? 多分。

 

 近くに停めてあった例の船を横目に、俺は街に繰り出す。

 

 

 そこで出会った。

 

 

 

 

 

 

「赤髪やんけ!!」

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 食料補給と散策を終えた俺は、船に荷物を積み込みながらため息を吐いた。

 

「まさか本当に赤髪とはなぁ……」

 

 これは挨拶するしかあるまい。

 師匠がお世話になりました、と。

 いや、俺が言うべきことではないけどさ。

 単純に人柄に興味があるとも言える。原作じゃあ、好感度とともに謎も深まっていく人物だからな。

 登場シーンは少ない方なのにあれだけ人気が高いのは流石よな。

 

「さて、出航準備は終えたし挨拶……うーむ、普通に挨拶するんじゃつまんねぇし、どうしよ」

 

 赤髪の船に乗り込んで待ち構えるか?

 ありかもしれん。船員が何人かいると思うが、幹部級じゃなければ覇王色で……いや、赤髪の覇気に慣れてるし無理か?

 てか、覇王色に慣れるとかなくね。

 

 まあ、良い。

 

 俺はピョンとジャンプして赤髪の船に乗り込む。

 運良く甲板には誰もいない。クソ雑魚見聞色の俺じゃあ船員の人数なんて把握できないし。

 

「持ってきた椅子に座って、と。よし。これぞ自由人ミホークスタイル」

 

 人様の船で寛ぐという他人の気持ちを推し量らない自由人スタイルで待ち構える。

 

 あー、なんかいいな。四皇の船で寛ぐという圧倒的優越感。

 

「眠いな……」

 

 今日は天気も良いし、夏島らしきこの島の気候は温暖で湿度もそう高くない。バカンスには持って来いの島だろう。

 昨日は夜中に海王類に起こされたせいで寝不足気味だし、眠気が襲うのも仕方ない。

 

 徐々に降りていくまぶた。

 俺はものの数秒で意識を失った。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 ガヤガヤと騒がしい声で目が覚めた。

 

「お頭ァ! おれたちの船がいつの間にか乗っ取られてねェか!? しかも呑気に寝てやがる!」

 

 パチッと目を開く。

 特徴的な声で笑いながら話すのは、赤髪海賊団のラッキー・ルウ。

 ポッチャリ体型がチャームポイント。緑と白のストライプ柄を好む、いつも骨付き肉ばっかり食ってる男だ。

 ラッキー・ルウのおどけたような言葉に、周りの船員たちはゲラゲラと笑う。

 嘲りというよりも、彼らの目には余裕が見て取れた。

 

 だが、ラッキー・ルウを始めとした幹部たちは笑いつつも警戒しており、ベン・ベックマンに至ってはいつでも銃を抜ける体勢でいる。

 確実に覇気を込めた銃弾だろうし、対策せずに受ければ軽く風穴が空くだろう。

 

「お、目が覚めたようだな。ここはァ、おれ達の船なんだが……いったい何の用だ?」

 

「赤髪のシャンクス……」

 

 船員を割って現れたのは、四皇、赤髪のシャンクス。

 漫画ではふざけたところか、格好良いところしか見たことがない。

 赤髪も俺を警戒しているようだが、威圧感が全然違う。

 覇王色を発していなくとも、こいつは何だか違うと感じさせるだけの圧がある。これぞカリスマ。王の資質だろう。

 

 ……こう考えると何で俺、覇王色使えんだろうな。

 そこはとやかく考えても仕方あるまい。

 今は対話に集中せねば。

 

 

「えーと、本当は余裕ある感じで待ち構えようとしたんだけど、天気が良すぎて寝ちゃった。……用事はあるぞ、うん。挨拶だ」

 

「……」

 

 その一言で、船員数名が剣を抜き放ち構える。

 赤髪も『グリフォン』の刀身を見せつけるように半分ほど抜く。

 

 奇しくもエースがやってきた際の原作シーンの再現に成功したわけだが、エースと違ってルフィと幼なじみなわけじゃないし、海賊的な意味合いを持つ『挨拶』も数合交わしたい願いもある。

 

 ……まあ、人数が多いわな。

 

 俺は覇王色の覇気を四分の一ほどの力で解放した。

 

「「覇王色……ッ!?」」

 

 船員の何人かが正体に気づき驚きの声をあげるが、数秒後には気絶する。

 

「へェ……」

 

 赤髪は興味深い視線で俺を見るが依然として警戒は続けている。俺の覇気を受けて微動だにしないとは。まあ、当然か。

 

 

 数秒経って立っていたのは、幹部数人だけだった。

 下っ端は漏れなく全員気絶したようで、ようやく話せる。

 

「……敵意を持って攻撃した、と受け止めても構わないか?」

 

「いや、少人数で話をしたかった。挨拶ってのはあながち間違っちゃいないが、別の意味もあるわけだ」

 

「船員を気絶させてからは虫のいい話なんじゃねェか」

 

 ベン・ベックマンが飄々と煙草を吸いつつ言う。

 俺もそう思う。まあ、でも海賊らしくて良いじゃん? っていう俺の都合よ。

 

「赤髪のシャンクス。一合、手合わせを申し込む」

 

 剣を抜く。

 黒刀に染まる刀をちらりと一瞥した赤髪は、僅かに眉を顰める。恐らく、この刀の価値が相当に高いことを理解したのだろう。

 

「お頭ァ、あっちが先に仕掛けてきたんだ。従う必要は「分かった、良いぞ」……って言っても無駄か」

 

 忠言の最中に赤髪は了承した。

 ベックマンも聞き入れるわけがないか、と途中で思ったのか苦笑して煙草を取り替える。

 

 

「随分親切なんだな」

 

「お前に似てる知り合いがいてな」

 

 俺はニヤリと笑う。

 似ても似つかないような気がしてならないが、本質はまああれだけ一緒にいれば似るかもしれない。

 

 赤髪は愛剣グリフォンを抜き放ち、覇気を込める。

 しっかり覇王色も纏っているあたり相当本気なようだ。それじゃなきゃ面白くない。

 

 

 いつの間にか周りは静まり返っていた。

 赤髪の幹部たちは、少し離れた場所でじっと成り行きを見守り、その目には自分の頭が負けるなどとは微塵と思っていないだろう。それが海賊団の頭であるということだ。

 

 

 ──手加減の必要はない。かと言って技のすべてを出し尽くすわけじゃあない。それは赤髪も同様のこと。

 

 

「──行くぞ」

 

「──来い」

 

 

 足を踏み出す。甲板が抉れるのも気にせずに、俺は超人的な動きで赤髪に向かって走る。距離はもうない。剣が交わる時も近い。

 

 俺は覇気を込め、技術と培った力全てを使用して集大成とも言える技を繰り出す。

 

 

「覇剣……!!」

 

「ネメシス」

 

 互いの技は触れることなくその場で静止する。

 バリバリと赤黒い雷が天を舞い、頭上に浮かぶ雲を真っ二つにした。力と力。技と技。全力で覇気を込めた俺の剣は赤髪のサーベルによって止められてしまった。

 

「呆気なく受け止めやがって!」

 

「これでも余裕はない……ルーキーにしちゃあ嫌に強いな……!」

 

「師匠が良かったもので!」

 

「だろうなぁ」

 

 のほほんと言葉を交わす赤髪だが、言葉通り余裕はないらしい。

 互いに本気を出していないが、それでもヒヤリとくるものはあったようで、赤髪の額には微かに汗が浮かんでいる。

 

 ……予想以上に強い。いや、詰めが甘かった。

 そもそもミホークと同等な時点で弱いわけないか。

 

 理解できた。

 仮に殺し合いをするならば、俺は勝てない。だが負けもしないだろうと。

 ()()()

 

 単純な話だ。

 片腕を失くして日が浅い。ただそれだけの話。

 あと数年もすれば調整は済むだろう。その間に俺がどれだけ強くなることができるかが分水嶺だ。

 

「くっそ、片腕失くしてこれとか自信失くすわ」

 

「本気を出していないくせによく言う。……もういいか?」

 

「あぁ、ありがとう」

 

 俺たちは剣を収める。

 周りを見渡せば船は結構傷ついていた。やっちまったとは思うが、壊したのは赤髪も同じなので責任は全部擦り付けよう。うん、しゃーない。

 

「それで。お前は鷹の目の弟子か?」

 

「ん、まぁね。こっちも師匠からよく聞いたぜ。赤髪のシャンクス」

 

「あいつがおれのことをな……。頓珍漢だの莫迦者だとか好き勝手言われてそうだ」

 

「当たらずとも遠からず。腕失くした頃は荒れてたぜ。お陰で修行がきつかった」

 

「そりゃ悪いな。だが……この腕を失くしたことは誇りに思ってるさ。お前のような若い世代におれは……おれ達は賭けてきたんだ」

 

 打って変わって朗らかな空気の中、赤髪は快活に笑って語る。

 懐かしむように見上げながら語る赤髪に嘘はない。謎多き彼でも、やはり自身の片腕を失くしてまで賭けたルフィのことを誇りに思っていた。

 これは人気が出るわけだ。イケメン腹立つ。

 

「言っても年食ってるわけじゃないじゃん」

 

「まァな。だが十年後はどうだ? いずれ来る新時代をおれは待ち望む……!!!」

 

 随分先を見据えてやがるって言いたいわ。

 こんな時から考えてたのか。そりゃ「来たかルフィ」とも言うわ。すごい待ち望んでそう。

 

 さて、と俺は赤髪の船を降りようとした。

 用事は済んだ。また旅を続けなければならない。

 

「まァ、待て。折角来たんだ。酒でも飲んで行け」

 

 肩を掴んで引き留める赤髪に、一応敵なのにな、と苦笑しつつ引き返す。

 

「はぁ……オレンジジュースはあるか?」

 

「「「飲まねぇのかよ!!」」」

 

 幹部含めた赤髪のツッコミを聞きながら、今しばらくは享楽に耽けようと笑みを深めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




シャンクスの技名はオリジナルです。
ミホークみたいにゲームの技を使おうかと思いましたが、グリフォン使ってるしネメシスで良いや的な感じで決めました。

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