やあ。ミキさんだよ。
たまにはシンプルな挨拶をしてもいいと思うんだ。なぜなら新鮮な挨拶をしてもいいと思うからだよ。
さて、前回は神にリア凸をしたので、神繋がりということで俺の嫁のマイについて話そう。
まず、マイという名前は俺がつけたものだ。そんでもって、マイは最初から喜神というわけではなかった。むしろその逆の存在だったな。
その日の俺は仕事をしていた。時空探査じゃなくて、時空のやばい奴らを撲滅する仕事の方な。
んで、その日は神界のとある場所にいた。討伐対象は邪神だった。
邪神っていうのは、日本だとよくネタにされがちな存在だけど、神からすると冗談にもならない存在だ。普通の神に、何かしら悪い色々が溜まったら邪神へと変質する。邪神となった神は、その本能の赴くままに周囲を破壊する。
俺が神じゃなかったときは、討神ってやつが邪神討伐もしていたのだけど、邪神は大抵周囲の神の権能を弱めるので普通の神だと相性が悪い。なので、俺が戦闘もできる神として活動するようになった頃、邪神討伐の仕事が回ってきた。
「そろそろ、かな」
当時はまだ神殺しがなかったので、光桜剣と桜花を装備して歪んだ時空を進む。
なんならまだピアルも雷桜槌もなかったし、梅紅じゃなくてただの炎剣だったので、神器はこの二振りしかなかったのだ。当時は色々と苦労も多かったんだぜ?
時空を歪ませたのはもちろん邪神だ。神界の一部を、そのまま邪神の神域とすることによって討伐される可能性を少なくしているらしい。邪神が神域を作るというのは初めて見たのでとても慎重に行動していた。
「…いた」
見えた。暴れるでもなく、ただボーっとしている。こちらにはまだ気が付いていないようだ。
この時点で俺は、異質な邪神だということに気が付いていた。邪神は基本的に移動し続けながら破壊を続けるので、この何もない空間で佇んでいるというのは本来はあり得ないことだったからだ。
邪神は人の姿をしていない。RPGのラスボスみたいな風貌で、マンション二階分くらいの大きさがある。時空を巡ればそれくらいの大きさの敵はいくらでもいるけど、邪神ってそれ以外にも色々と厄介な性質があるので面倒なことは変わらない。
とはいえ邪神であることには変わらないので、俺は武器を構えて邪神に近付いた。邪神は周囲の時空を歪ませるので、遠距離攻撃が効かないのだ。全断剣みたいなやつで斬れば問題ないけど、全断剣で遠距離攻撃しようとすれば、それだけで俺の神力がすべて持っていかれる。
「ま、先手必勝だな」
ボーっとしているのであれば好都合。瞬殺を狙う。
「秘奥が零、千変万化!」
光桜剣で近付いて叩き斬る。
千変万化は、どの武器でも使うことができる奥義であり、尚且つ武器によって出る技が違う。光桜剣の場合は、剣戟の間合いが少し伸びて桜が舞う。
邪神は攻撃された瞬間に防御膜を張って俺の攻撃を受け止めた。火力が高い攻撃ではないので、難なく止められてしまう。火力は高くないけど技の出が早いので当たると思ったんだがな…
少し距離を取って反撃に備える。が、邪神は反撃はしてこなかった。
「神力不足、か?」
邪神だって行動のエネルギーは神力だ。もしかしたら神域を作った影響で神力が不足しているのかもしれない。だからこその休憩中だった、ということだろうか。
ともかく、俺は再度アタックを仕掛ける。
「投影…」
魔術によって一振りの槍を呼び出す。それを構えて一気に突く。
邪神はそれも防御膜によって弾いた。投影した武器は脆いので防御膜に当たった瞬間に砕け散った。流石に神とやり合うには投影魔術は向いていないな。
にしても、防御膜が思った以上に堅い。他の邪神も防御膜はあるのだが、ここまで堅くはない。それこそ、攻撃のための神力を防御に回しているような…
「…破道の三十一・赤火砲!」
ゼロ距離で詠唱破棄した攻撃をぶつける。これも防御膜で防がれる。
遠距離ではなく中距離なら攻撃は当たるので…
「黒魔改・イクスティンクションレイ!」
とある世界で神を屠ったとも言われる魔法を撃ってみる。しかしこれも邪神に防がれた。
ここまで攻撃を防いでいるというのに、俺に攻撃してくる気配は一切ない。
「うーん、やりがいがないな」
まるでサンドバックを殴っているような感覚だ。
俺の攻撃で何かしら反応があればいいのだが、残念ながらそれもない。防御膜で俺の攻撃を防いだあとはまた動かなくなってしまうのだ。
やはり神域だからだろうか。
「この神域を塗り替えたろうか」
当時の俺にはまだ神域っていうのはなくてな。
本来は神が代替わりするときに神域を引き継ぐのだが、俺には先代がいなかったので自分で作る必要があったのだ。しかしまだ天照しか魂にいなかった俺には少々難しいものがあってな。
だが神域を塗り替えるくらいのことは魔法でもできる。固有結界を使えば一時的に神域を塗り返せる。本来はそこまでの威力がないが、俺の時空魔法を併用すればなんとか可能なはずだ。
「ま、固有結界と言えばこいつだろ…I am the born of my sword……so as I pray,Unlimited Brade Works!」
固有結界発動、内容は無限剣製。
元から様々な武器を使用することができる俺にはこの魔術はピッタリだ。何度も繰り返し使用したことで、オリジナルの魔術とほぼ同等の効果を得ることができるようになっている。
「さて、神域は一時的に解除されたわけだが…?」
神域を失ったというのに、邪神は動かなかった。試しに投影した槍を飛ばしてみる(固有結界内は自分の領域なので時空が歪まない)と、先ほどと同じように防御膜でガードした。
「どういうつもりだ?」
俺の魔力は相当な量なので一日くらいはここを保持できる。なので持久戦にしてもいいのだけど、それでは何も解決しないような気がした。
俺は武器を保管庫に収納して、邪神に近付いた。十メートル、五メートル、一メートル…触れるような距離になっても、邪神は攻撃をしてくる素振りを見せない。油断させておいて、攻撃をしてくるようなタイプではないみたいだな。
「お前、何が目的だ?」
邪神には知性がないとされている。知性がないというよりも、理性がないの方が正しいか。
話しかけても反応はない。だが、なんとなく邪神はこちらを見ているような気がする。うーん、何を伝えたいのだろうか。
「何の神だったんだ?」
邪神の生まれ方に関しては、実はよく分かっていない。邪神への変わり方は言われているが、誰も邪神に変わったタイミングを見ていないのだ。まあ消えた神のことを辿れば邪神だろうということにはなってるんだがな。
俺は問いかけながら邪神に触れた。特に攻撃の意図もなかったからか、防御膜は張られていない。触らせてくれてるっていうのも変な話だ。
「お前、誰だ?」
ただの邪神ではないことは確信した。今までの邪神とは、明らかに性質が異なる。
防御力は高いので、倒すことは大変だ。しかし、攻撃してこないのであれば、何か別の方法があるかもしれない。俺は別に殺しを楽しむタイプではないのでね。
「何かしたいことがあるのか?」
攻撃をしてこないのには絶対に何か理由があるはずだ。それこそ、何かをしたいとかな。
「…」
「何も喋らないか」
邪神が喋るときは奇声しかあげないし、理解できるような行動をすることはない。
ただ、なんとなくこいつには何かできるような気がする。
「…もし何かしてほしいことがあるのなら、伝えてくれたら嬉しいんだけどなぁ?」
「…」
「意思を伝えて…いや、それもいい。悪いようにはしないから、俺がすることを受け入れろ」
そして俺は邪神に魔法をかける。人の姿ではない邪神を、人の姿へ。
俺の十八番となる、擬人化魔法だ。受け入れてさえくれるのであれば、人の姿になっても暴れはしないだろう。基本誰にでも使える魔法だが、邪神にも使えるのはここで初めて知った。
「…さて、どうかな」
邪神の体が光った。多分擬人化魔法も防御膜で守れるだろうけど、それを受け入れたってことは、俺には攻撃の意思がないことを読み取ったか。邪神には理性がないって言葉はまず取り消さないといけないだろうな。
光がなくなると、そこには一人の少女が立っていた。黒い髪に黒いドレス。背丈は完全に子供だ。
神っていうのにも体の成長がある。子供の神は、大抵生まれたばかりの神だ。子を司るだとか成長を司るだとかの神は小さいこともあるんだけどな。
「さて、人の姿になった気分はどうだ?喋れるか?」
「…ええ。何が目的?」
「殺さなくとも、邪神がいなくなるのであればそれでいい。擬人化魔法を受け入れてくれた時点で、何か期待してるんだろ?」
「途中で攻撃をやめたから。期待しても、いいのでしょ?」
これが俺と、マイの元である邪神の出会いだ。
「えへへ、懐かしいですね主様」
「そうだな。これから邪神が喜神になるまで、そして俺の嫁になるまでで相当時間が空くからな」
実はマイは今も邪神の姿になることができる。
過去の回想の中で、俺は邪神は神が変質した姿だと説明した。しかし、それだけではなかったのだ。
神である以上、邪神と呼ばれる存在である以上、変質した存在ではなく邪神という名の神が生まれてもおかしくなかったのだ。負のエネルギーを溜め込んで生まれた存在じゃなかったから暴れなかったんだな。
「…えっと、その目線はなんですか?」
「たまには…見てみたいなって」
「…ミキのお願いなら、仕方ないですね」
マイの姿が変わる。きれいな色の服が、黒に染まっていく。
その子立っていたのは、マイと身長や体つきは変わらないものの、見た目はあの時の邪神となった。
「あの、これでよろしいのですか?」
「うん、その姿もかわいいな」
「あうぅ…」
邪神という神を消してしまうと、結局新しく生まれてしまうので、俺はマイを邪神の状態で別の神の属性も付与したのだ。色々と試した結果、生まれたのが喜神だったというわけだな。マイって名前は喜神としての存在を安定させるためにつけた名だ。
というわけで、姿や性質が違うだけで、どっちもマイである。感情の受け方は異なるらしいのだけど…
「邪神としての私は、既にあなたに惚れ込んでいるので。もう戻ってもいいですか?」
「いいよー」
光を放ち、収束すると、そこにはいつものマイが立っていた。
「ミキ、過去の話をするときはいっぱい愛してくれると他の二人に伺ったのですが…」
「大丈夫。そのつもりだ」
俺はマイをお姫様抱っこして取り敢えず、一緒に寝ることにした。