錬金術師にして今回の事件の首謀者である”キャロル・マールス・ディーンハイム”の襲撃からしばらく。
響を含めたシンフォギア装者たちは現在S.O.N.G.の本部がある潜水艦の中にいた。
そこでは今回の事件の状況報告がされており、そこでは今回の被害が甚大でありあろうことか風鳴翼と雪音クリスのギアが先の戦いによって損傷してしまった事も報告されていた。
彼女達が遭遇した敵は響が目撃した青い少女の様な見た目の敵、オートスコアラーと呼ばれる人形と同じ存在であった。
しかも、彼女達がギアを破損する要因となったのはオートスコアラーだけでなく新たに現れたノイズ”アルカ・ノイズ・と呼ばれるものによって分解されてしまい、今となってはギアを展開できる機能が損なわれている状態だった。
現状で戦闘に参加できるのは”LiNKER”と呼ばれる薬品の投与を必要とするシャルシャガナの装者”月読調”とイガリマの装者”暁切歌”。そして以前の戦いから未だ破損したままの状態のアガートラームの装者の”マリア・カデンツァヴナ・イヴ”を除けばガングニールの装者である響しかいなかった。
そんな彼女達の元に現れたのがクリスが戦っていた場所で発見されたキャロルと瓜二つな顔つきのホムンクルス”エルフナイン”だった。
彼女はキャロルに命じられるがままにとある巨大装置の建造に協力してきたが、ある日、詳細は不明だがその装置を使う目的が世界の分解という恐ろしいものだと知りキャロルの元を脱走。
そしてエルフナインのもたらされた情報により、キャロルの目的がアルカ・ノイズの万物を分解する力を世界規模で講師するための巨大装置”チフォージュ・シャトー”を使った世界の解剖という事。そして、アルカ・ノイズ相手には今のシンフォギアではまず勝てないという事で、ギアの強化をする方向で話が進められた。
だが、S.O.N.G.にとってはまだ気になっている事があった。
「エルフナインくん。そのキャロルという今回の首謀者の大方の目的については理解した。
だが、もう一つ教えてほしい。響くんがキャロルと遭遇した際に彼女の隣にいたという仮面ライダーについて。そしてライダーバトルというものについて、知っている事があるのなら話して欲しい」
「はい、元々皆さんにはそれも含めてお話するつもりでしたから」
そもそもエルフナインの言うキャロルの計画の阻止には、どうしてもオートスコアラーとキャロルと一緒に居た仮面ライダークローズも含めてどうにかしなくてはならない。なので、彼女の持っている情報はとても重要なのだ。
「まず、キャロルと一緒に居る仮面ライダーの名前はクローズ。
ボクも詳しく聞いた訳では無いので、力の詳細は分かりませんがどうやら青いドラゴンをイメージした仮面ライダーみたいです。
そしてクローズの名前は”園崎秋人”。彼はどういった経緯かは不明ですがキャロルに拾われそれに恩義を感じた彼はそれ以来キャロルの為にその力を使うと誓いました」
「園崎秋人…」
「名前からして日本人だよな。けど拾われたってどういう事だ?」
「雪音、今は分からない事を言っても仕方がない。
それより立花、お前もそのクローズとやらと対峙したのだ。武装については何か分かるか?」
「へ?」
翼にクローズについて聞かれた響だったがどうやら考え事をしていたようで翼の質問にも直ぐに答えられなかった。
「おい話聞いてたのか馬鹿」
「響さん、どうしたんですか?」
「もしかして、そのキャロルって奴に何かされたデスか!?」
彼女の後輩であり最近仲間になった調と切歌は彼女の身を案じる。
「う、ううん!大丈夫!少し考え事してただけだから!」
「大丈夫か?もし体調が優れない様であれば」
「本当に大丈夫ですから!
その秋人さんって人が使ってた武器ですよね。確か、剣みたいなのを使ってたと思います」
「そ、そうか?なら良いのだが」
響の様子に違和感を覚えた翼だが今はエルフナインから仮面ライダーについて聞き出すのが先決と判断した。
「話を続けます。
秋人さんが変身するクローズを含めた複数人の仮面ライダーが殺し合うのが、ライダーバトル。命をかけたバトルロワイヤルだそうです」
「その、ライダーバトルとやらは何なんだ?
我々も既に他のライダーからは死神と呼ばれているリュウガというライダーには遭遇したのだが」
「ッ!?死神!死神と言ったんですか!?」
弦十郎はエルフナインからライダーバトルについての情報を聞き出そうと話ていたが、彼が出した死神というワードに彼女は過剰に反応してきた。
「お、おう。確かに言ったが…。どうしたんだ?」
「あっ。ご、ごめんなさい。
実は、シャトーで聞いた事がある名前だったので」
「知ってるの!?エルフナインちゃん!」
「はい」
響に質問されて、エルフナインは一呼吸置いてから説明を始めた。
それは、エルフナインがまだシャトーの建造に関わっており仮面ライダークローズこと園崎秋人がキャロルに拾われて間もない時の事だった。
「よし秋人、早速話してもらうぞ。
お前の言うそのライダーバトルについて。まさか、答えたくないとは言うまい」
「そんな事思ってないよ、ちゃんと全部話す」
チフォージュ・シャトーの玉座の間で、キャロルは自身の身の丈は優に超える玉座に座り見下ろす形で秋人の話を聞いていた。
彼らの周りには今は待機状態の4体のオートスコアラーたちが居り、丁度その時エルフナインも話を聞いていた。
「ライダーバトルっていうのは、僕を含めた仮面ライダーの力を持った奴らが最後の一人になるまで殺し合う文字通りのバトルロワイヤルだ。
しかも僕はまだアタリの分類だけど、そうじゃない奴らは戦い抜くのも難しいハズレの量産型ライダーを与えられるんだ。そしてそのライダー達はこの世界だけじゃなく他の世界にも送られてそれぞれの世界も巻き込んで戦っている」
「…」
「やっぱり信じられない?」
ありのままを話した秋人だったが、キャロルは少し目を見開いたままで何も言わなかった。
だが、それもほんの少しの時間で彼女は直ぐに気を取り直して話す。
「いや、済まない。規模が大きすぎてな。
だが、お前の持つその力とこの前始末したライダーが持っている力が別の世界から来たものだと言われればある程度の納得はいく。
それより、お前の話では相当な数のライダーが参戦していると聞く。一体そのライダーバトルとやらは何の目的で行われている?まさか、勝ち残れば永遠の命が与えられるとでも言うのか?」
「…大体合ってる」
「…は?」
適当に答えた考えがまさか当たっていた事にキャロルは思わず間の抜けた声を上げてしまう。
「正確にはそれ以上の物なんだ。
ライダーバトルで勝ち残った最後の一人は、
「なぁっ!?」
「どんな願いでも叶える権利だぁ!?」
エルフナインの話に出て来た内容に、途中にも関わらずクリスは声を上げる。
いや、クリスだけでなく彼女以外のシンフォギア装者だけでなくS.O.N.G.のメンバー、更には弦十郎までも驚愕した顔をしていたのだから。
「おいおいおい!話が大きすぎんだろ!
ライダーバトルってのがヤバイやつだって分かったのは良いが、その景品とやらの内容がとんでもなさすぎるだろ!」
「落ち着け雪音」
「だが、クリスくんの反応も最もだ。
エルフナインくん、その秋人とやらは確かにそう言ったのか?」
「はい、秋人さんは確かにそう言いました。
ライダーバトルで勝ち残れば、永遠の命どころか巨万の富も、名誉や地位も、自分の望む理想の世界も
死者の蘇生さえも可能だと言っていました」
「「!?」」
その言葉にその場にいた全員、特に翼とマリアは更なる驚愕に襲われた。
何故なら、翼は自分のかつての相棒でありガングニールのシンフォギア装者だった”天羽奏”を、マリアは自分の妹でありアガートラームの装者であった”セレナ・カデンツァヴナ・イヴ”を失ったからである。
そんな彼女達にとって、死者の蘇生など到底聞き逃せる単語では無かった。
しかし、そんな彼女の言葉に待ったをかけたのは調と切歌だった。
「ちょ、ちょっと待つデスよ!話が大きすぎるデス」
「それにそれが本当だとしても、そんな事出来るのは神様でもなくちゃ…」
「皆さんが驚くのは無理も無いです。何故なら、本当に神様が開いたゲームだそうですから」
「なっ!?」
「秋人さんが口にしたその神の名前は、”アベル”」
「アベル…アブラハムの宗教における、聖書の創成期に出て来たと言われる人物か」
「そのアベルと同じかは分かりませんが、アベルという神が言ったそうです。
『ライダーバトルに勝ち残れば、どんな願いでも叶えてやる』と」
「ちょっと待って!
そのアベルというのが本当に神様か分からないのに、その仮面ライダーになった連中はそれを信じて殺し合いなんてやっているの!?」
マリアの疑問も最もだろう。
何故なら、普通であれば神を名乗る人物など怪しさ以外の何物でもない。しかもアベルが要求しているのは殺し合い。
普通に考えればそんなものを信じてこんな戦いに参加する事など、普通じゃないと思わざるを得ない。
「信じるしかなかったそうです。
何故なら、ライダーバトルに参加した人は全員、一度死んでいるんですから」
「ッ!」
エルフナインの言葉に、今度は全員の表情が凍り付く。
中には両手で口を押えている者もいた。それほどまでに今の言葉は信じがたかったからだ。
「ま、待て待ってくれ。
君は今、何と言ったんだ…」
「驚かれるのも無理はありません。
ですが、アベルと呼ばれる神は秋人さんを含めた一度死亡した人達を蘇生させて仮面ライダーの力を与えたそうです。秋人さん曰く、ライダーの中には”生き返って人生をやり直したい”という人達も居たらしいですから」
「・・・」
最早その言葉に口出し出来る者は誰も居なかった。
それが本当なら、彼らは一度死んで生き返ったにも関わらず自分の願いを叶える為再び死ぬかもしれない殺し合いの場に参加したという事になる。
だが、いつまでも黙っていては話が進まないので弦十郎は何とか持ちこたえて話を続ける。
「…成程、ライダーバトルについてはあらかた理解した。
では、もう一つ。君は死神という単語に反応を示したが、それはどういう事だ?」
「はい…」
「死神というのは、彼の事を恐れた他の仮面ライダー達によってつけられた異名です。
死神は、複数の仮面ライダーの力を使い他の仮面ライダー達を次々と葬っていると。だから秋人さんも、その死神を特に警戒していたようでした」
成程、と弦十郎は納得する。
複数の仮面ライダーになれる事は既に確認済みである上に、他の仮面ライダーの様子から死神は特に異様な存在であるという事も把握出来た。
そんな中、エルフナインに質問してきたのは翼だった。
「エルフナイン、そのリュウガ…死神について他の情報はあるか?
例えば性格や奴の目的などが分かっているなら教えてほしい」
「翼さん…」
「立花、お前が奴を信じたい気持ちは理解している。
だが、我々はキャロルという錬金術師だけでなくその仮面ライダー達をも相手どらなければならない。
ならば、まず死神についての情報を知る必要がある」
「先輩の言う通りだぜ、こんな訳の分かんない状況で恐らく一番敵に回っちまったら厄介な奴の情報を知れるかも知れねえんだ。この機を逃す手は無いだろ」
「…」
翼とクリスの言葉は響も理解している。
実際に実質的に戦える戦力がS.O.N.G.側は響しかいない状況だ。だから、少しでも周りの情報を得て手を回すに越したことはない。
しかし、立花響という人間の行動原理はいつだって人助けと誰かと手をつなぐ事だった。
彼女は、死神ともその手を取り合えないかと願っている。例えそのライダーバトルで彼が他の仮面ライダーを何人も殺していたとしても。
「皆さんの質問ですが、残念ながらボクが知っている情報の中で死神の行動原理や目的などは把握していません。
ですが、ハッキリと言えるのは死神は自身に向かって来る敵やライダーバトルの参加者は容赦なく叩き潰す事。
そして、キャロルたちを止めるにあたって死神の様な仮面ライダーの味方は秋人さんを抑えるのに必要不可欠という事だけです」
『・・・』
エルフナインのその言葉に、皆はそれぞれ何を感じただろう。
恐れだろうか、それとも不安だろうか。
しかし、全員の中で一致しているのは”この戦いは今までの物とは違う異質なものになる”という考えだった。
響たちS.O.N.G.がこれからの方針を練っていたそのころ。
件の死神こと黒崎正輝は、現在自身のこの世界にある家の地下にある地下室に居た。
そこでは、幾つものバイクと”黒いスポーツカー”の様な車。そして恐らく整備途中なのだろう、幾つかケーブルに繋がったベルトが置かれていた。
「どうだ?ベルトさんと他のドライバーの状態は」
「問題ない、この調子であれば今日までにはこの世界のアルカ・ノイズという怪物相手にも戦える筈だ」
「後はこの世界のシンフォギアと呼ばれる連中とその敵対してきた者たちの戦闘データを組み込み、尚且つライダーシステムと干渉してバグを発生させないようプログラムすれば完成だ」
その部屋のデスクに備えられたパソコンなどを操作している黎斗と凌馬はケーブルに繋がれたドライバーのアップデートを行っていた。
本来であればライダーバトルの参加者はこの世界に適合し、例えノイズと当たっても分解される事は無いようになっているのだが、正輝の様なイレギュラーはそれが適用されず一からその世界に適合するようにアップデートしなければならなかった。
「いつもの様に重加速対策なども怠らずに頼む。
それから、他のシステムのメンテナンスも」
「分かっている、この程度の作業。我々にとっては何の苦でもない」
「そうだ。だから君は」
「「我々のクリエイティブな時間の邪魔をするなぁあああああああああっ!!!!」」
「煩っ!?というか、凌馬!お前明らかにそんなキャラじゃなかったよな!
完全に楽しんでんだろ!」
「おっと、これは失礼。つい」
「…兎に角、君は上で休んでいたまえ。
ここぞという場面で倒れられては困る。ブレイブの様に甘い物でも食べてればいい」
「そうしておく」
2人の恐らく今後も慣れる事のない(凌馬に関しては完全な悪ノリだが)対応に少し退きながらも、彼らの提案を飲んで大人しく上の部屋に戻って行く。
「はぁ、アイツ等完全に遊んでないか?
黎人に関してはまあアレがデフォなのは分かっているが…」
一階のリビングで正輝はソファーに座っていた。
彼は先程の黎人達の豹変っぷりに少しグッタリしていた。
「(ま、あの2人性格に難ありだけど腕前は確かで今までの世界も助けてもらったから、俺も強くは出られないんだけどな)」
そう、今までの世界でも彼らに正輝は助けられた。
そもそも彼らが居なければ、この世界でアルカ・ノイズと戦った際には成すすべなく分解されそれ以前に訪れた世界でも情報を操作して思う様にも動けなかっただろう。
「さて、今は黎人に言われた通りにゆっくり休憩でも取るかね…」
彼らに提案された休息を取ろうとした彼は、ふと今までの世界で葬って来たライダーの事を思い返していた。
「これで4つ目の世界…この世界での戦いを終えればようやく終わる…」
彼は他のライダーから恐れられる死神として戦って来た。
しかし、その中には手に掛けた事を後悔したライダーが居ないかと言われれば嘘になる。
何故なら、このライダーバトルの参加者の内何割かは”自分の意思で参加したのではない”のだから。
けど、もう止まれない。
彼はもう、後戻りできない所まで既に来ていたのだから。
「あともう少し…もう少しなんだ…」
まるで自分に言い聞かせる様に、正輝は片手を顔の上に置きながら呟く。
〈〈・・・〉〉
そんな彼の様子を、彼の中に居るエボルトとカゲロウは今回は何も言わずにそのままにしていた。