消えるヒーロー   作:九頭竜 胆平

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個性なんて発現しなければよかったのに

個性診断テストは最下位は除籍という糞みたいな条件ではあったが出久たんや勝己ちゃんが最下位にはまあならないだろう。勝己ちゃんに50m走を邪魔されながらも6秒台を出した出久たんを見て僕は不安なんて1ミリも感じていなかった。

バギィ!という激しい音を立てたのが出久ちゃんの握力計だと気づくまで約一秒かかった。本来そんな壊れ方をするものじゃなくもしも壊れたとしてもきしむような音が正解だろう。だというのにそれはまるでプレス機で瞬時に圧縮されるような音を出しながら破壊されていた。

その手を見れば出久たんの腕は内出血で真っ赤に腫れ上がり、痛みを感じているのにもかかわらず出久たんは僕と勝己ちゃんの方を見ながら堂々と言い放った。

 

これで!僕も二人に負けないようにするからっ!

 

なんで、そんな個性なんだ。もっと普通の個性でよかったじゃないか。火が吹けたり、ものを引き寄せたり、そんなものでよかったのに、よりによって何で自傷前提の個性が発現したんだ。ああ、神様なんていなければよかった。

 

相澤は序盤で緑谷が個性を使うとは思っていなかった。そんなことをすればその部位は今日はもう使えないだろうし痛みでまともに動けないと踏んでいたからだ。

 

(見誤ったか。)

 

少年の狂気を知る者はたった二人の少年だけで、その個性を知るのは相澤のみだ。今その二つの要素を知っているのはオールマイトのみであり、そんな彼は少年を止められない。だからこそ緑谷出久は躊躇なく腕を壊した。

その少年の在り方は相澤には好ましくなかった。後先考えずに自らの体を壊して誰かに助けてもらう前提で動くなどヒーローとしてあり得ない。

 

「緑谷、次片腕か片足使えなくなったら除籍だ。また行動不能になって誰かに助けてもらうつもりだったか?緑谷出久、お前の力じゃヒーローにはなれないよ。」

 

緑谷出久は考えた。先ほどの行動は自分から見ても失敗だったと、握力だけが必要なのにもかかわらず腕全体にOFAを使用して破壊した。それでは次に生かせない。相澤先生の言う通り木偶になるのみ。だから出久は自らの体を残弾として考えた。

 

第二種目の握力では左腕と右手の薬指を消費した。

第三種目の立ち幅跳びは右足の中指を

第五種目のボール投げでは右の人差し指を

第八種目の持久走では最後の直線で左足の親指を

 

出久は喜んでいたし、お茶子や天哉も自分のことのように喜んだ。しかしそんなことができたのも途中までだった。

 

「なんで、代君が泣いてるの?僕やっとヒーローに成れそうなんだよ?」

 

大人びた背の高い少年が歯を食いしばり涙を流していたのだが、出久はその理由に思い至らない。代も自分が枷になってはならないとかたくなに話さず、そんな様子を爆豪と相澤は二人で眺めていた。

 

「なあ爆豪、お前から見てあの二人は何だ。」

 

「加害者と加害者だ。互いが互いを思ってやった行為がいま両方に帰ってきてる。良かれと思った行動が相手を傷つけあう気持ちわりい関係だ。…俺にあいつらのこと聞くんじゃねーーー!!

 

ライバルとか師匠とかまあ爆豪にもいろいろ想うところはあるのだが、とりあえず二人の人間性は気持ちが悪いと思っている。というかあの二人と自分を一括りにしないでほしい。あいつらみたいな精神異常者と俺は違うのだ。と爆豪は誰にみけてかわからない言い訳をしていた。だがしかし爆豪勝己とは圧倒的自分本位の申し子、悩みなど数秒で吹き飛ばしてしまうのだ!

 

 

 

 

 

 

(あいつらの関係とかいちいちきかれるんだろうなーうぜーなー!)

 

前言を撤回しよう。爆豪だっていやなことの一つや二つ抱えているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

覚悟とは何だろうか?その問いに僕が出せる答えはない。言葉自体の意味合いならば迷いを捨て道理を悟るとか心の準備をするなどの解があげられるだろう。しかし僕は別に道理を悟っているわけでもなければ、出久たんの傷つく姿を見る準備もできていない。それでもきっと僕の出久たんをヒーローにするという思いは覚悟だし、勝己ちゃんや出久たんのNo.1ヒーローになるという気持ちもまた覚悟と呼べるだろう。

 

「んで、それを俺に聞かせててめえはどうしたいんだよ。」

 

「別に何も。皆はすごいなって褒めてるだけだよ。」

 

ヒーロー基礎学の戦闘訓練のためにコスチュームを着て演習場に来た僕はそんな他愛ない話を勝己ちゃんとしていた。出久たんとじゃないのかって?こんな下品な話、意中の人とできないよ。

 

「ほら見てくださいよ勝己ちゃん。すごくないですか?ぱっつぱつですよ。もうぱっつぱつ!ドスケベですよ。葉隠れさんもやばいね。透明人間だからって何にも来てないよ。スケスケの実の全身ドスケベ人間じゃんあんなの。」「その喧しい口を閉じろ。」

 

僕はどうやら覚悟が足りなかったようだ。尊厳を捨て去ってでも機能美(あるいは人気)を追及しているすがたはミッドナイトや岳山を彷彿とさせる。あの二人はマジでシコられてるだろうな。僕はまだ視姦される覚悟が足りなかった。

 

「二人ともかっこいいコスチュームだね。」

 

そう言って近づいてきた出久たんのコスチュームは緑のジャンプスーツに角の生えたマスクというなんとも不格好な衣装だった。

 

「てめえはコスチュームはそれでいいのか?」

 

「うん。これは母さんが作ってくれたジャンプスーツだから。気持ちがこもってるんだ。」

 

「ううっ、泣ける話だ!だからそんなにかっこいいコスチュームに仕上がったんだね。引子さんの愛だね。」

 

どうやらすぐに戦闘訓練の説明が始まるようで、僕たちも無駄口をたたくのをやめる。ヴィラン組とヒーロー組の2対2のバトルでヒーロは制限時間内にヴィランを捕まえるか核兵器(模型)の回収、ヴィランはヒーローを捕まえるか制限時間まで核を守り切ることだ。なおコンビと対戦相手はくじ引きな模様。まあ僕は臨機応変に対応できるから正直誰でもいいかな出久たん出久たん出久たん出久たん出久たん出久たん出久たん出久たん出久たん出久たん出久たん出久たん出久たん出久たん出久たん出久たん出久たん出久たん出久たん出久たん出久たん出久たん出久たん出久たん出久たん出久たん出久たん出久たん出久たん出久たん(矛盾)!


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