呪いの王   作:トンカチ

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 あの時、こっそり呪符を貼っておいてよかったよ。

 式神の顕現に使う枠を一つ使うこと、ダンジョンの中でのみの発動を条件に、術者を問わない式神の顕現。

 だが、玉犬「渾」はすぐに解けた。その理由、そしてベルが気絶した理由は精神疲弊(マインドダウン)か……。

 呪術改変の効果で精神力での発動も可能とはいえ、だいぶ無理矢理の発動。自分が使う感覚で呪符を作ったのも間違いだったかな……。

 

「なんか悪いね。目立った傷もないし、細かい傷は反転術式で治すから許してね」

 

 聞いてないだろうけど。

 見た感じ、無事に恩恵をもらったのか……。そして面白いスキルも持ってると。

玉犬「白」

玉犬「黒」

 

「白はダンジョンの出口へ案内を、その後ベルのホームに案内。黒はモンスターを殺せ」

 

 そして俺はサポーターをやる。

 襲ってくるモンスターは雑魚ばっかり。

 何の苦もなく、俺はベルを抱えてダンジョンの外に出ることが出来た。

 既に夜は明けて朝になってしまったようだ。

 

「白は引き続き案内を」

 

 その命令と共に、玉犬「黒」は影に溶けて術式は解除される。

 そして白の案内のもと、俺は廃教会にたどり着いた。

 

「ベルくんっ!」

 

 ワオッ!

 じゃなかった。彼女は女神だな。

 

「ベルの主神か?」

「う、うん。君は?」

「ベルの友人だ。彼が酔い潰れたからここまで運んできたんだ。白、戻れ」

「……とにかく、中に入っておくれよ」

「そうだな」

 

 案内されたのは廃教会にある隠し部屋。

 買った当時の我らがホームよりは綺麗な廃教会。

 隠し部屋に置かれたベッドにベルを寝かると、女神は安心したように慈愛の表情をベルに向ける。

 

「ありがとう、助かったよ。えっと……」

「ラック・マーストン。カーリー・ファミリアの団長だ」

「ラックくん…僕はヘスティア。ベルくんをここまで連れてきてくれてありがとう。助かったよ。それで……」

 

 何か迷ってる?

 あ!そうだ、神は嘘がわかるんだっけ。

 カーリーは俺が嘘ついても無視しがちだから忘れてた。

 

「あー、細かい話は本人に聞いてくれ。俺は知らん」

「……そうだね。ベルくんが起きたら聞いてみるよ」

「ああ、それじゃ俺は行く。あぁ、それと」

「何かあるのかい?」

「近々開かれる神会(デナトゥス)にはカーリーも招待されている。ガネーシャとは同郷らしいからな。これも何かの縁、仲良くしてやってくれるとありがたい」

「もちろんだとも!」

 

 この神は善神だな。彼女を見ていると、カーリーは相当イカれた神ってのがよくわかる。

 このヘスティアと関わって、ちょっとマシになってくれると嬉しい。百パー無理だと思うけど。

 

「じゃ」

「本当にありがとう!」

 

 そうして、俺は廃教会を後にする。

 ホームにかえる頃には、既に街の住民の数が増え始め、ダンジョンへ向かう冒険者の数もチラホラと。

 

 これまで通り、自由気ままに都会(オラリオ)生活を満喫し、それから数日が経った。

 神会の日、ホームでは一柱、身支度を整える主神カーリーの姿がある。

 

「言っていた通り、妾はガネーシャのパーティーに行く。留守は……まぁ頼む」

「任せろ。アルガナとバーチェが何とかする」

「お主もじゃよ」

「いや、俺は今日商談がある。悪いけどマジでアルガナとバーチェにここを任せる。バーチェは他のやつらとダンジョンに。アルガナはここで団員の稽古。カーリーの送り迎えは俺がやる」

「わかった」

「任せてちょうだい」

 

 アルガナは最近、女性的なしゃべり方が板についてきたな。バーチェはこの変わりように混乱しているみたいだ。面白いからフォローはしない。

 そうして各々が指示通りの行動を始める。

 そして俺はカーリーを連れてパーティーの会場へと歩き始める。

 

「お主、商談というのはどういう意味じゃ?」

 

 カーリーは訝し気に問いかけてきた。

 まあ、妥当な反応だろうな。カーリーの俺に対する印象はクズでヒモな奴なんだろうな。否定もできないし間違ってもいない。

 ただ、まったく仕事をしないわけではない。ダンジョンの祈祷と呼ばれる結界がいい例だ。

 

 依頼者であるウラノスたち(・・)は、俺に結界の製作を頼んだ。本当は神で行うつもりだったらしいが、なるべく人の手で事を治めたかったらしい。詳しくは知らないが、神の力(アルカナム)関連であろうことは察するに余りある。

 あの時の依頼の報酬はダイダロスの腕を借り、俺と呪具を作った。その作品は俺の呪具の中でも屈指の性能。

 

 そうやって、でかい仕事を受けることは時折あった。

 今回もまた、それだ。

 

「そのままの意味、商談は商談。内容と報酬についての相談ってだけ。いい感じに儲かったら酒でも奢る」

「……なら、楽しみにしておくかのう」

「そうしてくれ」

 

 カーリーは案外、神らしいことをすることがある。闘争と殺戮が好きなだけで、ちょっとそこに目を瞑れば善い神だって、たったの二年の付き合いでもわかる。

 

「さ、着いたぞ」

「うむ、ご苦労じゃったな。夜には戻る」

「りょーかい」

 

 カーリーと別れて、俺は依頼主に指定された場所へと向かう。

 そこは都市の端にある寂れた建物。

 そうそう誰も寄り付かないであろう建物に入ると、()覚えのある気配がした。

 

「いるんだろ。約束通り来たぞ」

 

 呼びかけに反応して、徐々に俺を呼びつけた人物の姿があらわになる。

 全身を黒のローブで包む幽霊を想起させる姿。

 

「お前、確かウラノスの……」

「ああ、私はフェルズ。ウラノスの使いだ」

 

 やっぱり、依頼者はウラノスか……。

 使いに骨の、人間?を寄越すとは……前もイカれ野郎と組まされたし、ウラノスは神の中でもイカれた人間と因果で繋がってるみたいだな。

 

「で、ウラノスのところに案内をしてくれるのか?」

「いや、ここで詳細を話す」

 

 ここで……なるほど、帳を下ろせってことね。

 

「闇より出て闇より暗く、その穢れを禊ぎ祓え」

 

 帳の効果は範囲を狭め、半径5メドル前後に留める。出入りは誰にでも可能ではあるが、光や音を完全に断つ。

 簡易領域で閉ざしてもいいが、呪術改変はオンオフが出来ない。

 フェルズの骨の体への影響を考慮し、内視話は帳の中でとする。

 

「どうぞ」

「助かる」

 

 フェルズはウラノスに話を聞いていたのだろうか。

 呪術に対し驚いた様子を見せることはなく、依頼内容の詳細を話し始める。

 

「ラック殿は人語を解すモンスターに、会ったことはあるか?」

「……ああ、何度か」

「っ!本当に!?」

「どうした急に?……ああ、どこだったかな」

 

 唐突に驚いた様子で詰め寄る骨。

 確かに会ったことはある。

 怪物趣味の変態貴族の圧政。反乱軍の依頼だったかな。

 その変態貴族の圧政を止めるため、貴族を反乱軍に引き渡した。報酬として、貴族の家にある金目のものを頂いた時に見つけたんだっけ?

 数人いたのは覚えているが、顔は出てくるが、モンスターとしての名前がパッと出てこない。

 

「ラキアの……北の方だった気がする。鳥っぽい奴と、犬っぽい奴もいた気がするな。その日、一緒に飯食ったまでは覚えてるんだけど、街中でドンチャン騒ぎして、あんまり記憶がないんだよ」

「そうか……だが、生きているか」

「そうだ!」

「何か思い出したか!?」

「ああ、楽しかったぞ」

「……そうか」

 

 うっわー、冷たい反応。洒落のわからん奴だな。

 とはいえそうか、確かに普通に見たらあれらは迫害対象おそらく依頼は。

 

「そいつらはここにもいるのか?」

「そうだ。異端児、ゼノスと呼称し、我々は彼らと人間の共存を望む」

「それで、本題だな。依頼内容は?」

「ああ、異端児の保護を頼みたい」

「期限は?」

「未定だ」

「ということは、いざという時の保護ってことか?」

「ああ、そうなる」

 

 なるほど、保険として俺を使うつもりなのか。

 俺の依頼には優先順位がある。

 俺が受けた依頼は先に受けたものが、後に受けたものより優先される。

 つまり、先に依頼しておけば、そのいざって時に俺というカードが無条件で、今回であればウラノスの手札になる。

 

「そういうのは動きが制限されるからな。それなりの報酬を期待しても?」

「もちろんだ。無理な額を要求しなければもちろん」

「いや、こちらから指定する。フェルズは神秘を使えるか?」

「ああ」

「良かった。コレを」

 

 そう言って俺は一枚の紙を渡す。

 

「それはホムンクルスのレシピ。ただし、情報を持たない空の魂を持つホムンクルスのレシピだ」

「コレでどうしろと?」

「胸糞悪いが、備えだ。コレを大量に納品して欲しい。コチラは特に制限はない。とにかく作り続けろ。素材は俺が提供する。フェルズには腕を借りたい」

「コレは外法の術だぞ」

 

 そうだろうな。意思の宿らないとはいえ、人を人の手で生み出す。これほど罪深いものはないだろう。

 

「知っている。だが、人間を使うわけにはいかない。俺はそこまでイカれてない」

「……そうか。今はお前、いや、お前を信じるウラノスを信じよう」

「それでいい。それとコレを」

「これは…鷹笛か?」

「そうだ。そのいざって時に鳴らせ。なるべく早く向かう」

 

 これは登録された呪具に音を伝える呪具。もう片方の呪具、俺が持つ方の呪具が居場所も示す一級呪具。

 

「わかった。ありがたく貰い受ける」

「バカ言え。貸すだけだ」

 

 すぐに貰おうとするな。貴重品なんだぞ?世界の端にいても音が届く、一級呪具とは言え性能は破格なんだよ。

 

「話は終わりか?」

「ああ、報酬はホームに届ければいいか?」

「ああ、それと一応『縛り』を設ける。やり方はわかるか?」

「ああ、ウラノスから聞いてきた」

 

 それは上々。

 縛りによる契約によって、俺たちは利害で結ばれた。

 これで話は終わり、帳を解く。

 

「じゃあな」

「ああ」

 

 そう言って俺たちはその場を後にした。

 フェルズは姿を消しこの場を去ったが、アレはマントに備わった能力のようだ。透明化とは面白い。俺には見えてるけど。

 さて、商談は終わり。

 カーリーを迎えに行って、後は帰るだけかな。

 

 それから数日後。怪物祭にて、再びロキ・ファミリアと邂逅する。




呪術廻戦の最新話すごいことなってますね。領域について入れときます。
*ネタバレはなるべく避けるが、ミリしらで見たい人は飛ばして。(短い)







もともと、必中の効果の対象は疑問だったので、坐札博徒を使った時、カーリー(下界では全知零能、神界では全知全能)を必中の対象にして正解やったね。
神威は魔力と呪力とナニカ(複数可)のブレンドとすれば、矛盾は起きない。ので、続けます。

アルフィアとザルドは出てきて欲しいか

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