うちはマダラさん、『理想の世界』創りに失敗した小娘を叱る 作:よこはま
原作:多重クロス
タグ:アンチ・ヘイト クロスオーバー 多重クロス 一発ネタ ONE PIECE NARUTO 新世紀エヴァンゲリオン ワンピース ウタ うちはマダラ エヴァ
シンジ君は貞本エヴァをベースにしつつ旧劇・新劇双方の要素が混じってます。要するにごった煮です。なので「なんだこのシンジ君!?」と温かく見守っていただければ…
「小娘、お前は何もわかっちゃいない。お前のしでかした事はただの傍迷惑な暴走だ。『理想の世界』が何たるか……この俺が直々に教えてやろう」
「そのセリフ、そっくりそのままお返しするわ! 自分の部下にずっと騙されてたくせに〜〜……私の『新時代』をマダラみたいな敗北者が口にしないでっ!」
「時の運がヤツらに味方しただけだ。あの時、俺はほとんど勝っていた」
「出た! 負け惜しみ〜〜!」
「……言葉に気をつけろ小娘。俺を誰だと思ってる?」
「変な目をしたオジサン!」
「ジャリがァ……!」
紫色の波紋状の眼に敵意を込めながらマダラさんは一歩詰め寄る。それはもう物凄い迫力で、眼力だけで使徒が去って行きそうな勢いだ。
けど、ウタさんも負けちゃいない。赤と白の長髪を左右に揺らし、「ニシシ」と笑ってマダラさんの覇気を受け流している。さすがは『四皇』シャンクスの娘だ。
そして割りを食うのはーー両者の間に挟まれた僕である。
「おい小僧! お前も黙ってないで何か言ったらどうだ? それでも男か」
「そーよシンジ! いっつも縮こまってて恥ずかしくないの? 男なら『ドーン』としなさい!」
ああ、なんで二人ともミサトさんみたいな事を言うんだ……。
事の発端はウタさんと話してる時に起きた。ウタさんが成し遂げたかった『理想の世界』について語っていると、どこからともなく現れた(おそらく瞬身の術だろう)マダラさんが
「小娘、お前は思い違いをしている。お前ごときの力で人を救うことなど出来やしない」
と一方的に彼女の夢を罵り、高笑いした。
僕は慣れてるから愛想笑いして穏便に済ませようとしたけど、気の強いウタさんにそんなこと注文する方が酷だろう。突然横合いから飛び込んできた長髪の甲冑男に対し、彼女は覇王の剣幕で不退転の様相を見せる。
「……大海賊時代の人々はみな救いを求めていたわ。暴力と恐怖が支配する世界からの脱却を、争いのない『新時代』を願ってね……私はそんな人たちの為に歌って、『新時代』を創ろうとした――みんなの苦しみを否定する人は誰だろうと許さないっ!」
するとマダラさんは口を歪める。
「争いのない『新時代』…か。あの体たらくでよくそんな大言を吐けるな。歌で世界を救うだと? 馬鹿馬鹿しい」
負けじとウタさんも口を歪める。
「アンタこそ……戦闘狂のくせによくもまあ『平和』を語れるわね。何人の人たちを殺してきたか、考えた事ある? アンタのエゴがどれほど皆を苦しめたか……!」
「致し方ない犠牲だ。すべては『月の眼』計画のため必要な犠牲だった」
「幻で世界を救うの? アンタのが馬鹿馬鹿しいわ」
「小娘。お前は何もわかっちゃいない」
そして上記のやり取りに戻る。
「そもそも、だ」
マダラさんはその場で胡座をかき、邪悪な笑みを浮かべる。
「小娘。お前のやり方は大好きな『ファン』とやらに明確に否定されたではないか。『俺は望んじゃいない』『現実世界に戻してくれ』とな。望まぬ世界へ引き込んで、永久に閉じ込めるだと? お前がやった事など独善的な無理心中に過ぎん」
「違う! みんな最初だから戸惑っただけで、海賊がいないってわかったらもっと喜んでたわっ!」
「否定はしない。一部の弱き者は現実の恐怖に怯え、お前の救済を望んでいただろう。しかし、現実世界に
輪廻眼が怪しく光る。豪胆なウタさんと言えど、恐怖心が一瞬顔に現れる。
「お前の言う『新時代』が『理想の世界』にふさわしくない理由もそこだ。『理想の世界』とは、万人が納得して永久に居たいと思える場所でなくてはならないのだ。お前の……ウタワールドだったか? そこはただ現実世界から隔離されただけで、本質的にはなんら変わっちゃいない。お前が天竜人とやらに成り代わるだけではないか」
ウタさんはぐっと唇を噛み堪える。誰よりも自分を待ち望んでると信じていたファン。彼らの励ましを受け、現実の悲惨さを目の当たりにし、夢の世界を目指して……裏切られた経験は、彼女の中で深い影を落としているようだ。
「どうだ。小僧もそう思うだろう?」
だから何で僕に振るのさ……ウタさんも睨まないでよ。
ただまあ。ウタワールドに住みたいかと言われると、答えはNOだ。
魔王トットムジカなんて恐ろしい存在がいる段階で相当嫌なんだけど、あの世界わりかし自由に動けちゃうのがな……。
悪魔の実の能力者は問題なく能力を使えるし、ウタさんの拘束も頑張れば簡単に外せる。銃や大砲なんて物騒な代物も持ち込めてしまう。無敵なのはウタさんだけで、僕みたいな一般人は無力なままだ。
仮に僕とマダラさんがウタワールドに閉じ込められたとしよう。
想像して欲しい。エヴァンゲリヲンに乗っても勝てるビジョンがまったく見えない人と、同じ場所で暮らす生活を。いくら無敵のウタさんがいても、そこでの居心地の悪さは想像に難くない。
とまあマダラさんは極端な例にしても、ウタワールドには『力ある悪者』が紛れ得る。
クラゲ海賊団とビッグ・マムの子供たちがウタさんを連れ去ろうとしたように。チャルロス聖に人々が平伏し、ウタワールドが現実じゃないとわかってなお天竜人の威光に慄いたように。
人類の7割を巻き込むんだ、現実のパワーバランスがそのままウタワールドに持ち込まれても不思議じゃない。案外ウタさんというその世界での絶対者がいる以外、ほとんど現実と変わらないかもしれない。
マダラさんじゃないけど、ウタワールドは歪な世界だろう。
ウタさんという圧倒的な光に隠れ、途方もなく暗い影が出来るのだから。
「そ、そんなこと無い! 私がみんなを守ってあげるもんっ!」
「守ってあげる? 笑わせてくれる。一人の人間が出来ることなどタカが知れている。お前は神になったつもりか?」
まあウタさんの「守ってあげる」対象って『新時代』に肯定的な人だけだもんなあ。あの時のウタさんがネズキノコのせいで精神的に危なかったことを度外視しても、ウタワールドだと
果たしてそれは『理想の世界』だろうか? マダラさんのように血の気が多く反骨精神のある人間にとっちゃ最悪の世界だろう。
「……そーゆーマダラだって!」
ウタさんは瞳に炎を宿し、声を荒げる。
「無限ツクヨミだっけ? アンタなんて全ての人を夢の世界に無理やり連れてってるじゃない! 現実を諦めさせる権利は誰にも無いんじゃないの?」
「無限月詠の映し出す幻術世界は、現実を遥かに超える。過去の後悔、現在の苦悩、将来の不安……俺の世界ではそんなもの一切存在しない。自分だけの望んだ世界そのものを創り出してくれる。無限に続く一点の穢れもない世界、まさしく『理想の世界』だ」
毎度聞かされるたび思うんだけど、現実を上回る幸福を与えるから夢に拉致してokって発想はどうなんだろう。
ただ、マダラさんの言う世界は確かに『理想の世界』に限りなく近いのかもしれない。
たとえるなら使徒のいない世界。僕はその世界をどう生きるだろうか。案外、エヴァに乗る前みたいに孤独な毎日を送るかもしれない。
もっとあり得ないけれど……綾波が、アスカが、ミサトさんが……トウジやケンスケ、カヲル君にマリーー父さんと母さんのみんなが笑い合える世界なら。
痛みも悲しみもない、幸せだけの世界があったなら……今でさえ時々思う。僕は、やはり弱い人間だ。
「で、最後はあの気持ち悪い白いのになるってワケ?」
そこなんだよなぁ。
無限月詠に囚われたが最後、そのなれ果ては白ゼツだ。無限月詠自体、地表の膨大なチャクラを集める手段であり幻術はあくまでオマケ。星の原住民を忠実な兵士に仕立て上げるための宇宙人の侵略行為に過ぎない。
『理想の世界』はあくまでエサで、喰い付いた者はゆっくり溶かされてゆき、化け物に変貌する。
上手い話には必ず裏があるなんて言うけれど、無限月読はその典型じゃないだろうか。
「……生前の俺は、その事を知らなかった。だが、それの何が悪い? 死ぬ瞬間まで醒めない夢を見れるのだぞ? いや『死』を意識する事さえない。本人が望めば夢を永遠に見てられるのだからな」
「本当に永遠が続くわけじゃないわ。それに、その後は宇宙人の奴隷? それを幸せだって言うの? 私は思わないわ」
「どうした? 肉体の死はどうでもいいのではないのか? 大切なのは精神だとお前自身が言っていただろう」
「精神を肉体に閉じ込めたままなのよ、アンタのやり方。まあ精神を切り離したところで……無限月詠は気に食わないけどね。自由を否定してるもん、無理やり椅子にくくりつけて電伝虫の映像を見せてるのと大差ないわ。生きてるなんて絶対に言えない」
「覚えておけ、小娘。人間が自我を持つ限り、争いは終わらない。圧倒的な――それこそ神のような存在がいようと人間から争いを取り上げられん。だからこそ俺は分断する。すべての人間を別々の世界に閉じ込めたんだ、自我と自我の衝突を避けるためにな」
マダラさんは親指をくいっと後方へやる。
「お前は自由云々と大層に語ったがな、そこにいるではないか。最悪の反面教師が。ヤツは友と同胞の自由を求め、大地を平らにした。ヤツなりに『理想』があったようだが、馬鹿げてるとしか言いようがない。一族だの民族だの国家だの……現実のしがらみに囚われている限り、決して幸福は訪れない。全てを忘れ去るしかないのだ。救いは無限月詠だけだ」
「偽りよ、そんな世界! 心はその人だけのもの。アンタはそれすら奪っている!」
「ウタワールドでも意見の対立があっただろう? 愚かな話だ……争いの種を放っておいて何が『理想の世界』だ!」
議論はヒートアップする。
しかしまあ……なんというか変な話だ。世界一の歌姫と最強の忍。決して交じり合うことのない道を極めた者同士、辿り着いたその先が『現実への深い絶望』だなんて。
様々な人が多種多様な方法で『理想の世界』を実現しようとした――その根底には『現実への深い絶望』と『そこからの逃避』があった。
以前の僕も『現実への絶望』に囚われていた。他者を理解できない苦しみがじわりじわりと僕の心を蝕み、僕は
あの時――僕に『人類補完計画』の手綱を託された時、僕は半ば本気で『悲しみのない』世界に飛び立ちたかった。すべてが一つになり
でも僕は――
「シンジ! シンジはどっちの味方なのっ!?」
おっとっと。完全に忘れてた。
ウタさんが目を吊り上げて僕を見据えるけど、僕は肩を竦めておく。どっちの味方しても損するし。
「ウジウジしてんじゃないわよ! そんなのだからアスカにそっぽ向かれるのよ!」
うぐ……。14の頃の古傷をよくもまあ的確に抉るものだ……。
「それもそうだ。小僧、お前の優柔不断さは些か目が余る。大体なんだ、『人類補完計画』とは。あれを『理想の世界』呼ばわりするなど相当頭のネジが緩んでいるな」
「そーよそーよー 人を水にして何がしたいのっ!」
僕が考えたワケじゃないのに、なぜか僕が『人類補完計画』の発案者みたいになってる(確かに僕がトリガーだったけどさ)。
文句は父さんやゼーレに言って欲しい……なんて言ったら「情けない」ってまた罵倒されるだろうな。この二人、僕を相手にする時だけはとても良きツーマンセルになる。困ったことにね……。
多分僕たちは分かり合えない。マダラさんが『ウタワールド』を認めぬように。ウタさんが『無限月読』を認めぬように。僕がその二つを『理想の世界』だと思わないように。
願わくば二人にもそう思って欲しいものだけど、まあいいや。物分かりの良いマダラさんやウタさんなんて気持ち悪いし……そんな在りもしない『理想の世界』より現実に目を向けなきゃ――
――自分以外の意見を絶対に認めない二人に詰められてる現実にね……。
シンジ君だけ改心(原作後)の心境なのは、ある程度現実と折り合いをつけた(かつ新世界を創りかけた)逸般人視点が欲しかったからというメタ的な理由です。特に深い意図はありません。
もっと言うと劇中のシンジ君じゃマダラとかと会話どころか目を合わせる事も無理だろな~~と思ったので、強制的にうじうじモードを脱してもらいました。
新世界の神っぽい人や素数数える神父っぽい人がいますが気のせいです、いいね?(ニッコリ)
感想お待ちしてます!