夢見るは紅の果実   作:百々鞦韆

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10日空けちゃった……
ワァ……ァ……

仕方ないんですよね。
水曜どうでし◯うの録画溜まってたんです。


15: Little by little one goes far.

 

……なぁ、これ、どう思う?

 

つまり、その……。千束ちゃんとたきなちゃんが強すぎる件について。

 

 

 

「ちょっ!?おぅわっ!?あっぶな!?」

 

危ない、というのは、ショットガンの弾を余裕綽々で避けれるヤツの発する言葉ではない。

 

基本的に敵のヘイトを買うのは彼女である。

なぜなら、強いので。

 

 

 

「……なんなんですか、あの人。相変わらず意味の分からない動きばかり」

 

千束ちゃんの変態立体機動によって翻弄される敵を寸分違わず撃ち抜くたきなちゃんも、相当に意味が分からないのだが。それも、致命傷にならない箇所を的確に。

 

 

 

「……これボク来る必要あった?」

 

『そう卑屈になるんじゃないわよ……。プッ、運転係』

 

「あ、おいコラ!今笑ったなアル中女!」

 

いつのまにかクルミの横で作戦をモニターしていたらしいミズキが、マイク越しなのをいいことにボクをからかう。ま、対面してようがからかってくるんだけどさ。

 

 

 

とはいえこのままじゃボクはただの穀潰し。運転係としての役目すら、半分くらいは千束ちゃんがやってる。

 

仕事は自分で探すもの、なんて言葉があるが、要するに「手際の良くないヤツは雑用してろよボケ」を丁寧にラッピングした美しい日本語なわけである。

 

てことで、ボクは雑用でもしてようか。

 

 

 

「たきなちゃん。敵、あと何人くらい?」

 

「はい、見える範囲には8人……ッ!」

 

小銃内で火薬が破裂し、小気味良いスタッカートを奏でる。この演奏会に不満があるとすれば、当たると致命傷になる鉛の塊が時折飛んでくること。

 

ったく。お喋りの途中に茶々いれるとは感心しないぞ犯罪者諸君。

 

ボクはジェリコの照準を覗き込み、ヤツらのうち一人の持つ楽器に狙いをつける。いい曲だったがパンチが足りないね。

 

そいつはこうやって吹かすんだ。

 

 

 

「これで7人」

 

銃を弾き飛ばされたそいつは、そのまま千束ちゃんの放つゴム弾で夢の世界へダイブした。

 

「そうですね」

 

「リアクション薄っ……。まあいいや。ボク、ちょっと探しものしてくるから、あと二人で適当にやっといてー」

 

「はぁ……。了解しました」

 

 

 

何の因果かこの世界に生まれ落ち、喫茶リコリコに流れ着いてしまったボクという人間の役目はなんだろうか……と考えたとき、ふと思うことがある。

 

ちさたきの尊さを守る。

これがボクのやるべきことじゃないかと。

 

というより、ボクは自分が好きだと思ったものを守りたいんだ。ちさたきだけじゃない、他のリコリスの子たちも。あんなに可愛い子たちが日々命を懸けてるんだ。

 

そりゃ、彼女たちは守られるほど弱くもないし、ボクは誰かを守れるほど強くもないんだろうけど。

 

 

 

「責任があるんだよなぁ〜……。めんどくさいけど」

 

『……どうかしたか?』

 

クルミは勘がいい。独り言には気をつけなきゃ。

 

「いや、何でもないよ」

 

 

 

責任。ボクの苦手な言葉だ。

 

ここで言っているのは、ボクが()()()()()()()()()()()()()責任のことである。

 

アランに目をつけられる特異体質を持って生まれてしまったこと。ボクはボク自身の存在それ自体に責任を負わなければならない。

 

よく考えずとも、ボクのような人間が世間の注目を浴びず裏の世界で生きていけること自体が奇跡と言っていいのだ。ボクを解剖すれば人類の医学薬学は大きな発展を遂げること間違いなし。

 

だけど、個人が人類のために死ぬ、なんて綺麗事を誰が受け入れられる?

 

そりゃ周りから見てる分にはいい。宇宙服にキズつけて一人小惑星に残るあのシーンは、誰もが感動してスクリーンが見えなくなるもんさ。

 

なんだったらアレだよな。映画の内容ミリしらでも主題歌聴いただけで泣けるよな。

 

 

 

……話が逸れた。

 

ボクは映画の主人公でもなければ、器のデカい人間でもないってことを言いたいんだ。

 

だからこそ、せっかくこうして生まれたのなら、リコリコの顛末を見届けたいと思う。

 

 

 

そのためにボクは責任を取らなくっちゃあいけない。自分が生まれたことによって発生した齟齬を修正しなければ。

 

ヘビーな事柄に聞こえるが、やることは簡単なはず。

 

 

 

「……とりあえず、探すか」

 

ドンパチは二人に任せておこう。

 

ボクはここに来た当初の目的を果たす。つまり、アランがこいつらと関わっているかどうかの証拠を見つけたいのだ。

 

捜索開始!ちぇっくちぇっく、わんつー!

 

机の上!なし!下!なし!

椅子の裏!なし!

棚の後ろ!なし!

なんかよくわからんブルーシートの裏!なし!

 

結論!なし!

 

 

 

「どこにもなさそうだなぁ……。ま、そりゃそうか」

 

なんだかなぁ。

 

ま、地域の平和維持という、リコリスとしての通常業務だと思えばいい。

 

「あと探してないところつったら……。あ、そうだった」

 

ひとつだけあった。

ま、望み薄だけど。

 

 

 

「なぁクルミちゃん……。尋問してみるっての、どうよ」

 

『いいんじゃないか。現代のハッキングじゃ人間の脳を覗くことはできないからな。ボクたちの知らない、何か新しい情報が出てくるかもしれない』

 

そうと決まれば即決行。

やっぱりボクもドンパチに混ざろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて。それじゃさっさとやろうか。なぁ?ボクもキミも早く帰れるに越したこたぁないだろ?」

 

リーダー格らしき男を引っ捕らえて、拘束したのちに話しかける。

 

「……口は割らない。殺るならさっさと殺れ」

 

「そりゃムリかな。ウチは不殺の看板掲げてるんでね」

 

「は……?」

 

喫茶リコリコでは、任務中に死人を出さない。味方はもちろん、敵にも。

 

その理由(ワケ)は、この店が千束ちゃんの意向に沿って運営されているためなのだが、率直に言うとこれがまた難しい。

 

何せ、ボクみたいなどこにでもいる普通の女子高生は、銃弾を躱す技術を習得していないので。せいぜい毒耐性だけ。それが戦闘に役立つ機会は限定的。

 

手加減には相手との力量差が必要だが、撃ち合いに関して、ボクは大したアドバンテージを有していないのである。

 

「こないだのウォールナット殺し、やったのはキミらだろ?それは確定事項だ、否定も肯定も求めない。質問はここからだ、オーケー?……当の殺し、依頼者は誰かな?」

 

「……」

 

ダンマリかよ。つまんないな。

 

 

 

「ハァ、尋問ってどうやればいいのかいまいちわかんないんだよなぁ……。たきなちゃんはこういうの得意?」

 

「……いえ。経験したことがないので、得意かどうかは分かりません」

 

多分すっごく得意だ。

得意すぎてすぐ殺っちゃいそうだな。

 

ぬるま湯に浸かったボンクラヤクザならともかく、こいつらみたいなプロアマにゃあ、苦痛や恐怖を与えて情報を抜き出す手法はいまいち通用しないと思う。

 

よってたきなちゃんには尋問を任せられない。

 

こういうのは、人たらしの千束ちゃんに任せるのがベターだよな。

 

 

 

「千束ちゃーん!ちょっち来てくれ!」

 

「ほいほーい、なした?」

 

「尋問。よろしくね」

 

「ちょちょちょ、えっ?……展開早くね?」

 

任せたぜ。

 

向かい合う捕虜と千束ちゃん。

 

 

 

「……」

 

「え、あー?えっと、ど、どもー……」

 

気まずい空間が生成されちゃった。

 

「あのー、ちょーっとお話ししたいだけなんだけど……」

 

「話す義理はない」

 

「ちょー、素直になろうよー?嘘ついたって何もいいことないんだからさ。てゆーか義理がどうとか言うんならさ。例の件の依頼者にそこまでする義理はあるん?」

 

「……俺らはプロだ。分かるだろう?依頼者の信頼を裏切るヤツはプロ失格なんだよ。給料分の仕事はさせてもらうぞ」

 

ふむふむ。

少なくとも相場以上の金は貰ってるんだろうな。となるとアラン絡みの可能性は依然高まる。

 

……だが、あまりにも証拠が少なすぎる。

 

「へぇー?依頼料はいくらだったの?」

 

「……」

 

「あー、お給料の話はマナー違反か……。なんかごめんね?」

 

「……なんなんだお前ら」

 

「ただの通りすがりの女子高生ですっ!」

 

「ふざけやがって。その見た目のくせに、銃の腕は確からしいな。だがお前らじゃあいくら尋問したところで、引き出せる情報はアリンコも食わねぇくらいにしみったれたもんだろう。お前らを見て怖がるヤツはいない」

 

意外といるんだよなぁそれが。

ま、あん時のヤツは態度だけデカいアマチュアだったんだけど。

 

「そりゃそうでしょー。別に怖がらせようとなんてしてないもん。ただ話が聞きたいだけだってばー」

 

「……フッ、なるほどな。別に話してもやってもいい。本当のことは何一つ言わないが」

 

うわ、まずいぞ。

千束ちゃんは嘘を見抜くのがヘタだからなぁ。

 

ま、たきなちゃんがいれば心配はいら……いや、二人ともちょっと安心できないな。

 

 

 

「……ていうか、さっきから何隠してんの?」

 

「……は?」

 

「その左手!さっきからずっと動かしてないじゃん?……見せて」

 

 

 

手の裏を見てみると、なるほど赤いシミがべったり。右脇のあたり。致命傷ってわけじゃないが、処置をしなければ危険だろう。ヘタに放っておけば失血死するかもしれない。

 

……ま、それは千束ちゃんの仕事だ。

 

「おい、何してる」

 

「何って……。応急手当て」

 

「違う!なぜそんなことを……?」

 

「しなきゃ死んじゃうよ?それとも死にたい?」

 

「……」

 

原作とは違い、こっちから喧嘩をふっかけた上でこの行動に至ってるわけだから、なかなか妙だな。

 

「で?依頼者については何も知らないの?知らないなら……ほいっと。とりあえず傷は塞いだから、あとはちゃんとしたお医者さんに診てもらいなよー」

 

千束ちゃんは治療を終えるとスッと立ち上がった。

 

「……おい。待て!」

 

「んー、どったの?」

 

「……貸し借りはなしだ」

 

突然本拠地に押しかけられ、メチャクチャ暴れられた挙句、治療までされたんだ。なかなか屈辱的なはず。それを「借り」と認識するのはなかなか難しいだろうに。やはりプロを自称するだけあるな。

 

どういう心境の変化があったのか。

ま、大体予想はつく。千束ちゃんの眼を見ると皆ああなると思う。ファムファタールなんだよ、あの娘。

 

 

 

「依頼者についての情報は少ないが、教えてやる。……電話越しで、ボイチェンも効いてたが、おそらく女だろう。ただ者じゃない。あの声色は相当場数を踏んでいる。裏と表の修羅場を潜ってきたに違いない」

 

「……せんきゅっ!」

 

感謝の示し方がアメリカンだな。

……人たらしめ。

 

 

 

「……お疲れ千束ちゃん。ボク車回してくるよ」

 

 

 

結局、アニメで履修済みの情報しか手に入らなかったな。

 

今は、一歩ずつ進むのすら難しい。

それでも、前に動ければいいんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

情報は、まあ、ないよかマシってとこだね。こればっかりは相手が悪い。何せ世界で指折りの才能を持つ者たちの結社だ。

 

「……結局逃したのか。まあボクの身の安全が保障されているなら問題はないが」

 

「かーっ、自己中。可愛げないわねアンタ」

 

「お前よりは可愛いぞ。行き遅れ」

 

「はっ、テッメ……!言っ、言っていいことと悪いことってあんだろーが!?

 

仲良いな。いつの間にそんな親しくなったんだ?

クルミズは尊い。これ常識ね。

 

 

 

「ていうか、千束ちゃんってホント人たらしだよね。そんな可愛い顔ではにかまれると、世の男は悩殺されること間違いなしだぜ」

 

「いやぁ〜、それほどでもあるっ!さっすが私!」

 

守りたい。この笑顔。

 

 

……そうだよ。ボクは守りたいんだ。

ちさたきだけじゃない。ボクのせいで捻じ曲げられた人生を送っている人たちを守る。

 

……いつまでもアランの件で進展がないせいで、自分でも精神が追い込まれてきていると認識できる。まずい兆候だ。

 

おかげでボクは矛盾を抱えてしまった。

 

大嫌いな「責任」という言葉について、今一度考える必要が生まれてしまった。

 

こうしてボクがもどかしい思いをしている間に、時間の流れが止まるわけでもなく。

 

 

 

……ヤツらに対して、受け身を取ることしかできない。

 

だが、受け身を取りつつ一矢報いる方法だってあるはず。

 

ボクはリコリコの顛末を知っている。

もちろん、これから先にボクがアニメの出来事をそっくりそのまま経験するとは限らない。だが大筋は変わらないはず。先日の銃取引やウォールナット事件などが根拠だ。

 

 

 

……やりたいことがある。

 

 

 

リコリコ四話のラストシーンは知ってるよな?

 

北押上駅でテロが起こるんだ。

 

DAは事前に情報を入手、リコリスを派遣し犯人グループに奇襲を仕掛ける。敵は狼狽え、散り散りに逃走。作戦は成功したかに見えるのだが……。

 

地下鉄構内に爆弾が仕掛けられていた。

スイッチ一つで吹き飛ぶ地下空間。

 

そこにいたリコリスがどうなったかは……。

 

 

 

別に、誰かを救うことが目的なわけじゃない。ボクがボク自身の精神を健康に保つため、表面上は利他的な行動をするだけの話。

 

要は、こうして先のことを予測できるのなら、いくらかやりようはあるってわけ。

 

 

 

「結局あの人も大した情報は持ってなかったし……。たきなのDA復帰自体は、今ある手札でいけそうだけど」

 

「そうだね。今はとりあえず、目の前のことから片付けてかないと」

 

「なんか伏線張ってるみたいな言い回しじゃん弌華」

 

「ん?あぁ……。実際張ってるからね」

 

「なるほど、大体理解した」

 

分かってないだろ。

 

ま、それはともかく。

 

ボクは先ほど精神の健康のために今後のプランを考えた。しかし、真に精神を良好にするためには、刹那主義とストイックの中庸を取るべきだと個人的には思う。

 

あまり先のことを考えても不安が増えるだけだが、かといって向こう見ずになってもうまくいかない。この塩梅が難しい。

 

 

 

「……千束さん。まだですか」

 

「そーんな急かさなくてもいいじゃん?あ、知ってる?人間って他の人と触れ合うと幸せホルモン分泌されるんだよ?」

 

 

 

その点たきなちゃんはいいよなぁ。

生きていく上で何かしらの塩梅を気にしたことなさそうだもん。

 

さっきリコリコに帰ってきて、店の制服に着替えたところなんだけどさ。

 

たきなちゃんはいつもツインテールにしてるだろ?あれ、千束ちゃんが毎回セッティングしてるんだよね。半ばムリヤリに。

 

たきなちゃんは別に恥ずかしがったりするわけではない。さして興味のない自分の髪を、さして興味のない千束という女にいじられても、特に感情が動かないというわけ。

 

……この子が千束ちゃん大好きガールに変貌していく過程を生で拝めるのが嬉しいな。

 

とにかく、さっきから普通に会話していたけど、その間彼女たちはずっと百合百合してたわけだ。

 

ミカ特製オリジナルブレンドコーヒーを飲みつつ、二人の尊いシーンを眺めるボク。

 

ちなみにミカ本人は後方腕組み父親面してニマニマしてる。実際千束ちゃんの親みたいなもんだから後方腕組みする資格は十分ある。

 

 

 

「……弌華さん?なぜニヤニヤしてるんです?」

 

ボクは後方腕組みを許されていないただのオタクだ。

今だけ壁になりたいぜ。

 

「ん〜?いやぁ、尊いなーって……」

 

「とうと……?」

 

気にしないでくれ。

 

 

 

うむ。精神の健康には結局のところ百合が一番効くと思う。すっごい、コレ。

 




先のプロットに迷って執筆が進まなかったんで、薄い内容でひとまず更新してやったぜ()

いやあのその……
創作は趣味の範疇に留めておきたいんです。義務感発生しちゃうと書くの楽しくなくなっちゃうんですぅぅ……(雑魚メンタル)(言い訳)

まあこんなネットの片隅の怪文書をわざわざ読んでくださる皆様は寛大なお心の持ち主なので許していただけると確信しております(何様)

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