悪魔のヒーローアカデミア   作:たうる@ご都合主義の使い手

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えぇ!?箱イベと執筆を並行してやれって!?で、で…出来ませんでした…。とりあえず(多分)200箱は開けたんで投稿します。


地獄の顕現──4

 

 

 ☆☆

 

 

 地面が跳ねたかと錯覚してしまうほどの揺れが起こる。

 

 衝撃のすぐ後に、何か崩れていく音が轟の耳朶を打つ。

 

「──ッ!」

 

 嫌な想像が頭をよぎる。

 不自然なほどに動かない人形達を尻目に轟は戦闘があった区画の氷を溶かして入る。そこには──

 

「……これは……っ!」

 

 息はしているのだろうが、全員が倒れ伏しておりこの惨状から見るに──敗北したのだろう。完膚なきまでに。

 

「ぐ……うぅ……」

 

「緑谷!」

 

 呻き声を上げる緑谷に轟は弾かれたように駆け寄る。

 怪我を確認しながら、心配そうに覗き込む。

 しばらくして、ようやく目を開いた緑谷は身体をガバッと勢いよく起こす。

 

「クリフォトは!?」

 

「…さぁな。どっかいっちまった」

 

「あ、轟君…ってことは僕達は…」

 

「あぁ、負けたんだろうな」

 

 やけにあっさりと、しかし慮るように今の状況を断じた轟と、どこか腑に落ちたような反応を示す緑谷。

 

「……負けるって分かってたのか?」

 

「……ハッキリ言って、"可能性があった"だけだからね…それでもやっぱり逃げたくはなかったんだ」

 

 気まずい沈黙が二人に流れる。

 

 とりあえず、ここで倒れているクラスメイト達を安全なところに運ぼうと、緑谷と轟が動き始めた時。

 突如として、沈黙を保っていた人形達が動き始めた。

 

「っ!?まずい!」

 

「クソ!!なんで今になって──」

 

 急いでクラスメイト達を抱えようとするが、間に合わない。これでは、囲まれる──!

 

「ハッ、やっぱり負けたかクソナード」

 

 侮蔑の意を込めた声で空から降ってきたのは──

 

「「かっちゃん(爆豪)!!」」

 

 歯を剥き出しに笑う、爆豪勝己であった。

 爆豪はそのまま迫り来る人形を爆風で吹き飛ばすと、緑谷と轟の2人がクラスメイトを回収するまでの時間を稼ぐ。

 

 

 

「ッらぁ!!」

 

 飛びかかってきた人形をまた一つ、薙ぎ払う。

 額を伝う汗が地面に落ち、染み渡る。

 いつしか、瓦礫の山の頂点にまで追い詰められていた。

 緑谷と轟はクラスメイト達を回収することには成功したものの抜け出すことは出来なかった。

 

「くっ、どうする!?このままじゃジリ貧だぞ!?」

 

「せめて、麗日さんが起きてくれれば…!かっちゃんとの組み合わせで空高くへ脱出できるかもしれないのに…!」

 

 轟が氷で、緑谷がフルカウルで応戦する。

 しかし、襲いかかる人形の元は人間。余り強くは出れない。

 制約の最中戦っているからか、彼らは普段通りの力は出せていなかった。

 

 そんな時。

 

 一筋の赤い流星が天空から舞い降りた。

 

「私が──」

 

 ()()は、青いスーツに腰まで届く程の赤い髪をマントのように翻しながら、ただの風圧だけで周辺の人形を吹き飛ばした。

 

「来た」

 

 その姿は、緑谷、轟、爆豪の憧れた、オールマイトのようで、三人は目を離すことが出来なかった。

 

 

 ☆☆

 

 

「…………む」

 

「どうした、ヴィラ」

 

「チョットやなヤツの気配がしてネ」

 

「ふむ…まぁいい。予定通りここの門番は任せたぞ」

 

「マカサレタ!」

 

 ピシッと敬礼して応えるヴィラを背に、クリフォトとマキマの二人は電波塔に入っていった。

 

 一歩、踏み入れたその先には警備員や、ヒーローのものであろう血で床を池のように沈めていた。

 入って早々に顔を顰めるクリフォト。

 

「……汚ぇなオイ」

 

「…やっぱり掃除しといたほうが良かったんじゃん!」

 

「えー、でもこっちのほうがそれっぽくない?」

 

 軽口を叩き合いながらクリフォトの目の前に現れたのはヒーローの装束に身を包んだ皮の悪魔。

 事前に潜入して内部の制圧をしていた。

 二人は、そのまま恭しく跪くとさっきの軽薄そうな様子から打って変わってまるで従者のようになる。

 

我が主(マイロード)。第三段階まで終了しております」

 

「既にこの国の電波は我が手に落ちました」

 

「あとは」

 

「──あぁ。あとは、この国を落とすだけだな」

 

 血を踏みしめながら、クリフォトは最上階へと向かっていった。

 

 

 ☆☆

 

 

「──ここまでくれば大丈夫だろう」

 

 ヒーローとだけ名乗る少女は倒れ伏していた皆を抱えながら近くのビルにまで運び込んだ。

 

「す、凄いたった一人で…こんな人数を…!」

 

「ハハすごいだろう!すごいだろう!」

 

「……」

 

「…………」

 

「…一部から凄い目で見られてるけど気にしない!ヒーローだから!」

 

 緑谷からは純粋な賛辞を。轟と爆豪から睨むような、吟味するような目線で一定の距離を置かれていた。

 嫌われるようなことをしたかなぁ、と頭を掻きながらアハハと笑う少女。

 決して和やかとは言えない雰囲気が漂っていた。

 

 しばらく手当をしてから。

 

「──さて、だ。君たちの懐疑の視線の理由は分かる。そこのヒーローオタク君のオタ知識(データベース)にも私の情報が無いことから、正規のヒーローでは無いと勘づいているのたろう?」

 

 いきなりド直球で三人が思っていた事を言い当てる。

 緑谷は動揺するが、轟と爆豪は眉を顰める程度だった。

 緑谷はほぼ病気と言っていい癖があった。それはヒーローを目にした時にそのヒーローの特徴や個性、得意な事を興奮しながらまくし立てるという、オタク特有の早口である。

 しかし、今回の少女に対してはそれがなかった。この時点で爆豪と轟の二人は彼女が正規のヒーローでは無いのでは?と疑いを持っていた。

 そしてその疑念を確信に至らせたのが、さっきの発言だ。

 

「……見たこと、無いヒーローだったから…もしかしたらとは思っていたんです」

 

「緑谷が発作を起こしていなかったらからな」

 

「発作って…言い方…」

 

「事実だろ」

 

「うぐぐ……」

 

「そんな事で私の正体を見破られたのかー…ちょっとショック…」

 

 彼女にとっては予想していたとは言え当たって欲しくはなかったと嘆きつつも、気を取り直すようにコホンと咳払いを一つする。

 

「いきなり出てきてアレなんだけどね。私はもうすぐ消える──いや、()()()()()を倒してから、消えるんだ」

 

「……どういう事です?」

 

「…………詳しくは言えない。──ただ、一つだけ言うならば、宿命、かな」

 

「宿命……」

 

 緑谷は宿命、という言葉を噛み締めるように呟いた。それは師であり、自身の個性の()()でもあるオールマイトが倒したとされるヴィラン、オールフォーワンのことが頭によぎったからだ。

 

 絶対に倒さなければいけない悪。

 自分でしか討ち取れない(ヴィラン)

 

 悲壮な覚悟が少女から感じ取れた。

 

「…それは一人じゃなきゃダメなんですか?」

 

「そうだね。私でしか──ダメなんだ」

 

 諦め──ではない。本気で、そう思っている瞳だ。

 

「倒さなきゃいけない奴らって言うのはクリフォト達…ですね?」

 

「…………参ったな。君には誤魔化すって事が出来なさそうだ」

 

 いや、彼女がわかりやすいだけだ──という言葉は飲み込んだ。

 緑谷は慎重に、ヒーローとだけ名乗る少女に語りかけた。

 

「僕は…どんなに困っていても笑顔で救けるヒーローの姿に憧れて、ヒーローを目指したんだ。いつかその人に追い付きたい、と思っている。そのためには、そう──」

 

「救けを求める顔をしている、たった一人の女の子の事も救けられるようにならなくちゃね」

 

 

 恥ずかしげに顔を赤くしながら、それでも、ヒーローらしく微笑みかける緑谷に少女は呆気に取られたような顔をしてから──顔を抑えて俯いた。

 

「あ、いや、その僕なんかがとか思うかもしれないけど、一応雄英のヒーロー科の生徒だし」

 

 泣かせてしまったのか、とオロオロし始める緑谷に対して、少女は肩を震わせながら頭を横に振りながら顔を上げた。

 

「くっくっく…ははは!!あぁ、そういう事か。だからヒロフミが恐れるわけか!」

 

 まるで大輪の花が咲くように。

 心の底から笑顔になっていた少女は笑いすぎて目尻に浮かぶ涙を指で拭き取る。

 

「うん。うん!気が変わったよ!緑谷出久くん!君はとても好ましい人物だ!ヒーローとして尊敬する!!──故に、契約をしよう」

 

「は、え?契約…?」

 

「私の正体はヒーローの悪魔。あのクリフォトの個性にして唯一の離反者さ!」

 

「ええええぇぇぇーーー!!!??」

 

「…………何?」

 

 これには沈黙を保っていた轟と爆豪も驚いたようで、少女──ヒーローの悪魔を見る。

 悪戯が成功した子供のように、からからと笑う。

 

「私はヒーローとして悪に堕ちていく彼を容認出来なかった。それで、戦って、負けて無惨に逃げおおせたのが私だったんだ。だからさ、せめて彼は私の手で倒そうと思っていたのだけれど──うん。君らに任せる事にするよ!」

 

「だからこそ、契約だ。君たちがクリフォトを倒すためにあの大きな電波塔に行くだろう。その際に門番として立っている悪魔──ヴィラは私に任せてくれないか?そして、私が見事ヴィラを打ち倒すことが出来たら対価として、君たちに私の力の一部を貸し与えようじゃないか!」

 

「……いいんですか?そんな条件で…」

 

「いいとも!!私は君が気に入ったんだ!幾らでも使ってくれよ!!」

 

 気合いを入れるように背中を強く叩くヒーローの悪魔。

 

「ッはい!!」

 

 緑谷には分からない。自分の主がどう足掻いても悪に堕ちるしかなかった時の彼女の絶望が。

 

 彼女の想いは計り知れない。だからこそ、緑谷はクリフトを救け(戦い)に行くのだ。

 

 

 ☆☆

 

 

 両親を事故で死なせてしまった。

 それを本人に非が無いはずなのに世間は責め立てた。

 人は、分かりやすい"悪"があると、相手の事情を考えずに叩く。それが、たった一人の少年であったとしても。人間というのはどこまでも残酷で、なろうと思えば悪魔にだってすらなれるのだ。

 そして、その()()を一身に受けた結果がクリフォトとという()()を産んだ。

 

 もはや止まれない。止められないと思った。

 

 だが──怪物を倒す勇者が、目の前に現れた。

 

 彼は、緑谷出久はクリフォトは救けを求める顔をしている──と言う。

 それを聞いた時、目から鱗が出るような思いになった。救け?誰が?──クリフォト(ヒロフミ)が?

 

 混乱した。けれど、どこが納得もした。

 諦め、絶望、悲観、恐怖。

 渦巻き、澱んだ瞳は希望を映していなかった。

 

 ありとあらゆる力は、彼に意味をなさないだろう。だって余りにも力の差があり過ぎるから。

 言葉を尽くしたとしても、やはり意味をなさないだろう。既に彼の耳は閉ざされている。

 どんなに強い光を照らしたとしても、もはや彼の目に映ることは無い。

 

 ──…ならば、優しく差し伸べるヒーローの手は?

 

 凍えるような孤独も、溶かしてくれるような温かさを持った手ならばもしくは……。

 

 私は、その答えを持ち合わせていなかった。

 だが、目の前の少年は持っていた。

 

 だからこそ、私は力を託す。

 一縷の望みをかけて、全身全霊を尽くす。

 

 どうか、どうか──クリフォトを、ヒロフミを、救ってくれ。

 




Q.他のメンツ気絶しすぎじゃね?
A.むしろすぐ復帰出来てる緑谷の方が異常。普通なら丸一日は動けなくなる予定だった。
Q.ヒーローの悪魔は絶対に勝てるのになんで負けたん?
A.それ以外が全員協力して数でボコった。根源的恐怖の悪魔も引っ張り出してた。
Q.ヒーローの悪魔はいつ倒したん?
A.計画実行の1ヶ月くらい前。でも、力の半分位は奪って倒したから妨害とかは出来なかった。
Q.『地獄の顕現──1』の前書きで「あと二三話で終わる」とか言ってなかった?
A.(地面にめり込むほどの土下座)閑話にばかりかまけてすみません……!あと二話…あと二話なので…!!
Q.ヒロフミ君の精神状態ってなんなん?
A.言うなれば、子供の癇癪。


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