銃声怖い…ヤバイよぉ。
すでに携帯での連絡は済ませたものの、俺達は動けないでいた。
いや、流石にこれまでの付き合いで聡太君がこれくらいで死ぬとは考えられない。だからそっちはいいんだけど、問題は…
「ひっ!」
「…」
ワタシノ、ホカニ、コドモ、フタリ。
置いていくなんてありえないし、一緒に行こうにもライカちゃんは完全に腰を抜かしている。いや、それが普通なのだ。レイカちゃんはすごく冷静で、目線を追っているとゲーム機の反射で様子を伺っていた。どう考えても子供じゃないです本当にありがとうございました。
「どう?動ける」
「っっっ!!」フルフル
だよねえ。
「いや、ライカは私が運ぶので行きましょう。一人減ったので気づかれづらくなってると思います」
「…」
何なのこの子。
…行くか。
いい感じに聡太君が頑張ってるから、本当に何事もなく従業員用の部屋に入り込めた。ライカちゃんはすごく安心したかのように息を吐き、レイカちゃんはまだ警戒している。
「ん、あそこだね」
先程から見えていた光の方には、ドアと、堂々と待ち伏せしている男がいた。
…うん。何あれ。流石にこれは気づく―――
「あれ?行かないんですか?」
ライカちゃんならまだしもレイカちゃんがそんなことを言った。嘘でしょ?見えてないの?
えー?実はこの世界で有名な置物だったりするのかな?
「っ!」
「わっ!」
「キャッ!」
馬鹿みたいなことを考えていると、壁を挟んだ向こう側で耳が痛くなるほどの爆音が響いた。三者三様の驚き方をしながらも、確かに見た。
あの男もめちゃくちゃビビってた!
というわけで生きてるのは確定。いやまあ分かってたけど。それよりも、多分これは特異魔法だろう。透明人間かな?まあ場所が分かってるのなら何か先制で攻撃を加えたいところ。
だが、考えている時間はない。不審に思われたらお仕舞いだし、なんならあの男はこっちをチラチラ見ているのだから不審に思われる一歩前だ。
「ヤバそうだね。早く行こう」
突然の爆音に焦った感じを出しながら、急かすように二人を後ろに回しながら前を行く。獲物は見た感じただのナイフ。ただ、突然の爆音が響いたとき以外、息を殺したように静止している。明らかに慣れている動きだ。
ナイフの間合いまで、残り5歩。
まだ動く気配はない。
残り4歩。
動かない。
3歩。
動かない。―――なら、チャンスだ。
「フッ!」
一歩を大きく踏み出してナイフの穂先を狙う。予想外の展開に男は動揺したのか焦ったように立ち上がり、そして、ナイフを落とした。
今!殴れ殴れ殴れ!
一発、二発ともろに入るのがいくつがあるが、もはやお決まりというように力が弱くて倒しきれない。だが、確実にダメージが入っている。それは確実だ。
よほど焦っているのか、さっきからたまに飛ばしてくる魔法は、当たることすらしない。
「ちょまっ!何やってるんですか!?」
申し訳ないが、双子の質問に答えられるほどの余裕はない。言うなれば、たった一言。
「窓から逃げろ!」
命令形なのは申し訳ないが、仕方ないのだ。
「えっ、ええっ?」
「…ライカ。行こう」
困惑したようなライカちゃんの声。まあ外から見れば俺は空気と戦ってるように見えるわけだし仕方ない。レイカちゃんが引っ張ってくれてると信じたい。
と、そんなことを考えている余裕はない。気づけば、目の前の男は少しずつだが体制を整え始めていた。
(ああ、もう!自分の弱さに腹が立つ!)
聡太君であれば、いや、普通の人ですらもうとっくに気絶させているはずだ。だというのに俺は何をしているのか。流石にまずいので魔力の配分を大幅に増やし、短期決戦を目指す。
「レイカ。やいばさん。もしかして、見えない人と戦ってるの?」
「…分からないけど、多分そう。私達には見えない何かと戦ってるんだと思う。さっき空中に突然ナイフが出たと思ったら落ちていってたし」
「…えっと」
「気持ちは分かるけど。逃げないと。それがやいばさんが望んでることなんだから」
「……でも」
「いいから!」
響くレイカちゃんの怒声。集中しすぎていたせいで、それに少し気を取られ、遂には攻撃を貰ってしまった。
「…くっ!」
(クソっ。集中しろ!少しでも時間を稼がないと…!)
追撃に手から魔法を放ってきたが、それは効かないので気にしない。むしろその隙を強引に狙う。
「はあっ?」
透明状態で待機していただけに、やはり俺のことは分かっていないみたいだった。魔力を篭めた拳が、キレイにクリーンヒットする。
「見えた!」
ライカちゃんの声。どうやら殴ったことによって見えるようになったらしい。しかし、よほど入り方が良かったのか、少し距離が出来てしまった。
―――違う。あれはわざと後ろに跳んだのだ。
少し離れた距離を詰めるより先に、男の手が懐に伸びた。取り出されるのは、何の変哲もない拳銃。慣れたような手つきで引き金にまで手が伸びた。
「ダメ!!!!」
「まっ」
双子の声が響いたその時、目を潰すのかと思うほどの閃光が部屋を埋め尽くし、遅れて轟音が響いた。
「カッ…!」
耳が痛い。目が開けられない。前には敵がいるのにっ…!
が、追撃が来ることはない。いや、相手も同じなのか…?
暫くして、やっと視界が晴れた。耳鳴りは収まらないが、それでも現状把握に務めないといけない。
まずは、双子。何を言っているのか分からないが、喧嘩しているみたいだ。だが、怪我はなく無事。
部屋自体も一部を除いて無事。
そして、無事とは言い難く、黒く焦げた床の上には―――
衣服が破損した男が、ピクリとも動かずに倒れていた。