Lycolis Recoil  will-ill   作:L.L

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眠いマン


STAGE13 Operation start

クルミが壮馬の異変に気付いたのは吉松と接触してから3週間後だった。常に気を張ってあまり寝ていないのか、化粧か何かで誤魔化しているが隈が少しだけ見える。それに、掃除しながら家の中を隅々まで異常な程確認する様子が何回か見受けられていた。

 

「え?壮馬君の様子が変?……………………そうなの?最近は武器開発が調子に乗っててね。壮馬君の様子なんか気にもしてなかったわー」

 

「………………まぁ、そんな所だろうとは思った」

 

言葉通り受け取れば仲間としてはただのクソ野郎な発言だが、クルミはカレンの性分は分かっていたので特に怒りもしない。

 

「仕方ない、問い詰めてくるか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………やはり誤魔化しは効かないか」

 

クルミが壮馬の自室に突入して問い詰めると、最初は誤魔化していた壮馬も10分もすれば諦めたかのように話し始める。

 

「簡単な話だ。このアジトに何か仕掛けられてないか確認していたり、後は常に警戒していたから眠りが浅くなったのだろう」

 

「流石に心配し過ぎだろ。壮馬が倒れたら計画が止まるぞ」

 

「それは分かっている。だが、クルミの身に何かあったらと思うとな……………あとカレンもだが。………………………俺がリリベルの時に何があったかは前にも言ったよな?」

 

壮馬の問いかけにクルミは無言で頷く。

 

「俺を慕っていた後輩………………仲間を失った。もうあんな思いは2度としたくない。そう考えると、な」

 

「壮馬…………………」

 

どこか悲しげにも聞こえる言葉にクルミは何か気の利いた事を返せなかった。

 

「………………だが、これ以上クルミに心配を掛けるのも御免だ。それに、クルミの言う通り俺が倒れては意味がない。何か策を練った方が良さそうだな。折角だ、クルミも一緒に付き合ってくっるか?」

 

「!…………ああ、勿論だ」

 

頼られたのをクルミは嬉しく感じると、つい明るい声を挙げてしまう。最初に壮馬は状況の整理を始める。

 

「さて、先ずクルミ。と言うよりかはウォールナットか。ウォールナットは現在、深入りをしようとしたせいでアラン機関に狙われている。あと恐らくDAにもだ。で。俺としてはこのアジト以上にクルミの安全が確約されれいる場所に移れば良い訳だ」

 

「そうだな。……………っと、そうだ。ついさっき分かった新情報がある。あの偽アジトがバレたのはとあるハッカーがあそこを見つけ出し、それをアラン機関に伝えたからだ」

 

「つまり、同僚に売られたと言う訳か。で、そのハッカーは?」

 

「ロボ太だ」

 

それを聞いた壮馬はダサい名前だな、と一蹴して話を続ける。

 

「そのロボ太とやらはアラン機関から居場所を突き止めるように依頼されたのだろう。まぁ、実際奴が突き止めたのはダミーだったが。と言うか、そいつと知り合いか?」

 

「ボクは特に面識はない。先代があったんじゃないのか?……………話を戻すが、調べた限りロボ太もそこそこ腕はある。どうやらあそこがダミーだったと言うのも気付いているようだった」

 

「つまり、今もなおロボ太からもアラン機関からもまだ狙われている、と言う訳か。…………………………ふむ」

 

壮馬は黙り込むと少し考え込む。クルミは壮馬の部屋のベットに寝転んで邪魔しないように静かにしながら自分も策を考える。

 

壮馬が口を開いたのは5分後だった。

 

「………………良い策が思い付いた。子供でも分かる簡単な話だ。追手から逃げ切る1番の手段は相手に死んだと思わせる事だ」

 

「…………………なるほど。確かにそうすればそれ以上捜索されない。良い策なんじゃないか?やっぱり策を考えるのは壮馬の方が優秀だな。ボクでは敵わない」

 

「そして、念には念をだ。万が一生きているのがバレたとしても、居場所が特定しづらい且つ手を出しにくい、もしくは手を出すと自分達が壊滅に追い込まれる可能性のある組織にクルミを匿って貰う」

 

「いや、そんな都合の良い組織が日本に」

 

クルミも言っている最中に壮馬の考えている事が分かったようだった。

 

「………………おいおいおい。まさか、DAに保護してもらうなんて馬鹿な事を言うんじゃないだろうな?DAからも狙われているんだぞ?」

 

「そのまさかだ。それに、DAの中でもクルミを匿ってくれそうな支部を俺は知っている。やはり、あそこには利用価値があったな」

 

そう言うと壮馬は椅子から立ち上がる。

 

「良い機会だ。支部とは言えど、あそこはDAの組織だ。匿って貰う事はないが、俺も怪しまれない形で協力者としてあの支部に接触するか。うまく親密になれば、あの支部をさらに活用できるかもしれない。ついでにあそこのコーヒーも飲みに行きやすくもなる」

 

「とか言って、最後のが本命なんじゃないのか?」

 

「さぁ、どうだかな。よし、方針が決まったとなれば具体的なプランを練る。カレンにもプランについて話したり、色々と作って貰わないとな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1週間後

 

壮馬はとある駐車場の近くにあるマンションの空き部屋でタブレットに映る駐車場内の監視カメラの映像を見ていた。

 

「策は練った、仕込みは済んだ、わざと流した情報に釣られたロボ太も刺客を差し向けた……………………これで条件は全てクリアされた」

 

『いやー、にしてもあのぬいぐるみ作るのはマジで骨が折れたわー。2度とやりたくないね』

 

イヤホンからカレンの不満そうな声が聞こえてくる。

 

「悪いな、無茶を言って。にしても、良かったのか?匿ってもわななくて」

 

「別に良いの。匿って貰ったら私は武器の開発がやりづらくなるだろうし。それに、喫茶店でしょ?絶対手伝わされるじゃん。めんどくさいからマジで無理」

 

カレンらしい理由に苦笑していると、駐車場内の監視カメラに千束とたきなが映る。

 

「来たな。カレン、例の車はどうした?」

 

『ついさっきまで追われていた所。もう2人の所に到着するよー』

 

「…………………ああ。こっちでも飛んできた車が見えた」

 

とんでもないドライビングテクニックだな、と感じながら壮馬は2人が車の中に入るのを確認。それと同時に車の中に仕込んである盗聴器を作動させる。

 

『なんで守られる側が颯爽と車で現れるのよ。普通逆でしょ~。あーあスーパーカー………………………』

 

『目立つしこっちの方がいいですよ』

 

「悪いが、車に予算は掛けてられない。場合によってはその車は廃車になる可能性があるからな」

 

聞こえはしないが千束に対してそう呟いていると、車は移動を開始する。車の姿が完全に見えなくなったところで、ベランダからスラッシュハーケンを使って屋上から地上へと降り、千束が乗りたがっていたスーパーカー──────ではなく、普通車に乗り込むと、帽子を深く被ってサングラスを付ける。

 

「さぁ、作戦開始と行こうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

高速に乗った後に更に車を乗り換える手筈になっているのだが、物事がそう簡単に上手く行くはずもない。

 

『あれ?高速乗るのでは?』

 

壮馬が一定の距離を保ちながら追跡していると、そんなたきなの声が聞こえてくる。どうやらトラブル発生のようである。

 

『車を乗っ取られたか』

 

『ええ~!?ちょちょちょっとちょっとちょっと!』

 

冷静なウォールナットと慌てる千束の声が聞こえてくる。だが、壮馬は特に慌てる素振りは見せない。何故ならこれも想定の範囲内だからである。

 

「カレン、車の操縦を頼む」

 

『おk!』

 

カレンの操作に切り替わると車は急加速。壮馬は後部座席に置いてある細長いケースを開け、中からスナイパーライフルを取り出してスコープを覗く。

 

『このまま海に突っ込むつもりだ』

 

『回線の切断を!』

 

『いや。制御を取り戻してもすぐにロボ太に上書きされるだろう。こちらの作業完了と同時にネットを物理的に切れればいいんだが』

 

『え…ルーターどこよ?』

 

『知らん。僕の車じゃない』

 

「………………あれがルーターだな」

 

壮馬の目にはスコープ越しに3人が乗った車の背後を飛ぶドローンの姿があった。たきなも気付いた様子で、イヤホンからその旨の声が聞こえる。

 

「バレると逃げられる。海に突っ込むまで時間がない。つまり、チャンスは1回限りだ。さぁ、俺の手を借りずに対処できるかな?」

 

射撃性能の正確性が高いたきながいるので壮馬は大丈夫だとは考えているが、念の為引き金に手を掛ける。

 

『よし。制御を取り戻すぞ。3、2、1』

 

カウントダウンとともにまず千束が銃で窓ガラスを割ると、そこからたきなが身を出してドローンに向けて銃を構える。3発の銃声が鳴り響く頃には、ドローンは地面に墜落。制御を取り戻した車が脱輪しながらも何とか止まったのを見届けた壮馬は引き金から手を放す。

 

「やはり、俺の助けはいらなかったな。この展開は想定済みだ。恐らく3人…………………いや、4人(・・)は近くにある潰れたスーパーに入るだろう。そこでカレンのスーツの出番だな」

 

『壮馬君と言うよりかは、ゼロ出ないの?』

 

「それは状況次第だ。取り合えず、先にスーパーの方へ先回りしておくか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

潰れたスーパーに先回りし、スーパー内のトイレに入って鍵を閉めるとタブレットを取り出す。画面にはスーパー内に事前に仕掛けておいた隠しカメラからの映像が映る。

 

「ちょうど来たか。敵も来たようだな。さぁ、様子見と行こうか」

 

そう呟くと同時に戦闘が開始する。千束はたきなはキャリーケースを楯に傭兵らに向けて銃を発砲。

 

『ちょ、盾に使うのはなしだ~!大事なものだって言っただろ~!』

 

『たきな!それなんか駄目らしいよ!』

 

『無茶言わないでください!』

 

やはりキャリーケースは防弾にしておいて正解だったな、と映像を見ながら壮馬は考えていると、隠れているトイレに手榴弾が投げ込まれる音がした。千束が敵が投げようとしたのを奪ってここに捨てたのだ。

 

「(おいおいおい!)」

 

壮馬は慌てて個室を出ると、窓ガラスを突き破って外に脱出すると同時に手榴弾が爆発した。

 

「(流石にヒヤッとしたぞ………………にしても)」

 

たきなも中々の腕なのは分かっていたが、やはり千束は凄まじかった。近距離からのアサルトライフルの銃撃を軽々と避けて非殺傷弾をヒットさせていくのを見て壮馬は興味深そうに笑う。

 

「(やはりとんでもない奴だな。化け物じみた回避能力、それに反射神経や動体視力、あと観察眼も優れている………………俺と互角か、もしくはそれ以上か……………)」

 

仮面の下でニヤリと笑みを浮かべていると、どうやら全員制圧したようである。そのまま映像を見ていると、千束は自分たちを殺そうとした傭兵の1人の応急手当をし始める。確かに映像越しでもその傭兵は血を流していた。大方たきなにでも撃たれたのだろう。それを見ていた壮馬は何か思いついた表情を浮かべる。

 

「…………………カレン」

 

『んぁ?』

 

「ちょうど良い機会だ。分断するついでに、実力を測らせてもらうとしよう」

 

『へぇ…………良いけど、私の作った武器を使っておいて負けたら許さないからね?』

 

「無論だ」

 

壮馬は一瞬でゼロの衣装にチェンジし、持参していたケースに入っていた仮面を被る。

 

「負けるつもりなど毛頭ない」

 

そう言うと仮面の中でニヤリと笑った。

 

to becontinued……………




お察しの通り、次の回で千束と戦いますがあらかじめ言っておきますと、結構スピーディーにケリは付きます。濃密な戦いを期待してる方はすまんな。

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