透き通る世界にTSして旅しよう!   作:緑茶オルタ

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空気感が違いすぎるかもしれないと今更思い始めました。



焦る

 

「トーウ! 訓練の時間よ―!」

 

「すいません教官、今日はちょっとお休みしても大丈夫ですか…?」

 

「あれ、珍しいわね?」

 

「ちょっと昨日の傷が治り切ってなくて…」

 

「そう、じゃあちょっと見せてくれない? 私も銃創の手当ぐらいなら出来るし。」

 

「い…その…今日安静にしてれば治るってハピが言ってました!」

 

「……ふーん。 じゃあ今日は訓練なしにするけど、明日になったら……元気な姿見せて。」

 

「昨日からその教室、こもりっぱなしじゃない…」

 

「……」

 

できるだけ心配をかけないように、明るい声で言ったけどだめみたいだ。

薄暗い教室の扉にもたれたまま、何も言えなくなってしまった。

鍵をかけた扉の向こう、すぐそこにセリカちゃんがいるのに顔を見れない。

 

「ホシノ先輩はどっか行っちゃったし、シロコ先輩とアヤネは外出してる。 先生と私とノノミ先輩はここにいるから、何かあったらいつもの教室来なさいよ。」

 

「先生もノノミ先輩もそのうち来るとは思うから…」

 

「…じゃあ、私教室整理してくるわね。」

 

待って。と声をかけたつもりだった。

昨日変な人が来て、おかしなことを言われたせいで今はこんな調子なんだよ、と。教えるつもりだった。

心配なんてしないで欲しい、って言おうとしたのに。

喉はただかすれた音を吐き出すだけだった。

―――足音が遠ざかる。

 

「先生とノノミさんも来るんだったら、こんなひどい顔じゃ居られないや……」

 

「外行こう、ハピ。」

 

〘……〙

 

書き置きを残して、いつの間にか復活したハピに二階からの脱走路を表示してもらう。

外の日差しの眩しさが妙に鼻につく。

こんなに外は明るいのに、色味がどうも感じられないような気がした。

 

 

○○○○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

黒服が話していたけど、僕に自意識がないって話は嘘だと思う。

だって今までは先生に望まれてないのに戦闘に参加してたりしたし、暴走状態のときも先生は止まってほしいと思っていたはずだ。

 

「嬢ちゃん、俺は何にヘコんでるかわからないから励ませんが、ラーメンは嬢ちゃんに元気をくれるぞ。」

 

「はぁい。」

 

「少し待ってな、一杯ごちそうするさ。」

 

みんなの顔が何となく見られなくなって、行く場所もないままたどり着いた柴関ラーメン。

玄関先でウロチョロしていたら、大将と鉢合わせてしまい流れで店内に入れてもらった。

 

「ゔぁあああ…」

 

鳴き声を上げてみても状況が何か変わるわけでもない。

いつまでも思考停止しては居られないわけだ。

黒服の言っていた話は、なんの根拠もない(しっかり資料に明記してあった)

きっと嘘の情報(本当の情報)を話して僕を混乱させようとしているに違いない。

記憶がないって話も、僕がブルーアーカイブの物語を覚えているということと矛盾する。

先生を守るっていう目的のために有用であったから、ブルアカ関連の記憶はハピがバックアップを取っていて、それで思い出せるのかもしれない。

それ以外の記憶はたまたま忘れているだけで、(削除されているかもしれないし、)これから思い出すのではないか(思い出すことはないのでは)

先生や対策委員会のみんなも僕を追い出すとかするだろうか(いらなくなるかも)一応セリカちゃんとか助けたり(自分が居たせいで状況は悪化したし)便利屋をやっつけたりしたはず(余計なことしかしていないのだから)

 

「うぅっぷ…」

 

だめだ、だめだ、だめだ、だめだ。

こんなことに悩んでる場合じゃない。

もっと先生やみんなの役に立たないといけないのだ。

先生やみんなは借金のことで頭がいっぱいなんだ。

こんなことを話して、新しく悩みの種を作る必要はない。

明日までに表面だけは取り繕えるようにならなきゃいけない。

だって僕は、僕は、

 

犬鳴トウとしての顔しか、もう残ってないのだから―――。

 

 

○○○○○○○○○○○○○○

 

 

「…嬢ちゃん? …寝ちまったか。」

 

「顔色も悪いしなぁ…無理に起こすのも可愛そうだ。 どうするかね、このラーメン。」

 

カラカラッ

 

「お、いらっしゃい!」

 

「えへへ…また食べに来ちゃいました…」

 

「今日も美味しいラーメン食べに来たわよー! 大将!」

 

「…何かが引っかかって、ため息ばっかの人を元気づけるためにここに来たけど、食べる前から元気になってるんだったら大丈夫そうだね。」

 

「カヨコちゃんだってここのラーメン食べれると思ってテンション上がってたでしょ? それとおんなじー♪」

 

「それもそうか…」

 

「嬉しいねぇ、今日も味噌ラーメンでいいかい?」

 

「はーい。 それでお願いしまーす!」

 

「というか今日も先客がいるみたいだけど―――」

 

「あ、ああああれ! ターゲットじゃないですか!?」

 

「ホントだ! トウちゃんだよあれ!」

 

「しかも寝てるね。 …計画では有利な地形に誘い出して、爆弾でコテンパンにするつもりだったけど、これ今なら捕まえられるんじゃ…?」

 

「すごいですアル様! ここまで計算済みだったなんて…!」

 

「へ? そ、そうよ! 私には全部お見通しだったんだから!」

 

「…それなら傭兵も前の2倍雇わなくて良かったんじゃない?」

 

「う、うるさいわね! 結果良ければすべて良しよ!」

 

「……その、話を勝手に聞いて悪いとは思うんだが、うちのお得意様に迷惑はかけないでくれよ?」

 

「悪いけど大将、この子を捕まえるのは仕事なの。 こんな絶好のチャンス、見逃すわけにはいかないわ。」

 

「アンタたちアビドスのお友だちだろう? トウちゃんに悪いことしてどうするってんだ。」

 

「あははっ! 見事に勘違いされちゃってるー」

 

「まあ…ここの店主さんは私達がアビドスに襲撃かけて、あの子のことを捕らえようとしてたことなんて知らないだろうし…」

 

「と…」

 

「と?」

 

友だちなんかじゃないわよぉーーーー!!

 

ーダンッ!

 

「うわっ!」

 

「ア、アルちゃん?」

 

「わかった! 何が引っかかってたのかわかったわ! 問題はこの店、この店よ!」

 

「アル様!?」

 

「どゆこと!?」

 

「私達はここに仕事して来てるの! ハードボイルドに!! アウトローっぽく!!」

 

「なのに何なのよこの店は! お腹いっぱい食べさせてくれるし!!」

 

「あったかくて親切で! 話しかけてくれて、和気あいあいで、ほんわかしたこの雰囲気!」

 

「ここにいると、みんな仲良しになっちゃう気がするのよ!!」

 

「褒められてんのか…?」

 

「それに何か問題ある?」

 

「ダメでしょ!! メチャクチャでグダグダよ!」

 

「私が一人前の大悪党になるためには、こんな店はいらないのよっ!」

 

「アビドスの子たちも変わり者が多いと思ってたけど、そっちの嬢ちゃんも大概だな…」

 

「私に必要なのは冷酷さと無慈悲さと非情さなの!こんなほっこり感じゃない!」

 

「いや、それはちょっと考えすぎなんじゃ…」

 

「……」

 

「それって…こんなお店はぶっ壊してしまおうってことですよね、アル様?」

 

「へ…?」

 

「ちょ、ちょっと嬢ちゃんたち!?」

 

「良かった、ついにアル様の力になれます。」

 

「まずっ…! ハルカその起爆装置は…!」

 

「ちょっと待ってハルカちゃん!?」

 

「ちょ、えっ!?」

 

ーカチッ…

 

ドゴゴゴゴゴゴーーーーン!

 

 

○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

爆音で目が覚めたと思ったらまた視界が暗くなった。

なんていう夢だ。とりあえず体動かして―――

 

「…ッ!」

 

足に激痛が走る。

ああ、これはもしかして…

 

『凄いよアルちゃん、お店ふっとばしちゃった!』

 

『え、う…あ?』

 

便利屋の爆破か。

で、巻き込まれたのかな…

このイベントが起こったのなら、すぐにゲヘナの風紀委員達も来るってことだ。

早く先生とみんなに伝えに行かなきゃ。

―――役に立たなきゃ。

 

「ハピ、痛覚切って。」

 

〘……〙

 

「どうせ出来るんでしょ。 脳ぐらい簡単に改造出来るんだから。」

 

〘トウ、私は…〙

 

「…ッうるさいな…昨日からずっと黙ってて、今更弁解なんて聞きたくない。」

 

「早く切ってよ。 このままだと…痛すぎて動けないから……」

 

〘…了解〙

 

足の痛みがスッと消える。

でもこれは…キツいだろうな。

 

「〜〜〜〜〜ッ!」

 

体を動かせる最大スペースを使い、足を全力で引き抜く。

痛くはない、感触が不快なだけだ。

しかもどうせ僕は治せる。

液体(・・)がいっぱい出てるおかげで、むしろ引き抜きやすいはずだ。

 

「ゔあッ…は! はっ…」

 

抜けた。

少しだけ肉がえぐれて、木片が右足に刺さるだけで済んだのだから、まだ安いはず。

 

そういえば大将、大将は無事かな…

出れそうなとこと大将探さないと。

 

「ハピ、ビットで大将と脱出口探して。」

 

〘ビット展開、捜索対象を検索…〙

 

『あんたたち…絶対許さない! 絶対、ぜーったい、許さないから!』

 

ーダダダダダダダッ!

 

さすがはセリカちゃん。対応が早いことで。

僕も早いとこ出て、みんなと合流しないと…

 

〘捜索対象の位置及び、脱出口発見。〙

 

〘通路はビットの防壁で補強します。 対象を回収後、どうぞ脱出を。〙

 

「…うん。」

 

手だけの力で瓦礫の空洞を渡る。

 

「…ッは、ぁ。ふっゔ…ぁ。」

 

腕が震え始める。血と酸素が足りない。

小さい体はこんな状況にはあんまり合わないな、とかくだらないことを考えながら、ふと頭をよぎるのは疑問ばかりだった。

 

――どうして。

どうして僕がこんな目に合わなきゃいけないんだろう?

僕がこんな大変な思いをしてるのも、体がボロボロになってるのも。

全部が全部、望んでやってることじゃないのに。

 

「ぐうッ…!」

 

大将の服を口で噛んで、引きずって持っていく。

腕が更に軋み始めた。

 

――そもそも僕は先生支援目的のために創られたのだから、意識なんていらないはずなのに。

いっそ僕の意識なんか飛ばして、ハピがこの体を使えばよかったのに。

それならみんなを助けられるとか、おこがましいことを思わずに済んだのに。

 

「がッ…あ! ハッ…ハッ…」

 

外。最後の力で大将を路地に出す。

どうにか路地の壁に僕も寄りかかる。

 

…瓦礫の向こう側。戦闘音とみんなの声だ。

役に立ちたいとか、頑張る気持ちはある。

でも、体が動けなくなっていた。

いや、僕が動かしたくないだけか。

 

変な笑いが出てきそうになる。 結局、あいつに頼らないと僕は役に立てそうもない。

…でも、うん。もういいや。どうせ先生とハピなら乗り越えてくれる。

あとは任せればいい。

 

「…疲れたんだ。」

 

「…もう、疲れちゃったんだよ。」

 

「だから、だからさ…ハピ。」

 

「代わってよ。」

 

「僕と…代わって。」

 

 





oh…ボロボロになってるトウちゃんwatch…
カワイイ、カワイイネ…

・柴関ラーメン爆破について
あれギャグで済ませてますけどそれは大将とお客さんが巻き込まれなかったからで、巻き込まれてたらあんな感じじゃ済まないと思うマン
便利屋はギャグ世界の住人だから軽傷で済んでるけど、トウちゃんは逃れられなかったね…

曇らせもあと一話ぐらいで終わりになるはず!
それからは幸せになれるよトウちゃん!
それまで頑張って!

先生はトウちゃんを…

  • 助ける
  • 救う
  • 守る
  • メスに堕とす

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