オレに勝てるのはオレと……アイツだけだ   作:キメら

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第23Q 交流戦②

「……」

「峰ちん。それなに?」

「さつきの弁当」

「へーいーじゃん」

「食う?」

「グロいからいい」

 

 

 午前の試合は快勝し、午後に備えて昼食を取る帝光メンバー。

 一人ダークマターを前に絶望的な顔をしているが、近くでは黒子や白河も気難しい顔をしていた。

 コートの中での成果は異なるが、二人の置かれている状況は同じく崖っぷちだ。

 

 

 黒子は緊張による固さに加え、アクシデントによって視線誘導(ミスディレクション)の効果が薄れてしまった。

 さらにパスを合わせられず、ミスを連発することでより目立ってしまう。

 そうなってしまえば、黒子はコートでの存在意義はない。

 

 

 白河は、むしろ活躍したと捉えることができるだろう。

 相手の頭脳を封じ込め、チーム全体を機能不全に陥れた。

 ゴール下では以前のようには振舞えないが、少なくとも降格するような出来ではない。

 

 

「ワク、飯余分に持ってねぇか?」

「さつきの食えよ」

「午後出れなくなんだろ」

「言い過ぎ……とは言えんな。にしてもこんなに上達しないことあるかね」

 

 

 食材がここまで黒ずむものなのか。

 さすがにこれを食べる気にはなれない。

 

 

「クッソ、コンビニ行くか」

「アップまでそんなに余裕ねぇぞ」

「わかってる」

 

 

 そういって立ち上がると、黒子の頭に手を置き、優しく言葉をかける。

 

 

「元気出せってテツ! まだもう一試合あるんだ、次で挽回すりゃいーさ」

「……青峰君。そうですよね、頑張ります」

 

 

 少しだけ、笑った黒子を見ると、満足そうに青峰はコンビニに向かう。

 だが、数分後には紫原が落とし物に気付く。

 

 

「……これ、峰ちんのサイフじゃね?」

「何をしに行ったのだよあいつは……」

「あの……ボクが届けてきましょうか」

「ん? じゃーよろしくー」

 

 

 そう言って紫原が放った財布を黒子はキャッチし損ねるが、拾い直して青峰を追いかける。

 その後を、白河も追う。

 

 

「黒子、俺も行く。飲み物買いたい」

「わかりました」

 

 

 青峰を追って校内を歩く中で、白河は黒子にさっきの試合について話し始める。

 

 

「初めての試合、感想は?」

「……チームに迷惑をかけてしまいました」

「勝ったから問題ないって。大輝も言ってたけど、まだ一試合ある。俺も崖っぷちだ、一緒に一軍に残ろう」

「ボクはともかく、白河君はなぜでしょう」

「言い方から考えると、ディフェンスだけじゃダメってことだろうな……」

 

 

『ここまでのディフェンスの働きは、我々はもう知っている』

 

 

 タイムアウト中の真田の発言が脳裏によぎる。

 であれば、真田及び白金はより多くのことを求めているのだろう。

 

 

「ただ、点を取ることに関してはあいつらの方が得意だろ。緑間(シューター)もいるし……」

 

 

 ディフェンスを積極的に担い、オフェンスではスリーポイントで貢献する3&Dの役割を担う考えだがそれでは弱いかもしれない。

 より、決定的な何か。

 それをすぐに見定めないといけない。

 

 

「それで言えば、黒子のスタイルは今までにないタイプだし、実力出せれば問題ないだろ。俺はそれが正直わからん」

「……そのことなんですけど、実は赤司君と話したことがありまして」

「赤司と? ……お前が退部するって俺と大輝に言いに来た後のときか?」

 

 

 意外な名前が出てきた。

 となると、この件には赤司一枚噛んでいるのか? 

 

 

「ええ、あの日のときに白河君のことも少々」

「何を話した?」

「別に悪口などではないですが」

「なんでもいい。聞かせてくれ」

「そうですね。あの時……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 帝光の第三体育館。

 二人以外の部員がその場を去り、赤司が切り出す。

 

 

『いくつか質問してもいいかな』

『……?』

 

 

 まだ黒子は少し状況を読み込めないでいた。

 既に一軍レギュラーの彼が、退部勧告を受けるような選手とわざわざ二人きりで話そうというのだから。

 とはいえ、その後に投げかけられた内容はさほど難しいものではなかった。

 名前やポジション、経歴などといった簡単でありふれた物。

 それらに黒子が答え、しばらく考え込んだ後、赤司が口を開く。

 

 

『……なるほど、やはり面白いな。

 初めて見るよ。キミほどバスケットボールに真剣に打ち込み、その成果が伴っていない人は』

『すみません……ちょっと今その言葉を受け止めることができる精神状態ではないです』

 

 開口一番、発せられた言葉が黒子の胸に刺さる。

 それが悪意のあるものでなく、現実をしっかり分析したものであるため尚更だ。

 泣きっ面に蜂どころではない。

 

 

『ああっすまない。そうゆう意味ではないんだ』

 

 

 落ち込んでしまった黒子に弁解を図る。

 配慮が欠けてしまったかと反省しながら赤司は言葉を続ける。

 

 曰く、スポーツに打ち込めば持っている能力や経歴にもよるが経験者特有の空気が()()()()()

 一方、黒子の持つ雰囲気や存在感はスポーツ選手として感じるものがなく、極めて特殊である。

 これは一見すると、短所であるが存在感のなさ(それ)を活かすことで大きな武器になる。

 

 

『そんなこと……できるんですか?』

『悪いが……オレに言えることはここまでだよ』

 

 

 これまでのバスケとは全く(スタイル)のため、黒子自身の試行錯誤と信念が必要となる。

 赤司も自身のために時間を費やすことが最優先だ。希望と言えるかもわからない、可能性の糸を垂らしただけに過ぎない。

 共に考える時間はない。

 

 

『とはいえ、期待しているのは本当だ。だからヒントを出そう』

 

 

 カバンを肩にかけ、すれ違い様に二つヒントを与える。

 固定概念を捨て、あくまでチームのために長所を生かせ、と。

 それを述べて、扉を開けて帰路に着く前に再度黒子を振り返る。

 

 

『答えが出ても実用性は従来のテスト方式では測れないだろう。出たらオレのところにおいで、コーチと主将(キャプテン)に推薦して違う方式でテストしよう。

 もし、オレの見込みが正しければ……キミはチームに変化をもたらすことができる』

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

「……こんな感じでした」

「で?」

「え?」

「いや、一言も俺に言及してないよな?」

「……そうですね」

「お前……」

 

 

 聞き入って損をした気分を覚える。

 黒子にとってはキャリアの転換期となった出来事なのは間違いない。

 しかし、黒子は特殊だ。白河には当てはまらない。

 

 

「えーっとですね。ボクが言いたいのは白河君はみんなと、赤司君や青峰君と同じなんです」

「……おう?」

「ボクは一人では何もできません。チームのためにプレーすることでしか、生き残れません。

 でも、白河君はそうではなく、自分のためにプレーができるはずです」

「……俺のため?」

「ボクがいうのも烏滸(おこ)がましいかもしれませんが、もっと自分を出していいんじゃないんですか?」

「……イップスの俺を使ってくれてんだ。そんな奴がチームのためにプレーしないのはワガママが過ぎるだろ」

「そんなことないです。白河君は……

「ストップ。……あそこで何してんだ、大輝のやつ」

 

 

 黒子を止め、自身もその場で足を止める。

 視線の先には3人の人影があり、一人は青峰。

 あと二人は……

 

 

「コーチと虹村さん?」

 

 

 その二人が話すのなら、大体察しがつく。

 しかし、なぜ青峰もいるのか。

 柱越しに三人の会話に聞き耳を立てると……

 

 

「これは決定事項だ。黒子はこれ以上見る価値はない、彼は降格にする」

「!?」

 

 

 真田の発言と、黒子の立ち位置から状況は把握できた。

 降格決定の話を聞いてしまったのだろう。

 

 

 

「そんな……」

「話は終わりだ。午後に備えてきちんと体を休めておけ」

 

 

 一方的に話を切り上げ、真田は立ち去ろうとする。

 その足は、青峰が自身の立場を投げ打って止めた。

 

 

 

「コーチ! なら、オレも一緒にお願いします! 

 次ももしダメだったらオレも一緒に降格する。だから……もう一度あいつを使ってやってください」

「青峰……お前……」

 

 

 真田は何も言わない。

 決意を表明した青峰に、虹村がデコピンを放つ。

 

 

 

「バカか、なんでそーなんだよ」

「あいてっ」

「黒子はともかく、白河に続いてお前までいなくなったら困るわ。なんのメリットもねぇし、取引なら逆だろ」

「…………何か根拠でもあるのか」

「……ない、です」

「はぁ?」

 

 

 これだけ自身の立場を危うくしておきながら、それを打破する根拠がないという。

 ただ、青峰の言葉に偽りはなく、自身に満ちていた。

 

 

「……けど! あいつはいつかオレ達を救ってくれる。なんでかわかんねーけど、そんな気がするんだ……!」

 

 

 ここまで言ってみせた青峰の心意気を買ったのか、真田は午後も黒子を起用することを約束した。

 青峰の降格を担保とすることで、黒子の首は皮一枚繋がることになる。

 

 呆れた様子の虹村もその場を去り、青峰は時計を確認し、コンビニへ急ごうとする。

 ここでようやく、サイフがないことに気が付く。

 

 

「やべぇ落とした……か忘れた!?」

「お前、何しに行くつもりだったんだよ」

「ワク! お前ってやつは……!」

「持ってきたのはコイツだけどな」

「お? サンキュー持ってきてくれぅおおおお!! テツ!? ビックリしたぁ!!」

「…………」

「大輝、お前さっきの本気か?」

「! ……聞いてたのか」

「よくあんなこと言えたな」

 

 

 しばらく俯いて、青峰はここまで黒子を庇った理由(ワケ)を話す。

 

 

「だってシャクじゃねーか。努力してる奴してない奴、誰にでもチャンスはきっと来る。

 けど、それを掴むのはテツみてーな努力してる奴であるべきだと思う」

「けど、だからと言って青峰君まで降格させるわけには……」

「なーに言ってんだよ。次の試合で結果出せなばいいだけだろ、カンタンな話だぜ」

 

 

 そう言って、青峰は黒子に拳を突き出す。

 

 

「チャンスは残ってる。テツには掴む力だってある、できるさ!」

「……はい!」

 

 

 青峰の期待や願いに応えたい。

 そう思い、強く自身の拳を突き返す。

 

 

「ワク! お前もだ! 三人で一軍に残るぞ!」

「……ああ」

「っても、お前は自分でなんとかしろよ。こればっかりはお前の問題だからな。ま、大丈夫だろ」

「お前、さっきといいその根拠のない自信どっから来るんだ……」

「ワクはあるぞ」

「あんの?」

「ワクだから!」

「……はい?」

「俺は誰よりもお前のこと知ってんだ! お前がやりてーようにやればいい!」

「……そっか」

 

 

 青峰はそのままコンビニに走り、黒子はメンバーの元へ。

 白河は近くの自販機に小銭を入れ、商品を選ぶ。

 ペットボトルが落下して、ほとんど当たることのない数字のルーレットをぼんやりと眺めながら、二人の発言を思い出す。

 

 

 

 

『もっと自分を出していいんじゃないんですか』

『お前がやりてーようにやればいい!』

 

 

 

「……腹、括らねぇとな」

 

 

 ペットボトルを取り出し、なんとなく液晶を眺める。

 

 

「8008……当たんねーなこれ」

 

 

 

 エゴを出して降格を免れる。

 それがチームに勝利をもたらせることができるのか。

 いずれにしろ、数時間後には全てがわかる──────

 

 

 




あと1、2話で交流戦を終わらせます。
前とは違う白河を書けるかも

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