ソード・アート・オンライン ~Resurrection Brave~ 作:紫蛇の抜け殻
年末年始はどうも忙しくなってしまい投稿遅れて申し訳ない~
まぁまぁその分今までとは違う一筆になったのでよければ見てってくださいな~
ウィオラ「節目の話は主に私目線になるからいつもとは主観が違うことに気を付けてね。」
ナツメ「あの~主人公の俺の出番は。。。?」
ウィオラ「ちゃんと出てくるから安心しなさいっ。そういうことで本編どうぞ!」
「一目見た時から好きでした!結婚してください!」
はぁ。これでいったい何度目だろうか。いつも通り決まり文句で返事をする。
「ごめんなさい。今は誰とも付き合う気はないの。」
悔しそうに走り去っていくプレイヤー。残念だけど今は誰とも付き合っている余裕はないの。この浮遊城アインクラッドを抜け出すまでは。
そんなことを考えつつ私は主街区まで帰っていくのだった。
―――
第三層主街区ズムフト
「ウィオラ~。聞いたわよ?また告白されたんだって?」
「ええ。お相手には申し訳ないけど今は誰とも付き合う気はないからね。」
「別にいいじゃない。ゲームの中なんだしさ。」
そんなことを話しつつ私は相方のロザとランチを共にしている。
「そういうロザだって何人もひどい振り方してるって聞いたよ?」
「えぇ~そんなにひどくないと思うんだけどなぁ。デュエルであたしに勝ったらねって言ってるだけでぇ。」
私たちは攻略組として最前線で戦っているから、ロザの条件がどれだけ厳しいかがわかる。特にデュエル専門で名が通ってるロザのことだ。容赦はしないつもりなのだろう。
「そういえばどう?あれからなっちゃんに会いに行った?」
「ううん。行ってない。昨年末のデュエルが悔しかったからまた腕を磨いてこんどこそ勝利して見せる。」
ナツメ。初めでこそ初心者だと思っていたけどその実力は充分に攻略組を名乗れるくらいのはずだ。チュートリアル前の戦闘でもそうだし、トールバーナでの戦いの時も何とも言えない不思議な感覚が忘れられない。
「それに…私の見た目に何も言わなかったしなぁ。」とポツリとこぼす。
私は先天性色素欠乏症―いわゆるアルビノ―を患っている。髪も白いし、眼も若干だが赤い。初めて会う男性の人はその色が綺麗だとか見た目に惚れたとかで好意を寄せてくるも、あの少年からはそういったものがなかった。
「ウィオラ何か言ったかしら?」ロザが尋ねてくる。
「ううん。何でもない。さ、そろそろ食事も食べ終わるし、迷宮区でももぐろっ!」
「あら、いいわね。今日はどっちが多く狩れるかしら。」
そういって私たちは迷宮区へと足を運んで行った。
―――
第三層迷宮区
「ふっ、せいっ!ロザ、スイッチ!」
トレントの枝をかちあげ、ロザと交代する。
「はぁっ!」
ロザのレイピアが敵を貫通し、トレントは結晶となってはじけていった。
「お疲れ、ロザ。」
「ウィオラこそ。」
軽くハイタッチを交わし、休憩ポイントへと腰を掛ける。
「そういえばはじめのころ彼にレイピアを教えたのはロザだったわね。どうなの、その後の彼は?」
「あぁ。なっちゃんの話ね。正直引きこもりなんじゃないかって思うくらい最初は最悪だったわよ。でもあなたとの最初の戦いからセンスはあると感じたわよ。あれは間違いなく後半化けるわね。」
センス、ねぇ。ナツメには隠してるけど私だって最初こそうまかったわけじゃない。偶然当たったβテストの一か月があったからこそ必死に練習できただけだ。
「それにしても今日はやたらとなっちゃんの話が出てくるわねぇ。なぁに?惚れちゃった?」
「そういうんじゃないのよ。早く前線に上がってきて今度こそ勝ちたいだけよ。やられっぱなしは悔しいからね。」
「だったら今日は早めに切り上げて勝負しに行ってみたら?どことなく集中できてないのもそのせいだろうしねぇ。」
さすがにロザの目はごまかせない、か。激しく戦闘しながらもこちらの動きをよく把握してくれてる。
「じゃあお言葉に甘えて一層まで降りようかしら。終わったらまた連絡入れるからよろしくね。」
「は~い。デュエルの結果はちゃんとあとで教えてねぇ。」
―――
第一層主街区はじまりの街
「そういうわけだからデュエルしましょう。ナツメ。」
転移したら目的の人物がすぐ目に入ったため理由も説明せずに話を持ち掛ける。件の少年はというと…
「なんであんたら二人組はいっつも勝手なタイミングでやってくるんだっ!事前に連絡とかしといてくれよメッセとかで!」
「あら?何か予定とかあったの?あ、ギルドアイコンついてる。ケイタさんたちのとこね。」
「話を聞け!まぁ別に今日はギルド休みで予定がないからいいけど。」
「ならトールバーナへ向かいましょうか。」
―――
第一層トールバーナ
互いに距離を置き、剣を構える。
初めて戦った時といい、年末といい彼には不思議な点が多い。今日こそはその力を打ち破って勝利して見せる。って…
「なんであんたレイピアじゃないのよ。ふざけてるの?」
そう。彼が構えていたのはレイピアではなくダガーである。
「いやぁ、黒猫団にダッカーっているんだけどちょっと動きとか真似してみたくて。ダメか?」
ダガーといえば私の専門だ。同じ武器で負けるわけにはいかない。
「別にいいけどあんまり馬鹿にしてると痛い目見るわよ。」
「んじゃOKってことで。」
私の前にウィンドウが現れる。初撃決着ルールなのを確認し、了承する。
カウントダウンがやがて終わる。
…0。
「「っ!」」
この前よりも早い!けどステータス差なら私が勝っているはずなのにどうしてっ!?
つばぜり合いに持ち込むよりも早く相手の方から離れる。
初撃では面を食らってしまったが次は私から仕掛ける。突進技では事後硬直が激しいためスキルなしで距離を詰める。
ステータスに身を任せて剣を振るうだけでもじわじわと相手のHPを削ることに成功する。
「なによ。やっぱりレイピアじゃないと勝てませんとか?」
私の挑発に耳を貸したのか、相手が嫌そうな顔をする。
「専売特許で負けて後で文句言うなよ!」
相手がお得意のバックステップで距離を置こうとするが私のステータスがそれを許さない。うまく懐に入り込めたのでここぞとばかりに三連撃スキルを発動する。
二撃ほど防がれたが最後の一撃は頬を掠めた。
「ちっ…これだから本職はっ。」
焦った表情で相手がスキルを発動するも私はそれをいとも簡単に弾いていく。
やっぱり勘違いだったのかな。初めの勝負もこの前もただの気まぐれ。私の気のせいだった。
次の一合で決める。そう考え、またも連撃スキルを発動するところだった。
彼の目から殺気とは違う、迫力を感じた。
「っ!」
自分が気づくよりも早く、私はスキルを中断し全力で距離を取る。
数瞬前まで自分がいたであろう所を彼がスキルを空振りしていた。
もし、あのまま突っ込んでいたらどうなっていた?私の専門の武器と言えど彼に敗れていたかもしれない。そう考えると少しばかりぞっとする。
しかし、私とて攻略組だ。彼の隙を見逃すはずもなく突進スキルで突っ込んでいく。
意外にも勝利はあっけなく訪れた。
「最後…あなた何をしたの。」たまらず聞いてしまう。
「何をしたって…う~ん…いつも通り集中しただけなんだけどなぁ。ってか結果はウィオラの勝ちじゃないか。あークソっ。」
私は彼の言葉を素直に飲みこめずにいた。確かに決闘に勝ったのは私のはずだ。なのになぜか勝負には負けた気がしてならなかった。
―――
第一層はじまりの街
「今度はきちんとレイピアで戦いなさいよね?それとレベリングも怠らないできちんと前線レベルを維持すること。ギルドに所属してるとは言え、あなたは一人でも強いんだから。」
「…俺は別に強くなんてないよ。本当に強いのはケイタやキリト、それにロザにウィオラたちのことだよ。」
攻略組の三人は当然として自身のギルドリーダー?変わったラインナップね。
「ケイタさんってそんなに強いの?」
「あぁいや、彼はレベルで言うと俺より低いけどなんて言うかこう…心が強いよ。信念っていえばいいかな。そりゃ決闘すれば俺が勝つだろうけどそうじゃない強さがある。」
そういって少し恥ずかしそうに彼は笑った。
「ナツメにもいい出会いがあったようね。早く前線に連れてきなさいよ?そうすれば皆で戦えるんだから。」
「わかってるって。いつか前線に追いつけるようにレベリングもしてるんだから。そのうち6人で攻略組として参戦するから待ってろよ。それじゃここらへんで。またな、ウィオラ。」
「それじゃ、お疲れさま。また何かあったら連絡するから。」
そういって彼は自身の宿へと帰っていった。
まだ夕方…か。一度前線に上がってレベリングしてから私も宿屋に帰ろうかしら。
そんなことを考えつつ三層へと足を向けた。
―――
21:00 第三層主街区前
はぁ~。思ったより励みすぎちゃったかしら。おかげでレベルは上がったけれどあたりはもうすっかり真っ暗だわ。さっさと宿に帰って休むとしましょう。
そんなことを考えつつ主街区の入り口まで付くと不意に声をかけられた。
「おい、今ひとりか?」
いかにも不審者の格好をした男が声をかけてくる。まだ街には入っていないため刺激を与えないように抜刀しつつ返事をする。
「ええ、そうだけど何か用かしら。」
男が指先で合図をする。その瞬間私の首にナイフが突き刺さる。一瞬思考が追い付かなかったもののβの経験を活かし解を導き出す。
「投剣スキルね。なにがっ…」
声がうまく発せなくなる。まずい、麻痺毒ね。なすすべなく私は倒れこむ。
「先日僕が告白したにも関わらず随分な振り方をしてくれたじゃないか。何がそんなに不満だったのかな。」
ここがゲームの世界だからか私の見た目はむしろ高評価らしく、数を数えていたらキリがない。申し訳ないけれど相手の顔を見てもいつ告白してきたのか思い出すこともできなかった。
「だ…だからって復讐…?それに…お仲間さんまで揃えて…。」
基本的にソロで行動する私は危険予知のため《索敵》スキルを所持している。その恩恵もあり、男の他に隠れているプレイヤー二名を探し当てている。
「よっぽど目がいいみたいじゃありませんか。まぁ今となっては身動きも取れないので関係ないことですが。これから圏外村まで来てもらいますよ。ほらっお前たちさっさと運ばないか。」
「「へいっ。ボス。」」
結局男の人っていうのはいつもこうなのね。この後自分がどうなるか予想づいた私は吐き気を催しつつ大柄な男に担がれる。
「それじゃ、大人しくしといてくれよ嬢ちゃん。と言っても、身動き一つできないだろうからな。ガハハッ。」
麻痺なんてなければ簡単に切り伏せることもできるだろうに。そんなことを考えながら私はなすすべもなく近くの圏外村まで運ばれていった。
―――
「もうそろそろ麻痺が切れる。縄を使って両手を後ろに結んでおけ。ぼさっとしてないでさっさとしろ。」
男の手下に両腕を固定される。万が一麻痺が解けたとしてもこれでは武器を振るえない。
すると男は何を考えたのかフードをとり、顔を見せてくる。いかにも下品そうな顔だ。
「僕が付き合ってほしいと言ったらあろうことかデュエルで叩きのめしてくるとは。場所も主街区だったし、僕は大恥をかかされたじゃないか。」
ロザに言われていつか実践したことがあったけな。どうやらそれが反感を買ってしまったらしい。
「おかげで仲間からは笑い者にされるわ、主街区をうろつけば女に負けたなんだと。面目が丸つぶれだよ。どう責任を取ってくれるんだい。ええ?」
つまりこれは逆恨み。私が強くもないのにでしゃばりすぎたせい。ああ。きっとロザなら言い返せる言葉を持ってるんだろうな。
「だんまりか。多少は反抗してくれた方が僕としても興奮するんだけどなぁ。仕方ない、君の手を使って倫理コードを解除してお楽しみとするか。縄は一時的にほどくが下手なそぶりは見せない方がいいぞ。」
そういって彼の手が私の右腕に触れる。直接腕を触られて思い出す。あの気持ちの悪いトラウマを。麻痺も解けたせいか本能的に体が彼の手を拒む。
「嫌っ!やめてっ!」
「図に乗ってるんじゃないぞ君みたいなガキが!これから大人の怖さってもんをその体に覚えさせてやるよっ!」
気持ち悪い。気色悪い。吐きそう。怖い。助けて。お願い。
頭の中で喚き散らすも口がうまく動かない。発せられたのはたった一度の小さな一言だった。
「…助けて、誰かぁ。」
宛先のない言葉を口からこぼすも意味をなさない。これから男にされることを考えるだけで全身に悪寒が走る。
「こんな主街区を離れた町に誰も来やしねぇよぉっ!万が一誰かいたとしてソロの小娘なんざ助けるわけがねぇだろおっ!」
あぁ。結局現実でもゲームでもそうなのだ。人と違うというだけで差別される。同性からは悪意を、異性からは好意を。そしてその単純な好意の先に待っていることを私は知っている。すべてを諦め男の歩む末を予想し、すべてを受け入れる。
「なんだ急に。いきなり反抗してくると思いけりゃ随分と大人しくなったじゃねぇか。そんじゃ、始めちゃいますか。」
男の補助によって倫理コードを解除される。鎧を外され、布切れ一枚にされる。その時だった。四人目の声が聞こえたのは。
「随分と面白そうな事してんじゃねぇかよ。おっさん。」
「あぁ?んだてめぇ。ガキはすっこんでろ。お前らっそいつをつまみ出せっ!」
男が合図を出すも手下の姿は見当たらない。どこへ行ったのだろうか。
「あぁ、あいつらおっさんの仲間だったのか。いきなり切りかかってきたもんだから瀕死にしたらしっぽ巻いて逃げてったぜ?」
「な…なんだとぉ…!そ、そうだ少年。お前も一発どうだっ!?な?見たとこ学生だろうしエロいこと興味ある年頃だろ?」
「そうだな。」そう言って少年が近づいてきて誰か判明する。
「ウィオラ、一度だけ聞く。これは合意か?」そう少年は問う。
声が出ない私は首を横に振ることで否定する。
「そっか。じゃあ少し待ってくれ。」
そういって彼は私と男の間に立ち、背を向けてくる。
「悪いがこいつは俺の知り合いだ。今後こいつに関わらないと約束するなら見逃すが、そうじゃないなら切り伏せる。」
「がっ、ガキがっ…!大体俺を切ったらお前は犯罪者扱いだっ!俺に手を出せるわけっ…!」
そこまで言いかけて男と私は気づいた。彼のカーソルがすでにオレンジ色をしていることに。
「すでに俺はオレンジだ。おっさん一人斬ることくらい、痛くも痒くもないぞ。」
「く、くっそがぁぁぁぁああああ!!!!」
叫びつつ男が少年に迫るも少年は背中に背負った槍を素早く構え、攻撃をいなしていく。
「大体っ、そいつがっ、俺をさらし者にするからいけないんだっ!」
「子ども相手に逆恨みか。救いようのないな。」
そういって少年は男の体力を削っていく。
「これ以上はもうよせ、おっさん。あんたも死にたくはないだろ。」
その言葉を最後に男は膝をつく。
「ウィオラ、ちょっとこいつ一層の軍まで届けてくるよ。少しだけ待ってて。」
そういって少年は優しく微笑む。
「しょ、証人もいるだろうし、私もいくわ。」
声を絞り出し、何とか伝える。
「そうか。じゃあお願い。一緒に行こう。」
―――
第一層はじまりの街
「っだー!つっかれたぁ!まさか街に入る前にクエスト受けなきゃならんとかだるすぎでしょ!」とナツメが叫ぶ。
「それに軍の連中ときたら夜だからって対応遅すぎだし!監獄エリア管理してるんならそこらへん24時間体制にしてもらいたいよなぁ。」
「おーい。ウィオラ?大丈夫か?」
そういいつつ彼が私の目の前に手をかざすと一気に血の気が引くのを感じたため、一瞬にして距離を取る。
「あっ…。いや…。ごめんなさい。」
「いや、俺こそ悪かった。ちょっと今のは距離が近かったな。うん。」
彼は悪くないというのに謝ってくる。しかし先ほどの光景が脳に焼き付いている今彼も信用ならない。
「まぁまぁそんなに緊張するなって。顔強張ってるぞ?ロザでも呼ぶか?」
「いや、いい。それより今から時間ある?どこか喫茶店へ寄りたい。」
「まぁまだ23時だし、別にいいよ。テキトーにそことか入るか。」
見せの扉をくぐり一つのテーブルへ対となって腰掛ける。
「とりあえず、コーヒー二つ。あ、ウィオラコーヒー大丈夫か?」
「えぇ。以上で。」
「かしこまりました。」
注文を済ませるとウェイターを模したNPCはカウンターへと下がっていく。
「早速だけど悪い。よくあるのか?今日みたいなこと。」
「ううん。初めて。それと助けに来てくれてありがとう。」
「いや間に合ったようでよかったよ。ったく、ソロの時は気をつけとけよ。」
「…うん。」
お互い黙り込む。今、ナツメは何を考えているだろうか。黙っていても仕方ないので今度は私から話しかける。
「そういえば助けに来てくれた時ナツメはオレンジだったよね。まさか、あんたも…。」
「いやいやいや!違うから!俺が誰かを襲う度胸持ってると思うかっ!?」
顔を赤らめて慌てている。じゃあ一体なぜ。
「あの男の取り巻き?みたいなやつに絡まれて先にダメージ与えたらあんなことになったんだよ。カルマ回復クエストは知らなかったからウィオラが居て助かったぜ。」
なるほど。そういうことね。
「じゃあどうして私の場所が分かったのよ。まさか、フレンドリストから追って来たんじゃないでしょうね?」
「疑いたい気持ちはわかるがマジで違うって。レベリングにちょっと遠出したら騒がしかったから寄っただけだよ。まさか知り合いが襲われてるなんて思いもしなかったけど。っていゆーかフレンドリストって場所もわかるんだ。」
そんな初歩的な機能も知らないとは。この分じゃ彼は本当に白ね。
「ちょっと聞いてくれる?ロザも知らない。向こうでの私の話。」
「お、おう。気が済むまで話せよ。あ、無理には話すなよ?」
「ありがとう。あれは私がまだ中学生のころなんだけどね…」
―――
私は母子家庭だった。理由は私も母もアルビノで実の父は私がうまれるよりも早く他界してしまっていた。特別父が居ないことを不幸に思ったこともなかった。母と二人、決して裕福とは言えないけど幸せな日々を過ごしていた。
ある日、母は会社で知り合ったという男性と付き合っていることを私に告白し、再婚も真剣に考えているとのことで、私もそれを応援していた。
「初めまして。お母さんと仲良くさせてもらっている月見と申します。よろしくね菫ちゃん。」
初対面の印象は誠実そう。よく気配りもできるし、体調を崩しやすい母の面倒や、年端もいかない私の勉強まで見てくれる。まるで絵に描いたように良き父であった。
「今日から僕も一緒に住むことになるけどよろしくね。」
しばらくして月日は経ち、二人で部屋が余るくらいのアパートも、月見さんが同棲することになり、父を知らなかった私にとっては家族三人順風満帆な日々を送った。
やがて一年ほど経ったころ私も受験生となり、これから勉強に本腰を入れねば。自習も一通り終わり、夕食に向けてダイニングへ向かうと母が倒れていた。
慌てて救急車を呼び、待合室に待っている間月見さんへ連絡をした。早めに仕事を切り上げてこちらに向かうそうで、家族思いの人だと改めて実感した。
「しばらく彼女さんは入院することになるでしょう。とは言え、一週間ほど休めば大丈夫ですよ。大きい病気というわけでもないですし。」
「そうですか先生。ありがとうございます。それじゃ私たちはこれで。さ、帰ろうか菫。」
その日から母は一週間ほど入院することとなり、しばらくの間二人で生活することとなった。
事件が起きたのは突然のことだった。
あらかじめ月見さんから飲み会で遅くなると連絡を受けていた私は作り置きできる簡単な夕食をテーブルにおいてレンジで温めてから食べるようにメモを残し、お風呂を浴びて寝るためにベットへと転がった。
やがて睡魔が襲ってきたころに玄関が雑に開かれ叫び声が聞こえてくる。
「おーい!菫ぇ!父さんが帰ったぞぉ!」
私はすでに眠くその旨もメモに添えていることだし、眠りに就こうとした。
すると突如私の部屋の扉が開かれ明かりがつく。
「父さんがぁ。帰ったっつってんだろすみれぇ。」
「お、おかえりなさい。月見さん。」
眠い体を無理やり起こし、返事をする。お酒を飲むと性格変わるのか。
そんなことを考えつつ急につけられた明かりに思わず目を細め、月見さんへと顔を向ける。
「ふふふ~ん。こうやってみると母さんより、菫かわいい顔してんじゃん。」
いつもとは違う口調で月見さんは話しかけてくる。
「母さんを見た時もそうだがぁ、お前たち親子は本当にきれいな髪に、綺麗な顔してるよなぁ。やっぱり嫁や子供は美人じゃないと自慢なんざできないよなぁ。」
「そ、そうかな。お互いに愛してれば、そんなことない気がするけど。」
なんか嫌だ。この感じ。距離が近くなる月見さんに体が強張り、うまくしゃべれなくなる。
「しかもまぁだ中学生だろ?JCだよ生JCぃ!!あいつが入院してるんだ。ちょうど明日から週末なわけだし、その間、いい子の菫ちゃんが相手してくれるよな?」
そこから母が帰ってくるまでの間は私の人生において最も思い出したくもない悲惨な数日間だった。
―――
「そのあとは退院した母が警察に届け出てくれて、その男はやむなく逮捕。私は母と二人で遠くの街まで引っ越したわ。」
「嘘…だろ。」
「本当よ。これが私がSAOに来る数年前の話。そこから無事に高校まで進学したけど寄ってきた男は全員見た目しか気にしてなかったわ。本当に男って単純よね。」
「な、ならなおさら俺と一緒に居ない方がいいだろ。ロザを呼ぶ「待って!」」
ここまで話して一つ思い出した。目の前にいる彼は私の見た目に関して社交辞令しか述べずに追及することやべた褒めすることはなかった。それが気になった。
「なんでナツメは何も言わなかったの。それが聞きたい。」
「そりゃ、まずは色は髪と目の色彩については設定から変更可能だから。」
「でも、それを変えているプレイヤーはごく少ない。攻略組もほとんどが茶髪や黒髪よ。」
「あとは、見た目に特徴がある人ってのは良くも悪くも仲間外れにされるからかな。いじることの方が失礼だろ。」
少し曖昧な表現ね。深堀りしてみるかしら。
「もう少し詳しく聞かせてちょうだい。」
「例えばクラスでイケメンと普通の顔とブサイクがいたとする。ブサイクは派手な奴らにいじめられる対象になりやすいし、イケメンは神格化されて逆に距離を置かれる。一番友達ができやすいのは普通の顔のやつだと思うぜ。あくまで俺の経験と主観だが。」
「そう、ありがとう。私からは以上だわ。さ、帰りましょう。」
彼は初めから見た目など気にしていなかったということか。私にとってはそれが救いであった。
「あぁ待て待て。ロザを呼ぶからもう少し待ってろ。」
そのあとはロザが迎えに来て二手に分かれお互いに帰っていった。
―――
「え~…。今回はウィオラの勝ちなのぉ?ちょっとつまんなぁい。」
「あはは、それはナツメがダガーで挑んできたせいよ。彼ったらギルドメンバー全員分のメインスキルを習得してるみたい。」
「はぁ!?何よそれっ!私の教えたレイピアが気に入らないとでもいうのっ!?これから決闘しに行ってくるわっ!」
思わず駆け出しそうになるロザを引っ張って抑止する。
「こらこらっ。何時だと思ってるの。送ってくれてありがとう。」
「大丈夫?軽くなっちゃんから話は聞いたけど怖かったらいつでも言ってねぇ?お泊りでも何でもするから。」
「うん。もう大丈夫。いつ襲われてもいいようにもっと研鑽しておくわね。それじゃ。」
「必ず何かあったら私を頼るのよぉ?少なくともウィオラやなっちゃんよりは年上なんだからね。」
そういってロザは帰路へと向かう。遅い時間にも関わらす来てくれてありがたかった。
今日はナツメに助けられちゃったな。決闘は私が勝っているとはいえ何か彼が困ることがあったらお礼に助けてあげよう。
一つだけ決心をし、私は眠りについた。
ナツメ「改めて読むと相当な外道だな。ウィオラの父親。」
ウィオラ「といっても本当のお父さんじゃないけどね。」
ナツメ「だとしてもなぁ。おい、作者ちょっとやりすぎだ。表出ろ。」
えっ!?あの、ナツメくん。。。ちょっと痛い腕引っ張らないでぇっ!助けてウィオラちゃ~ん!
ウィオラ「まぁ自業自得だし頑張ってね~。次回からはまたナツメ視点に戻るので皆さん今後とも応援、よろしくお願いします。」