とある英霊の一方通行 作:右方のけん玉
書き溜めをコピペしたので確認していません。
ミスあるかも。
「─────ッ」
酷い程の頭痛を感じた。
あまりの痛さに今、自分がどうなっているのか分からないほどだった。
立っているのか、寝ているのか、座っているのか、それすらも分からない。
だが、意識が覚醒した数秒後、激しい頭痛は霧のように消えていった。さっきまでのが嘘のように。
「クソ…なンだ、一体?」
白い悪魔は自分が地面に横たわっているのを理解すると、目を開けながら立ち上がる。
寒い、と瞬時に思った。
ただ地面に寝ていたから体温が下がっていると言う話ではなく、単純に外の気温が低いのだ。
だが、幸運にもロシアで着用していた防寒着を着ている様で、そこまで酷い寒さを感じない。
ここが何処なのか確認しようとするが、長く目を瞑っていたからか、ピントが外れているように視界がぼやけていた。
「チッ───」
白い悪魔は目を強引に擦ったあと、数秒間ほど目を瞑った。そして目を開けると、完全とは言えないが、それでもさっきよりはマシな視界と言えるものになっていた。
これで、やっと周りの状況が分かる。
確認をしないことには何も始まらない。
「……あァ?」
目を開けた瞬間、飛び込んできたのは暗闇だ。
ただ、完全な暗闇と言う訳ではなく、うっすらと周りの光景が見える。感覚的には今は真夜中の外にいるのだろう。
(こいつは)
一方通行が暗闇に目が慣れて行くと、視界に木の幹が入った。しかも、一本や二本ではなく、いわゆる森と呼ばれる奴だ。
「チッ、学園都市なンだろうな」
学園都市で森がある場所と言えば第二十一学区がすぐに思いつく。第二十一学区は基本的には山岳地帯だ。
最先端技術の集合体のような学園都市にある山や森と言ったら、大体そこに限られるだろう。
だが、そんなとこに自分が向かった記憶など、何処にもないが。
「……ロシア、じゃねェか」
その可能性は即座に否定した。
そもそも雪が積もっていない時点で違う。
そして、自身が持っている情報から考えると、学園都市に回収されたというのが可能性が最も高い。
あのユーラシア大陸で莫大な力と衝突した時からの記憶が一切ない。
恐らく、そのあとに学園都市が気絶している状態を狙ったのだろうか。
「────どォでもいいか」
何がどうであれ、今の自分が五体満足に生きているのならそれでいい。身の回りを確認したところ、首元のチョーカーもちゃんとある。
それだけあれば、充分だった。
白い悪魔は人差し指でチョーカーのスイッチを軽く弾いた。
一方通行。
学園都市にいる二百三〇万人の中でも七人しかいないレベル5の頂点に存在する能力者。
例え世界中の軍隊を敵に回そうと、無傷で勝利するほどの本物の怪物。
この瞬間、彼は学園都市最強へと変貌した。
(ミサカネットワークにも、細工はされてねェか)
一方通行はそれが分かると身体の重心をほんの少し前へと傾けたあと、その場で軽くジャンプをする。
ドッ! という音と共に、一方通行の身体が四〇mほど真上に飛び上がった。
「……、」
場所を特定するために飛び上がった一方通行は目を細めた。
「────何処だ、ここ?」
飛び上がって見てみたところ、周りには森が広がっていた。ただ、これだけなら学園都市の山岳地帯も同じ事だが、明らかに広さが違う。
学園都市の二十一学区は山岳地帯であるのと同時に、学園都市の水源とも言える学区だ。
学区丸ごとが山などではなく、貯水用のダムや天文台、自然公園など人工物があるにはある。
なにより、この高さからなら学園都市の都市部が目視で見えるはずだ。
だが、ここにはそんなものは無い。
貯水用のダムも、天文台も、自然公園もいくらそれらしいのを探しても同じ景色が広がっているだけだ。
「───いや、」
ある。
同じ景色ではない。
一方通行が空中で身体を反対へ向けた時に、ある人工物が目に入った。
それは、
「教会か?」
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一方通行は背中に四本の風の翼を接続させながら、教会の扉の前へと降り立った。
ざっ、と一方通行は地面に足をつけると、首元のチョーカーのスイッチを弾く。
その瞬間、背中に接続されていた風の翼は、跡形もなく消えていった。
「チッ」
一方通行は吐き捨てるように舌打ちをする。
今の一方通行はミサカネットワークに演算補助をしてもらう事で能力が使用できる。
だが、この首元のチョーカー、演算補助デバイスのバッテリーが切れた時、言葉すら話せないレベルになってしまう。
それを避けるために、現在地が分からない今の状態では下手に能力を使用できない。
まるでガラクタだな、と一方通行は思った。
カツ、と一方通行は石で出来た道を現代的な杖でつきながら、ゆっくりと教会の扉へと向かった。
目的は現地の人間から情報を集めること。その気になれば人に聞く必要はないが、これが一番手っ取り早い。
見た感じ廃墟ではなさそうだし、所々手が入っているのが分かる。
教会なんてものに訪れるのは、これが初めてな一方通行は何かマナーでもあるのか、と率直な疑問が浮かんだ。
階段に足をかける。
数段ほど階段を登ると目の前には、両手で左右に開くタイプの扉が立っていた。こんなもの、今の日本では、なかなかお目にかかれない。
「────、」
一方通行はチラリと自分の右腕へと目を落とす。
右腕で杖をついているため、片方しか腕を使えないと思った。
そもそも、両手で開ける動作自体が一方通行はダサいと思っているため、たとえ両腕を使えたとしても、片方しか使わないだろう。
スッ と一方通行は左側の扉へと手を伸ばした。
その時、ギィン!! という音が後方から響き渡った。
「!!」
一方通行は伸ばしていた手をピタリと止め、後ろへと振り向く。
(あァ?一体、何の音だ)
ただの爆発音か何かかと思ったが、それは違うとすぐに断言した。何故なら、先ほどの音が何度も連続で響き渡っているからだ。
ガンッ!! ギィンン!! と、まるで鉄パイプと鉄パイプが高速でぶつかり合っているような音が耳に入る。
それだけの理由なら、わざわざ一方通行が気にする必要などないが、異常なのは連続で鳴り響く音の間隔だ。
不良同士が争っているような速度ではなく、まるで早送りしたかのような速さで耳に届くからだ。
「能力者同士のお遊戯会でもあンのか?」
いつもの一方通行なら、たとえショッピングモールが爆発しようとも気にする事などないが、今は気分が違った。
出来るだけ情報が欲しい。
ただ、能力者同士が戦闘を起こしているだけでも、ここが何処なのかが分かる可能性があるからだ。
カツ、と杖をつきながら歩き出す。
一方通行が階段を下ろうとしたところで、ギィと木を軋ませたような音がした。
「なンだよ、今度は…」
音の発生源の方へ目線を向けると、教会の扉が左右とも開いていた。
そして教会の中から一人の人物が姿を現した。
「ほう、客人とは珍しい。何の用かな少年」
「────、」
一方通行の身体が自然と強張る。
中から姿を現したのは、一方通行よりも一回りほど身長が高い男だった。
胸元にぶら下げている十字架を見るに、ここの神父とかだろうか。警戒する必要など何処にも無いが、何故か警戒を解けない。
恐らくだが今まで学園都市の闇に浸かってきた一方通行だからこそ取れる『何か』が、この男から発せられているのだろう。
威圧感もそうだが、それとも違う『何か』が。
「それとも少年と言うよりも、ここは迷える子羊と言った方が適切かな?」
「誰だ、オマエ」
「……言峰綺礼。この教会の神父だ。その言い方から察するに、君は迷いがあって来た訳ではなさそうだな」
「いや、迷いがあってきた。聞きてェ事が山ほどある。だが、悪りィがそいつは後回しにさせてもらうぜ」
それだけ言うと、一方通行は未だに続いている轟音がする方へと歩き始めようとする。
「────待て、少年」
しかし、それは言峰によって遮られた。
「そちらへ行くのは、おススメしない」
「……どォいうことだ?」
一方通行は敵意を含めながら神父を睨む。
「まぁ、そう睨むな。私は善意で言っているのだよ」
「善意?オマエが?」
はン、と一方通行は鼻で笑う。
まだ何も知らないとは言え、この男の性根が腐っているのは肌で感じ取った。
恐らくだが、学園都市の闇に浸かっている奴ら以上のものを、この男は持っている。
この男から善意という言葉が出てくるのが異常と思えるほどに。
「ああ、善意だとも。それとも何かおかしな点でもあったのかね?」
「別に」
一方通行は素気ない返事をした。
正直、今は構ってやる気分などではない。
今はとにかく音のする方へと向かうのが最善だと思った。
「これは警告だ。そちらへ向かうのは止めた方がいい」
「…何のマネだ?そうまでして、偽善者ごっこに付き合って欲しいのか?」
一方通行の赤い瞳が、神父を睨みつける。
止めるなら殺すぞ、と言わんばかりに。
「なら逆に問わせてもらうが、そうまでして何故音がする方へと向かおうとする。君に何か関係でもあるのかね?」
「じゃあ俺も聞かせてもらうが、オマエは音の正体を知ってるみてェだな。ここまで止めるって事は何か疾しい事でも隠してるとか、そンな感じか?」
明らかに、この神父は何かを隠している。
こうまでして止めると言う事は学園都市の暗部と同じようなものでもあるのだろうか。
(本当に能力者同士の抗争か?それとも……)
魔術、という単語が頭に思い浮かんだ。
くだらない考えだと思うが、神父といえば神や天国などオカルトに関する言葉が浮かんでくる。
そして、魔術。
最近、その端っこに少し触れた程度だが、その単語を知った以上、この考えが思い浮かんでしまった。
(ここでコイツをブチのめして尋問してもいいが、時間が惜しいな)
構ってられない、と一方通行は神父の解答を聞く事もせず、音の方へと今度こそ歩き始めた。
「警告はした。それでも行くというのなら、後悔しながら突き進むがいい」
「俺に出会った事に、オマエが後悔しろボケ」
一方通行は振り向きもせずにそれだけ言うと、石で出来た坂を下っていった。
それを神父は一方通行の姿が見えなくなるまで見続けたあと、口元に気味の悪い笑みを浮かべながらこう言った。
「ようこそ少年。こちらの世界へ」