ドラえもん のび太のバイオハザード ススキヶ原のオルフェンズ 作:宇宙戦争
◇西暦2013年 7月29日 未明
「危ない!」
ニューナンブM60を発砲するほんの直前、夏音は支配されかけている精神の中で確かにそう言った。
それは本来ならば、ほとんど聞こえないほどのか細い声の筈であったが、何故かのび太の耳にはしっかりと届く。
「!?」
それを見たのび太は慌てて先程自らが通ってきた曲がり角に身を隠すが、その前に夏音の持っていたニューナンブM60の38スペシャル弾がのび太を襲う。
しかし、バイオアーマーに身を包むのび太には拳銃弾程度では少し衝撃があるくらいであり、効果はほとんど無い。
これがのび太のようにヘッドショットを決めたのなら話は別なのだが、夏音にそんな腕は元からないし、操られている今の現状ならばそれより更に腕は落ちる。
よって、銃弾は頑丈なバイオアーマーへと当たり、吸収されるという結果に終わったのだ。
そして、2発目の38スペシャル弾が発砲された時には、既にのび太は曲がり角に身を隠しており、その弾丸は空しく壁に当たるだけだった。
(確かニューナンブM60の装填弾数は5発だったから、残りは3発かな?・・・予備の弾薬を渡してなくて良かった)
のび太にとって幸運だったのは、夏音に予備の弾薬を渡していなかった事だろう。
逆に言えば、装填弾数が満タンで渡したことは紛れもない不幸だったのだが、それでも2発撃った今、残りは3発。
それも相手の腕から推察するに、よっぽど運が悪くない限り、当たらない確率の方が高い。
(でも、問題はその後どうするかなんだよね)
状況から見て、夏音のプラーガへの同化はかなり進んでいる。
それだけでも問題だが、おそらく敵であろうあの赤いドラえもんの近くに夏音が居る以上、こちらから手出しは出来ない。
夏音が全くその場から動かないということを前提にするならば、彼女を避けて相手に銃弾を当てられる自信はあるが、プラーガで操られていることを考えれば、逆に夏音を盾にして銃弾を受け止める、などということをされる可能性もあるのだ。
そもそもあの赤いドラえもんに銃弾を当てたとしても効くかどうかも分からない。
RPG─7でも使えば分からないが、もちろんこの状況で使うのは論外である。
「さて、どうしたものかな?」
のび太は言葉は余裕そうだが、頭の中では必死にこの状況の打開策を練っていた。
しかし、そんなのび太の思考を遮る形で、のび太の居る廊下の奥から、武装教団員達が現れる。
「あそこだ!殺せ!!」
「!? 不味い!」
のび太はここに来てかなり焦った。
ここは曲がり角の一本道しかなく、当然、出た先には夏音たちが居るのだが、現在はその反対側の道からも武装教団員達が殺到している。
つまり、挟撃状態なわけだ。
「こうなったら・・・」
のび太は使いどころが無くなっていた3発の40×46ミリグレネード弾の内、焼夷タイプの物を2発とも取り出すと、それを武装教団員達の方に向かって投げる。
そして、彼らの足元にそれが転がると、のび太はそのグレネード弾にベレッタの弾丸を一発ずつ撃ち込んだ。
すると、爆発が起きて炎が飛び散り、その付近にいた彼らの体は燃え上がる。
「よし!あとは・・・」
のび太はこうなった以上、一か八か、短期決戦のためにあの赤いドラえもんに接近戦を挑むことに決めた。
どのみち、夏音のことを考えれば時間はないし、時間をかければあの武装教団員達の増援がやって来るだろう。
ならば、そうなる前にここで決着を着けた方が良い。
そう考えたのび太は、右手にデザートイーグル・44マグナムバージョンを、左手に貫通力の高いFN Five-seveNをそれぞれ持つ。
「よーし。1・・・2の・・・3!」
のび太はその掛け声と共に飛び出す。
しかし──
「──あれ?」
──そこに夏音とあの赤いドラえもんの姿はなかった。
◇
「サドラー様」
「もう芝居は止めだ。本来の名前で良い」
「・・・失礼致しました。それでドラえもん様、この状況如何致しますか?既に野比のび太とこの世界のドラえもん様が別々なルートでここに近づいているようですが」
「決まっている。先にも言ったように、全戦力をもって迎え撃て」
「・・・よろしいのですか?既に戦力の7割近くが消耗していますが」
「構わん。どのみち奴等を倒すことが出来なければ、この世界の征服など夢のまた夢だ。その後の再建など後で考えれば良い。今は全てを失う覚悟で挑まないと奴等には決して勝てん」
「分かりました」
「なにがなんでも勝ちきるのだ!奴がジャックポットを引く前に!!」
◇
ドドドドドドドドド
平行世界のドラえもんが覚悟を決めていた頃、のび太は雨の降りしきる中、機関銃を連射しているトーチカの前で足止めを食らっていた。
「くそっ・・・どうすれば良いんだ?」
のび太は悩む。
本来ならば、RPG─7を使えば良いのだが、先程別のトーチカを潰すのに使ってしまったのだ。
しかも、入手した2つのグレネードランチャーも既にこれまでの戦闘で破壊されてしまっている。
グレネード弾なら1つだけ余っていたが、先程と同じ戦法を取ろうにも、それには相手に自分の姿を晒してトーチカの中へと投げなくてはならない。
当然、そうなれば敵も機関銃を撃ってくるし、のび太のノーコンな投球ではまずトーチカの中へと入れられないだろう。
そういったこともあって、のび太はその戦法を取らなかったのだ。
しかし、残った火力ではトーチカを破壊するには足りない。
だが、時間がない。
こうしている間にも、夏音の同化は更に進んでいるのだから。
どうするべきかとのび太が考えていたその時だった。
バババババババ
トーチカとは反対側の方向から1機のヘリがやって来た。
「ん?あれってスネオの家で見た・・・確か戦闘ヘリだったかな?・・・・・・戦闘ヘリ!?」
そう、やって来たヘリはただのヘリではない。
AH─1 コブラ。
ベトナム戦争の頃に登場したアメリカの戦闘ヘリだ。
現在でも自衛隊や中小国の国などでは現役となっている機体である。
しかし、のび太にとっては現役だろうが、旧式だろうがその存在が脅威であることには違いない。
その武器の1つでものび太に牙を剥けば、のび太がミンチにされる運命に変わりは無いからだ。
思わず大量の冷や汗を流してしまうのび太。
そんな彼に、上陸する前にドラえもんから貰った無線機から通信が入った。
『──やあ、のび太君。無事かい?』
「あっ、うん、ドラえもん。・・・え~と、さよなら」
『のび太君?』
「ちょっと今戦闘ヘリとトーチカに挟まれちゃっててね。たぶん数秒後には僕も眼鏡だけしか残らないと思うんだ」
テンパった結果、思わず変な言葉を発してしまうのび太。
しかし、その言葉に間違いはない。
戦闘ヘリにはそれだけの攻撃力があるのだから。
だが、ドラえもんが発したのは意外な言葉だった。
『──OK、分かったよ。ちょっと待っててね』
「えっ?」
のび太はその言葉に戸惑う。
しかし、その直後、戦闘ヘリは移動していき、トーチカの近くに寄る。
すると、いきなりロケット弾ポッドを使ってトーチカを攻撃し始めた。
「!?」
のび太は潜んでいた戦闘員ごと破壊されたトーチカを呆然と見る。
しかし、その直後に再びドラえもんから通信が入ってきたことで我に返った。
『──あのヘリは僕が操作しているんだよ』
「ドラえもん!!」
『さあ、行こう。早く夏音ちゃんを助けるんだ』
「ああ、援護頼むよ。親友」
『任せといて!』
二人は無線越しにそう言い合って再び進撃を開始した。
◇
その後ものび太はドラえもんが操作するヘリと共にトーチカや敵を撃破していった。
しかし──
(不味いな)
敵が待ち構えていた場所にのび太は不用意に突っ込んでしまっていた。
おまけに、向こうにはM134ミニガンを装備したあの大男まで居る。
「・・・やるしか、ないよね」
のび太はそう思い、敵を撃破するべく障害物から躍り出ようとするが、その前に再びドラえもんから通信が入る。
『──のび太君、伏せて』
「えっ?」
のび太はその言葉の意図が分からなかったが、取り敢えず親友の言葉を信じてその場に伏せる。
すると──
ドドドドドドドドドドドドドドドド
たった今、のび太が撃破しようとしていた敵は、ドラえもんが操作するコブラから発射された20ミリM197ガトリング砲によって文字通りの意味で粉砕された。
そして、一通りの掃射が止むと、のび太は顔を上げる。
「・・・凄いな」
のび太は目の前の光景を見てそう思う。
なにしろ、先程まで機関銃やライフルを元気に発砲していた敵が物言わぬ肉片となっているのだから。
これがもし自分であったらと思うと、のび太はゾッとする感情を抑えることが出来なかった。
それでも助かったのは確かなので、ドラえもんに一言礼を言う。
「ドラえもん、援護ありがとう」
『──お安いご用だよ』
「あとでどら焼き買ってあげるね」
『良いね!良い店を知っているんだよ』
二人はそんな冗談を言い合った。
しかし、二人とも分かっているのだ。
それが叶うのは当分先、下手をすれば永遠に叶うことはないということを。
何故ならば、この戦いが終われば、彼らはアンブレラとの戦いに身を投じなければならないからだ。
だが、今だけはそんな冗談で気を紛らわしたかった。
ドッガアアアアアン
だが、そんな思いも、何処からともなく飛んできたロケット弾によってヘリが撃墜されたことで踏みにじられた。
「! ドラえもん!!」
のび太は叫ぶが、ヘリは無情にも落ちていき、そのまま地面に墜落すると、燃料や弾薬に引火したのか、大爆発を起こして完全に破壊された。
「そ、そんな・・・」
のび太はその光景を見て呆然とした。
無理もない。
先程まで陽気に話していた親友がああなってしまったのだから。
『──やあ、のび太君。仲の良い友達が撃ち落とされた気分はどうかね?』
しかし、その時、無線機から耳障りな声が聞こえてきた。
「お前は・・・サドラー。いや、あの赤いドラえもんか」
『そうだ。ところで、ずいぶんとイラついているようだが、何を怒っているのかね?』
白々しい。
のび太はそう思いながら、怒りで顔を真っ赤にさせながらこう言った。
「よくもドラえもんを!!」
『何を言っているのだ?お前だって、目の前を虫が飛んでいたら殺すだろう?』
「ふざけるな!僕らは虫じゃない!!」
『・・・ああ、そうだとも。お前は人間だ。だが、これから先、私は全てを犠牲にしてでもお前を殺す。殺してみせる』
「やれるものならやってみろ!」
それが二人の宣戦布告の言葉だった。
やがて、無線機から赤いドラえもんの声が消える。
「・・・」
そして、のび太は無言のまま、夏音を助け、教団に止めを刺すために足を前へと進めた。
本話終了時ののび太の装備
武器・・・ベレッタM92(7発)、コルトガバメント(1発)、FN Five-seveN(8発)、コルトパイソン(6発)、デザートイーグル・44マグナムバージョン(5発)、ショットガン・ベネリM3(8発)、レミントンM870・ショットガン(4発)、H&K G36・アサルトライフル(24発)、H&K MP5(14発)、ロケットランチャー・RPG─7(0発)、コンバットナイフ、M67破片手榴弾2個、M84スタングレネード5個、MK─3手榴弾2個
予備弾薬・・・FN Five-seveNの20発標準マガジン3つ(60発)、12ゲージ弾(7発)、38スペシャル弾(12発)、40×46ミリグレネードランチャー1発(硫酸弾1発)、30発箱型弾倉2つ(60発)、MP5の32発マガジン1つ(32発)
装備防具・・・バイオアーマー
補助装備・・・救急スプレー1つ、ミックスハーブ1つ、調合されたハーブ2つ、アンブレラの資料、謎のメモ。