TS転生女神だけど、臣民達がもっと搾取して欲しいって目で見てくる 作:銀幕の臣民
【ティア】に関してはとりあえず後回しにしようかと思う。
いやまあ、彼女がかつて治めていた【ソーラ】という国がどのようになっているのか分からないのでずっと放置しておくわけにもいかないのだけれど、現状彼女からリクエストはないので、とりあえず今は優先度を低くしておく。
問題を先送りしている訳ではない。
それでは何を優先して解決するべきなのかというと、やはり【クイント】の分霊たる彼女だ。
研究のし甲斐のある存在ではあるが、しかし手元に今も置いておけているというのがちょっと怖い。
貿神。
【クイント】。
経済、商売を司る神。
そんな彼女がメリットもなしにこれを私に寄越したままにしておくのだろうか?
何か裏があるのではないだろうか?
……とりあえず敵の敵は味方という事で、【ティア】に助言をもらう事にする。
「うーん、確かにあの神が何の打算もなしに行動はしないとは思う━━私達神はそういうふうに出来ているのだし」
含みのある言い方に首を傾げる。
「神はそれぞれ人を導くための道理をつかさどっているでしょ? 基本的にそれに則って行動するものだし、だから【クイント】は有り体に言ってしまえば、経済を回す為に動いているとは思う」
なる、ほど。
そういう事ですか。
なかなかどうして、神様も不便な存在だな。
……っていう事は、【ティア】も自身の司る道理に従って行動しているっていう事か?
「あはは……私は名前の通り母神、だからね。子供を愛し、国民を愛する。その役割を果たす事はもう出来なくなったけど、少なくとも私にはまだこの子がいるから」
この子?
「お腹の子、アダムと言うの。お父さんに似た強い子に育つと良いなぁ」
ふーん、なるほど。
聞いた感じ、【ティア】はぶっ飛んだ奴が多い中でもまともな部類に入るのかな。
司る道理が強力で融通が利かないものであればあるほど扱える権能は強くなる傾向がある。
だからこそ、人間に近い思想を持っている彼女は結局、【グローリア】に敗北したのだろう。
そう考えると、儘ならないものだなと思ってしまう。
国を動かし、人を率い、政を行うためにはやはり凡人の思想を捨てなくてはならないの、だろうか。
「言っておきますけど、そういう事だからわたくしに出来る事はまったくないし、むしろ物的資源として扱うのが正しいと思いますわ」
そしてさっきから何か言いたげな表情を【ティア】に向けていた【クイント】の分霊がおもむろに口を開く。
「本体から切り離されても、性質は変わりません。さながら海から水を掬い上げても海水という本質は変わらないのと同じように」
確かに彼女に【グローリア】にとって不利になるような事、あるいは我らが【銀幕】に利があるような事は出来ないだろう。
神様というのはそういう存在だから。
上位存在ではあるが、人よりも柔軟性に欠ける。
融通が利かないのではなく、そもそもとして出来ない。
あるいは人が何色にも染まる事ができる性質を持っているというべきか。
何にしても、彼女にこの国の運営の手伝いをさせるのはそもそも危険だし━━
「う」
と。
その変化は唐突に訪れた。
「ぁ」
【クイント】の分霊の肌がぶくりと泡だった。
……次の瞬間。
「ぎ、ぁあああアアアあっっっっ!!?」
悲鳴。
彼女の存在が一瞬にして変化する。
……残されたのは、悍ましい化け物。
丸い球体に口が一つ。
八つの翼が重なるように、歯車のように生えている。
「そん、な」
【ティア】が呆然と呟く。
「
【ソーラ】について
母神【ティア】の権能によって成り立っていた国であり、かつこの世界では珍しい人間の王が政を行っていた国。
男性比率が多く、女性には◾️◾️◾️◾️という身体的特徴があった。
平均寿命は35━━というか、【ティア】の権能によって国民はみなその年齢になるまで死なず、そしてそれ以上生きられない。
権能『輪廻』によって彼らは━━
……国民達は皆幸福だった。
貧富の差は多少あったが、生まれ持ってきた夢を隣人は誰もが理解し、協力する。
笑顔があり、愛があり、それはさながら母の中の温かい羊水の中にいるよう━━
しかし、神に与えられた幸福は果たして本当の幸福と言えるのだろうか?
そのような疑問を抱いた男は、他ならぬ【ソーラ】の国王だった。
そして彼はある日【グローリア】の美女と恋に落ちる。
……それが、【ソーラ】の終焉のきっかけになるとは思いもせずに。
そして今日、国王は36歳の誕生日を迎える。