召喚学園の生徒だけど守護獣が異形すぎて邪教徒だと疑われてます   作:だぶすと

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コン子さんスイッチ 【え】

 やあ、僕の名前はヘレシー!

 小さい頃に呼び出した守護獣のおかげで召喚師としての素質を認められた僕は、昨日からあの有名なヴァリエール召喚師学園に入学する事になったんだ!

 

 今は寮の自室で休んでいるよ! 

 ハイドラが黒い水溜まりに入って出てこなくなった後、仕方がないからレティーシア達が集まってる方に歩いていったら今日の授業はそこで終わりになったんだ! 終礼もせずにその場で解散になるなんて、とても柔軟性に富んだ教育姿勢だと言えるよね!

 僕はそうでもないんだけど、フリーの召喚獣を呼び出して契約するっていう一連の流れは慣れた人でも相当疲れるみたいだからそういう生徒への配慮なのかも知れないね! しっかり休んで翌日の授業に備えるのは大事だと思うよ!

 

 寝癖を指摘して機嫌を損ねちゃったハイドラの事は一旦置いておくとして、彼女のおかげで解決しそうだった布団と枕の問題はやっぱり自力でなんとかしないといけないね!

 まだ日も落ちていないし、今のお茶を飲み切ったらレティーシアを探しに出かけてみようかな! 彼女、多分だけど貴族として位が高そうだし、ちょっと歩けば関係者の一人や二人見つかりそうだよね!

 

 ──ガチャ。

 

「ヘレシー、入るわよ」

「あのさぁ……」

 

 僕が寝具について考えていると、昨日と同じようにレティーシアが部屋に勝手に入ってきたよ! そういえば盗られた布団と枕に気を取られて、彼女がこの部屋の鍵を何故か解錠できるっていう最大の謎を忘れていたね!

 レティーシアが犯罪に手を染めて合鍵を手に入れたのか、貴族には庶民の私生活を侵害する正当な権利があるのか。どちらにせよ受け入れ難くはあるんだけど、被害者としては真実が知りたいところだよ!

 

「……今日はどうしたの?」

「昼間、貴方が召喚してから騒ぎになってあまり話せなかったでしょう? コン子もヘレシーと話したいと言っていたし、丁度良いと思って」

「そうなんだ……騒ぎ?」

 

 みんな召喚を成功させて盛り上がっていたと思うんだけど……僕がハイドラと話している間に何かあったのかな?

 レティーシアが変な事を言ってティアラの女の子達を怒らせたっていうなら分かるんだけど、それ以外に問題が起こるような要素なんて無かったように思うけど……?

 

「いいえ、貴方は何も気にしなくていいの。それよりコン子の事よ」

「なんか言い方が引っ掛かるんだけど……まぁいいや。君の召喚獣がどうしたの? 自己紹介なら済ませたと思ったけど」

「その時の事で少し気になったらしいわ。詳しい内容は本人から聞いて頂戴」

「え、なんだろ」

 

 もしかして制服のシャツが出ちゃってたかな? それとも気付かないうちに失礼な事をしちゃってた?

 思い返すとコン子さんって今日呼び出された召喚獣の中でも別格に高位の存在だったから、ちゃんと目線を合わせた方が良かったかも知れないね!

 

「出てきて、コン子」

「コン」

 

 レティーシアが手をかざすと、床に現れた魔法陣からピョコンと狐さんが飛び出してきたよ! この美しい毛並みと全然隠し切れてない神聖な雰囲気はコン子さんで間違いないね! しゃがんだ状態で更に頭を下げておこう! こんばんは!

 何か座布団とか用意した方が良かったりする? 王都に来てからまだゆっくりと買い物できてなくて自分用のクッションすら買ってないんだけど……代わりになりそうな物あったかな?

 

「ごめん、コン子さんの座布団になりそうな物、レティーシアの持ってきた枕しかないんだけど……」

「コンコン」

「お構いなく、だそうよ。とはいえ今後は入り用になるでしょうし、足りない調度品はクレセリゼ家が用意するわ。あと、その枕はヘレシーだけに使って欲しいから絶対に他人に貸したりしないで頂戴。万が一他の男に使わせようものなら罰を与えるわ。例えば……そうね、代わりに貴方の──」

「僕の枕」

「──、」

「僕の枕、どこにあるか知らない?」

「……」

「布団も無いんだけど」

「……」

 

 いや、なにその反応? 叱られてる小動物みたいに必死に目を逸らしてるのは可愛いけどさ、それもう自白してるのと同じだから。

 コン子さんも「マジかこいつ……」みたいな目で見てるし、どうやら召喚獣目線でも寝具の無断借用は奇行みたいだよ! コン子さんの話っていうのが君についての愚痴だったらフォローし切れる自信がないから自分でなんとかしてね!

 

「………………あぁ、そうだわ。貴方の寝具の事だけど、どうやら手違いで屋敷に持って帰ってしまっていたようなの。今まですっかり忘れていたけれど思い出したわ。今朝は少し肌寒かったから、それでかしらね。今朝といえば屋敷の中庭にアエニーラの花が咲いているのを見つけたの。小さくても力強く、自分らしくあろうとするその姿に私は心を打たれたわ。こうした発見を日々一つ一つ積み重ねる事で人の精神は成熟していくのだと若輩者ながら今までの人生を振り返って物思いに更けていたら、小鳥が一羽いるのに気が付いて……」

 

 わぁ! 追い詰められた犯人は口数が増えるっていうけど本当だったんだ! 勉強になるなあ!

 円滑に口を動かしながらも絶対に目を合わせようとしないレティーシアの背中を押して部屋の外まで誘導すると、彼女はそのまま大人しく廊下を歩き始めたよ! 振り返った彼女が最後に見せた、全てを諦めたような笑顔が印象的だね!

 このまま待っていればレティーシアが布団と枕を持って来てくれるだろうから、それまで部屋で時間を潰しておこう!

 

「──いやぁ、すまないね。私の契約者が迷惑をかけてしまって」

「まぁ、ちゃんと返してくれるならこれ以上何も言うつもりはないよ。多少は僕が原因みたいなところもあるしね。多少は、だけど」

「それでも意外だよ。私を召喚できるような子にあんな一面があるとはね」

「人は見かけによらないって事なのかな。家で親御さんに怒られたりしていないか心配だよ」

「そうだねぇ……あの、これ私から切り出すべきなのかな? もう少し驚いてほしかったんだけど」

「いや、なんだか随分と気分の良さそうな顔をしていたから、指摘するのも失礼なのかなって思って」

「可愛い見た目によらず皮肉屋だな……」

 

 レティーシアを追い出し……見送ってから部屋に戻ると、美術彫刻みたいに整った顔立ちを人懐っこくニヤつかせた長身の女性が立っていたよ! 茶褐色の毛色はコン子さんと同じだし、頭上の三角耳は狐のものに酷似してるし、そもそも神聖な雰囲気が隠し切れてないし、誰がどう見てもさっきまで狐の姿をしていたコン子さん本人だね!

 今だけ人型に擬態しているのか、こっちが本来の姿なのかは分からないけど、ドッキリを仕掛けるなら仕掛け人側にも努力が必要だと思うよ! 次からは上手くやってね!

 

「改めてこんにちは。私の名は……まぁコン子のままでいいかな。よろしくお願いするよ。初めに挨拶した時に少し気になってね、確認のついでに話をしておきたかったんだ」

「僕はヘレシー。よろしくね。さっきレティーシアからも聞いたけど、コン子さんは僕の何が気になったの?」

「いやぁ、大した事じゃないんだけどね。──どうもキミ、私の霊格が見えているようじゃないか」

 

 うわ、顔がいい。急に体温が伝わる距離にまで身を寄せられるとビックリするよ!

 霊格っていうのは彼女が持つ神聖な雰囲気の事かな? 見えてるっていうのとは少し違うんだけど、「ちょっと自分とは違う力だなぁ」ってのを肌で感じるよね! 真逆とは言い切れないにしても、絶対に同じ方向性の力ではないよ!

 

「困るんだよねぇ、そういう事ができちゃう人間が現地にいると。色々とやり難くてさ」

「そう言われてもなぁ。まぁ安心してよ、別に僕からコン子さんに付き纏うつもりはないから。ほら、棲み分けって大事だと思うんだよね」

 

 棲み分けは本当に大事だよ! 例えば学園のクラス分けとかね!

 貴族と庶民が同じクラスなんて余計な問題の種にしかならないと思うんだけど……やっぱり庶民の人数が少なくて個別にクラスを作るのは難しいのかな?

 

「おや、こんな美人を捕まえておきながら及び腰だね。私が言いたいのはそうじゃないんだ。特別に教えてあげるけど、こういう時は握った弱味をチラつかせながら有利な条件を引き出すのが上手な交渉術というものだよ。例えば今のキミなら……違う、そもそもこれがおかしいんだ。危ないなぁ、もう」

「え……何が?」

「会ったばかりのキミに気を許してる。自然に、なんの抵抗もなく自分を晒してしまっている。向こうに楔を打ってる私がここまで絆されるなんて……キミ、もしかしてそういう能力を持った神か何かかい? もしくは同業者とか?」

「見たままの人間だよ。人を勝手に変なものにしないでほしいんだけど」

「自覚が無い……いや、まさか本当に人間……? ……みたいだね。ふぅん? へー? そんなにこっち寄りの人間なんて初めて見たよ。お互いに色々と都合が良さそうだし、是非とも手を付けておきたいなぁ。性格はちょっとアレだけど」

 

 神だとか性格がアレだとか……もしかして喧嘩売られてる? 何故か度々勘違いされるんだけど、僕は正真正銘の人間だからね! 両親も人間!

 あと顔が近過ぎて髪がくすぐったいよ! レティーシアもそうだけど、コン子さんも女性としてもう少し適切な距離感というものを考えた方が良いと思うね! 仕方がないから僕の方から距離を取って……うん、無理だね。後ろに足を回されてて動けないね。

 あ、僕の背中に手を添えて体を押さえながら手で口を塞ぐのやめてもらっていい? 視界が埋まって圧迫感が凄いよ!

 

「おやおや、どうしたんだい? そんなに驚いて。ふふ……これは口封じさ。キミみたいな怖ぁい人間に弱味を握られてしまったからにはもう実力行使をするしかないからね。こうして強引に言質を取ってしまおうというわけさ。ほら、『僕は貴女の霊格について他言しません』って言ってごらん? そうしたら解放してあげようじゃないか。……んー? モゴモゴ言っていてよく分からないなぁ? さあ、もう一度──」

 

 あっ、これなんか変なスイッチ入っちゃってない? 変なスイッチ入ってるよね?

 この急に手がつけられなくなる感じ、ちょっとレティーシアに似ているような気がするね。あの召喚師にしてこの召喚獣ありって感じだけど、レティーシアもコン子さんも生物としてかなり格が高い筈なのにどうして……?

 もしかして召喚の儀って本質的に似た相手と繋がりやすくなっていたりするのかな? でも僕とハッピーはあんまり似てないしなぁ。

 

「ほら、黙っているとどんどん埋もれていってしまうよ? さあ、頑張って息を吸って、肺を満たして、今度こそちゃんと言葉にしてみようじゃないか。……んー? あぁ、口が塞がっていて声が出せないのかぁ。それじゃあ召喚獣に助けを求める事もできないねぇ。ここには私達しかいないのに。他には誰もいないのに。これは大変な事だよ……?」

縺ゅ�(あの、)縲√#繧√s(ごめんなさい)縺縺��ゅ(……えいっ)

「え、なん……ウ”ッ……」

 

 お、ナイスハッピー! ナイスハッピーが出たね! 特に害意は感じなかったけど、あのままだと青少年の教育に良くない流れになってた気がするから助かったよ!

 崩れ落ちてきたコン子さんはベッドに運んで寝かせておくよ! 人型とはいえ狐さんを台の上に乗せると一気に食材っぽく見えてくるから不思議だよね! 故郷で食べた狐鍋が懐かしいなぁ!

 もし休日を持て余すような事があったら、少し遠出して狩りをしてみるのも楽しいかも知れないね!

 

「お待たせ。戻ったわ」

 

 そうこうしているうちにレティーシアが戻ってきたよ! お貴族サマが自分の手で布団を抱えながらドアを開けてる姿は少し面白いけど……それ僕の布団じゃなくない?

 とても肌触りが良さそうだし、見ただけで製作に膨大な時間がかかってるのが分かる繊細な刺繍が施された素晴らしい布団だと思うんだけど……それ僕のじゃなくない?

 

「申し訳ないのだけれど、貴方の布団は見つからなかったの。代わりに私が普段使っている物を持ってきたわ。屋敷の中はよく探しておくから、今日のところはこれを使ってもらえるかしら」

「……枕も?」

「見つからなかったわ」

「……今朝の事なのに?」

「見つからなかったから仕方がないわ」

 

 ごめん、ちゃんと目を合わせて言ってもらっていい?

 代わりの布団を貸してくれるのは助かるんだけどさ、寮の備品を無くすのは本当に不味いから早急に探してね! 下手したら村長さんの首が飛ぶからね!

 


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