ある父親の子育て日記   作:エリス

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出来るだけ早く(半年以上)。
不定期ではあるが、これは酷い……。
予告しておきながら、遅くなってすみません。

今回から、行間を広めに取ってあります。
短めですが、どうぞ。


武闘大会(子供の部)後編

「ルリさん!リーゼさん!二人ともファイトですわ!」

 

「二人とも頑張ってー!」

 

 

最前列に位置する席から、手すりに手をかけて少し身を乗り出しつつ応援しているクリスとマリー。

クラリスさんが落ちないように気を付けてね、と注意しているのを横目に、俺は闘技場の中心で行われている試合を眺める。

 

 

「今のところ、リーゼの方が少し有利、といったところか」

 

 

隣に座る師匠の言葉に俺は頷く。

最初の方こそ、ルリは自分の魔法を使い分け、リーゼを近づけないように試合を運んでいた。

しかし、リーゼもここまでのルリの試合を観察していたのだろう。

ルリの魔法に対して、それほど驚くような印象も見受けられず、しっかりと対処が出来ていた。

それにより、少しずつ距離を詰め、今ではリーゼの剣が届く距離になり、ルリも思うように魔法を使えていない。

 

魔法というものは、基本的に前衛に敵から近づかれるのを守ってもらい、安全な位置から唱えるものである。

そうでないと上手くイメージするのが難しく、魔法の構築に失敗してしまう。

なので、本来は魔法使いは1対1には向いていないのである。

まぁ、一流の魔法使いはその限りではないし、自分は剣も使えるため、近づかれても対処する方法はあるが、ルリは違う。

魔法もまだ習い始めてそれほど時間が経っていないし、武器の扱い方も殆ど教えている余裕がなかった。

 

 

「で?お前はこのような状況も想定していたんだろう?」

 

「ルリはまだまだ未熟ですからね。リーゼもそうですけど、経験の差で言えば、圧倒的にリーゼに分が有る。短期決着にならない限りは、こうなると思っていましたよ」

 

「それで、何か策は与えたのか?」

 

 

師匠が此方を見ながら問いかけてくる。

 

 

「いや、教えていないです。最初の内から具体的に一つの魔法を教えると幅を狭めそうですし、それに子供のルリの方が、今の俺では思いつかないような魔法で、切り抜けるかもしれません。それに……」

 

「それに?」

 

 

師匠の先を促す言葉に、俺は試合に目を向けながら、続きを言った。

 

 

「……初めての友達との試合ですし、そこに俺が手を出すのはどうか、とも思いますしね」

 

 

 

 

キィン!

 

 

「くぅ!」

 

「どうしたんだいルリ!魔法はもうネタ切れかい!?」

 

「分かってるくせにぃ……!」

 

 

リーゼの上段からの降りおろしを、杖を両手に持って受け止め、ルリは苦悶の表情を浮かべる。

先程からルリは距離を取ろうとするが、足の速さで勝るリーゼから距離を取るのは、なかなかに難しいことであった。

何度か無詠唱の魔法をリーゼに放ち、その間に離れようとしても、最初には少し苦戦していたリーゼも、今では簡単に避けてしまっている。

 

 

(リーゼちゃんに当てるには、単純に速い魔法を撃つか、避けられない範囲で撃つか、だけど……)

 

 

どちらにしても、詠唱無しでは、有効な魔法を撃つことは出来ない。

かと言って、この状況下では、満足に詠唱をすることは出来ないだろう。

 

今までの相手は、身体能力も、剣や魔法の腕前も、年相応で自分とそこまで差は無かった。

しかし、今目の前に居る少女は違う。

何年も前から彼女自身の父親と。

そして、自分の父親と共に、毎日訓練を続けてきたのだ。

 

 

「さすが、リーゼちゃんだなぁ……」

 

「……?なんだい、急に」

 

 

ルリは心の中で思っただけのつもりだったが、言葉に出していた。

その言葉に、リーゼは構えていた木刀を下ろし、疑問符を浮かべた

 

 

「いや、やっぱりリーゼちゃんは強いなぁ、と思って」

 

「ルリだって、十分強いよ。習い始めて数か月とは思えないよ」

 

「そう、かな……?」

 

「どうしてそんなに自信がないのさ……でも、さ」

 

 

ルリの反応に苦笑しつつ、ため息を吐いたリーゼだったが、顔を引き締め木刀を構えなおす。

 

 

「ここで負けてあげるつもりはないよ。兄さんや父さんに、自分が少しでも強くなっていることを、教えたいから」

 

 

その時のリーゼの瞳を見て、ルリは察した。

リーゼと他の子が、なんで違うのか。

 

リーゼはなぜ強くなろうとするのか。

彼女の父親のような騎士になるという願いと、自分の父親を守りたいと言う願い。

その二つの願いのために。

その強い意志が、彼女をここまで連れてきた。

それが、彼女の強さの理由なんだ。

 

ルリは嬉しかった。

自分の父親のための、ここまで頑張ってくれる子がいることを。

そして、誇らしくもなった。

彼女の信頼を得る、自分の父親を。

 

 

(だけど……)

 

 

自分も、同じだ。

いつまでも、守られるだけの存在では、嫌だ。

お互いに守り合える、そんな存在になりたいんだ。

 

圧倒的に自分の方が不利ではあるが、最後まで、諦めるつもりはない。

 

 

(でも、どうすれば……)

 

 

杖を構え直しながら、ルリは思う。

自分の手札は全部切った。

自分の残りの体力を考えて、あまり長引かせるわけにもいかない。

かといって、一撃で決められる、かつ避けられない魔法を詠唱するような暇は……。

 

 

(……ん?)

 

 

 

 

「行くよ、ルリ!」

 

 

杖を構え直したルリに、リーゼは距離を詰め直した。

何か考えているようだったが、これは試合だ。

負ける言い訳にはならない。

 

 

「……っ!」

 

 

ルリは、驚いたような顔でそれを受け止める。

リーゼは、受け止められた木刀を今度は横に振る。

ルリは苦しい顔をするが、それにしっかりと対応ができていた。

 

 

(やっぱりすごい……これで、剣も習い始めたら、どれだけ強くなるんだろう)

 

 

リーゼは心の中で、未来のライバルにワクワクしつつも、攻撃の手を止めることはしない。

甲高い音が何度も鳴り響く。

 

しかし、それも終わりが訪れた。

攻撃を受け止めていたルリが、リーゼの攻撃に合わせて、杖を振るった。

今までで一際大きな音が鳴り、お互いの距離が反動により少し開いた。

 

 

「【ウォーターウォール】!」

 

 

ルリが、大きな声で魔法名を発した。

それと同時にルリを中心に、円状に3メートルほどの高さの水の壁が出来上がった。

 

 

(……自分に?こっちに対してやってくるのならわかるけど……)

 

 

不可解な行動に、ルリはこのままにさせたら不味いと思い、すぐさま切りかかる。

しかし、魔法の効果も終わったのか、リーゼの頭上から水が降り注いだ。

 

 

「あぶっ……!?」

 

 

切りかかろうとしていたリーゼに避ける術もなく、頭から全て被ることになった。

バシャ―ン!、と言う音と共に、少し乾き始めていた自分の服に水がしみ込んでいくのを感じつつ、リーゼは目の前に居るであろうルリに目を向ける。

 

 

「いない!?」

 

 

しかし、そこにはルリの姿は無かった。周りに目を向けるが、どこにも見当たらなかった。

 

 

「やぁ!」

 

「っ!?上っ!?」

 

 

上から聞こえた声に目を向けると、頭上から杖を振りかぶりながら落ちてくるルリの姿。

慌てて木刀を横に構えて受け止めようとする。

 

 

カァン!

 

 

「つぅっ……!」

 

 

位置関係により、父親と訓練しているときと同じくらいの衝撃が腕に響く。

見れば、ルリもだいぶ腕を痛めたようだ。

 

 

(決めるなら、今!)

 

 

リーゼは、ルリに向かって走り出そうとする。

おそらく、今のが最後の策だろう。

なんでここにきて、接近戦にかけたのかはわからないが……。

 

 

(……?そういえば、なんで魔法を捨ててまで……!?)

 

 

自分の考えに疑問を抱いた瞬間に、背中から強い衝撃が走る。

短い悲鳴を上げながら、リーゼは地面に倒れこんだ。

そして、顔を上げた時には。

 

 

「……私の勝ち、だね。リーゼちゃん」

 

 

自分に杖を突きつける、親友の姿。

 

 

「……あぁ。今回は、私の負けだね、ルリ」

 

 

リーゼは悔しさを感じつつも、どこか晴れ晴れとした気持ちで、そう告げた。

 




ちょくちょく短編とかは書いていたものの、少し文章がおかしいかもしれない……。

次は大人の部の予定ですが、それは番外編で書くつもりです。
なので、次は日常編に戻ると思います。

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