そういえば序幕少しだけ改稿しました、話数は減ってるけど統合なり改稿なりしますた
で、そこで生まれるちょっとの差分の埋め合わせになるのがこのお話。fgoも14も両方好きなので下げた要素はしっかり上げていかないとね。
けど一回内容固まってるものを作り直すのは難しいね、あんまりクオリティ上がらなかったよ……
そのうち丸っと書き直したいけど完結させてからかねー
あの人が居なくなって暫く経った。
元々ふらりと何処かへ行ってはハチャメチャな冒険を繰り広げて帰ってくる人だ、最初はみんな『あぁ、いつものことか』となにも思っていなかったのだが半年ともなれば話は変わってくる。手紙はおろか、リンクパールさえ繋がらない。まるでこの世から存在が、そこにいたはずなのに神隠しのように消えてしまった。
当然、あまりにも長い失踪期間に知り合い一同は大慌て。アリゼーなんて怒髪天だった。
「本当に毎回、あの人は……!」
と、口で言いつつも忙しなくその場をぐるぐる回っている。よほど、あの人の事が心配なのだろう。
「ですが、状況は芳しくありませんね。もし、彼ほどの人物が苦戦するような状況なのだとしたら……」
「はは、そんなことはないと思いたいな……」
ウリエンジェが一考する。考えてみるが、もしそんなことがあったとしたら世界は終わりだろう。それに、彼ももう一人ではない。そんな状況ともなれば救援を求めてくるはずだ。
「やっぱり、おうちを覗いてみるべきでっす! 何か手掛かりがあるかもしれません!」
始まりはタタルのその一言だった。そんなわけで、イシュガルドへと俺達は急行する。エンピレアム11番の四等地に、英雄なのだからもっと豪勢な建物を持っていてもいいものをと思うかもしれないが彼の家はある。近くにあるダングラン記念公園という小さな広場が気に入ったらしい。
「しかしまぁ、ここにも帰っていないだろうな……」
「ですが、花壇だけは綺麗なままですね。なぜでしょうか」
雪かきはされていないが、花壇は綺麗だったのが謎を呼ぶ。さて、そんな中でアリゼーが家へ入ろうとドアノブへ触れるが――……
「きゃっ!?」
ばちん、と弾かれてしまった。侵入者対策の魔方陣が扉に刻まれていたのだ。
「ちょっと、なによこれ!」
まるで誰もこの家に入るべからずというような歓待にアリゼーが声を上げる。そういえばあの人は自分の事を喋るのも、知られるのも恥ずかしがってそう良しとしなかった。家へ上がったことがあるメンバーも暁にはいない。いなくなってみると、オレ達は想像以上に彼のことを知らなかったんだな、と痛感する。
と、そんな寂しさを覚えていると背後から殺気がした。
「ッ!」
そして振り返ってみればそこには──
蒼いゾウの着ぐるみを着た騎士がいた。
「花壇の水やりの時間に来てみれば……侵入者か!」
「いや、なにやってるんですかアイメリク卿!?」
「黙れ、私はエンピレアムの守護者『幸運の蒼いゾウ』だ! ここを通りたくば私を倒してから行け!」
「ああもう、何が何なのよ!!」
「……とりあえず、花壇が荒れるのでやめましょう。事情を聴いてもよいでしょうか、アイメ……『幸運の蒼いゾウ』殿」
「いいだろう。とは言え私も多く知るわけじゃない。それでもよければだが」
「……『幸運の蒼いゾウ』で呼ばないとダメなのね」
「私はアイメリクではない、エンピレアムの守護者『幸運の蒼いゾウ』だ」
なにがなんだかややこしくなったが、ひとまず話を聞くに。花壇の手入れはアイ……『幸運の蒼いゾウ』がやっているようで、彼に頼まれているらしい。
「……じゃあ、生きてはいるし問題もないのね。尚更なんで連絡話寄越さないのかしら」
「ちなみに、何故『幸運の蒼いゾウ』殿は花壇の管理を任されているのでしょうか」
「……多くは語らないが、あの花は供え物と言っていた。今はリテイナーが代わりに毎月行っているようだが」
それを聞いて俺達はますます微妙な顔になる。責めるに責められないような、けれどもアイメリク卿も一言くらいは掛けてくれたって良かっただろう。
「じゃあ、アイメ……」
「『幸運の蒼いゾウ』」
「『幸運の蒼いゾウ』殿は何故声をかけてくれなかったのですか? あの人が今どうなっているかご存じでしょう?」
「……私も最初は驚いたよ。平然と『冒険に出かけるからその間、花壇をよろしく頼むぞゾウさん』、と言われていつもの事だと思っていたんだ。しかしまさか誰とも連絡を取らず行方不明になっているとは思わないだろう? てっきりやり取りくらいはしているのかと……」
「中に手掛かりがあるかもしれないわ、入ってみてもいいかしら」
「……あぁ、君達ならばその理由があるだろう。私が開けよう、ついてきてくれ」
そして屋敷の中へ入った。シンプルながらも居心地の良さそうな――……時折、若干物騒な家具はあるものの落ち着きのある家だった。
そしてどうやら書斎をアリゼーが発見したようでそこへ行ってみれば紙の束が机の上に多く積まれていた。
「これ、全部今までの報告書の下書きだわ。……あの人の辿った旅路ね、改めてみれば凄まじいわね」
「あぁ、しかもなんで少し面白おかしいんだろうな。これじゃちょっとした日記かエッセイだ。……相変わらずたまに訳の分からないことが書いてあるけれど」
ぱらぱらとめくってみれば彼の辿ってきた旅路の記録が記されている。もちろん、俺の名前も。どこか劇作風で読みやすく……あぁ、そういえば一時期異邦の詩人や劇作家と行動をしていたことがあったか。その影響を受けているのだろう。
だがやはり分からない箇所はところどころにある。『ペプシマン』『0%クソヤロウ』『一人大縄跳び』『須藤神』『吉田』と見覚えも聞き覚えもない単語がちらほらとある。下書きだろうし、彼の中での隠語だろうか。
「ん? ……これは」
そんな中でオレは一冊、古ぼけた手帳を見つけた。それには、とてつもなく楽しそうな冒険の計画が書かれていた。主に彼が行ってみたい場所なのだろう、初めのページの乱雑な手書きの地図にはたくさんの丸が付いている。
それでもって、ページを捲れば思わず顔を顰めるような事が書いてあった。
これは彼の嘘偽りない本当の日記。
全てを知っていて尚、英雄であろうとした者の記録。
醜いものを見て尚、人の可能性を信じた記録。
そして全てを知っているが故に、今を生きる者達に対する悔恨と懺悔の記録だった。
それを一人で抱え込んで全てを救ったのだ。どれほど途方もないものなのだろうか。
「アリゼー、あの人を見つけたら一発ひっぱたくぞ。ほんと、どうしようもなく……バカでカッコいいな」
「え、それってどういう……」
アリゼーもページを捲る。全てを知って、そして最後のページを読んでため息を吐いた。
「……ほんと、馬鹿な人。どこから来たとか、知ってたとか今更関係ないじゃない。貴方だから、何があろうともついて行こうと思ってたんだから」
きっと、もう俺が居なくても大丈夫。みんな歩み始めたんだ。
「なぁアリゼー。あの人って自分の話されるの嫌いだよな」
「えぇ、そうよね。自分が主題の劇なんかの招待も断るくらいだし」
「ここにハンコがあるよな。報告書があるよな。まだ世界に出回ってない冒険があるよな」
「……ねぇ、
「俺はただ、あの人の希望の物語をもっと語り継いでいきたいだけだよ。彼にもプライバシーはある、大事な部分は隠すさ。別に炙り出そうなんて思ってないぞ、連れて行ってくれなかったことに拗ねてないぞ」
「貴方もだいぶ毒されてきたわね……でも同感。今度ばかりはちょっとお灸を据えてやりましょう!」
あぁ、そうだ。これは仕返しだ。
これは俺達からの仕返しだ。
アンタは自分の事を語られるのも、知られるのもそう好きじゃないだろう。だから、後世まで英雄としてずっと語り継がれてしまえ。誰かの誇りになってしまえ。それがお似合いだ。
こんな事を隠してたんだ。
それくらいはしたって、いいだろう?
それくらいは報われたって、いいだろう?
いつかきっと、貴方が自分の旅路を胸を張れるよう。
そんなささやかな願いを込めた仕返しを。
ずっと受け継がれる物語になってしまえばいいさ――……
光の戦士の冒険録 全5巻+外伝順次発行
書籍版:一冊1500ギル
絵:アリゼー・ルヴェユール
著:グ・ラハ・ティア
初版限定特典:マメット・ヒロシ
・・・・・・・・・・・
時が過ぎた。そして彼らのちっぽけな仕返しは、希望となって紡がれていく。
神々にも愛読され、そして──……
「む、なんだこれは。我の眼でもわからぬとは面白い。なにやら記憶媒体のようだが……」
それはある時、英雄王の手に握られた。
「ふ、ふははははは! エルキドゥ! 貴様、緑に塗られただけの鶏に見立てられて……ふははははは!」
「うるさいなぁ、『ギルちゃん』」
「えぇい、その呼び方をやめよ!」
彼らはのめり込んでいく。何晩も何晩も、仕事さえ放ってその冒険に触れ――……
「エルキドゥ、我はこの物語を後世へ繋いでゆくぞ。このグ・ラハ・ティアとやらは、友のために大義を成した。ならば王として応えねばなるまい」
「キミ、ただ布教したいだけだろう」
「うるさい、たわけ! シドゥリ、粘土板に掘って国民に配っておけ! そして我はこれより、この初版限定特典とやらを探しに出る!」
「王!?」
そして暴君は人の可能性を知る。
更に連綿とまた冒険は語り継がれ――……
「サークル・オブ・ドゥーム!……うーん、違うなぁ。もっとカッコよく、サークル・オブ・ドゥーム!」
「おや、何をしているんだい。アルトリア」
「はッ、マーリン!? 私は何も!」
うら若き百合の騎士が憧れ。
「ふぁぁ……寝不足になっちまった。こりゃどやされるな」
後の英雄が没頭し。
「ねぇお父さん! 昨日の続きを教えて!」
「しょうがないなぁ、立香は」
今へと繋がれていく。
「妙に一時期リテイナーの収支報告がいいと思ったら、俺に黙ってラハのヤツ!!! 記録残ってたのだいたいあいつのせいじゃねぇか!!」
そして何億年越しに知ったヒロシは赤面した。仕返し大成功である。
家にうっかり忘れた本心の日記を読まれているとは思っていないヒロシだが、彼の思いは協力者に届いている。気づいていないだけで、彼の本当に欲しいものはそこにあった。
――だからきっとこの旅は、愉快なものになる。