『裸の聖女』が世界を救うまでの物語 〜異世界召喚されてしまった少女は、早くおうちに帰りたいのです〜   作:柴野いずみ

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39:異世界デパートに寄り道

 ガタンっ。

 今までにない激しさで馬車が揺れ、私はハッと目を覚ましました。

 

 どうやら馬車の中でうとうとしてしまっていた様子。あんなに高かったはずの日はかなり傾きかけていて、どうやらもう夕刻が近いようでした。

 こんなところで寝ていたせいでしょう。全身、特にお尻が痛みます。早く馬車を降りたくてたまらなくなりました。

 

「御者さん。次に停まるまで、どれくらいかかります?」

 

 まさか馬車だって一日中走り続けたりはしないでしょうからね。馬を休めなければいけないですし。

 そう思って訊くと、どうやら夜中遅くに王都のはずれにあるというとある小さな宿で一泊する予定なのだそうです。つまり、今からたっぷり五時間以上あります。

 それまでこの揺れに耐えられるような気はしませんでした。

 

 しかし、どうしようかと思いながらチラリと窓の外に目をやった私は、その時ちょうどいいものを見つけたのです。

 

「あの。あそこにあるお店、何でしょう」

 

「あすこって何だべか?」

 

「あれですあれ。お屋敷みたいに大きな建物。飾り付けがとても綺麗なお店です」

 

「ああ、あれか。あれは最近王都にできたばかりのデパートっちゅう店だべな。老若男女に大人気だとかで、連日人がいっぱいなんだべ」

 

「えっ、あれがデパートなんですか!? ぜひ行きたいです!」

 

 まさかこの世界にもデパートがあるだなんて思いませんでした。私は驚きつつも、すぐに連れて行ってくれるよう頼みます。

 御者さんは「寄り道は許されてないのだけども……」と少々不満げにしつつも、可愛い女の子の頼みだからと言って許してくれました。私、そんなに可愛くはないのですけどね。

 

 というわけで早速、異世界デパートへ寄り道することになりました。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「おらは馬車守りしとくから嬢ちゃんは一人で楽しんできな。あんまり長居すると置いて行っちまうから、なるべく早くしな」

 

「わかりました。すぐに戻ります」

 

 デパート――と言っても、レンガ造りのお屋敷のような見た目で、私の知るものとは大きく違っていますが――の前で停車した馬車から降り、回転扉を開けて私はデパートの中へと足を踏み入れます。

 すると、御者さんの言っていたことは本当のようでデパートは大勢の人でごった返していました。しかも異世界人は皆私より大きい人ばかりなので、圧が半端ないです。

 

 まるで巨人の世界に迷い込んで来た小人――大して違いはないのですが――のような気分です。しかしそんなことが気にならなくなってしまうほど、デパートは素敵な場所でした。

 

 天井にいくつも吊り下げられた優美なシャンデリア。あちらこちらの店先に並ぶ小洒落たワンピースの数々。この世界では文明がそこまで進んでいないせいでエスカレーターやら店内案内の声などは聞こえて来ないので静か。甘く柔らかい香水の香りがあたりに満ち溢れています。

 

「可愛らしいお店がたくさんありますね。服屋にお菓子屋さん……。あっ、あっちにアクセサリー店らしきものが!」

 

 人混みをかきわけ、私はその店の前へ走って行きました。

 やはりアクセサリー店で間違いないようです。仲の良さそうな恋人がお揃いのアクセサリーを選び、笑い合っていたりします。そこに一人きりの私が入るのは少し肩身が狭い気がしましたが、思い切って入ってみます。

 

 そこに並べられていたのは、お城で目にしたような金や銀、高価そうな宝石などではなく、ガーネットに似た赤黒い石でできたネックレス、白のドライフラワーで作られたブレスレットなどでした。

 しかしどれもデザインが可愛く、乙女心をキュンキュンさせられてしまうものばかりです。

 

「こっちの青っぽい石の指輪もいいですねっ。でもやっぱり異世界用だからかしてブカブカか……。じゃあこっちはどうでしょう? おっ、可愛い!」

 

 私は今でこそ聖女などと呼ばれていますが、元は普通の女子高生。デパートでのお買い物などは大好きなのです。特に可愛らしいものに目がない自負があります。

 ウキウキしながら店内を歩き回り、時間ほど悩みに悩んだ結果、大きめのネックレスとイヤリングを買うことにしました。せっかくの異世界、少しくらいお土産があってもいいですよね。

 そう思ってお店の人に声をかけようとし……私はふと、とある重大なことに気づいてしまいました。

 

「そういえば私、お金持っていませんね」

 

 今更すぎる気づき。

 この世界に来てからというもの、私は通過という概念をすっかり忘れてしまっていました。料理はただで美味しいものを食べさせてもらっていましたし、何かを買うような機会もまるでなかったからです。

 ですからこんな当たり前のことに思い至ることができなかったのでしょう。王城を離れる時、レーナ様にでもお願いしてお小遣いをもらっておくべきでした……。

 

「まあ、それにしたって通貨単位がわからないんですけど。まさか日本と同じってことはないでしょうしね。はぁ……。御者さんならお金を持っているでしょうか」

 

 御者さんは確か、今晩は宿に泊まるとか言っていたはず。何かしらお金になるものは持っているはずです。

 貸してもらえるかどうかはわかりません。でもせっかく選んだこのアクセサリーを諦めたくなかった私は、すぐさま店に背を向け、一旦馬車に戻ることを決めました。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 デパートを出て御者さんを説得し、お金を出してもらっていくつかの小物アクセサリーを購入する。

 ただそれだけの話だったはずなのですが……。

 

「色っぽい格好してるじゃねえか、姉ちゃん」

「お望み通り遊んでやるぜ。ひひひ」

 

 なぜか数分後、私はいかにも怪しい感じの男の人たちに取り囲まれてしまっていました。一体どうしてこんなことになっているのでしょうか……?

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