異世界で生きたくて   作:自堕落無力

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九話

 

 ζ

 

 

『シャドウガーデン』において全体的な諜報活動を担いながら、そして人が徐々に増えつつあるこの組織のため、本拠地として使える場所を探し続けているのは猫の獣人であるゼータだ。

 

「これが今回の成果になります。主」

 

 諜報活動から戻ってきたゼータは手に入れた情報や、本拠地として使えそうな場所をまとめた資料などをシドへと渡す。

 

「任務、ご苦労……本当にお前には苦労をかけているなゼータ。お前の働きに報いてやりたいが、何か望みはあるか?」

 

「……そ、それじゃあ……」

 

 シドはゼータから成果を受け取りながら、望みを訪ねるとためらいがちにゼータは自分の溜め込んでいた望みを言う。

 

「こんなもので良いのか?」

 

「ぅ……ふ、ん……はい、十分です」

 

 寝台の上に座ったシドが自分へと寄り添うゼータに対し、頭や耳、首や顎、尻尾などを撫で回し、あるいは揉み解すなど可愛がっていく。それに対し、ゼータは満足そうに目を細め、喉を鳴らして受け入れ、甘える。

 

「主、失礼します」

 

「ぅ、お……ふふ、くすぐったいぞゼータ」

 

 更にゼータはシドへと身を寄せ、顔を舐めたり、首元に甘噛み、尻尾を巻き付け、あるいは尻尾でシドの体を撫でるなどいわゆる、マーキングのような行為までしていく。

 

「すみません……でも、こうしてるだけで幸せになれるんです」

 

「そうか、ならこれからも甘えたいときに甘えてこい。それくらいの甲斐性は持っているつもりだ」

 

「お言葉に甘えさせてもらいます、主」

 

 シドが受け入れてくれた事で彼へと抱き着き、ゼータは幸せそうに微笑んだのだった……。

 

 

 

 

ε

 

 

 

 

『シャドウガーデン』においてその器用さと優秀さで様々な方面のバックアップを行っているのはイプシロンである。

 

「主様、紅茶をお持ちしました」

 

「ああ、ありがとう。相変わらず気が利くな、イプシロン」

 

 書類仕事をしているシドの元へとイプシロンは訪れ、トレーに乗せた紅茶入りのカップを持ち、シドの机に置く。

 

「それほどでもありませんわ」

 

 シドの言葉に嬉しそうにしながら、答えるイプシロン。

 

「うん、美味しい……イプシロン、お前背が伸びたな」

 

 シドはイプシロンが淹れた紅茶の味を褒めながら、ふと彼女を見つめ、そう言った。

 

「え、そ、そうでしょうか?」

 

「ああ、それに背だけじゃなく、全体的なスタイルも良くなったな。より魅力的になった。勿論、イプシロンは元から魅力的だが……」

 

「……ちょ、も、もぅ……お戯れを……そんなに褒められたら、イプシロンは困ってしまいますわ」

 

 イプシロンはシドから褒めちぎられ、顔を赤くし喜びが隠しきれず、頬を緩める。

 

 因みにイプシロンは全体的なスタイルを日々、磨き続けている魔力制御能力でスライムを変化させる事で徐々に成長しているように見せていた。

 

 無論、シドはその事に気づいているが指摘する程、野暮ではない。

 

「魅力的なイプシロンに世話してもらえて、俺は幸せな男だなって実感してるんだ」

 

「……ではもっともっと魅力的になって、もっともっと主様を幸せにさせていただきますね」

 

「そうか、じゃあ期待させてもらおう」

 

 

 至福だと言わんばかりの満面の笑みを浮かべて誓うイプシロンにシドも微笑みながら、言葉を返すのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

δ

 

 

 とある場所に存在する古ぼけた砦――千人近くという大勢力を有する盗賊団がそこを拠点に周辺の国の村や町を襲撃しており、一般市民たちの平穏を脅かしていた。

 

 しかし……。

 

 

「がるるるぅぅあぁぁぁぁっ!!」

 

 そんな盗賊団を獲物とし、猟犬が縦横無尽に駆け回りながら爪を振るっては切り裂き、牙を持って、噛み千切る。次から次へと盗賊団を貪っていった。

 

 だが、盗賊団にとっての脅威は猟犬だけでなく……。

 

 

「ふっ!!」

 

 それは言うなら戦鬼だろう。猟犬と共に戦場を縦横無尽に動いては拳と足を唸らせ、盗賊団を打撃によって破壊していく。

 

『ぎゃああああっ!!』

 

 悲鳴や懇願、断末魔の叫びを上げる盗賊団であったが、情けも容赦もなく、猟犬とそれを従える戦鬼は蹂躙し尽くし、全滅させる。

 

 そして……。

 

 

 

 

「ふぅ……これで終わりだな。デルタ、良くやったな」

 

 デルタと共に表の仕事として、行っている傭兵として盗賊団の討伐を終えたシドは息を吐くと共に意識を切替え、デルタに声をかける。

 

 今回、デルタが前から『ボスと二人で狩りに行きたい』とお願いしてきたのでそれを叶えるために盗賊団討伐の仕事を二人で行う事にし、デルタの動きに合わせるために徒手空拳にて戦ったのだ。

 

 「えへへ、ボスー!!」

 

「うおっ、ま、待てデルタ……せめて、体を拭いてから……」

 

 返り血塗れなままにデルタは興奮状態でシドへと飛び掛かり、シドは注意しながらもとりあえず抱き締める事で受け入れる。

 

「ボスとは何をやっても楽しいですけど、やっぱり狩りをするのが一番、楽しいのです」

 

「ああ、そうだな。俺も楽しかったぞ」

 

 笑顔を浮かべて言うデルタにシドは苦笑で答える。そうして、川の方へと向かいデルタの体を洗い、髪や尻尾の手入れも軽くしてやるとそれにデルタは気持ち良さそうに、満足そうにする。

 

 

 

「んふふ、ボスは暖かくて優しいから大好きなのです」

 

「それは光栄だ。俺も明るくて楽しそうなデルタの事は大好きだよ」

 

「わーい、大好きって言われたのです」

 

 その後、たわいのない会話をしながらシドは軽くデルタを可愛がると二人で自分たちを待っている皆の元へと帰ったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 


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