異世界で生きたくて   作:自堕落無力

12 / 68
十一話

 

 この世界において『聖教』が『聖地』と定めている国がある。その名こそは『リンドブルム』であり、其処では年に一回、戦士たちを集め過去の英霊たちと戦わせる『女神の試練』が行われている。

 

 その聖地リンドブルムの東部には侵入すれば二度と出られない有毒の霧に満ちた危険な樹海、『深淵の森』があり、言い伝えや伝説によればその深淵の森を抜けた先には『古都アレクサンドリア』が存在するという。

 

 アレクサンドリアが実在しないにしても、『ディアボロス教団』やそれに協力する組織から潜み、暗躍するための場所、『シャドウガーデン』の本拠地を設ける場所としては適格だろうとゼータは判断し、シドに報告。

 

 シドも又、頷くと有毒の霧を吸わないためのスライム性の防毒マスクをイータに用意させ、そうして全員で『深淵の森』の中へと踏み入った。

 

「どうやら、『霧の龍』は実在したようだな……皆、離れていろ」

 

 シドは魔力感知によって『深淵の森』の奥深くに人間を圧倒的に超えた強大な魔力を有する存在が居るのを感知し、有毒の霧も結界としての役割を果たしているのを突き止めるとアルファ達に指示をする。

 

「分かったわ」

 

 シドが剣を構えながら、歩き出し指示を出したとあってアルファ達は下がり、彼から離れる。

 

 

 

「はあっ!!」

 

 本気で戦うための装備であるスライムソードに体内にて練り上げ、溜め込んでいる魔力を解放しながら、伝導させつつ剣先に込めて振るう。

 

 霧へと放たれた壮絶なる斬閃は結界と化している霧の『核』ごと空間すらも切断した。

 

 それにより、霧は晴れ渡り……。

 

 

 

「フハハハハハッ!! よもや、儂の霧をあろうことか切り払う者がいようとはな、それも人間……お前のような強者を待っていたぁっ!!」

 

 突如、白き鱗を持つ巨龍が愉快とばかりに笑いながら姿を現した。

 

「霧の龍……実在していたのですか!!」

 

 霧の龍と思わしきその龍の登場に伝説を知っているベータは驚きながらも知的な好奇心を刺激される。

 

「挨拶を喜んでいただけたなら、なによりだ。俺の名はシド・カゲノー……龍よ、俺たちはこの森の奥にあるというアレクサンドリアを俺たちの本拠地にしたいと思い、此処に来たんだが……あんたが居たという事はアレクサンドリアもあるのか?」

 

「ふふふ、本来なら応える義理は無いがその強さに敬意を表し、答えてやろうシド・カゲノー。確かにアレクサンドリアは存在するし、過去に儂が滅ぼしこそはしたが、拠点として使えるだけのものは残っている」

 

「そうか……なら、お前を倒せばアレクサンドリアを使えるという事で良いのか?」

 

「ああ、倒せればな」

 

 シドと『霧の龍』はお互い、戦意を静かに……かつ、激しく昂ぶらせながら話を交わす。

 

「分かりやすくて助かるよ……最後に何故、アレクサンドリアを滅ぼしたんだ。言い伝えや伝説では古都アレクサンドリアの王と約定を交わした守護神とも聞いているが?」

 

「確かに儂は古の時代、アレクサンドリアの王と盟約を結んだ。王の拓きし都の繁栄を約束する強者同士の盟約を……」

 

 懐かしむかのような態度を取りながら、龍はシドの質問に答えていく。

 

「しかし、その盟約は反故にされたんだな」

 

「ああ、時の経過とともに盟約の内容も、それが意味するところも……この儂の存在すらも忘れられたのだ。人々はおろか、儂のもたらす霧によって古都に守られ続ける王の子孫たちですら、儂の存在を忘れ去っていったのだ」

 

 話をしているシドと龍から離れた場所ではベータが伝説に記された真実を残そうと書き留めていた。そもそも、シドの最後の質問はベータが抱えているだろう知的好奇心を満たしてやるための物である。

 

「で、都の人々は調子に乗ってどんどん、腐敗していったと……」

 

「ふふ、察しが良いな。お前が言うように倦怠とも言うべき、繁栄の中でアレクサンドリアは古の盟約に基づく支配者の徳や夢、野望、決意……大きな力を証し立てるための相応しいものを失っていった」

 

「なるほど、龍であるあんたにとっては大きな力に見合う気高き精神を重視しているんだな」

 

「ああ、だからこそその精神を失い、繁栄の齎す安寧を貪る者どもに大きな力の齎す恩恵を受ける資格などない」

 

「大いなる力には大いなる責任が伴うという事だな」

 

「それこそ真理であろう? 儂が盟約を結んだのは古の王の新たな都に齎せし叡智がこの世を、この世に生きる命を、変革していく事……そして、更なる強者へと立ち向かう力を己の意志で育み、生命としてより高みへと昇ろうという精神の発現を期待しての事だった」

 

「その期待を裏切られたわけだ。伝説では龍が約定を裏切ったと言われているが、実際には俺たち、人間こそ裏切り者だったという訳だな。今更、遅いが謝らせてもらう」

 

 一度、剣を下ろし深々と頭を下げ、シドは龍へと謝った。

 

「謝るというのならば……全力を出せ。分かっているぞ、まだお前は本気を出していないというのはな」

 

「ああ、良いだろう。元からそのつもりだ」

 

 龍の求めに答えながら、シドは練り上げ溜め込んでいる魔力の全てを解放する。

 

 それと共にシドの体は莫大であり、超絶的な魔力によるオーラを纏いながら輝きを溢れさせ、その伝導に彼の纏う鎧にスーツ、剣が適応するために進化を開始。

 

 世界の軛に囚われず、世界の何もかもを上回る超越者が誕生の産声を上げると共に世界が震え、軋み、絶叫を上げる。

 

「お、ぉぉぉ……これが人間に許された力だと言うのか……」

 

 驚きながらも龍はシドの全力を喜び……。

 

「私たちに見せていたのは力のほんの一端だったのね」

 

「ふぁぁ……やっぱりシド様の素晴らしさを表現するには私はまだまだです。本当に素晴らしい。生ける伝説です」

 

「私たちはまだまだ貴方の素晴らしさを理解できていなかったのですね……」

 

「デルタが思っていた通り、ボスは最強だったのですー」

 

「主様こそ、魅力的です」

 

「やはり、主こそこの世界を……」

 

「マスター、凄い」

 

「凄すぎて、なにがなんだか……」

 

「我々の予想など、全然届いていなかった……」

 

 アルファ達も全力を出したシドに対し、驚愕を超えた感情を抱き、震える。

 

 そうして……。

 

 

 

「それじゃあ、始めよう。だが最初に言っておく、勝つのは俺だ」

 

 莫大であり、超絶的な魔力とそれによる神秘的な輝きを纏う聖騎士と化したシドがそこに居る。

 

 あまりの量と質により、吐く吐息や視線にすら魔力が籠っている。もはや生ける魔力そのものであった。

 

「ならば、やってみせろッ!!」

 

 龍は応じると共に上を向き、口を開くと魔力を収束していく。

 

「……」

 

 シドは全力の一撃を放つための構えを取りながら、全力を体へ剣へと集中させていき……。

 

「グオオオオッ!!」

 

 龍は凄まじい輝きを有する閃光のブレスを吐き出した。

 

「ふっ!!」

 

 それに対し、シドは超々高速を超えた速度で驀進する閃光と化し、ブレスへと突撃しながら突き破って龍へと接近。

 

「見事……」

 

 龍は自分に対し、振り上げた剣を振り下ろそうとするシドを見て、満足そうに告げる。

 

 龍という存在にはありきたりな死は許されない。そのように世界に呪われているのだ。

 

 だからこそ、龍に対する真の勝利は命を奪える力を持つことで初めて得られる。

 

 よってその力に通じる者へいつか賜れる死を条件に従う事、これこそ龍という存在に課せられた古からの盟約であり……。

 

 

「はあっ!!」

 

 望んでいた死を受け入れた龍はシドの極光斬により、存在そのものを切り裂かれ、消滅する。

 

 

 

 しかし、霧の龍の魔力はまるでシドと永劫、共にあるとばかりにシドの魔力へと向かっていき、そうして混じり合った。

 

 シドは『霧の龍』の格と力を継承したのである。

 

 こうして、『霧の龍』を倒したシドたちは森の奥へと進み、王宮は勿論、訓練所や研究、開発室など様々な施設がある上にこの異世界では唯一のカカオやコーヒーノキの広大な農園があるなど、理想郷の如き、『古都アレクサンドリア』を手に入れた。

 

「さぁ、此処からだ……待っていろよ、ディアボロス教団。お前たちに報いを与えてやる……勝つのは、俺たち『シャドウガーデン』だ──!」

 

 シドは玉座に着きながら、世界に潜み、暗躍している『ディアボロス教団』に対し、断罪者の如く、宣言するのであった……。

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。