異世界で生きたくて   作:自堕落無力

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十三話

 

 人口百万を超える大都市であるミドガル王国王都の中にあるミドガル魔剣士学園には国内もそうだが、留学制度もあって国外からも将来有望な生徒たちが集まる超名門校である。

 

 その上、階級制度によるものではなく、純然たる実力評価とあって低位の貴族でも入学を許される学園だ。又、同じ校舎内に学問や研究などを専門としたミドガル学術学園もある。

 

 魔剣士学園との学術学園兼用の図書館や高位貴族と『特待生』が使用を許される学園寮、魔剣士学園の実技科目を行うための専用の教室等など施設も多くあり、教育機関として優れている学園だ。

 

 そんなミドガル魔剣士学園の学園寮の一室にて……。

 

 

「まさか、転生しても学校に通う事になるなんてな」

 

 入学式や説明会も済んで今日より学生としての生活を始めるシドが身支度を整えつつ、ぼやく。

 

 因みに学園寮にて生徒に用意された部屋の内装はとても広く、小さめだがキッチン、トイレ、風呂など生活において必要不可欠なものが全て揃えられており、凄く快適な場所である

 

「シドー、起きてるわよね? 一緒に食堂行きましょう」

 

 すると部屋の外から姉であるクレアがノックすると共に声をかけてきた。

 

「うん、起きてるよ。おはよう姉さん。ありがとう、迎えに来てくれて」

 

 前からクレアに一緒に食事をするなど、いろいろと言われているのでシドは用意しており、すぐに扉を開けて挨拶した。

 

「はい、おはようシド。どういたしまして……でも、可愛い弟のためならこんなのなんでもないわ」

 

 シドが部屋の扉を閉めるのを見るとクレアはシドの腕に自分の腕を絡めて寄り添う。

 

 

「本当に僕は綺麗で優しい姉さんが居てくれて幸せだよ」

 

「もう、またそんな上手い事言って。修行の旅では女性の扱いも修行したようね?」

 

「そんな事ないよ」

 

 実際のところ、シドの組織である『シャドウガーデン』は女性中心であり、そのメンバーは現在、六百人超え。その組織の主であるため、女性との交流もすっかり慣れていたりするのでクレアの意見は鋭いところを突いていた。

 

「そう? まあ、良いわ……三年になって忙しくなるから、こういう触れ合いの時はしっかり癒してもらうからね」

 

 クレアの言うように三年生は課外授業が多くあり、更にクレアの場合、既に学園内で優秀な成績を納め続けており、騎士団への体験入団が決まっている。

 

「精一杯、頑張るよ」

 

 仲の良い雰囲気のままに食堂へと向かい、シドとクレアは一緒の席で朝食を摂り、そうしてこれまた一緒にミドガル魔剣士学園へと登校するとそれぞれの教室へと行くため、別れた。

 

 そうして、シドは自分のクラスで授業を受け始めたのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 魔剣士学園の授業は午前と午後で種類が分けられており、基礎科目はクラスごとであるが実技科目は選択式でクラスも学年もごちゃまぜ。

 

 そして、数多の武器流派から自分に合った授業を選ぶことになる。

 

 とはいえ、圧倒的に人気が高いのは王都ブシン流で一部五十人であり、九部まで存在する。因みに数年前は王国の剣術指南役であるゼノン・グリフィが一部の講師を担当してたのだが、失踪により現在は別の剣術指南役である者が一部の講師である。

 

 又、ブシン流の教室は実力毎で分けられているので最初の授業はその実力を見る軽い試験のようなものがあるのだが、特待生や高位貴族などは入学前に最初に実力を見る試験を受けていたりするので入る教室は既に振り分けられていたりする。

 

「じゃあ、お先に。武運は祈っておいてやるからな」

 

 シドが実技を受ける教室は王都ブシン流の一部であり、実技を受けるための道着を入れた袋を肩に抱えており、腰には学園支給の剣を帯剣していた。

 

 もっとも剣は実技をする際は木剣に変えなければならないが……。

 

 因みにブシン流においては道着の色もこれまた、実力の高さを示すものでシドのそれは最高ランクを示す黒色である。

 

 

 シドは実力判別の試験を受けようとする同じクラスでヒョロ・ガリという短い金髪、それなりには顔が整っている男と同じく、シドと同クラスで坊主頭に平均的な顔をしたジャガ・イモという男へと声をかける。

 

 席が一緒とあって、友人関係になったのである。

 

 

「ち、良いよなぁ、特待生は……面倒な事しなくて良いんだから」

 

「本当、学園の寮を使える事と言い、羨ましいです」

 

 特待生でも高位貴族でも無い生徒は街中に用意された寮を使わなければならないため、そこは不便であった。

 

「まあ、地道に頑張る事だ」

 

 ヒョロとジャガにそう、声をかけるとシドは王都ブシン流一部の教室へと移動、その教室は広大な体育館そのものであり、更衣室に風呂、軽食堂などやはり設備が整えられていた。

 

「今日から此処で授業を受けるシド・カゲノーです。よろしくお願いします」

 

「はい、確かに……頑張ってください」

 

「ありがとうございます」

 

 

 

 シドは扉を開けるために居るメイドにブシン流一部の生徒だと証明するための紙を見せるとメイドは扉を開けた。そうして、シドは教室の中へと入って、更衣室に向かい、着替え始めた。

 

「うおっ、す、凄ぇ」

 

「おお、やばいな」

 

「格好良い……」

 

 その際、彼が服を脱いだ事で露になったその全身の筋肉、鍛え込まれ絞り込まれたまさしく、歴戦の戦士のようなそれを見た他の生徒たちは驚いたり、純粋に賞賛したり、あるいは何やらアブない発言をする者など様々な反応をする。

 

「それじゃあ、授業を始めようか」

 

 ともかく、そうしてブシン流の授業は行われ……。

 

 ストレッチや瞑想魔力制御を行い、そして型の素振りが始まれば……。

 

 

 

「ふ、しっ……」

 

『……』

 

 シドが素振りを行う姿に講師も他の生徒も全員が目を惹かれ、見続けてしまう。

 

 何故なら、シドが行う型はあまりに基礎的でありながら、恐ろしい程に無駄無く、隙無く、正確無比。基礎を極めているが故に異端染みた流麗さを有しており、絶技の領域に達している。

 

 しかし、それは才能によるものだと一言で評価は出来ない。一目見て、存在の格が違うと思った。勝てる、勝てないという話ではなく、そもそも比較すること自体が烏滸がましい程の差。何故なら型を行う一挙一動に自分たちの想像すら超えているだろう質も技量も膨大な鍛錬を積み上げているその痕跡がしっかりとあったからだった。

 

 尋常ならざる血と汗の結晶はだからこそ、圧倒的な程に美しい。極まった技術が、これ程までに人を惹きつけるのだと、シド・カゲノー以外の全ての者はその時初めて知った。

 

 剣士を志す者、あるいは剣士であるが故にシドの積み上げた努力に敬意を抱かせられる。

 

 そして……。

 

 

 

「(……私もあの剣に……)」

 

 王都ブシン流一部の教室で授業を受ける生徒の一人、女性用の道着である深いスリットの入ったスカート姿でチャイナドレスのような格好に身を包んでいる長い白銀の髪をツインテールにした、赤い瞳の容姿端麗な女性はシドの剣こそ自分が目指す境地であると確信、というより答えを得て救われていた。

 

 彼女はこの国の王女であり、王国最強とも称されるアイリス・ミドガルの妹であるアレクシア・ミドガル。

 

 彼女は姉と比べると剣の才能には乏しかった。だからこそ、基礎を忠実に積み上げて姉の剣に追い付くべく頑張ってきたが、それでも姉には追い付けず、世間からは『凡人の剣』とまで言われる始末。

 

 道すら見失っていたがしかし、今日、シドの剣が証明してくれた。努力もそして、基礎の積み上げは無駄にならず、天才をも上回る剣に研ぎ上がっていくのだと……。

 

 だからこそ……。

 

 

 

「お相手、願えるかしら?」

 

 自分が目標とすべき剣を持つシドの元へとアレクシアは『マス』というお互い攻撃は当てずに技や返し、流れの確認をする実戦形式の相手を頼んだ。

 

「喜んで相手させていただきますアレクシア王女、初めまして、俺はシド・カゲノーです」

 

「そこまで畏まらなくて良いわよ、同じ生徒なんだからアレクシアで良いわ。私もシドって呼ぶけどね……どうしても気になるっていうなら、貴方の剣が素晴らしかったからその褒美って事にでもしてちょうだい」

 

 深々と頭を下げて礼をし、手を差し出してくるシドに苦笑しながら、握手を交わし、言うアレクシア。

 

「じゃあ、そうしよう……早速始めようか」

 

「ええ」

 

 そうして、マスを始めるシドとアレクシア……シドはアレクシアが自分の剣を参考にしようとしているのを直ぐに察し、だからこそ自分の動きを見せる事で教え、アレクシアはしっかりと観察し学んでいった。

 

 二人の稽古の様子を他でマスを行っている生徒たちも見ながら、参考にしていく。

 

「(あれ、もしやこれ乗っ取られてる?)」

 

 講師はシドが講師になっているような状況に察しはしたが、敢えて気にしない事にした。

 

 

「今日の授業は此処まで」

 

『ありがとうございました』

 

ともかく、そうして時間は経過し今日の実技の授業は終了する。

 

「ありがとう、シド」

 

 アレクシアはシドへ自分が目指すべき目標を示し、更には自分が志した剣は間違いではなかったと証明してくれたシドへ礼を言う。

 

「どういたしまして。役に立てたなら光栄だ」

 

シドはアレクシアからの礼に理由は聞かず、応じた。

 

「それにしても貴方は……侮辱になってしまうかもだけど、言わせてもらうわ。凄く、努力したのね」

 

「俺の姉さん、クレア・カゲノーは天才だし、それに今もこの学園で活躍しているから弟として、汚点になりたくなかっただけだ。それに負けず嫌いだしな……優秀な姉を持つのは苦労するという事が身に染みたよ」

 

「それについては同感ね。優秀な姉を持つ者同士、なんだか仲良くやれそうね。これからもよろしくお願いするわ」

 

 最後はしみじみとしたシドの言葉にアレクシアも又、実感を込めた言葉で答え、そして微笑む。

 

「ああ、こちらこそ」

 

 

 そうして、シドとアレクシアは微笑み合ったのだった……。

 


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