異世界で生きたくて   作:自堕落無力

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十四話

 

 ミドガル魔剣士学園と学術学園兼用の図書館はとても広く、蔵書されている本の種類も数も豊富である。もっとも魔剣士学園の生徒が図書館を利用する事はあまり無いが……。

 

「やっぱり、良い施設だなこの学園は」

 

 文武両道――なんであれ、己を向上させるのに余念の無いシドは放課後にこの図書館へ来ると本を読もうと探し回っていると……。

 

「えっと……」

 

 髪の色は桃色であり、お下げにしているが頭の上で一房の毛が跳ねてそれがトレードマークになっている小柄な可愛らしい顔つきの女子生徒が大量の本を抱えながら、本を探そうと悩んでいる様子だが、抱えている本の重量がきついのか辛そうにしている。

 

「今にも落としそうだから、失礼ながらお持ちしますよ。シェリー先輩」

 

 シドは少女を知っていた。というより少女はこのミドガル王国王都では有名人である。

 

 彼女の名前はシェリー・バーネットであり、学術学園の二年生でありながらもアーティファクトという魔具の研究においてはこの王国一の頭脳と評される程の成果を上げている。

 

 又、持病を抱えているために魔剣士を引退したが、過去のブシン祭で優勝経験があるこの学園の副学園長であるルスラン・バーネットの養子だ。

 

「え、あ、あの……」

 

 シェリーはシドに本を取られ、戸惑っている。

 

「俺は魔剣士学園の一年、シド・カゲノーです。貴女の論文は読ませてもらいましたが、本当に驚かされましたよ。だからこうしてお会いできて光栄だ」

 

「あ、ありがとうございます……その、シド君はアーティファクトに興味が?」

 

「というより、知識を分野関係なく、節操なく求めてるってだけですよ。知識も又、力の一つですからね。それでこの本たちは借りるやつですか、それともここでの勉強用、どちらにしろ運ばせていただきますよ」

 

「べ、勉強用です。えっと、それじゃあすみませんがお願いします」

 

「はい、お願いされました」

 

 そうして、シドはシェリーの案内の元、既にノートやら書類やらおいて席を取っている机へと向かい、本を置いた。

 

 

「拝見させていただいても?」

 

「ええ、どうぞ」

 

 シドはシェリーの隣へと座り、研究内容を拝見する。

 

 そうして……。

 

 

 

「これはこれで……」

 

「わ、シド君。私より凄いんじゃないですか?」

 

 いつの間にやらシェリーの研究の助手となっており、シェリーはシドの頭脳に驚かされる。

 

 シドは『シャドウガーデン』において頭脳に優れるガンマや研究者や建築家として優れるイータをそれぞれの専門分野で上回っているのだから、当たり前ではあるのだが……。

 

 ともかく、そうして二人による研究は進み……。

 

 

 

「おっと、もうそろそろ時間ですね。シェリー先輩の研究に関われて楽しかったです」

 

「私の方こそ楽しかったです、シド君……その、良ければ放課後の間だけでも良いので本格的に助手になってくれませんか……研究室は空けておきますので」

 

 何処か恥ずかしそうにしながら、そして不安げにシェリーはシドを誘う。

 

「俺で良ければ、喜んで。これからよろしくお願いします、シェリー先輩」

 

「こちらこそ、よろしくお願いします。シド君」

 

 シドは微笑みながら、シェリーに手を差し出しシェリーも又、明るく朗らかな笑みを浮かべてシドと握手を交わした。

 

 そうして、シドは十冊ほど本を借りていくと寮へと帰るのだった……。

 

 

 

 

 

 『シャドウガーデン』の本拠地こそは『古都アレクサンドリア』なのは変わらないが、シドがミドガル王国王都に学生として通う事により、主戦力たるメンバーに優秀な構成員の殆どはこの王国王都で経営している『ミツゴシ商会』をアジトとしていた。

 

 

 そして豪華建築物たる『ミツゴシ商会』に用意された王室の如き、場所にアルファやベータ他、メンバーが集まり、誰も座っていない玉座に対し、傅いている。

 

 そして、突如玉座の周囲に霧が発生しそれは人型へと形を変えていき、シルエットの如くとなった。

 

『皆、久しぶりだな……とりあえず、楽にしてくれ』

 

 シルエットからはシドの声が響く。シドは『霧の龍』の格と力を手に入れた事で魔法のような事まで出来るようになっていた。

 

 学園に通う準備や実際に授業を受けるまでの間、敢えてシドは自分が関わらないようにし、自分が『シャドウガーデン』の首領だという事や自分を通じた組織の情報の漏洩が無いように働いたのだ。

 

 

「それでシャドウ、そっちは学園生活、どう?」

 

「息抜きとしては悪くないよ、アルファ。それじゃあ、俺が居ない間の状況の報告を頼む」

 

「ええ、それじゃあまずは……」

 

 

 世間話を交わしつつ、現在、仕事のために遠くへと行っている者を除き、この場に居るアルファにベータ、ガンマ、イータたち『ナンバーズ』である幹部はそれぞれの分野における近況報告を開始する。

 

「そして、新たにナンバーズになった子が居てね。ニューよ、さぁ、来なさい」

 

 そうして、アルファの誘いに応じ、ダークブラウンの長髪に同色の瞳、落ち着いた上品な顔立ちの女性が現れる。

 

 元は侯爵家の令嬢であり、彼女が新人だった頃よりシドは関わっていたりする。

 

 

『ほう、君がナンバーズに……昇格、おめでとう』

 

「はっ、ありがとうございます。シャドウ様」

 

 ニューはシャドウからの言葉に感動に震えつつ、礼をした。

 

 

「彼女にはシドへの連絡員、雑用を務めてもらおうと思っているわ」

 

『そうか、ならよろしく頼むぞ。ニュー』

 

「与えられた務め、しっかりと果させていただきます」

 

 ニューは再び、シドに対して深々と礼をした。

 

 

 

『では、また明日……お前たちの姿が見れて、声が聞けて嬉しかったぞ』

 

『こちらこそ』

 

 その会話を最後にシルエットと化していた霧は消失。

 

「やっぱ、二重生活というのは大変だ」

 

 手元に出現させていた魔力による霧を消失させたシドは自室でそう呟くのであった……。

 


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