異世界で生きたくて   作:自堕落無力

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十五話

 

 シドがミドガル王国王都の魔剣士学園に入学し、学園にある寮での生活を始めて一か月以上の日数が経過したのもあって、学生生活に慣れてきた。

 

 

 そうして、シドの姉であるクレアの魔剣騎士団への体験入団が始まろうとしていたのもあり……。

 

「さぁ、今日という日がお姉ちゃんにとって、良い思い出になるよう楽しませなさいよ。シド」

 

 

 早朝から二人で学園の寮を出て街中を歩き始めるシドとクレアの2人。今日はクレアが魔剣騎士団へと体験入学し、その間は離れ離れになるので姉弟の仲を深めよう(弟分の補充)というクレアの要求により、シドはクレアと遊ぶ事になった。

 

 そのため、早朝からご機嫌なクレアはまるで恋人のようにシドの腕に自分の腕を絡めて寄り添う。

 

「勿論。姉さんが魔剣騎士団で頑張れるように今日は全力全霊で姉さんを励ませてもらうよ」

 

 シドは苦笑しながら、クレアを受け入れつつ彼女の言葉に答えた。

 

「うん、やっぱり、シドは良い弟ね」

 

「ありがとう、俺も姉さんが良い姉さんだってずっと、思ってるよ」

 

「ありがとう」

 

 仲睦まじい雰囲気のまま、二人で微笑み合いながら歩き続ける二人……。

 

「でも、お姉ちゃんは知ってるんだからね。最近、アレクシア王女や王国一の頭脳って言われてる学術学園二年生のシェリー・バーネットさんと随分、()()()()()()()()()

 

 クレアは軽く嫉妬混じりの視線も込めながらシドに対して睨んだ。

 

 彼女が言うようにシドが学園の異性において仲が良いのは誰かと言えばアレクシアとシェリーである。

 

 王女であるアレクシアは勿論、学生ながら研究者としてこの王都で十分な成果を上げているシェリーもどっちも有名人であり、話題になる人物。

 

 その彼女たちと学園内や時には寮内、街中で交流しているとくればシドも又、有名になるのは道理だった。

 

「確かにアレクシア王女とは魔剣士として腕を磨き合ったり、それに優秀な姉を持つ者同士として話も合うから、仲良くなったり、シェリー先輩の研究は俺にとっても中々興味深くて、面白いから一緒に研究する中で仲良くなったけど……友人としてだよ。姉さんや皆が言うようなものじゃないって」

 

 

「本当に?」

 

「本当だよ、その証拠に姉さんを蔑ろにしてないだろ? 勿論、今後も蔑ろにするつもりはないから安心して」

 

 再度、睨みながら腕を絡めてくるクレアにシドは何もやましいことは無いという視線を向け、告げた。

 

「……ま、今回はこの程度にしておいてあげるわ」

 

「寛大な心に感謝します」

 

「ふふ、でもそれとは別にシドが学園で人気者なのは嬉しいわ。学園一の『相談屋』になってるそうじゃない」

 

 次にクレアは嬉しそうに微笑みながら、言った。そう、シドは毎日、何かしら同じクラスや別のクラス、あるいは別学年の生徒たち、あるいは講師まであらゆる者たちから相談や悩み事の解決を頼まれたりしているのである。

 

「確かに……そうだけど……」

 

 シドはどこか納得いかない様子で溜息を吐く。そもそも、彼が相談屋になった切っ掛けは同じクラスの一人が何やら悩みを抱えていたようなので相談に乗り、解決をしたのが切っ掛けだ。

 

『シャドウガーデン』の首領として配下たちにとって相応しくあれるよう、振る舞っていた事や面倒見の良い性格であったが故に気配りに優れていたのもあるのだが、そうして解決した事が評判となり、更には……。

 

「皆さん、気軽に相談してください。全てこのシド君が解決しまーす!!」

 

「仲介料はいただきますけどねー」

 

 シドの男友達であるヒョロとジャガが勝手にシドを相談屋に仕立て上げ、厚かましく仲介料を取るという事まで始めた事でシドは魔剣士学園における『相談屋』になってしまったのである。

 

 まあ、頼られる事は悪いとは思って無いから、相談されるのは良いのだが……。

 

 そして、シドはしっかりとどんな悩みでも解決する成果を出しているのでより、相談屋として人気になる。よって、やはり毎日、なにがしかの相談を受け、解決に励んでしまうのであった。

 

 ともかく、シドとクレアは街中を歩き、目的地へと向かう。

 

 その目的地とは……。

 

 

「朝早くから来たのに、もう並んでるな」

 

「流石はこの王都で一番人気の店ね」

 

 王都にて毎日、開店から閉店まで客足の途絶える事の無い大型商売店である『ミツゴシ商会』へとシドとクレアが近づくと既に多くの客が開店を待って並んでいた。

 

 そう、シドにとっては自分の店とも言える店……とはいえ、会長であるルーナことガンマとの関係をクレアに言う訳にはいかないし、関係性を匂わせたりもしたくない。

 

 だから、事前にガンマには『あくまで普通の客として扱ってくれ』と連絡しておいたのだが……。

 

 開店まで残り、十分前くらいになった時だろうか。何やら店員に扮しているニューと構成員が数人ほど、出てきてカウントする器具を使いながら、歩いている。

 

 

 

「(……おいおい)」

 

 何やら、嫌な予感がしたシドは冷や汗を流しながら、様子を見守り……。

 

「おめでとうございまーす!! お客様で丁度入店――人目のお客様です」

 

 ニューがクレアにシドへと微笑みかけながら、周りの構成員たちがクラッカーを鳴らしたり、拍手したりする。

 

「え、何かサービスとかあったりするの?」

 

「はい、その通りでございます。どうぞこちらへ」

 

期待するクレアに対し、ニューは微笑んで答えると構成員たちも頷く。

 

「(どこが普通の対応なんだぁぁぁぁぁっ!?)」

 

 あからさまな対応過ぎて思わず驚愕した。そんなシドの心情を分かっているのか、いないのかニューと構成員たちは密かに目配せして微笑む。

 

「(どうですか、私たち。やりましたよって……誰もこんな対応しろって言ってないだろっ!!)」

 

 全く望んでいない事をされてシドは本当に困っていた。まぁ、もう状況が状況なので流されるままになるしかないのだが……。

 

 

 

「やったわ、今日は幸先良いわね。シド」

 

「そうだね、姉さん。今日は本当にラッキーだ」

 

 嬉しそうにするクレアにとりあえず、微笑むシド。

 

そうしてニューたちの案内のままに店の中を通り、やがて特別な応対室へと……。

 

「ようこそ、お客様方、この『ミツゴシ商会』へ……私は会長のルーナと申します」

 

 その部屋に居たルーナことガンマがクレアとシドを出迎える。

 

「初めまして、ルーナさん。私はクレア・カゲノーよ。そして、こっちは……」

 

()()()()()、クレア・カゲノーの弟、シド・カゲノーです」

 

クレアとシドがガンマへと自己紹介する。勿論、シドは初めてを装ったが……。

 

「はい、よろしくお願いします。それにしても、あっ!?」

 

「危ないっ!!」

 

 ガンマがクレアたちへと近づこうとしたところ、彼女は自身の運動音痴を発動し、何もないのに躓き、転ぼうとしたがシドがそれを受け止めた。その際、彼女に久しぶりと告げるように密かに背中を軽く叩く。

 

「ああ、すいません。お恥ずかしながら転びやすい体質でして……クレアさん、弟さんは随分と頼りがいがある素晴らしき方ですね。自慢でしょう?」

 

 ガンマもシドの背中を軽く掴む事で久しぶりに出会えた事を喜んでいる事を伝えながら、シドからゆっくりと離れつつ、クレアに微笑みかける。

 

「その通りよ、ルーナさん。そして、それが分かるなんて流石だわ」

 

 クレアはシドが褒められた事に機嫌を良くする。

 

 

 

「記念すべき――人目のお客様が貴女たちで良かったです。では、おもてなしさせていただきますね」

 

 そうしてガンマとニューたちがクレアとシドをもてなし始め、少しすると……。

 

「クレアさん。姉である貴女から見たシドさんの事を聞きたいのもそうですが、女同士で話し合いたい事もあるので少し良いですか?」

 

「勿論、良いわよ」

 

「それじゃ、俺は待機してるよ。楽しんで」

 

 そうして、ガンマとニューたちがクレア一人に更なるもてなしをする中……シドは動き出し、応対室から出て勝手知ったる様子で従業員の扉を抜けて廊下を進み、豪華客船映画で見るような階段を上り、レッドカーペットの広く明るい廊下を進む。

 

 すると突き当りに優美な彫刻の施された光り輝く巨大な扉があった。

 

 

 

『お待ちしておりました。シャドウ様』

 

「ああ、久しぶりだな」

 

 扉の前に居た構成員の二人に応じ、二人が扉を開けるとその中は巨大で豪華な王室であった。

 

 そうして……。

 

「こうやって、実際に会うのが一番だな。皆とこうして会えて嬉しいよ」

 

 シドは愛おし気にこの部屋の中で控えていた者たちに笑いかける。

 

 

 

「私達だってそうよ、シド」

 

「この時をずっと待っていました。シド様」

 

「ボスー、デルタも頑張って待っていたのです」

 

「お久しぶりです、主様」

 

「主、学生生活お疲れ様です」

 

「マスター、久しぶり」

 

「シド様、相変わらずのお心遣い感謝します」

 

 ガンマから事前に話を聞いて今日のために集結した幹部であるアルファにベータ、デルタにイプシロン、ゼータにイータ、シータはそれぞれシドへ微笑みながら、声をかける。

 

 そうして、ガンマがクレアに対応している少しの時間、アルファ達との親睦を深めたのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、寮の門限が迫る夜中……『ミツゴシ商会』にてガンマにより、様々なもてなしを受けたクレアはご機嫌な様子を見せていた。

 

「ふふ、今日はとっても良い日だったわ。ルーナさんとは友達になれたし、それに色々ともてなしまでされちゃって……こんなに幸運だったのは、きっとシドが普段から良い弟だからね」

 

「そう思ってくれるなら、俺にとってはなによりだよ……姉さん、騎士団での生活頑張ってね」

 

「ありがとう、シド。シドも姉さんが居なくて寂しいだろうけど、学生生活頑張るのよ」

 

「うん、勿論だよ。姉さんの恥にならないよう、しっかりやるよ」

 

「恥だなんて、何言ってるの。シドは姉さんの誇りよ。大好きだわ」

 

「うん、俺も大好きだよ」

 

 最後には寮内にて微笑み合いながら、シドとクレアは抱き合い、そうして各自の部屋へと戻る。

 

 十分に姉弟の仲を深めた今日であった……。

 


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