異世界で生きたくて   作:自堕落無力

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十七話

 

 魔剣士を育成するためのミドガル魔剣士学園とは違い、学者や研究者を育成するための学術学園において一番の成果を出しているのは古代の文明、そしてアーティファクトを研究している二年生のシェリー・バーネット。

 

 彼女の母親であるルクレイアも又、古代の文明とアーティファクトの……というより、母が成せなかった研究を完成させるためにシェリーは研究者の道へと進んだ。

 

 そう、シェリーの母は既に故人だ。研究者の中で優秀過ぎたが故か、あるいは関わっていた研究が何者かにとっては都合が悪かったのか、命を狙われ殺されてしまったのである。

 

 そうして、一人残されたシェリーを保護し、現在は養父となっているのが元々はルクレイアの研究の支援者でもあったし、学園の副学園長であるルスラン・バーネットだ。

 

 そんな二人とシドはシェリーの研究の助手となった事で交流をするようになった。

 

 今日も又、魔剣士学園の授業が終わり、放課後となったのでシド副学園長室、つまりはルスランの部屋へと向かった。

 

「君には本当に感謝しているよ、シド・カゲノー君」

 

 自身の部屋で白髪交じりの髪をオールバックにした初老の男性、ルスラン・バーネットがシドへと感謝を告げた。

 

 何故ならかつてはブシン祭に優勝し、魔剣士の頂点とも言われた程の魔剣士であったのに自身が患った難病をシドが『魔剣士として偉大な方に平穏な人生を楽しんでもらいたい』と言って、魔力による治癒によって治したからだ。

 

 当然、その当時にシドの治療に対し、シェリーも又、大きく感謝を示した。

 

「私も感謝しています、シドさん。お義父様の病気を治してくれて……本当にありがとうございます」

 

 ルスランに続き、改めてシェリーも感謝を告げる。

 

「どういたしまして……俺の力が及ぶ範囲で出来る事をやっただけだからそう、感謝しなくて良い。恩を着せるつもりも無いからな」

 

 もう、何度目かになるかも分からない二人からの感謝に苦笑しながら、シドは言う。

 

「君は本当に素晴らしい若者だが、そう謙遜しないでくれ。治療の目途さえ立たなかった私の病を治した上にシェリーの友人となって、研究を手伝い、更には色々と研究一筋だった彼女に外の世界の事を教えてくれていて、喜ばせてくれている。君と会って、毎日が楽しいとシェリーも言っているんだよ」

 

 ルスランは幸せだと言わんばかりの表情を浮かべ、シェリーにも親として子の幸せを祝福しているような表情を向けた。

 

「ちょ、お義父様、それは言わない約束ってっ!?」

 

「ああ、すまんすまん。つい……」

 

 頬を膨らませ、まるで小動物が威嚇しているような怒り方をしているシェリーを微笑まし気に見、頭を撫でながらルスランは謝った。

 

「ともかく、今後もシェリーと仲良くしてやってくれ、シド・カゲノー君」

 

「勿論です。俺の方こそ、これからもよろしくお願いします。シェリー先輩」

 

「はい、シド君」

 

 そうして、三人は微笑み合い部屋には和やかな雰囲気が満ちる。そうして、副学園長室から出たシドは寮へと戻る途中……。

 

 

 

 

「シド様、頼まれたものは此方に」

 

「ご苦労、続けてすまないがこれをイータに見せて、製造するように伝えてくれ」

 

「はっ、直ちに!!」

 

 寮の清掃などを担当する使用人に扮したニューから大量の書類が入った包みを受け取りながら、シドは新たに数枚の書類が入った袋を渡す。ニューはそれを受け取ると即座に姿を消した。

 

 そのまま、自分の部屋に戻ると大量の書類が入った包みを開けて中の書類を見始める。

 

 それはシェリーの母親であるルクレイアが殺された事件に関する当時の記事や事件資料、捜査を担当していた者たちや記事を書こうとしていた記者の情報など集められるだけの情報であった。

 

 ルスランからその洞察力を持って不穏な物を抱えているのを見抜いたとあって、『シャドウガーデン』の力を使って集めさせたのだ。

 

 そうして調べてみればなんと、事件を捜査していた関係者も記者も他殺や自殺などで全員が亡くなっている事が分かった。どう考えても不審であった。

 

 ともかく、シドは情報を見ながら整理、そうして推理までして……。

 

 

「なるほど、大体分かった……」

 

 世界に絶対というのは無いし、まだ推理しただけのものでしか無く、まだ足りない要素もあるが現状においてこれしかないという一つの答えを導き出す。

 

 そうして、その答えに激しく怒り始めた。あまりにも卑劣であり、唾棄すべき答えだからだ。

 

「さて、どうするべきか……」

 

 足りない要素を埋めるため、そして自分の導き出した答えがとある者からすればあまりに残酷すぎるため、シドは対応策を練り始めるのだった……。

 

 


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