暁闇になろうという時間帯――とある森の中で一人の少年が座禅を組み、瞑想している。
「すう、ふうう……」
そうして深呼吸しながら普段から圧縮し、爆発を高速に繰り返して蓄積し強固に練り続けて溜め込み続けている『魔力』をゆっくりと体内全てへと行き渡らせ、『血』に変えるが如く浸透させていく。
すると少年の内部から淡い『魔力』の光が溢れていく。
そうして、浸透させた魔力を更に制御しながら、己の体全てを確認するが如く一か所に集中、あるいはすべてに拡散などを繰り返すと……。
「良し……ふっ!!」
少年は立ち上がり、『魔力』を纏うままに徒手空拳の構えを取ると四肢を振るい、闘舞を踊り始めた。少年の拳や足が唸る度、空間は叫びを上げて震え、周囲の木々や大地は砕かれていく。
「はああっ!!」
少年は闘舞を踊り終えたと思えば次の瞬間に腰に携えた剣を抜き、剣にも『魔力』を纏わせると剣舞を踊り始める。
少年が剣舞を踊る度、空間に木々、大地が闘舞を踊ったときのように切り裂かれていった……。
「ふうぅ……さて、そろそろ戻るか」
この異世界に生まれて十年――そう、俺は十才になった。とはいえ、生活は特に変わらずカゲノー家の長男として誇れるような者に、そして姉のクレアを補佐し続けられる者になるために自己研鑽に励んでいる。
最近は世に憚っている野盗を退治するなど、実戦経験を密かに積んでもいるが……。
「(そろそろ、あれを試すときかな)」
そして、更にとあるものを実験しながら、武具と防具を開発している。
というのも『魔力』は自らの体内ならばスムーズに伝導することが出来るのだが、これが剣などの物体になると話が違ってくる。
要するにロスが出来てしまうのだ。例えば鉄の剣に魔力を100流したとする。そのうち実際、剣に伝わるのは10程度で実に9割の魔力が無駄になってしまう。
魔力を流しやすいミスリルの剣でも100流して、50伝われば高級品扱いだ。
それぐらい、実は物体に魔力を流すのは難しい。
良く練り上げた魔力を込めさえすれば例え、木や布でも鉄を切り裂いたり出来る(実証済み)が、消耗具合が半端ない。
そうした問題を解決するために俺は『スライム』という魔力を使って形を変え、動き回る魔法生物に注目し、コアを潰して動かないようにしたそれに対して実験してみたところその魔力伝導率は99%とほとんどロスが無いことが判明し、他者の魔力でも反応を示し、そのまま、伝導させた魔力による操作でこちらの意思通り自由に形状を変える事も判明した。
なのでスライムを狩りに狩って、スライムゼリーにすると硬質的でありながら、シャープ、鎧にも見えるボディースーツと液体状でありながら、金属的でもある剣に加工した。
後は実戦するのみだ。
丁度、近くの廃村に盗賊団が住み着いているという話を聞いたので今夜にでも確認がてら検証しにいく。
尤も、その前に……。
「ふふ、今日こそ勝ってみせるわ。シド」
「そう簡単には負けないよ、姉さん」
最近は俺が魔力の制御鍛錬法などを教えた事で更に腕を上げ続けているクレアと今日も俺は制限状態とはいえ、決着のつかない手合わせを繰り広げた。
「う、うう……二人とも俺より強いとか父の、カゲノー家の主の威厳が……」
「まぁまぁ……子はいずれ、親を超えるものじゃない」
「早過ぎなんですけどっ!?」
手合わせの最中、この世界での俺の父と母がそんな会話を繰り広げている気がした。
そうして……。
「それじゃ、今日もお願いね……」
「はいよ」
手合わせが終わって少しすると、クレアは髪を梳かすのを頼んできた。少し前、偶々クレアの髪が跳ねていたのが見えたので、手で梳かしたのを切っ掛けに今では櫛をも使って俺は姉の髪を整える係になっていた。
これも一つの姉弟のコミュニケーションと言えるので不満も何もない。
それに……。
「ん……ふふ、どんどん上手くなってくるわねシド。お姉ちゃん嬉しいわ」
梳かしている間、心地良さげにするクレアを見るとこっちも嬉しくなる。
「それは良かった。俺も姉さんが喜んでくれて嬉しいよ」
「いずれは恋人にもこれをやってあげるようになるのね……そう、簡単にはシドはあげたりしないけど」
何やら一人、盛り上がり決意するクレア。
「気が早すぎるよ、姉さん」
「いいえ、早すぎる事なんてないわ。このままだと絶対、シドは将来、多くの女性にモテるようになってしまうもの」
「そんな事、無いって」
振り返り、抱き着いてきたクレアに応え俺も抱き締め返し苦笑するのだった……。
二
深夜の中であるにも関わらず、とある廃村には明かりが付いていた。
「ギャハハハハッ!!」
この廃村は商隊を襲撃し、成果を上げた事で気分良く、宴会をしている盗賊団の拠点だった。
「耳障りだな」
そうして、開発したばかりのスライムによる防具と剣を装備したシドは遠くから盗賊たちの様子を見て呟き……次の瞬間、『魔力』を練り上げ体からスーツ、剣にも伝導させるという戦闘態勢になり、次の瞬間……閃光の如くとなり、宴会をしている盗賊団へと駆け抜け……。
『ウギャアアアアアアアアアッ!?』
剣閃が乱舞する度、盗賊団は断末魔の叫びを上げながら切り刻まれ、肉や血を周囲にばらまきながら解体され、塵となって消えていく。
完全に油断し、警戒してすらもいないのもあって僅かな時間で碌な抵抗も出来ずに全滅した。
「うん、実に戦いやすいな」
スライムによる装備を初使用した感想を言いつつ、満足げにシドは微笑んだ。
そうして、盗賊団の拠点に置かれた商隊の死体の埋葬、馬車数台から金品として使えるのを獲得していく。
そんな中……。
「これは……〈悪魔憑き〉か?」
大きくて頑丈そうな檻を発見したので覆いを取ると蠢く肉塊を発見する。
この世界にてある者はある日を境に肉体が腐り出す。
教会はそうした者を買い取り、浄化と称して処刑しているがそうした存在こそ〈悪魔憑き〉である。
「この感じ、まさか魔力暴走……」
シドは肉塊の様子を探ってみれば荒れ続けている大量の魔力を内包しているのを察知した。
シドもある日、魔力の制御訓練していると魔力が扱いにくくなり、しかも肉体を中から壊そうとするほどに荒れ狂い、なんとか抑えこめたが危うく死にそうになった事がある。
「試してみるか」
他者の魔力の制御あるいは支配技術の鍛錬を積めると思い、廃村を隠れ拠点に肉塊に対して色々試行錯誤しながら干渉していると……。
「……嘘、戻れた……」
「……おいおい」
肉塊は姿を変貌、いや正確には元に戻ったというべきだろう。
エルフらしく容姿端麗で長い金髪、シドと同年代の少女がそこにはいた。
「……色々と衝撃的だが、まずはこんばんは。俺はこの辺りにある屋敷で暮らしている貴族でカゲノー家の長男、シドだ」
「……私は……」
そうしてシドとエルフの少女は話を始め……。
「もう、私は故郷には帰れない。シド、貴方に救われたこの命、貴方のために使わせて」
「……そういう事なら、俺も助けた責任ってやつを果たす事にしよう。それに君のお陰で確認したいことも出来たしな」
「確認したい事?」
「ああ、それはな……」
そうして、シドとエルフの少女はこの世界にて潜み、暗躍していた『闇』を知ることになるのであった……。