異世界で生きたくて   作:自堕落無力

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二十話

 

 ミドガル王国王都では二年に一度、魔剣士の世界での頂点の座を競うための『ブシン祭』という大会が開かれる。そして、『ブシン祭』にはミドガル魔剣士学園の生徒のための学園枠があり、その枠に入る生徒を決めるための大会も開かれる。

 

 そして、『ブシン祭』と選抜大会が開かれるのが今年であり、その時期が迫る中で当然、シドもアレクシアも選抜大会に出場する事を決めており、『いつまでもシドに頼ってばかりじゃ駄目だから』とアレクシアはシドとの稽古を止め、自分一人で鍛錬をするようになった。

 

 もっとも鍛錬以外の時間は大体、シドと行動を共にしているが……。

 

 

 

「ねぇ、シド……」

 

 昼の食堂、いつものように二人で並んで席に座り、食事をしているシドとアレクシア。

 

 するとシドの顔を見つめ、微笑みながらアレクシアがシドの名前を呼ぶ。

 

「どうした?」

 

「ただ、呼んでみただけよ」

 

「そうか……」

 

 アレクシアが答えたのに対し、シドも微笑んでアレクシアの頭を撫でる。それにアレクシアは心地良さそうに目を細めた。

 

 口づけしたのが切っ掛けとなり、二人の雰囲気は日に日に甘くなっていっている。

 

 なので、当然……。

 

『(あ、甘すぎるんだけどぉぉぉぉぉぉぉっ!!)』

 

 見せつける訳でも、自分たちの世界に入っている様子でもなく、あくまで自然に甘い雰囲気を醸し出しまくるシドとアレクシアに他の生徒たちは皆、内心で突っ込んだ。

 

 絶対にシドとアレクシアの関係については触れたりはしない。もう絶対、確実に付き合っているのは間違いなくとも触れたりはしないのだ。

 

 触れたらエライ事になるのは間違いないから……。

 

 結果が分かっているのに地雷原を踏んだり、爆弾を刺激する者など居ないのだ。

 

 

 

『……』

 

 シドとアレクシアは言葉で語るは無粋とばかりに視線を交わして何やら伝え合い始めている。

 

『(なんか言えってっ!! っていうかは、早く別の場所に行ってくれぇぇぇぇぇぇっ!!)』

 

 だからこそ、早く食堂から出て別の場所で好きなだけ、甘い雰囲気を出してろと思う生徒たち、そのうちの多くはシドとアレクシアによる甘い雰囲気にやられて吐血したりなどして倒れる者やあるいは『二人の関係は尊い』として推すようになるなど色んな影響を及ぼすのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 放課後、学術学園にある一つの研究室にて……。

 

「ほら、シェリー先輩。カフェオレです」

 

 シェリーの助手としていつものように研究を手伝っていたシドは一息入れるため、コーヒー豆にコーヒーを作るための専用道具を使って淹れた自分用のコーヒーにそして、甘党であるシェリーのために牛乳から何から何まで拘って作ったカフェオレを用意する。

 

 そして、研究中で席に座っているシェリーの近くにカフェオレを置き、自分も近くにおいてある椅子に座ってコーヒーを飲み始める。

 

「うん、美味しい。シド君の淹れてくれるカフェオレ、美味しくて大好きです」

 

 カフェオレを飲み、笑顔でシドへと言った。

 

「真心こめて淹れていますからね。好きになってもらえて良かった」

 

「も、もう……シド君ったら……」

 

「それで研究所の方はどうですか?」

 

「イータ所長も所員の皆さまも皆、優しくて、良くしてくれてとても良いです。それに研究の参考になる資料もいっぱいありますし……本当に凄いし、研究所として最高でした」

 

 シドからの質問にシェリーは明るい笑みで答えた。

 

「まあ、シェリー先輩なら上手くやれると思っていましたが、その通りでしたね。これからも頑張ってください。勿論、俺も助手としてサポートしますが」

 

「ありがとうございます、シド君。私もシド君がブシン祭の選抜大会やブシン祭に出た時は精一杯、シド君を応援しますね」

 

「それは光栄で嬉しいです。よろしくお願いします」

 

「はい、お願いされました」

 

 そんな会話を交わしながら、シドとシェリーは微笑み合ったのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブシン祭の選抜大会の時期が近づく中……クレアの騎士団体験入団が終わった。そのため、シドはクレアに対し『体験入団お疲れ様&お帰りなさいの会』をする事にし、高級レストランの個室を予約し、そうしてクレアと共に今夜、向かったのだが……。

 

「シド様にクレア様、オーナーであるルーナ様より特別席へ案内するよう、言われております。どうぞ」

 

「あら、ルーナさん。此処のオーナーだったの……シド、知ってたのね」

 

「……え、いや、俺も初耳……」

 

 ウェイターからの言葉に『ミツゴシ商会』系列のレストランじゃないのにルーナがオーナーだという事にクレアは驚き、シドも又、余計な気遣いなどさせないように敢えてガンマたちには何も言わなかったし、『ミツゴシ商会』とは関係の無いレストランを選んだ。

 

 しかし、ガンマたちはその情報収集能力を活かし、これは自分たちのシドに対する忠誠心や愛を確かめるための試練だとかなんだとか誤解of誤解したままにその力を振るってシドの予約したレストランの経営権を手際良く、買い取った上にシドとクレアのための特別席まで用意した。

 

 因みに特別席は増築されたものであり、これまたシドのためにイータがその優秀な建築術を使って用意したものである。

 

「(誰もこんな事しろと言ってないし、それにここまでしろとも言ってないだろぉぉぉぉぉぉっ!?)」

 

 思わず、シドは内心でガンマたちの手際にツッコミを入れてしまった。

 

 ともかく、特別席で用意されたスペシャルコースの料理にこれまた、ツッコミはしながらも……。

 

 

 

 

「それじゃあ、騎士団への体験入団お疲れ様、そしてお帰り、姉さん」

 

「ええ、ただいまシド」

 

 まずはワインにて二人で乾杯し合った。

 

「本当、こうして私の事を想って、色々としてくれる良く出来た弟のシドが居て、私は幸せだわ」

 

「俺だって、旅立つのを許してくれたり、入学する時の試験の時には出迎えてくれたり、色々と優しくしてくれる姉さんが居て幸せだよ」

 

 姉弟としては過剰過ぎる程の親密さを放ちながら、二人は微笑み合う。

 

「まぁ、だからって……私が居ない間にアレクシア王女と付き合ってるのはどうかと思うけど……」

 

「いや、俺は男爵の出なのにアレクシア王女と付き合えるわけないじゃないか、姉さん。友人として仲良くなるのは問題ないにしてもさ」

 

「ぇ……あれで付き合って……ない?」

 

「うん、今の俺の身分では付き合えないよ」

 

 シドからのまさかの返答にクレアは驚愕と混乱する中、シドはクレアに対して再度、恋人では無いと言った。

 

「……ま、まぁ良くは無いけど、良いって事にしましょう……そうそう、アイリス王女が貴方に『アレクシアと仲良くしてくれて、それに仲直りの切っ掛けを与えてくれた事、感謝してます』と言ってたわよ」

 

「それはまた、恐れ多い……」

 

 そうして、クレアは騎士団での話をし、シドは学園での事を話して親睦を深め……。

 

 

 

「シド、選抜大会で私と戦う時は絶対に本気で戦いなさいよ」

 

「分かったよ、約束する」

 

 二人は選抜大会での誓いも交わしたのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 選抜大会にて勝利を掴み、ブシン祭へと出場するために鍛錬に励む魔剣士学園の生徒たち……そのうちの一人の女生徒も夜の中、自主鍛錬に精を出していた。

 

「(見ていてください、魔剣士さん……)」

 

 本来は剣の道に進む機会は無かったはずの自分に剣とそして、何よりその剣を振るって悪を挫き、人を助けるために本気を尽くすその尊さであり、美しさであり、素晴らしさを教えてくれた一人の魔剣士の男へと彼女は思いを馳せる。

 

「(私は必ず、貴方のような魔剣士になってみせます)」

 

 

 蜂蜜色の髪をロールにした容姿抜群の女性にして『芸術の国 オリアナ王国』からの留学生にしてオリアナ王国の王女、更には二年生ながらに生徒会長も務めていて魔剣士としての実力はクレアに次ぐ、学園内二位であるローズ・オリアナは自分の中に課した誓いを更に強固なものにしながら鍛錬に励む。

 

「(出来ればもう一度、会いたいです)」

 

 彼女が想いを馳せる魔剣士の男は自分の記憶にある見た目から言えば当時の自分に近いぐらいだった。だから魔剣士学園に入学するだろうし、あるいはしているかもしれないと期待しているところはあった。

 

 剣を見ればきっと分かるだろうし、それに剣士なのだから、剣で語れば良いとも思っている。

 

「(いけない、いけない。今は集中です)」

 

 ともかく、選抜大会更にはブシン祭への出場に向けて、ローズは鍛錬に励んだのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くしゅっ、夜はやっぱり冷えるな」

 

 夜中、自主鍛錬のために学園に寮へと届けを出したため、寮と学園より離れた外の場所で鍛錬に励むシドはくしゃみをしたのだった……。

 


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