異世界で生きたくて   作:自堕落無力

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原作二巻
二十四話


 

 ミドガル王国王都にて二年に一度、開催される魔剣士が強さを競う『ブシン祭』があるのは『夏』の時期であり、当然、ミドガル魔剣士学園はその時、夏休み中だ。

 

 そして、その丁度『夏休み』の時期にミドガル王国内のとある場所にてもう一つ、魔剣士が力試しをするためのイベントがあり、こちらは一年に一度開催される。

 

 そのイベントとは『英雄オリヴィエ』が魔人ディアボロスの左腕を聖域に封じたとされる『聖地リンドブルム』が開催場所となる『女神の試練』。

 

 このイベントの時は聖域の扉が開き、挑戦者に見合う古代の戦士の記憶が呼び覚まされ、挑戦者はその記憶と戦うのである。

 

 無論、戦士の記憶に見合うだけの実力が無ければ聖域の扉すら開かず、挑戦者は試練にも挑めない。毎年、数百人の魔剣士が参加するものの古代の戦士の記憶と戦えたのは十人程度。

 

 因みに十年前の話ではあるが流浪の剣士ヴェノムが挑んだ際は英雄オリヴィエを呼び出したのが話題となっている。もっともヴェノムは敗れたとの事だが……。

 

 ともかく、そんな『女神の試練』をクリアする事は大変な名誉であり、一種の絶対的なステイタスとなる。それは、勿論貴族や王族の世界においてもだ。

 

 なので……。

 

 

 

 

「そう……シドはちゃんと……だったら……」

 

「シド君なら……お父様に……」

 

 魔剣士学園の選抜大会にて優勝し、『ブシン祭』に学園枠として出ることが決まったシドはその予行演習として『女神の試練』に挑む事をアレクシアとローズに告げると、何やら将来に思いを馳せた様子で二人は顔を赤に染めつつ、呟く。

 

「シド、絶対応援するから」

 

「シド君、応援しますわ」

 

 アレクシアもローズも王女なのでその地位を使えば来賓になれる(というより、ローズにおいては既に来賓として招待の話ある)ので、現地で応援する事を告げた。

 

「ああ、これで女神ベアートリクスの試練も楽勝だ。勝利の女神が二人も俺の傍に居るんだからな」

 

「もう……馬鹿……」

 

「ちょっと、言い過ぎですよ。シド君……」

 

「本気で言ってんだけどな」

 

 シドの言葉に頬を更に赤く染めつつ、二人は微笑みながらシドへと寄り添いシドは微笑み返してどちらも抱き締める。

 

 尚、こんな滅茶苦茶甘い雰囲気とやり取りをしているのは学園内……なので……。

 

『グボアァァっ!!』

 

 余りにも劇毒過ぎるシドとアレクシアとローズのやり取りに男子生徒たちは嫉妬やらなんやらが高まって倒れ伏し……。

 

『私もあんな風に言われてみたい』

 

 女子生徒たちからは羨望の目で見られた。

 

 因みに当然であるが、シドは姉であるクレアにも『女神の試練』に挑む事は告げており……。

 

「アレクシアとローズとの将来の関係を考えれば、必須でしょうね……頑張んなさい」

 

 最近ではアレクシアにローズ、シェリーとかなり親しい事を知っており、ある程度は妥協しているクレアはそう、溜息を吐きつつ理解と納得を示して頷き、彼女も聖地リンドブルムに応援として同行する事になった。

 

 

 

 

 更に……。

 

「わぁ、実はイータさん達から聖地リンドブルムに行こうって誘われてたんです。奇遇ですね」

 

「本当ですね、シェリー先輩」

 

 シェリーはシドがリンドブルムに行く事を聞くと喜んだ。もっとも、シド自身が少しでも外の世界をシェリーに見せようとイータたちに頼んだ結果であるが……。

 

 

 

 

2

 

 

 

 

 『聖地リンドブルム』は実のところ、『ディアボロス教団の重要拠点』だ。

 

 聖域は『ディアボロス教団』の研究施設を兼ねているだろうし、封印されている『ディアボロス』の左腕から『ディアボロス細胞』、それに最近掴んだ事だが、飲めば『覚醒』状態にする薬よりも更なる強大な力と不死身の如き生命力を手に出来る『ディアボロスの雫』があるだろう。

 

 何より、『リンドブルム』より東部にはシャドウガーデンの本拠地、『アレクサンドリア』がある。

 

 こうした事からシャドウガーデンはリンドブルムに潜入しながら、様々な工作を行ってきた。

 

「ようやく、ターゲットが動き出したみたいよ」

 

「そうか、結構かかったな」

 

 アルファはシドへと告げ、シドは苦笑しながらも笑う。

 

 実は女神ベアートリクス唯一神とする宗教、『聖教』は『ディアボロス教団』の仮の姿だ。それに聖地リンドブルムにて大司教として職務に励むドレイクも飾りのような人物。

 

 シドたちがターゲットにしているのは『ディアボロスの雫』を飲む事を許されたディアボロス教団の幹部である『ナイツ・オブ・ラウンズ』の一人である可能性が高いネルソン。

 

 ネルソンは普段、大司教代理として表の舞台に出てこない。

 

 だからこそ、表に引きずり出すためにドレイクがやっている汚職、何度か起こっている孤児の失踪、更に違和感無いようにしつつ、脚色も込めて黒い噂を広め続け、そうして現在、アイリス王女を代表にした騎士団による監査が決まった。

 

 だからこそ、ネルソンは動いたようだ。恐らく、『女神の試練』の開催の前日ぐらいにでもスケープゴートとしてドレイクは殺されるだろう。

 

 だからこそ、ドレイクを見張りつつ彼が殺されそうになったところを確保するようにシドは指示し、ドレイクからは情報を抜き取ってから殺す事を告げた。

 

 まあ、シドもリンドブルムに行くので彼自身が状況次第では直接動く事も言う。

 

 そして、ネルソンを引きずり出すためにアイリスがリンドブルムを訪れる事になったし、アレクシア、ローズ、クレア、シェリーの4人がリンドブルムに来る事になっているが、シドたちにとっては無問題だった。

 

 

「『女神の試練』で英雄オリヴィエの記憶か……あるいは……が出れば良いがな」

 

 シドが手に持っている書類を見ながら呟く。その書類には『災厄の魔女アウロラについて』と記されていた。

 

 ともかく、今回は大きな会議のためにアルファ達の元を訪れたシドであるが……。

 

 

 

 

「そういえば主様、今日はアイリス王女とアレクシア王女がミツゴシの方に来ましたよ」

 

「ほう、仲は良さそうだったか?」

 

「ええ、とても……それと」

 

「それと?」

 

 ガンマが微笑みながらアイリスとアレクシアについての事を言い……。

 

「アレクシア王女は『Tバック』をお買いになりましたよ」

 

「ぶふっ!? ごふ、ごふ……報告するな、そんな事を」

 

 ガンマの報告にシドは噎せてしまった。

 

「シド、私も最近、Tバックを履いているの」

 

「私もです」

 

 アルファとガンマはシドにTバックを履いているのを見せながら、迫っていく。

 

「……なんだ、妬いてるのか?」

 

「流石にちょっと、ね」

 

「どうか、お願いします」

 

「分かった」

 

 そうしてシャドウにアルファとガンマはお互いを求める。

 

 実のところ、シドは『シャドウガーデン』の幹部は当然として、構成員とも都合や状況が許す時に愛し合っているのであった……。

 

 

 


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