異世界で生きたくて   作:自堕落無力

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三十話

 

 『女神の試練』に参加し、呼び出された『災厄の魔女』アウロラと戦い、勝利を納めたシドに対して観客たちは彼の戦い振りに対し、英雄にそうするかのように讃える。

 

中に感極まって涙を流すものまでいる。そんな大盛り上がりの競技場内にて……。

 

「ば、馬鹿な……アウロラが負ける筈は無い。あの女『アウロラがどうとか、そんなことはどうだって良いんだよ、この中途半端ハゲ……』ひぎ……」

 

 アウロラが負けた事に呆然とし、何かを言おうとしたネルソンをクレアとアレクシアが締め上げながら、その首筋に剣を交差するようにして沿えた。

 

「さっき、あんた。シドが試練を始める前に動かしてないとかどうとか言ってたわよね?」

 

「まさか、シドに恥を掻かせようと不正をしたんじゃないわよねぇ? 正直に答えないと完全なるハゲにするどころか、ぶっ殺すぞ」

 

「ふふふ、仮にも大司教代理なのに女神ベアートリクス様が用意した試練事態を汚すような行いをするなんて……まさか、そんなはずはありませんよね?」

 

 クレアにアレクシアはシドに恥を掻かせようとしただろうネルソンに対し、完全にガチギレしており、ローズも又、微笑みながら剣を抜いている。

 

「程々にしなさい、アレクシア。大司教代理にはこの後、きっちりと全てを話してもらわないといけませんから。それと監査ももっと、しっかりとする必要もありますね」

 

「……ひ、ひいいいっ!!」

 

 アイリスはアイリスで微笑みながらも怒りに燃えた瞳で射抜いている。ネルソンは万事休すの事態に怯えた。

 

 そんな時、突如眩い光が会場を包み、そしてそれが収まった時には白い大きな扉が現れた。

 

「扉?」

 

「開いていくわ」

 

「まさか、聖域が応えたのか……?」

 

クレアとアレクシアが淡く輝き、少しずつ開いていく扉に戸惑うとネルソンは呆然とした。

 

「ネルソン大司教代理、応えたとは?」

 

「ご存じの通り、今日は一年に一度、聖域の扉が開かれる日です」

 

 アイリスの問いにまだ呆然としながらも応じ、聖域の扉があるのは聖教会であると言い、しかし聖域はその扉を叩いた者によって招かざる扉や招集の扉、歓迎の扉など迎える扉を変えるのだと言った。

 

「こうなっては『女神の試練』を続けるわけにはいきません。観客を外にっ!!」

 

 そうして扉が開いていく中、ネルソンは来賓もそうだが観客を外に出すよう指示して係の者が誘導する。

 

「皆さまも早く「いいや、あんたには一緒に来てもらう。ネルソン大司教代理」っ!!」

 

 ネルソンはアイリスたちも外に出そうとして瞬間、来賓室に現れたシドに凄まじい殺意を浴びせられそれに圧倒された。

 

 クレアたちもシドの名を呼びながら、いつもと様子が違う彼の姿に驚く。

 

 

「いや、違うな。正しくはディアボロス教団の『ナイツ・オブ・ラウンズ』の第11席、『強欲』のネルソンだ」

 

「ば、き、貴様……何故それをっ!?」

 

 シドから告げられた自身の肩書きにネルソンは驚愕した。

 

「ディアボロス教団?」

 

「この世界の裏で暗躍しながら、魔人ディアボロスの力を使って世界を支配しようとしている忌むべき『邪悪』ですよ、アイリス様」

 

「そして、私達にとっての敵よ」

 

『っ!?』

 

 アイリスの問いに答えるシドの言葉を引き継ぎ、黒い仮面で顔を隠し、黒のスーツを着ている女性、その他にも同じような仮面を顔に被り、黒いスーツを着た女性たちが現れる。

 

「改めて自己紹介をしようか。俺たちは『ディアボロス教団』の対抗組織、『シャドウガーデン』。俺はその協力者のゼロだ」

 

 シドはそう名乗り……。

 

「私は首領のシャドウ」

 

 実の正体はアルファがそう、名乗った。

 

 

「『シャドウガーデン』だとっ、うぐあっ!!」

 

 ネルソンはまたも驚きながら、ゼータとシータにより、身を取り押さえられる。

 

「さて、それじゃあ聖域の扉も開いた事だし、一緒に行こうかネルソン……アイリス様、監査に来たのなら折角です。良く見てください、このリンドブルムでいや……この世界でどんな邪悪な事が行われているのか」

 

「……はい」

 

 真摯に見ながら、言葉をかけるシドに対し頷いた。

 

「そして姉さん、アレクシア、ローズ先輩にシェリー先輩……どうするかは任せます」

 

 シドはクレアたちに行動の選択を委ねた。

 

「勿論、行くわ。どうやらシドが旅でどう、過ごしてきたのか分かりそうだしね」

 

「私だって、行くわよ。私たちの国や世界で悪しきことが行われているのなら、放っておけないわ」

 

「シド君、貴方はあの時と変わらず悪と戦ってきたのですね……なら、私も」

 

「……私も行きます」

 

 クレアにアレクシアとローズ、シェリーはそれぞれ頷きながらシドが戦っている者の存在を知ろうと決めた。

 

「……分かった。なら……っと、どうやら俺には別にお呼びがかかっているらしい。シャドウ、悪いが姉さんたちの事は任せる。皆、後で改めて話をする。今は俺を信じてくれ」

 

シドは自分の後ろに現れたどす黒い血の染みが付いた薄汚れた扉を見て苦笑するとシャドウとなっているアルファを見て言い、次にアイリスたちを見て言う。

 

 アイリスたちは皆、シドに対して頷いた。

 

 そうしてアルファ達はナツメに扮しているベータとイータもそうだが、ネルソンを連れながら、競技場内で出現した扉の中へと飛び込んでいき、シドもまた、自分の後ろに現れた扉へと入る。

 

 こうして競技場内には誰も居なくなったが、リンドブルムの壮麗な聖教会では……。

 

「がるぅぁぁぁぁっ、獲物は全て狩り尽くすのです!!」

 

「シャドウ様は容赦するなと言った。ならば、シャドウ様の敵は全て排除するっ!!」

 

 

 『女神の試練』中のために警備も少ない聖教会を聖騎士や聖職者として潜入していた『シャドウガーデン』の構成員たち、その手引きで侵入したデルタに559番たち襲撃部隊はネルソンや拷問紛いの尋問により、情報を吸い尽くし用無しなので殺したドレイク大司教の一派を皆殺しにしていく。

 

「いくら魔人に魂を売った罪深き者たちとは言え、祈ってはあげましょう」

 

 そんな様子を見ながら、『ディアボロス教団』の真実を知り、『シャドウガーデン』の協力者となる事を決めたとある『聖教』の大司教一派は祈りを捧げるのであった……。

 


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