異世界で生きたくて   作:自堕落無力

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三十一話

 

 

 『聖地リンドブルム』にある『聖域』には魔人ディアボロスの『左腕』が封印されており、ディアボロス教団はそれを利用し、飲めば『覚醒状態』に出来る薬や一年に一度飲まねばならず、一年で十二滴しか生産できないという欠点があるものの莫大な力と不老の肉体を得られる『ディアボロスの雫』を生み出している。

 

 だからこそ、主に『聖域』は『ディアボロスの雫』の生産所だ。

 

 他にもこの聖域は『魔力の核』によって、ディアボロス教団以外の者の魔力を吸い取る仕掛けがされていた。

 

 更に聖域が生まれる経緯もあって、魔人の魔力とディアボロスと戦った戦士たちの魔力がこの地で渦巻いているためにこの渦に行き場を失くした記憶が閉じ込められ、古の記憶と魔人の怨念が眠る墓場となっている。

 

 そんな『聖域』にアルファ達とは別の扉で一人、入ったシドは……。

 

「約束通り、また会いに来たぞ。アウロラ」

 

 石造りの部屋で壁に拘束具で縛り付けられたアウロラへと言いながら、シドは剣を抜き放ちながら、剣閃を繰り出しアウロラを解放した。

 

「嬉しいわ、ありがとう。それとさっきは楽しかったわ」

 

 アウロラは解放されると体のコリをほぐすために伸びをすると礼を言う。

 

「俺も楽しめた。そして、改めて名乗ろう。俺はシド・カゲノーだ。アウロラ……此処から解放されたいか?」

 

「勿論、此処は永遠に繰り返される記憶の牢獄。私には少し、辛すぎるの」

 

 シドの問いにアウロラは頷きながら呟いた。

 

「それじゃあ、取引だ。此処から解放する代わりに……」

 

 シドも又、頷きながらアウロラへ取引を持ち掛けた。

 

 実のところ、『女神の試練』での戦いを通してシドはアウロラの事情を全て把握している。だからこそ、取引を持ち掛けたのだ。

 

「……魔女と取引しようだなんて怖くないの、シド?」

 

 アウロラはシドへと問いかけ……。

 

 

「全て覚悟のうえだ」

 

「私としては此処から解放されるなら、問題ないわ。それに面白そうだし」

 

「なら、決まりだな」

 

 シドは言うと次の瞬間、懐に納めていたスライムに魔力を流して起動させ、身を包ませると黒の化身たるシャドウの姿へと変わる。

 

 

「此処では魔力を碌に使えない筈……」

 

「元々、聖域には来るつもりだったんでな。対策済みだ」

 

 『強欲の瞳』を元にシドとイータにより、『シャドウガーデン』のスライム製の装備は魔力を吸い取られなくなる改造が施されていた。

 

 そして、次に手より霧状の魔力を放ち、アウロラに浴びせる。

 

「私が魔女なら、貴方は魔人ね。私の時代に居てくれたら良かったのに」

 

 霧状の魔力を浴びせられたアウロラは魔力を吸い取られなくなった事でシドに対し、微笑みながら言った。

 

 

「光栄だ。じゃあ、始めるぞ」

 

 そう告げた瞬間、シドから凄まじい魔力が噴出されるとそれが霧状となって、広がっていく。

 

 シドは『聖域』を支配し、自分の『領域』へと変え始めているのだ。しかし、その行為に聖域は反応する。

 

 次の瞬間、シドとアウロラの居る部屋が急変して戦場に変わり、大量の戦士の記憶がシドとアウロラの前に姿を現した。

 

 聖域による防衛行動によるものだ。

 

 

「聖域が拒んでいるわね」

 

「当然だな。という訳で一緒に踊ってもらえるか、アウロラ?」

 

 懐からスライムソードを出現させ、左手にはスライムソードを持ち、右手にはアウロラを拘束から解放したまま持っているミスリルの合金剣を構えながらアウロラに共闘の誘いをした。

 

「良いわ、シドの誘いだから特別よ」

 

 アウロラは赤い触手を出しながら、微笑んだ。

 

 

「それはどうも」

 

 因みにシドは大半の魔力を聖域の支配に割いているため、戦闘に使える魔力は限られているという状態だ。

 

 もっとも使える魔力が少ないという状態どころか魔力を使わない状態での戦闘にシドは慣れているので問題は無い。

 

 ともかく、シドは聖域を支配しながらアウロラと共に襲い掛かってくる大量の戦士と戦いを始めた。

 

 

「ふっ!!」

 

「それっ!!」

 

 シドが繰り出す双剣による剣閃とアウロラが操る触手が縦横無尽に舞い踊り、戦士たちに炸裂し続けたのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 自分が所属する『ディアボロス教団』の幹部こと『ナイツ・オブ・ラウンズ』の第11席のネルソンの精神は現在、追い詰められ続けていた。

 

 『ディアボロス教団』に敵対する組織だという『シャドウガーデン』の首領であるシャドウの正体は自分たちが利用し続けた英雄オリヴィエの末裔のエルフだった。

 

 というより、<悪魔憑き>のために死んだはずなのに生きているのだ。そして、末裔がいるからこそ聖域は反応を示し、オリヴィエの記憶を呼び出し始めてしまった。

 

 そのため、『シャドウガーデン』と更に聖域へと入ってきたアイリスたちの前でオリヴィエの記憶とそれに通じて『ディアボロス教団』が隠してきた事が暴かれていく。

 

 ご丁寧にシャドウは自分たちの情報をかなり掴んでおり、皆の前で解説までし始めた。

 

 

 

「こんな非道な事を、貴方たちは……」

 

「外道ね」

 

「まったくだわ」

 

「酷い……」

 

「なんてことを……」

 

 アイリス王女にバレたのが特にまずい。どうしてこうも自分ばかり厄介事が降りかかってくるのか、追い詰めに追い詰められ……。

 

 

 

「ディアボロスの雫には2つの大きな欠陥があった」

 

 ディアボロスの雫まで知られており、しかも当時の自分がそれを製作している様子も映っている。そう、まだ髪があった時の自分の姿が映っていたのだ。

 

 だからだろう……。

 

「一つは分かるわ、過去のこいつには髪があって今のこいつには……」

 

「髪が無い。つまり、ハゲるのね」

 

 クレアとアレクシアが堂々とそんな事を言ったので……。

 

 

 

「そんな訳があるかぁぁぁぁぁっ!! 髪が無くなったのはストレスのせいだっ、どうせ死なんのだからとどいつもこいつもわしに厄介事ばかり押し付けてきおってぇぇぇっ。何故いつもはいがみ合っているくせにそんなときばかり、協力するのだあいつらはっ。ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 ネルソンはとうとう、ブチ切れてしまった。

 

 

 

『ぅゎぁ……』

 

 全員からの同情の視線がとても痛かった。

 

 

 

「その、悪かったわ」

 

「ごめんなさい」

 

 クレアとアレクシアに謝られた。

 

 

「黙れ、もう良い。こうなった以上、貴様らは皆殺しだぁっ!!」

 

 ネルソンは『ナイツ・オブ・ラウンズ』としての力を解放する。彼には絶対の勝算があった。何故ならこの聖域では彼以外の者たちは魔力を吸い取られるのだ。

 

 『核』がある中心に近ければ近い程、吸い取る量は増えるのでもっと近づいてから仕掛けたいところだったが、もう良いだろう。

 

 

「それが出来るかしらね?」

 

 瞬間、シャドウは嘲りながらネルソンを超える凄まじき魔力を解放する。

 

「んなっ!?」

 

「あら、何を驚いているのかしら? 相手の懐に入るのだからそれ相応の準備や対策をするのは当然でしょう」

 

 魔力を吸い取られていない様子のシャドウにネルソンは驚くとシャドウはまた嘲り、他の『シャドウガーデン』のメンバーも嗤う。

 

「まあ、もっとも……」

 

「っ!?」

 

 シャドウが言う中、ネルソンの体を突如、霧が包み……。

 

「貴方の相手は私達じゃないようだけど」

 

 

 霧が消えるとネルソンの姿は消えていたのだった……。

 


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