異世界で生きたくて   作:自堕落無力

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三十八話

 

 オリアナ王国の国王であるラファエロは表向きの身分としては侯爵家次男であり、裏の身分としては『ディアボロス教団』の手先であるドエム・ケツハットに薬物を使われ、傀儡とされていた。

 

 それは今より昔、オリアナ王国に攻め込んだ十万のベガルタ兵を壊滅させたという秘密の力、『黒キ薔薇』に通ずる鍵を渡すのを拒んだからであり、更にとある細工をして自分がどうなろうとその鍵を使えず、手に入れる事さえできないようにしたからである。

 

 だからこそ、ドエム・ケツハットはラファエロを傀儡にし、そして『黒キ薔薇』に通じる鍵を使用出来る可能性が高いローズへとその魔手を伸ばそうとした。

 

 もっとも、実行しようとした瞬間、シドに介入され彼による断罪を受ける羽目となり、ラファエロは救出された訳だが……。

 

「本当に、本当に良かったです。お父様……うっ!!」

 

 そして、ラファエロと再会し、救出された喜びもあって抱き締めていたローズは父から離れながら、微笑んだが突如、苦鳴を上げて胸を抑える。

 

「ローズっ!?」

 

「どうやら、ローズ先輩も『ディアボロス細胞』の所有者だったようですね。今、馴染ませます」

 

 シドはローズへと手を向けると干渉を開始し、魔力を暴走させようとするディアボロス細胞を抑えながらローズの身へと馴染ませていく。

 

『ディアボロスの左腕』を聖域にてその身に取り込んだシドは魔人ディアボロスの力を使えるようになり、細胞に関しての干渉力も増した。

 

「っ、魔力が溢れて……」

 

「聖域で少しは見たと思いますが、<悪魔憑き>はその溢れる魔力を制御できないことにより自滅していく状態。制御できるようにすれば問題は無いですよ。だから安心してください。ローズ先輩、ラファエロ王」

 

「君は一体……」

 

 ローズの様子を見て、安心そうだと確認するとラファエロはシドに問いかけ……。

 

「紹介が遅れ、申し訳ありませんラファエロ王。俺はミドガル王国に仕えるカゲノー男爵家長男であり、そしてミドガル魔剣士学園の一年のシド・カゲノーです」

 

 シドは仮面を外すと自己紹介をした。

 

「お父様、私が小さい頃に盗賊に誘拐されたのを助けてくれた魔剣士も彼、シド君です」

 

「……なんとっ、では君は私にとって大恩人という訳か……シド・カゲノー君。昔も今も娘をそして、私まで助けて頂き、感謝する。この大恩は必ず、相応しい礼を持って返そう」

 

 ラファエロは娘の言葉に驚くと一度、深呼吸して王として、そして一人の父親として深々とシドに対し、頭を下げて礼をした。

 

「礼を尽くしていただき、恐れ多いです。だが、俺は当然の事をしただけですので……それにまだ終わっていない。どうか、ラファエロ王、恩を返したいというなら、俺に貴方の国を『ディアボロス教団』の魔の手から救うのに協力させていただきたい」

 

「……そ、そんな事まで」

 

 シドからの要求にラファエロは彼の誠意も含めて驚き、感動さえした。

 

「関わったら、最後までというのが俺の信条なのです。どうかこの願いを聞き届けてもらえませんか?」

 

「……此方こそ、どうか助力して頂きたい。素晴らしき『英雄』よ」

 

 そうして、深々と礼をしながらシドへと手を伸ばし、シドはその手を握り、握手を交わした。

 

「願いを聞き届けて頂き、感謝します。それでは詳しい話はこれからという事で……今はもうしばらく、ローズ先輩と親子水入らずの時間を楽しんでください」

 

「シド君、何度も私を助けてくれて、お父様も……そして私の国まで……」

 

 シドへとローズは近づき、彼の顔を愛おし気に見つめながら言う。

 

「困っている人を放っておけないだけですよ。そして、誰かを苦しめる『悪』はもっと見過ごせない」

 

「……本当に貴方は素晴らしいです……シド・カゲノー、私、ローズ・オリアナは永遠の愛を貴方に誓います」

 

 ローズはそう告げつつ、ラファエロの方を一瞬見て、彼が頷いたのを見るとシドへと口づけした。

 

「ありがとうございます、ローズ先輩」

 

 そうして、シドはその身を霧で包み姿を消した。

 

 

 

 

 

「まさか、正しく英雄たる男がこの世界に居るとは……そして、良い男を見つけたな」

 

「はい、お父様」

 

ラファエロとローズはシドが居た方向を見つめつつ、そう、話し合ったのだった……。

 

 

 

 

 所変わって、『シャドウガーデン』の本拠地であるアレクサンドリアのとある部屋では……。

 

「うぐ、あぐぅ、あ、がああああああああああああっ!?」

 

 シドによってこの部屋まで転移させられたドエム・ケツハットは猛毒を消されたが頭に融合していると言ってもいい、シドの手から放たれた霧状の触手が蠢く度に絶叫を上げていた。

 

 無論、他にもドエム側に属していた文官や騎士たちも同じように霧状の触手が頭に融合しており、蠢く度に絶叫している。

 

 シドがドエムたちを操り人形とすべく、脳内からしっかりと浸食をしているからだ。

 

「この際だから言わせてもらうが、ドエム・ケツハットなんて酷い名前を付けられるなんてお前は呪いでも受けたのか? 正直、名前を呼ぼうとする度に吹き出しそうになるんだよ」

 

 そんな事を言いながら、シドはドエム・ケツハットたちを自分の操り人形とすべく、浸食を続けるのだった……。

 


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