異世界で生きたくて   作:自堕落無力

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三十九話

 

 

 ミドガル王国王都で二年に一度、開催される魔剣士の大会である『ブシン祭』の予選は今日、始まった。

 

 一回戦と二回戦は王都の外の草原で行われ、三回戦と四回戦、本戦は闘技場で行われる形であり、シドは『本戦』参加の枠を勝ち取っているため、予選に参加する必要は無いが……。

 

「今年も『ブシン祭』への参加者は多いな」

 

 

 しかし、一回戦が開催されている草原でシドはクレアとアレクシア、シェリーと共に観戦に来ていた。

 

 何事にも油断をせず、生真面目に取り組むシドは選手の分析に来たのだ。

 

 因みにローズが居ないのはオリアナ王国救出に備えて『シャドウガーデン』との仲介を務めるためであり、今は『シャドウガーデン』との連携力を高めるため、本拠地であるアレクサンドリアでシャドウガーデンの構成員と鍛錬したり、幾つかの任務に参加していたりする。

 

 彼女と部隊を組んでいるのは生真面目な性格、青髪に小柄でスレンダーな体型のエルフな664番、金髪で柔らかな雰囲気、マイペースであり、グラマーなスタイルのエルフである665番の二人で部隊長は664番だ。

 

 年齢としては664番がローズより一つ年上、665番がローズと同年齢だったりする。

 

 二人にローズの事を頼むと『はっ、お任せくださいゼロ様』、『はーい、分かりましたシャ「ちょっとっ!!」……ゼロ様』

 

 664番は使命感に燃えながら応じ、665番は打ち合わせしたのに危うくシドの事をシャドウと言おうとして、664番に訂正された。

 

 

「『女神の試練』と違って参加費が必要ない分、多いわね。本戦開始が長くなりそうだわ」

 

 シドの呟きにクレアが答える。

 

「『ブシン祭』へ参加して活躍すれば私たちの城に招いたり、騎士団として雇用したり、他の国に対しての評価になったりそういう得もあるからね……活躍すればだけど」

 

 アレクシアが言うように魔剣士にとってブシン祭への参加は自分の実力や活躍はミドガルだけじゃなく周辺国、他の国々を広める事にも繋がり、活躍さえすれば勿論評価され、経歴を飾る事やそれに伴う優遇があったりするので参加者が増える要因になっているのだ。

 

「皆、やる気満々ですね」

 

シドにクレアたちが観客として寄り添いながら、見ていると……。

 

「おおう、相変わらずイチャイチャしてんなぁシド。ちくしょうが」

 

 同じく観戦していたヒョロが声をかけ、近づいてくる。

 

「よう、お前も観戦しに来たのか。といってもどうせ賭け事してんだろうが……」

 

「ふっ、今回は只の調査だよ。大穴を探したりとかな……もっとも俺はシドを信じているから、お前に賭けるぜ」

 

「そりゃどうも」

 

 ヒョロの目的を察し、問いかけてみれば堂々と宣言したので呆れながら、応じた。

 

 ともかくそんなこんなでシドは予選の開催期間は観戦し、選手の分析をしながら本戦で戦う時のイメージトレーニングを中心に鍛えながら、備えたのだった……。

 

 

 

2

 

 

 予選が全て終わり、ブシン祭の本戦の1回戦が今日、闘技場で開催される。シドの試合はまだなのもあって、アレクシアの好意から用意された王族やそれに近い高位貴族専用の観戦席のチケットを持ってクレアとローズ、シェリーと共に部屋へと向かう。

 

「向こうではどうですか?」

 

「はい、664番さんも665番さんもどちらも大変、良くしてくださってくれます」

 

「それは良かった」

 

その最中、シドは小声で『シャドウガーデン』での行動はどうかや一緒に部隊を組んでいる二人について問えば、ローズは微笑みながら応じた。

 

ともかく、豪華な扉の前にいるスタッフにチケットを渡し、仲へと入れば……。

 

「おはようシド、クレア姉様にローズ先輩、シェリー先輩も……こっちよ」

 

 アレクシアが扉近くで待っており、挨拶するとシドの手を取りながら案内する。

 

「おはようございます、皆さん……シドさんも今回から、試合ですが準備や調子はどうですか?」

 

 アレクシアが案内する方へと行けば、アイリスも居て立ち上がり軽く礼をするとシドに問いかける。

 

「当然、万全ですよ。お心遣い感謝します」

 

「いえいえ」

 

 そうして席に着き(因みにシドの席はちゃっかり、アレクシアの隣であり、これまたしれっと寄り添っていた)、試合の観戦を一同は始める。

 

彼らが観戦しようとする試合はクイントンという体格は良く、筋骨も逞しい歴戦の猛者そのものな大剣使いの男とアンネローゼの試合。

 

そうして……。

 

 

 

 

「うおおおっ!!」

 

「はあっ!!」

 

 試合開始と共にクイントンはアンネローゼへと全力で突撃し、それに対しアンネローゼも応じてクイントンへと駆ける。

 

 そうして、2つの剣閃が輝き……。

 

 

 

 

「うぐあああああっ!!」

 

 クイントンがアンネローゼの剣閃によって、地に倒れ伏した。

 

「流石は元『ベガルタ七武剣』のアンネローゼさん。強い……」

 

「はい、本当に強いです」

 

 目を見張るアイリスの言葉に答えるシドであるが、アンネローゼとシドがブシン祭開催の前に出会った時、『女神の試練』の時に手ほどきをしたのをアンネローゼから聞いているシドの隣のアレクシア、反対の席でやはり隣となっているクレアがシドの手を密かに抓ったり、足を踏んだりしていた。

 

 

 

 

「それじゃあ、そろそろ試合だから準備してきます」

 

「はい、シドさんの試合、楽しませてもらいますね」

 

「頑張んなさいよ」

 

「しっかりね」

 

「お気をつけて」

 

「いっぱい応援しますね、シド君」

 

 シドが立ち上がり、皆へと言うとアイリスたちは笑顔で応じ、部屋を出るシドを見送り、部屋を出たシドは廊下を歩いていく。

 

 

 

「エルフの匂いがする」

 

 廊下を歩いていると灰色のローブで顔も体も隠した者がすれ違いつつ、シドに濃い青色の瞳で見ながら呟いた。

 

 

「確かに何人かエルフの方と仲良くしていますからね、俺はシド・カゲノーと言います。貴女は?」

 

「私はベアトリクス。私と良く似た顔のエルフを知らないか? 妹の忘れ形見を探しているんだ」

 

 ベアトリクスは名乗ると近づきながら、シドへと問いかける。

 

「人付き合いは苦手なようですね、フードで顔が見えないから、分からないんですが」

 

「そうだった、ごめん」

 

 ベアトリクスは苦笑して指摘するシドの言葉に謝りながら、フードを取った。その顔はアルファに彼女の祖先であるオリヴィエに良く似ており、血が繋がっていると言われても信じられる程である。

 

「……顔が似ているかどうかで言えば、知り合いに居ますよ。それがベアトリクスさんが探しているエルフかどうかは断言できませんけど」

 

「どうか一度、会わせてもらえないだろうか?」

 

シドの言葉にベアトリクスは頼み込み……。

 

「……彼女は今、仕事中で居ないから少し待つことになるし、ベアトリクスさんの探しているエルフで無かったとしても借り一つにしてもらいます。それで良いなら……」

 

「うん、私に出来る事ならなんでもする」

 

「なんでもするなんてあまり、言わない方が良いですよ」

 

 言いながらもシドは懐からメモ帳を取り出し、ペンで書いていく。

 

「これをこの国にある『ミツゴシ商会』の店員にでも見せてください。良い対応をしてくれますし、俺も後で話をしにいきます」

 

 そして、メモ帳を破き、内容を記した紙をベアトリクスに手渡す。

 

「うん、ありがとう。それとあと一つ……」

 

 ベアトリクスは礼を言いながら、受け取ると懐に納めて、そして流れるような動きかつ自然な動きで鞘から剣をシドに向かって、抜き放ち……。

 

 

 

「満足しましたか?」

 

「……っ、凄い……」

 

 一体、どんな技量か……シドへとベアトリクスの抜き放った剣は彼女の意識も反応も許さず、シドの手に奪い取られ、ベアトリクスの首へと突きつけられていた。

 

それにベアトリクスは驚く。

 

「本当に驚いた、シドは私より強いね」

 

「それはどうも……お返しします」

 

「ありがとう」

 

 剣を回すようにして柄の方をベアトリクスに向けると彼女は受け取り、鞘に納める。

 

 

 

「では、俺は試合があるのでこれで」

 

「うん、頑張って、私も応援するね、シド」

 

「光栄です」

 

 そうして、シドはベアトリクスから去っていく。そんな彼の背中をベアトリクスは…。

 

「……(こんなに心地良いのは初めて)」

 

 心地良い気分に身を任せながら、微笑んで見つめるのだった……。

 

 

 

 


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