『ブシン祭』本戦での対戦相手であるゴルドー・キンメッキとの試合に勝利したシドはクレアたちが居る高位貴族用の観戦席まで戻ろうと廊下を歩いていた。
「試合の勝利、おめでとう。シド……まあ、貴方の勝利は疑っていなかったけど」
すると自分が来るのを待っていたであろうアンネローゼが居て、勝利を祝う言葉をかける。
「ありがとうございます、アンネローゼさん。それとアンネローゼさんも勝利、おめでとうございます。女神の試練であった時からかなり強くなりましたね」
「ふふ、ありがとう。もっともその切っ掛けを与えてくれたのはシドだけどね。それで言えば、ゴルドーもきっと強くなると思うわ」
「はい、俺もそう思います。ゴルドーさんは将来的にはかなりの魔剣士になるでしょう」
「貴方って本当、面倒見が良いというかなんというか……教官とか向いてるわよね」
「いえいえ、俺なんてまだまだ未熟な若輩者に過ぎませんよ」
「いくら何でも謙遜しすぎよ。貴方が未熟なら私達だって未熟になっちゃうわ」
苦笑して言うシドにアンネローゼは溜息を吐いて、そう言った。
「それには私も同感ですね」
そのアンネローゼに続いたのは試合の準備のために廊下を歩いていたアイリスである。
「アイリス王女!! 初めまして、私はアンネローゼ・フシアナスと言います。貴女のブシン祭での活躍はベガルタでも聞いていました。こうして会うことが出来て光栄です」
アンネローゼは驚きながらもアイリスへと挨拶をした。
「こちらこそですよ、アンネローゼさん。貴女の試合は見させていただきましたが、大変素晴らしかった。それとシドさんも……二人とも、勝利おめでとうございます」
『ありがとうございます、アイリス王女』
アイリスからの称賛に対し、シドもアンネローゼも深々と頭を下げながら礼をする。
「ふふ、私も負けてはいられません。ではこれで」
そうして微笑みながら、アイリスはシドとアンネローゼの元を去り、試合へと向かっていく。
「シド、明日の二回戦は全力で挑ませてもらうわ。貴方と戦うのを楽しみにしていたもの」
アンネローゼが挑戦的な表情で告げる。彼女が言うように明日の二回戦ではシドとアンネローゼが戦う事になっていた。
「それは俺もですよ」
そうして二人は右拳を突き合わせた。
「それじゃあね」
「はい」
お互い、戦いに向けての誓いをすると別れ合うとシドは観戦席へと戻り、アイリスの試合をクレアたちと共に観戦する。
「アイリス様も強いな」
シドが言うようにアイリスは騎士団の体験入団中はクレアとそして、ブシン祭が行わる前まではアレクシアと鍛錬したりして、つまりはシドの指導を受けた彼女たちを通して実力を上げ続けていた。
その実力を遺憾無く発揮し、一撃で対戦相手を倒したのだ。
「ええ、アイリス王女は強いわよ。それに努力家でもあるしね」
「私もシドたちが里帰りしてるとき、鍛錬にいっぱい、付き合わされたわ」
「流石はアイリス王女、伊達にブシン祭で何度も優勝してませんね」
「女性として、格好良いですね」
クレアにアレクシア、ローズ、シェリーがアイリスについてそう話していく。
そうして、シドたちは話をしていると……。
「今、戻りました」
試合を終えたアイリスが戻ってきた。
「アイリス王女、大変素晴らしい試合でした……それと失礼、髪が乱れています」
「ぁ……うう、また……」
シドは席から立ち上がり、勝利を賞賛しながらアイリスへと近づき、彼女の髪を手櫛で梳かし、整えながら軽く撫でていく。
その心地良さにアイリスは浸らされ、受け入れてしまう。
『(これかーっ!!)』
そしてアレクシアにクレアはアイリスがシドに惚れた原因を悟った。
「これで良しです」
「あ、ありがとうございます……」
「どういたしまして」
アイリスは恥ずかしさもあって、頬を赤に染めながらシドへと礼を言い、シドはそれを受け取る。
「シド、久々に私もやってよ」
「それじゃあ、私も」
「私もお願いします」
「皆さんと同じく」
そうしてクレアたちもシドに手櫛であり、撫でるのを要求しシドはそれに応えたのであった。
因みにアイリスの次の試合だがアンネローゼにシドにアイリスとそれまでの試合で全員、一撃で勝利しているのもあって、一撃で倒せなければならないというような雰囲気が出来てしまっている中、なんとかそれをやり遂げたツギーデ・マッケンジーは凄まじい程の達成感とそれによる喜びで涙を流したのであった。
もっともそんな彼の二回戦の相手はアイリスであるのだが……。
2
『ブシン祭』が開催されているミドガル王国王都へとやってきたエルフのベアトリクスは自分の妹の娘、つまりは姪を探しに来たというのが王都を訪れた理由である。
そして、彼女の名は有名だ。
何故なら、『ブシン祭』の初代優勝者であり、『武神』や『剣聖』という二つ名を持っている。
因みに彼女の年齢は百歳であり、長命種族なエルフとしてはこれでも若い方である。
ベアトリクスは今まで、そして姪を探している現在においても長い旅の道中、色んなものを見てきた。それでも……。
「貴女も私の子孫なのね」
シドにより、彼女の姪であろうアルファが仕事を終えて戻ってくるまでの間、ベアトリクスは『ミツゴシ商会』で客人として迎えられる事となったのだがそんな彼女の前にオリヴィエが現れる。
因みにオリヴィエはシドの指示などが無い時は、アウロラと共に変装しながら王都の街を出歩いていたりする。
『ディアボロス教団』の手や聖域からも解放されたとあって、自由を謳歌しているのである。
そして、シドの指示あって、ベアトリクスの前に姿を現したオリヴィエ。
彼女を見て、ベアトリクスは……。
「え、ご、御先祖様……? え……は、え????」
オリヴィエの事は知っていたようだが、それでも目の前に居る事に大混乱し……。
「……」
今にも頭から煙を出すような様子さえ見せながら固まった。彼女の処理能力では対応できなかったのだ。
「おお、固まってる固まってる……ふふ、ベアトリクスにとってはこれ以上無いくらいのサプライズになった訳だな」
「本当に見事な固まりようね。無理も無いけど」
シドは愉快気に良い、アウロラも微笑みながら、ベアトリクスの前で手を振り、固まっているのを確認する。
そうして、時間が経ち、ベアトリクスが正常に戻るとオリヴィエについて事情を説明した。
「ご先祖様を助けてくれてありがとう、シド。君は今まで会った人間の中でも良い人だ」
「嬉しい言葉をありがとう、ベアトリクス」
ベアトリクスはシドに畏まらず友人として接して欲しいと言ったのでシドはそれを了承している。
そうして、ベアトリクスからの感謝を受け取りながら、同じく礼を言ったのだった……。