この世界でいう〈悪魔憑き〉の状態となっていたオルバ子爵の娘、ミリアを救出した『シャドウガーデン』。
ミリアは『シャドウガーデン』の首領であるシャドウことシド・カゲノーと父親であるオルバが残した遺書と日記よりこの世界で隠された真実であり、『悪』。
その『悪』に魂を売るほどに自分を愛してくれたオルバの愛を知り、そうしてミリアは新たな『シャドウガーデン』の仲間、シータとなることを決めた。
王国王都の『ディアボロス教団』のアジトと口ぶりから次期幹部であったゼノンを倒した事で無視できない被害を教団に与える事は出来たがそれでも組織力は教団の方が上なのは明白。
対抗するためにも情報収集もそうだが、更なる戦力の増強や資金力に政治力、組織としての秘匿性を手に入れる事が急務であった。無論、本拠地を手に入れる事もだが……。
とりあえずは世界を旅しながら、表立って情報収集や資金力などを得られるようにシドはアルファ達と共に『商隊』や『傭兵』などを兼ねる『旅団』として活動するようにした。
無論、裏では『シャドウガーデン』としての活動もする。
首領であるシドはシャドウガーデンの総指揮と統括を担当し、副首領のアルファはその補佐。
ベータは情報の分析と記録、教団の調査と〈悪魔憑き〉の救助を担当。
ガンマはガーデン全体の運営と調整を担当。
デルタは戦闘要員であり、イプシロンはシータと共に〈悪魔憑き〉の救助における実働要員として様々な局面のバックアップを担当する。
ゼータは全体的な諜報要員であり、本拠地に最適な場所も探してもらっている。
イータはガーデンに有益な研究と建築のための開発担当だ。
本拠地は未だに獲得は出来ていないが、それでも自らの転生前の世界での技術や文化をシドは惜しみ無く使って、ディアボロス教団と戦いながら表でも裏でも組織力を発展させていく。
そして、今日も又……。
「やあっ!!」
『旅団』として世界を旅しながら、ゼータの調査力もあって本拠地としてはともかく、仮の拠点として使うには十分な場所、そこから少し離れたところでシドを相手に『シャドウガーデン』の戦闘要員であるデルタは果敢に突撃する。
元々、狩りをしながら日々を過ごす獣人が故か戦闘的行為をしていなければ血が疼いてしまうらしく、シドはガス抜きも兼ねてデルタと鍛錬を重ねる事が多い。
「ふっ!!」
「はあっ!!」
「せやあっ!!」
デルタに合わせるようにアルファにベータ、イプシロンとシータがそれぞれシドへと攻めかかっていく。
彼女たちも又、教団との戦闘を重ねる役割を持つのでシドによる鍛錬を重ねている。
他にも彼女達だけでなく、定期的にガンマ、ゼータ、イータも必要最低限の鍛錬をシドは課しているが……。
そして、シド以外の全員、ディアボロス細胞の所有者であるために常人より遥かに膨大な魔力を有していて、それを使うだけでも並大抵の相手なら簡単に屠れるだけのものは有している。
現在……アルファにベータ、デルタにイプシロンとシータは全員その膨大な魔力を存分に駆使してシドへと挑みかかっている。
対するシドは『魔力』の使用を封じた状態、更に手にする武器もアルファたちは魔力伝導性に優れるスライムを加工した武具を使っているのに対し、伝導性もくそもない木剣を用いて対抗していた。
曰く、魔力を封じられた状態での戦闘経験を重ねるためであり、更なる技量と戦闘感覚を養うため……前提的なものとしてシドは日々、日常の生活を送る中でも体内で魔力を圧縮し、爆発を高速に繰り返して蓄積し、それを練り上げ溜め込み続けている事で量も質も上げ続けているし毎日、少しの時間を割いてでも作っている鍛錬の時間においてはその魔力を己が血に変えるが如く、馴染ませ続けている。
それもあって、シドの肉体も魔力に適応するために『器』としての進化をし続けていた。
つまり、魔力による強化をせずとも常人を超えた強度を有しているのだ。
無論、この鍛錬中において魔力による強化をしているアルファ達とはそれでもスペックでは遥かに劣っているのだが……。
そう、普通なら瞬く間にアルファ達に叩きのめされるのは確実な状態なのに……。
「はあっ!!」
シドが木剣を踊らせる。それだけで……。
「きゃうんっ!?」
「っ!?」
「うっ!?」
「まさかっ!?」
「嘘……っ」
魔性の絶技ともいうべき域にあるシドの剣技によって踊る木剣はアルファたちの攻撃を捌き、反撃を炸裂させる事で勝機を手繰り寄せた。
「良し、今日はこの辺で良いだろう」
わずか数分で一対五という劣勢状況を覆し、勝利を掴むとそう、アルファ達へと告げる。何故ならこの後、イプシロンとシータが掴んだ〈悪魔憑き〉を運び込んだ『ディアボロス教団』のアジトへと踏み込む。
今回の鍛錬は戦闘前の準備運動を兼ねるので軽いものであった。
『はっ、シャドウ様』
デルタはシャドウの揺るぎない力に感動すらしながら、他も全く底が見えないどころかさらに力を求めるシャドウの意思に震えすらしながらも彼を支えるべく、動き出すのであった……。
2
自分は自分の仕える国に忠誠を捧げ、奉仕してきた。それは確かに評価され、地位も名誉も得てきたのだが……それは一瞬にして文字通り、崩れ落ちた。自らの身すらも……。
しかし……。
「安心しろ、これでもう大丈夫だ」
自分の前に現れた存在――シド・カゲノーと名乗る少年により、自分は復活させられる。
そして元はベガルタ帝国所属の高位軍人であり、諜報員として活動していた事もある長い髪を後ろで結った褐色のエルフはその目でシドに王としての資質を見た。
シドに従うアルファたちの言葉、ディアボロス教団の事など全てを聞いた褐色のエルフは……。
「消えるはずだったこの命、シド様……貴方たちに捧げよう」
「そういう事なら歓迎させてもらうよ……これから貴女の名はラムダだ」
こうしてシドは教官として優れている上、諜報員として活動していた事で各国の風土から情勢に詳しく、軍事顧問をも務められる優秀なラムダを手に入れることが出来たのであった……。