ミルキのネトゲ友達   作:湯切

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「生きる楽しみがない〜!」

「やだー!! パパの嘘つき、大っ嫌い!!」

「…………うるせェな」

 

 キルミーとのゲームを終えてネオンが寝ているベッドに潜り込んでから、えっと……何時間だ? それとも何分?

 

 しょぼしょぼする目を必死に開けてみれば、暗かったはずの部屋は自然光によりすっかり明るくなっていた。少なくともあれから数十分後、なんてことはなさそうだ。

 

「ネオン?」

 

 はた、と意識が鮮明になってくる。俺の隣で寝ていたはずのネオンは、右手に持った携帯を耳にあてた状態で――両目にたっぷりと涙を溜めていた。

 

「うるさいって……セレンが、あたしに……うるさいって……!!」

「あっ、ちょっ、嘘嘘! そんなこと思ってない、寝起きだったからだよ!」

『セレンが起きたのか?』

「……父さんと電話してたんだ」

 

 朝に弱い俺にどうしろと。電話向こうの父さんから「助けて」オーラが透けて見える。

 

 どうせ自分で蒔いた種だろ? 自力でなんとかしてくれ。

 

 とはいえ、ネオンは父さんではなく俺の目の前にいる。ここでいつもの癇癪を起こされてはたまらない。……どうしよう。

 

「ネオン。父さんと何話してたの?」

「……あたしとセレンが欲しいって言ってた誕生日プレゼント、両方手に入らないって。ほっ、他のに、しろって!」

「あー、アレか」

 

 しゃくり上げながらも、なんとか教えてくれた。

 

 ネオンは何が欲しいって言ってたっけ?

 俺がお願いしたやつはダメ元だったから別にいい。世界に一つ二つしかないような貴重なやつってわけじゃないけど、シンプルに値段が高いってのと、手放す人間がなかなかいないから入手難易度はそれなりだ。

 

 ついにベッドの上の枕にゴスゴスと拳を打ちつけ始めたネオン。そろそろやばいな。

 ほっぽり出された携帯を拾って、自分の耳に当てる。

 

「父さん。俺のはいいから、ネオンのだけでもどうにかならない?」

『そうしてやりたいんだが……』

「ダメなんだ」

『ああ』

 

 ネオンの望みは可能な限り叶えようとする父さんがダメってことは、相当なものを強請ったんだろう。

 クルタ族の眼とかかな。ネオン、欲しがってたし。

 

「分かった。とりあえずこっちで何とかするから、父さんは代替品でも探しといて」

『悪いな。お前がいてくれて助かるよ、セレン』

「じゃあね」

 

 ブチッ。通話終了ボタンを押す。

 

 なぁにが助かるよ、だ。わざわざこの時間にネオンに電話したのは、俺がそばにいる可能性が高かったからだろ。初めから俺に全部押し付ける気満々じゃねーか。

 

「ぜーったい欲しいのー!! アレがなきゃいや!!」

「…………」

 

 どうすっかなあ、これ。

 

「ネオン……とりあえず気分転換に庭を散歩でも、ぐふぅっ!?」

 

 宥めようと近づいたら至近距離で枕投げを食らった。

 

 

 

 結局ネオンは泣き疲れてそのまま寝てしまった。身体が弱いのに部屋を半壊させるレベルで暴れ回ったせいか、その顔色は良くない。

 時々ぐずぐず鼻を鳴らしてるネオンの隣に寝そべって、その手を握る。空いている方の手で自分の携帯で文字を打つ。

 

《今日のゲーム無理そう》

《なんかあったの》

《ちょっとね。明日は大丈夫》

《明日はオレが無理》

 

 えー!! と思わず叫びそうになって、慌てて口元を押さえる。ちらりとネオンの方を見れば、すやすやと眠ったまま。セーフ。

 

 メールの相手はキルミーだ。

 

 ……そっかあ、今日も明日もキルミーとゲーム出来ないのか。

 

「生きる楽しみがない〜!」

 

 小声で叫んで、ぼふんっと枕に真正面から顔を突っ込む。

 ネオンを起こさないよう控えめに足をバタつかせる。

 

「…………」

 

 これは、俺も眠いかも。朝早くに叩き起こされたせいかな。

 

 そろそろいいだろと判断してネオンと繋いでいた手を離す。

 

 あー疲れた。黒服たちが痺れ切らして部屋に突入してくるまで寝ていよーっと。

 

 

 

「今日からお前とネオンに専属の護衛をつけることにした。ダルツォルネだ」

「よろしくお願いします。ネオン様、セレン様」

 

 一目見て、これまで見てきた黒服たちとはどこか違うなと思った。

 どこがどう違うかって言われると……分かんない。なんかそう、雰囲気。

 軸がしっかりしてるというか、ブレそうにない感じ。

 

 俺とネオンの誕生日。父さんは物ではなく人をよこした。しかも、やけに顔が厳ついおっさんを。

 

「え。いらない。今すぐ返品してきなよ」

「へ、返品……?」

 

 ダルツォルネという屈強そうな男が「聞き間違いか?」という顔で聞き返してくる。

 

「クーリングオフだよ。どこがどうなったら、俺のグリードアイランドがこんなおっさんになるわけ?」

「おっさん……」

 

 すでに父さんに伝えていたようにグリードアイランドはもういいんだけど。期待してなかったし。

 

「セレン、ダルツォルネはお前たちへの誕生日プレゼントではなくてな……」

 

 だからってゲームじゃなくて生きてる人間贈られてもなーと思っていたら、それも違ったらしい。

 

「他にも数人の手練れを用意してある。ネオンの能力はコミュニティー内で知らぬ者はいない。今後どんな危険があるか分からないからな」

「……ふーん」

 

 こちらを見下ろしてくるダルツォルネをじぃっと見上げる。確かに、強そうだ。

 顔が似てるせいで俺をネオンだと勘違いした輩に攫われそうになったこともあるし、この男のそばにいれば安全かもしれない。

 

 ニコッと笑う。

 

「よろしくね」

「はい」

 

 ダルツォルネを見上げすぎて首が痛くなってきた。コイツ……低身長の相手に合わせて膝を折るとか、そういう気遣いも出来ないのか。

 いや、俺もこれからぐんぐん伸びるけどね? まだ十三歳だし。前世はバベルの塔みたいなもんだから。

 

 キルミーが聞いてたら「その例え意味分かんねーよ」とツッコミが入りそうなことを考えつつ、父さんからの誕生日プレゼントの開封会をしているネオンのところへ向かう。

 

「セレン! みてみて、250年前に絶滅したオオクギナガシクジラの体毛だって!」

「……クジラって体毛あるの?」

 

 どこもかしこもツルツルのイメージしかない。……口髭とか? そういえば俺、クジラをちゃんと見たことないな。

 

 他にも高名な画家の小指の爪(今も生きてる人のはずだけど剥がしたのか……?)とか、◯◯国の王子の歯型付きチョコレート(シンプルにいらんだろ)とか、俺からすればゴミ同然のものを見てキャッキャッと喜んでいるネオン。

 

 ネオンの好みはイマイチ理解できない。まあでもネオンも俺の趣味(ゲーム)の良さが分かんないって言ってたしお互い様か。

 

「セレンのはこっちだって」

 

 ネオンが指差した先には天井に届きそうなくらい積み上げられた箱の山。なんか見てるだけで胃もたれしそう。

 

「あ、ねえ。ダルくん。これ全部俺の部屋に運んでくれない? ゲーム部屋じゃない方ね」

「ダル……とは、私のことでしょうか」

「そうだよ?」

 

 ダルツォルネは長くて言いにくいから、ダルくん。

 いーじゃん。

 

「ダルちゃん!」

 

 早速便乗してきたネオンが指差しながらくすくすと笑っている。

 

 ダルくんは俺のプレゼントの山を見上げてちょっと遠い目をしていた。

 

 

 

 誕生日の翌日。俺はいつものようにゲーム充すべくゲーム部屋にやってきていた。

 

「俺、こっから10時間はゲーム部屋から出ないから。ネオンのところにいていいよ」

「そういうわけにはいきません。私は扉の前にいますので、いつでもお声がけください」

「真面目だなぁ、ダルくん。でも、ここ寒いしやめたら?」

「いえ。セレン様はどうかお気になさらないでください」

「……そう?」

 

 本人がいいって言ってるならいいか。好きにさせとこ。

 

 これまでの護衛たちはみんなネオンばかりで、俺のことは二の次だった。

 そのことに不満を抱いたことはないし、正しい判断だと思う。そもそも雇い主である父さんの指示だろうし。

 

「出世したいなら、俺じゃなくてネオンを護衛できるよう根回しした方がいいよ」

「…………」

「ジャンケンで負けたなら仕方ないよね」

「ごっ……ご存知だったんですか」

「……いや、冗談、だったんだけど」

「…………」

 

 なんだこいつ。意外とそういうキャラなんだな? そうなんだな?

 

 

 

『ふーん』

「ふーんて何だよふーんて。他にもっと言うことあるだろ」

 

 俺昨日誕生日だったんだー! とキルミーに報告したら返ってきた反応がこれだ。

 興味すらないってか。黒服たちですら義務感たっぷりの「おめでとうございます」をくれるのに。

 

「今年はダメ元でグリードアイランドおねだりしてみたんだけどなー。キルミーは持ってる? やっぱオークションに張り付かないと厳しいのかな」

『……ハンター専用の?』

「そそ。でも、ハンターライセンスが必須ってわけじゃないんでしょ? 俺でもプレイくらいはできるんじゃないかと思って」

 

 やっぱりキルミーも知ってたみたいだ。この様子だと俺と同じで持ってないんだろう。

 

「落札できるだけの金は――多分ある。でも、市場に流れてくるタイミングと俺の都合が今のところ合わなくてさ」

『…………』

「以前、前の雇い主がグリードアイランドを持ってたってヤツが俺のとこにいたんだよ」

『そいつはプレイしたことあんの』

「ないって。でもさぁ……少なくとも俺にはゲームを開始することすらできないって言われた」

『……どういう意味だ?』

「分かんない。そのうち聞こうと思ってたら、そいつ俺の代わりに死んじゃったんだよね」

 

 俺なんかのために死ぬなんてバカみたいだ。

 仕事だからって、大人は大変だなあ。

 

「そういうわけでさ、今度受けてこようと思ってるんだ」

『なにを』

「ハンター試験」

『…………は?』

 

 相当びっくりしたらしい。パソコンの画面の端に映っているキルミーのキャラクターの動きすら止まってる。

 

『お前……いいとこの坊ちゃんとかだろ。ライセンス目的なら買うなり持ってる人間連れてくるなりすれば?』

「でもそれだと結局俺はゲームをプレイできない気がするんだよ。護衛はついてくるだろうから死ぬことはないだろーし」

『世間知らずもここまでくると…………死ぬぞ』

「なんかキルミーに言われるとそうかもってなるじゃん。やめてよ」

『お前はハンター試験受けるのをやめろ』

「えー」

 

 そんなにやばいのか、ハンター試験。

 なんでも知ってるキルミーがここまで止めるってことは……マジで死ぬ? ダルくん連れてってもダメ?

 

「じゃあ一旦保留にしとく」

『一生しとけ』

「キルミーくんの貴重なご意見は今後の参考にさせていただきます」

 

 一生は重い。そんな約束は背負えない。

 


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