転生者は『ハル』に春を届けたい   作:幸色

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幸色の時間は終焉を迎える


9話 終幕のワンルーム

「おい!起きろ『フユ』!」

 

 朝イチ、気持ちよく寝ていた所を無理やり起こされる。

 

「なんだよ松葉瀬」

 

「なんだよじゃねぇよ!アイツが消えた!!」

 

 分かってる、それは昨日も見た展開なんだ。2回目を繰り返す必要はない。

 

「お兄さんおこせ、すぐ作戦会議だ」

 

「あ、あぁ」

 

 

 

 

***

 

 

 

「すぐに電車に乗って行くぞ、帰りはどうせ夜になる、それと荷物は全部くさっぱにでも隠すかしてどうにかするぞ、部屋は両方とも松葉瀬に解約してもらう」

 

「ちょっと待て、マスクに理解の時間を与えてやってくれ、話についていけてない」

 

 本来なら松葉瀬、あんたに説明してもらう場所だが生憎時間があるかはわからない。

 無理やり原作に捩じ込まれた歪みがどこで爆発するかわからないことを忘れていた、雑ななろうでも原作に勝手に入ったやつのせいでメチャクチャになった作品なんかがあったように、俺がここで松橋の左腕になりかけてるせいで未来が変わってるかもしれない。

 本来八代が次の日の朝に起きたってだけでも気づいてどう活かしなきゃいけない案件だったんだ。

 

「整理できたか?」

 

「あぁ、とにかく電車に乗って早く幸の家まで行こう」

 

「松葉瀬はすぐに解約を、それしたらすぐに合流して電車乗るぞ」

 

 

 

 すぐに解約自体はすることができたが代わりに電車に乗る時間も同じ速度になった。

 ガタンゴトンと、揺れる電車内で、松葉瀬は顔を伏せろとマスクに言った、ニュースで似顔絵が公開された。

 

「大丈夫だ、俺らがついてる。さっさと取り返してまた振り出しに戻るぞ」

 

 

 夕方、電車から降り事務所に戻った頃にはもう真っ暗だ。

 松葉瀬が彼女の家に探偵として行った、結果は史実と同じ、あそこにはいないとのことだ。

 

「すぐに探しに行かないと!」

 

「待てマスク、落ち着いて考えろ」

 

「でも…」

 

「父親を明日からつける、何か証拠になるものがあれば」

 

 俺も知っている情報はアパートの一室としか理解ができていない、無理に口出しするのは危険だ。

 

「明日証拠を集めて会いにくる、それまで各自警察にバレないように慎重に行動しろ、以上」

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「これは…」

 

「浮気だな、その証拠写真」

 

 さすが探偵だ、1日だけなのにこれだけの証拠を掴んできた。

 

「後はこれを調理するだけだ…八代か俺、どっちが向かう?」

 

「お、俺ですか!?」

 

 なんで俺なんですかと言う表情でこちらを向いてくる。

 

「マスクと松葉瀬は顔が割れてる、これ持って行っても情報ひとつ手に入れられない、俺とあんたは顔が割れてないから新聞記者にでもなりすませばうまく行くだろ、それともお前いきたいか?」

 

「今回は…俺が行きます、俺が行けばいい気がするので」

 

 あんた原作でもそんなキャラだったっけ、まぁいいや。

 覚悟を決めた目をしている八代にイヤホンやら松葉瀬からの説明やら大量の準備を施していざ出陣、×××の家に突っ込んだ。

 

 結論から言うと大収穫、×××の今いる場所もわかった。

 

「ありがとう…これで救える」

 

 『幸』も松葉瀬も八代も

 

 

 

 『ハル』も

 

 

 

「とにかく『幸』のためだ…最良の決断をしてくれ、松葉瀬」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「大丈夫ですか?今日が最終日ですよ」

 

 八代が心配そうな表情をしながら俺の顔を覗き込む

 

「警察の車…動いたんだな、俺が寝てる間に」

 

「そうだ、起こしても起きなかったから無理やり車に連れ込んだ」

 

「いいんだ、ありがとな松葉瀬」

 

 

 

 

 

『今までのどこかで聞いてるんだよね、おじさん』

 

 

「ッハ、さすがだな…行くか松葉瀬、八代」

 

「突入だ」

 

 

 

 

 

 

 捕まった、あの×××の母親が。

 囲まれている、次は×××に許しを乞い始めた、ビンタを食らう。

 

「今日から君は自由だ」

 

 お兄さんも最後の言葉を残している、これから刑務所に入るからな。

 お兄さんとして、彼は『幸』を抱きしめた、そして手を繋ぎ、階段を降りようとした瞬間、発砲音が聞こえた。

 

 

 最後だ。

 

 次の瞬間、放たれた凶弾は、『幸』でもなく、彼女を庇った『ハル』でもなく。

 

 『フユ』である俺に当てられた。

 

 

 

 

 体が痛い、まだだ。まだ撃ってくるかもしれない、立ってないと。

 

「取り押さえろ!」

 

 ×××の母親は取り押さえられた。

 

 よかった、これで全部やりきった。

 

 頭もうまく回らない、大して魅力のない人生だったな。

 でもまぁ…この二人に見守られながら死ねるなら本望か…

 

「じゃあね、『ハル』。幸せにしてやれ…よ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

****

 

 

 

 

 

 

 

「今までありがとうございました」

 

 一人の青年が刑務官に向かって頭を下げる、もう二度とするなよと警官はその頭を曇りのない笑顔でこづいた。

 

 その近くには一人の少女…女性が彼を迎えにきていた。

 

「お兄さん、『幸色のワンルーム』もう一度最初から始めようか!」

 

 彼はその問いに笑顔で答えた。

 

「そうだね、アイツが残してくれた分僕らがしっかりしないと」

 

 

 二人は行き先を決めずに歩き出した。

 

 もう一度始める『幸色のワンルーム』に向かって

 

 

 

 

 

 

 

 

 




後書き
初めまして、作者でございます。
この作品を読んでいただいたことにまずは感謝を述べさせていただきます、ありがとうございます。
1週間しかかけていないような、ネタもしっかり考えたわけでもない作品を読んでいただいた方々には頭が上がりません。
実は地の文が少なかったり、文章量が少ないのは、彼を視点としているので彼がそれだけあの二人を助けること以外何もせずに生きてきたと言う空っぽな人生を指しています。
彼は最後まで貫き通せましたね、そこが幸いです。
以上です、この作品に付き合っていただいてありがとうございました。
またどこかで会いましょう

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