ブラッド&カース   作:パン粥

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呪われた混血

 

「なっ…テメェ!?」

 

 しまっ…! 油断した!

 

 俺を押し倒しながら噛みついてきた女魔族はそのまま血を吸い始める。かなりの激痛が首に走るが、なんとか耐えてCQC(近接戦闘術)で女との形勢を逆転させる。

 

「あう!」

 

 さらに、女の首を絞めながら獲物の銃口を額に向ける。

 

「う、撃たないで!」

 

「…」

 

「お、お願い…まだ死にたくないの……」

 

 なんだこいつ…いきなり襲ってきて、反撃されたら命乞いとかイカレてんのか?

 

「お前が襲ってきたんだぞ」

 

 そのまま、引き金を引こうとすると…

 

「ま、まって…あなた…八雲さんの子どもの綾瀬詩音…だよね」

 

「……は?」

 

 こいつ何て言った? 父さんの名前を言った…父さんの知りあいなのか? それにどうして俺の名前を…

 

「お前、何を知っている。全て話せ」

 

「は、話すからお願い…首から手を離して」

 

「…わかった」

 

 情報を聞き出すため首を絞めていた手を離して少し離れる。だが、またいつ襲ってきてもいいように銃口は向けたままだ。

 

「えっと…私はシルヴィ・ラベンダー、幼少時の頃にあなたのお父さん、八雲さんと知り合ったの」

 

 まさか、血銀の英雄とも呼ばれた父さんに魔族の知りあいがいるなんて。

 

「どういった経緯で知りあった?」

 

「ご、ごめんなさい。それは詳しく覚えてなくて…でも、たまに家に来ていたの。写真もほら」

 

 そう言うと、シルヴィは胸元から写真を取り出して見せてくる。そこには、父さんと幼い頃のシルヴィらしき人物が一緒に写っていた。恐らくだが本物だろう。

 

 こんな写真は俺も知らない。だが、どうして父さんは魔族と交友を? 父さんは超がつくほどの魔族嫌いなのに。

 

「それで、ある日のことなんだけど…八雲さんが私に『困ったことがあれば俺の息子の詩音を頼れ、俺と同じ目をしているから分かるはずだ』って言って消えちゃって」

 

「それはいつ頃か覚えているか?」

 

「こ、細かくは覚えてないけど…私が十一歳の頃だったから六年前だった…はず」

 

 六年前…父さんが俺にこの魔眼を預けて失踪した年だ。シルヴィは嘘を言っていないということか。

 

 それにしても、話を聞く限りだと父さんは何か理由があって失踪したみたいだな。一体どういうことなんだ…いや、今は考えても仕方ないか。

 

 シルヴィが嘘を言っていないことが分かったので、とりあえず銃を下げる。

 

「それで、何で俺を襲ったんだ。父さんは息子である俺に頼れと言ったんだろうが、襲えとは言ってないんだろう?」

 

「そ、それは……」

 

 出会って早々に血を吸ってきた理由を聞くと、シルヴィの表情が暗くなる。

 

「私ね…黒き死の呪いにかかっているの」

 

「黒き死の呪い?」

 

「えっと…その呪いにかかった人は黒炎っていう炎の力を使えるんだけど、血を大量に摂取するか自分のご主人の体液を摂取しないと、力を制御できなくて黒炎で焼き尽くされるの」

 

「自分がか?」

 

「ううん、周囲を含めて…範囲はわからないけど」

 

 なるほどねぇ。そんな呪いが…って、それで何で俺が襲われるんだよ。まさか、吸い尽くす気だったのか。

 

「それで、制御するために大量の血が必要だったから俺の血を吸い尽くそうとしたと」

 

「ち、違うの……あなたを見た瞬間、この人が私のご主人様だって感じて」

 

「俺が?」

 

「うん…」

 

 何で俺の血がその黒き死の呪いに対抗できるんだ。俺はただの人間なんだが。

 

「何で俺なんだ」

 

「わ、わからない…でも、あなたの血を少し吸っただけでいつも以上に呪いが和らいだの」

 

 表情や今までの話からして嘘は言っていないんだろうが…俺に影響はあるのか? 呪いを移されたらたまったもんじゃない。

 

「ちなみに、俺に害はあるのか?」

 

「特には…あっ、でも私はヴァンパイアとサキュバスのハーフだから…あ、相性が良い人間の血を吸うとその人の眷属になるっていう特徴も引いてる…かな」

 

「ほぉ……ん? 待て待て…ってことはお前は俺の眷属ってことか!?」

 

「そ、そういうこと…だね」

 

「…解除はできるのか!?」

 

「で、できない…かな」

 

「…はぁー」

 

 思わず頭を抑えて俯いてしまう。仕事も異常に多くて、残業をさせられて、挙げ句の果てに眷属ができるなんて…今日は厄日だな。

 

「ご、ごめんなさい…いくらなんでもいきなりすぎるよね。私って無力で周りに迷惑ばっかりかけて…そのせいでお父さんもお母さんも…皆…死んじゃって……ごめんね……」

 

 シルヴィは少し涙を流しながら俯く。奴隷に堕ちるまでに色んな目にあったんだろう。詩音はその姿と過去に突如として父親が失踪した時の自分を重ね合わせた。

 

(ああ…私って本当に泣くことしかできないんだなぁ……もう誰にも迷惑をかけたくないのに…この人を困らせて…)

 

「……それで、お前は俺に何をしてほしいんだ?」

 

「…え?」

 

 シルヴィはこのまま見捨てられると思っていたのだろう。詩音の言葉に驚きの表情を見せる。

 

「父さんは息子の俺に頼れって言ったんだろう。なら、助けてやる。さあ言え…お前は俺に何を助けてほしい」

 

 『助けてやる』…シルヴィにとって、この言葉をかけられたのはいつぶりだろうか。

 

「わ、私は……私はここから解放されたい…呪いから解き放たれたい! そして、もう誰も私のせいで死なせたくない!」

  

 シルヴィは涙を流しながら、けれど強い意思を持った目と声で叫んだ。

 

「わかった…お前を蝕む暗い運命から解放してやる。だから、お前も一緒に戦ってもらうぞ、シルヴィ・ラベンダー!」

 

 詩音が手を差し出し掴ませる。自分に同情してくれたのか、それとも父親がどこにいるかが分かる可能性があるためか。なぜ詩音が自分を助けてくれるのか、シルヴィには分からない。ただ、今のシルヴィにはその差し出された手は自分を解放してくれる天使のようだっただろう。

 


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