自分の書いたゲーム転生小説の主人公に成り代わってしまった主人公の話   作:ぱgood(パグ最かわ)

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前回の話にあった学園長への状況説明のシーンに関して

「しかし、相手はそれが狙いだったようで担当防人の方が俺たちの下に辿り着いた時点で≪シャドーモール≫を発動し、陰に潜伏。それと同時に」の部分を

「しかし、相手はそれが狙いだったようで担当防人の方が俺たちの下に辿り着いた時点で≪シャドーモール≫を発動し、陰に潜伏。我々が潜伏した魔物を警戒した所で」に変更しました。


モブはモブなりに頑張ってるんです…………。

☆☆☆

 

私が攻撃魔法を使えていたら、棚加君だけでも救えたのではないか?

その考えがグルグルと頭を巡る中、私の耳にとある話が入ってきた。

 

その話は毒ノ森君と音長君が他の生徒に暴力を振るった、というものだった。

 

それもつい先ほど。

あくまでも寮の談話室で話している女子生徒の話が偶々入ってきただけなので詳しいことまでは分からなかった。

 

ただ、毒ノ森君と音長君がそんなことをする人じゃないと私は知っている。

毒ノ森君は仲間を大切にし、他人を尊重し、どんな時でも周りを気にかけていてくれていたのだ。

 

音長君は初めこそ厳しい人なのかと思っていたけど、話してみればとても気さくで、気づかいの出来る人だった。

 

感情が表情に出ずらいから未裏さんを含め、勘違いされちゃうこともあるけど、音長君もすっごく良い人。

ココアを貰った日に、音長君の本心を聞いた日に、私はその確信を深めた。

 

だから、真実を確かめに学園長の下まで足を運ぶことにした。

手続きは不慣れだったから、かなり時間は要したけど、待ち時間自体は少なく私は無事に学園長に会うことが出来た。

 

学園長はとっても怖そうな、ムキムキのお爺さんだ。

 

「ったく、お前たちは俺のことが好きなのか? 毒ノ森班。今日だけで三人と対面で話すことになるとはな?」

「すいません。ですが、聞かせてください。毒ノ森君と音長君は本当に他の生徒に暴力をふるったんですか?」

「ああ、そう言ってたぞ」

「………理由は、毒ノ森君たちはなんて言っていたのですか?」

「あ?ああ、仲間を馬鹿にされたからって言っていたな。」

 

私は本当に暴力を振るっていたことにショックを受けつつも、ただ、虐げるために振るったわけでは無いと知り、ほっとする。

 

談話室で噂されていた内容では、とある女子生徒にちょっかいをかけようとした毒ノ森君たちは女子生徒が自分たちを拒絶したことに激怒し、女子生徒を庇った男子生徒ごと暴行を加えた、という風に話が広まっていたのだが、実際はそんなことは無かったようだ。

 

でも、誰がこんな根も葉もない噂を流したのだろう。

 

私は思考の海に潜ろうとする。

ただ、潜ろうとした所で、学園長に声を掛けられてしまう。

 

「そう言えば、俺からもお前たち毒ノ森班に聞きたいことがあったんだ。」

「……聞きたいことですか?私が答えられる範囲のことであれば答えますが……」

「じゃあ、遠慮なく聞かせてもらうが、…………癒羽希、お前の成績を見て気づいたんだが、お前、既に相当の実力だろ?お前の攻撃魔法でも棚加を助けられなかったのか?」

 

その言葉に私は言葉を詰まらせる。責められているわけでは無いのに、体が自然と縮こまってしまう。

 

「…………私は……補助魔法で援護していたので……。」

「援護?何で援護なんてするんだ?他の班員が攻撃魔法を放つよりお前が攻撃魔法を放った方が有効だっただろう、お前ほどの成績であればいざと言う時の攻撃要員として一枚くらいは攻撃魔法をセットしているだろうし…………毒ノ森の采配ミスか?」

「ち、違いますっ!私は攻撃魔法が使えないんです。私のせいで…………。」

 

私がそう伝えると学園長は得心が言ったとばかりに頷く。どうやら、毒ノ森君たちのせいでは無いと理解してくれたようだ。

 

「…………成程、じゃあ、結局、毒ノ森のミスじゃねぇか」

「はっ?」

「うん?だってそうだろう?リーダーってのは仲間の命を預かる身だ。なら、時には非情にならなきゃいけねぇ時もあるだろ?

仲間の信念や甘えなんてものよりも大切にしなきゃいけねぇもんがある。

 

仲間の命だったり、一般人の命だったりとかな?

そんな立場に居ながらアイツはお前の事情を優先した。

克服するんじゃなく、お前の事情を受け止め行動した。

 

だから、つけが回ってきたんだろ。ま、お前に責任が無いかと言われるとそれも違うがな。」

 

毒ノ森君は悪く無い。その言葉が喉元まで出かかる。

私が何か言われるのは言い、だけど、毒ノ森君のことを悪く言われたくない。

仲間のことを言われるのは我慢ならない。

 

私は学園長を睨みつける。

 

ギュッと拳を握る。

 

「悔しかったら、攻撃魔法を使えるようにしておけ、お前の甘えが仲間を殺すぞ。

っと、流石に生徒にこういうことを言うのは不味いのか?

 

最近はめんどくせぇんだよな~、こういうとこ」

 

学園長はそれだけ告げると、「帰った帰った」と言い私を学園長室から追い出した。

 

反論したかった。でも、きっと反論しても何の意味もないんだろう。

私たちが私たちの選択の末、仲間を失った。

学園長にとってはそれが全てなのだろう。

 

『悔しかったら、攻撃魔法を使えるようにしておけ、お前の甘えが仲間を殺すぞ。』

 

見返すなら、私が攻撃魔法を使えるようにならなければ意味が無い。

 

それに、毒ノ森君のことは兎も角、私のせいで棚加君が死んだのは事実だ。

…………弧囃子さんも、私が攻撃魔法を使えたら、もしかしたら救えたかもしれない。

 

私は寮にある自室に帰り、申請はしたもののまだ一度も使ったことのない攻撃魔法のマジックチップを握る。

 

棚加君たちがいなくなってから、使おうとしたこともあったけど、結局使うことが出来なかった。

使おうとセットしても最後の一歩が踏み出せなかった。

自分が変わってしまうのではないかという恐怖が込み上げてしまって、一歩を踏み出せなった。

 

でも、仮にダンジョンであれば、ダンジョンで一人であれば最後の一歩が踏み出せるんじゃないだろうか?

 

私は現在あるマジックチップの中で一人で潜るのに必要なものとお守りとしておばあちゃんがくれたものを持ち、ダンジョンへと向かった。

 

☆☆☆

 

う~ん、う~ん。

 

俺は自室でお菓子を食べながら唸っていた。

理由としては、まあ、お察しかも知れないけど、四階の窓から見た癒羽希カルミアの姿だ。

 

初めは、あれ?逢引きなのでは?

と思っていたんだけど、よくよく考えれば逢引きに杖を持ち出すのはおかしいような気がしてきた。

 

お菓子だけにって、流石に寒いか。

 

まあ、勿論、ワンドプレイとかいう高度なことをするのであれば話は変わってきそうだが、そんなこともないだろう。

 

多分。

 

となると、後ありえそうなのはダンジョンってことになるけど、一人でダンジョンに潜ろうとするだろうか?

 

いや、普通にあり得ないだろう。

一人で入るなんて自殺行為だし、そもそも学校の方で学生はダンジョンに潜る際は教師もしくは担当防人からの許可とパーティーで入ることを規則として定めている。

更に、ダンジョン自体も分厚いドームに覆われており、ダンジョンの管理人にドームのドアを開けてもらう必要がある。

 

まあ、とは言え、ダンジョンに入る際の確認作業及び開閉は人の手で行われるため、適当に理由をでっち上げてしまえば中に入れないこともない………。

 

元々、ドームは中に入る人を止めるためにあるんじゃなく、魔物を外に出さないようにするためだし。

 

いやいやいやいや、ゲームじゃないんだから、入ろうなんてしないよね普通。

ただの恋人とのワンドプレイでしょ!

 

ま~、一応?一応、教師に連絡して、ダンジョンへの立ち入りログを確認してもらうか。

 

俺は職員室に向かい、まだ仕事をしている教師の内、知っている顔、というか担任の教師に話しかけることにした。

ふと思ったんだけど、教師って何時家帰ってるんだろう?

 

「すいませ~ん。ダンジョンログで、うちのパーティーメンバーが潜ってないか確認して貰っても良いですか?」

「はあ?お前ら自主訓練を言い渡されてただろう?」

「ん~、そうなんですけど、さっき、ワンドを持った癒羽希さんが学校から出ていくのを見て…………まぁ、独自のコネクションを持っていて、その人から教えを乞うているだけかもしれませんが…………。」

「あ~、成程、分かった。ちょっと見て観るから少し待ってくれるか?」

 

担当の教師はそう言うと何かのアプリを開く。

いや

何かっていうかダンジョンログが見れるアプリなんだろうけど。

俺がぼぉっとその作業を眺めていると、段々と教師の顔から血に気が引いていく。

 

…………おいおい、まさか

 

「………おい。癒羽希の奴、今ダンジョンにいるぞ」

「…………マジですか」

「ああ、大マジだ。取り敢えずお前は待機だ。教師陣と緊急で会議をし、対策を練る」

「了解しました。」

 

 

いやいや、マジか。マジなのか?

 

普通そんなことしないだろ、癒羽希さん!

 

自殺行為だぞ⁉

 

何で折角生きて帰れたのに、命をドブに捨てるんだ‼

 

クッソ、教師陣は対策を練るとか言っていたけど、対策を練って対処するまでどれだけ掛かるんだよ!

俺は自室に帰る。

出来ることなんてない。

 

そのため、俺は特別防人の真道君を頼ることにした。彼はダンジョンに自由に入る権利がある。

俺は真道君の部屋のインターフォンを鳴らす。

…………

鳴らす、鳴らす、鳴らす。

 

お~い、出てこ~い、主人公の役目だぞ~。

何度も何度も押したけど、奴は一向に現れることは無かった。

イベント中か?レベリングか?

 

………………………………俺に出来ることは本当に無くなった。

無くなったが、出来ることが無いなんて言って癒羽希カルミアが死んだら取り返しがつかない。

 

………行くか?

ま、まあ、一人で死地に飛び込む馬鹿に一回説教しなきゃ気が済まないとは思っていた所ではあったし?レベルも上がっているからやってやれなくは無いかもだし?

 

いや、説教をするなら何で一人でダンジョンに潜ったか聞くのが先だな。

俺は近くにあった赤パプリカの被り物を付け、制服を戦闘用の者に着替え、魔剣を腰に差す。

戦闘用の制服はデザインこそ、通常の者と変わらないが、動きやすさや耐久性が通常のものとは比較にならない。

 

まったく、何が悲しくて癒羽希さんの後を追って一人でダンジョンに潜らなくてはいけないのか。

 

俺はそれでもダンジョンに向かう。

命を大切にしない奴に対しては老若男女問わず正拳を食らわす。

魔剣師Pとして。

 

…………いや、やっぱ行きたくねぇわ。

 

行くけどさ。

 

☆☆☆

 

何時も通っているダンジョンの前に着く。

ただ、いつもとは違い、ダンジョンの前についてもドームの扉が開くことは無い。

 

それもその筈だ。

いくら制服を着ていてもパプリカの被り物をしている人間を通すことは無いだろう。

 

ただ、俺も中に入れて貰わなくては困る。

 

「…………中に入れて貰おうか?」

「ん~、流石にお前みたいな不審者を入れるのはなぁ?」

 

男は面倒くさそうに対応する。

パプリカの被り物をした不審者を前にしても動じた様子を見せない。

 

それもその筈で、ダンジョンの管理を任される防人は相当な実力者だ。

それこそ、無冠の兵クラスか、

もしくは防人の中でも上位百人の可能性もある。

 

ただ、それでも臆するわけには行かない。

 

「俺にはやるべきことがある。」

「ふ~ん、どんなこと?人の害になること」

「いや、誓って人類の敵になることは無い。」

「…………そっか、ま、ならいっか」

 

男はそう言うと欠伸を噛み殺しながら開閉ボタンを押してドームのドアを開ける。

 

いや、適当すぎるだろ⁉

 

もうちょっと、何か、こう何かないの?

俺ももうちょっと色々考えてたんよ?

突っ込まれたことを聞かれた際の躱し方とか。

 

いや、楽に入れたからいいけど。

にしても、授業の際とか、顔パスで入れたのも実は異常なのでは?

 

思った以上に怠惰なのではこの管理人。

確かに、ダンジョンで死人が出ても管理人の責任にはならないけど……………。

 

ま、まあいいや、俺は気持ちを切り替え、ダンジョン内を見渡す。

 

今の所、敵はいない。

それを確認した俺はその場を走り抜ける。

 

え?そこは静かに隠密行動をするべきだろって?

 

いや、隠密行動をしたとしても見つかる時は見つかるから…………。

 

なら、走って、早期に癒羽希さんを見つけて、連れ戻した方が良い。

そう思っていると、目の前に魔物が現れる。

 

相手も気づいているのか、こちらに手のひらを向けている。

完全に魔法弾の構えだ。

 

ただ、そんなものは関係ない。

止まったら負け、今はそう言う状況だし、実力的にもそうだ。

 

だから、

 

「初見殺しで行かせてもらう。

≪ディレクショナルライト≫、そんで≪モメントアップ≫」

 

俺は初めに指向性のある閃光を浴びせ、相手の視界を遮り次に瞬間的な全能力強化を行う≪モメントアップ≫を使い更に速力を上げた状況での全力疾走による、一閃を見舞う。

勿論、≪モメントアップ≫に関しては相手への一閃を見舞える距離で使ったため、その強化は魔剣の一振りにも乗っている。

 

これにより、相手の首を跳ね飛ばすには行かないまでも致命傷を与え、瘴気が俺の体に吸い寄せられる。

 

ち、力が溢れる‼

とはもうならないものの心なしか体が軽くなったような、なっていないような気がする。

 

………うん、流石にそんな劇的に変わるような相手と戦ったら普通に死んでた。

通常の防人はしょっぱい経験値(まもの)への奇襲でなければ一対一では勝てないのだ。

とはいえ、戦いに絶対はないので、マジックチップや状況次第では格上にも勝てるかもしれないが…………。

まあ、運よく勝っても、瘴気によって殺されるだけだろうけど。

 

世知辛ぇよ。

 

それはともかく、敵を倒しても振り返らずに走り続ける。

 

魔物を斬りつけたことによって自前の魔力の他に敵の魔力が上乗せされ更に加速する。

 

また、走り続けながらもマジックチップの交換も忘れない。

 

構成はさっきと同じ、≪ディレクショナルライト≫と≪モメントアップ≫だ。

 

正直、紙装甲としか言いようがないが、大丈夫‼

止まらなければ魔法弾とか当たんないから。

 

俺がそう信じ、走っていると道の角から魔物が出てくる。距離的に魔法弾を撃つ前に仕留めるのは無理そうだ。

 

うん、めっちゃ、引き返したい。

引き返したいが、このまま突っ走った方が安全な気もする。

 

この雑兵級ダンジョンの構造は普通に入り組んだ洞窟のような形をしている。

広さとしては横十メートル程。

まあ、運が良ければ()()()()()()()()()()()

 

俺は覚悟を決める。

 

初めに≪ディレクショナルライト≫を使い視界を奪う。

これで少しでも安全性を高められた筈だ。

 

次に、≪モメントアップ≫を使う。

 

そして

 

 

 

 

 

 

()()()()()()。魔剣は魔物の胸にストンと刺さる。

 

えっ?完全に避ける流れだろって?

いや、他人の選択に委ねるとか性に合わないからさ。

 

だったら自分の行動に賭けるね。実際、相手は倒せたし、いいじゃん。

 

俺は肉体強化が残っている今のうちに走り、刀を抜きに行く。そして再度自らに肉体強化をかけなおす。

 

因みに≪ディレクショナルライト≫と≪モメントアップ≫はこれで品切れだ。

 

いや、普通こんなネタチップをそんないくつも持っているわけもないんですよ。

 

だって、パーティーで戦うんだったら、もっと有用なマジックチップ山ほどあるし。

このチップ構成は正直、ソロ専用、しかも、闇討ち限定の。

 

俺は再度マジックチップを変える。

今度は≪シャープネス≫と≪フィジカルオーガ≫だ。

 

正直、癒羽希さんが使った方が効果が大きいし、めっちゃいいタイミングで魔法をかけてくれるから最近は使っていなかったけど、四人パーティーの頃は俺もお世話になっていた≪フィジカルオーガ≫先輩だ。

 

後は、切れ味を上昇させる≪シャープネス≫。

 

この構成に関しては先程と比べれば幾分か丸い実用性ありの構成だ。

 

防御面はって?防御に関して…………攻撃こそ最大の防御ってことで。

 

 

俺は先程、魔物が出た曲がり角を進むことに決め、走り出す。

それから暫く、うん、二、三分ほど、魔物が出ることは無かったんだが、遂に魔物が俺の前に現れた。

 

うん、二、三分もと見るべきか、二、三分しかエンカウントしない時間が無かったとみるべきか。

 

まぁ、どっちでも良い。

そんなことより、敵の駆除だ。

 

残念ながら、距離的に一足で敵に近づくことは出来そうにない。

そして、まあ当たり前であるが、相手は魔法弾を構えている。

 

うん、さっきと同じ状況だ。

 

〈ドンっ〉

 

無慈悲にも相手の魔法弾は放たれてしまう。

当然だ。

目つぶしもしていないのだから。

 

俺はその攻撃を、斬る。

 

勿論通常状態では斬れなかった。≪フィジカルオーガ≫と≪シャープネス≫を使い、能力を底上げしたから斬れたのだ。

 

…………魔法弾を斬るなんてあんまり見ない光景だと思うんだけど、相手は俺が魔法弾を切ったことに動揺した様子を見せない。

それどころか両手のひらを少しの間隔を開け、合わせる。いや、手のひらと手のひらが密着していないので合わせているとは言えないか?

 

まあそんなことは今は重要ではない、重要なのは相手が恐らくであるが、白刃取りをしようとしていることだろう。

 

ならば、こちらは速度に特化した突きで応戦しても良いのだが、それでは少々不安だし、俺は飛び蹴りを選択する。

まあ、安牌な判断ではあるだろう。

 

斬りかかったら、白刃取りのリスクが高く。

突きに関しては、避けられやすい。

 

なら後は飛び蹴りしかないだろう。

 

勿論、飛び蹴りをした際に足を掴まれる可能性もゼロではないが、俺の体重に今まで走り続けたことによる速度も乗っているのでそれも難しいだろう。

 

受けるくらいなら、避ける方が楽だろうし。

 

俺はそう考え、相手を思いっきり蹴った。

相手としては俺が飛び蹴りを仕掛けるとは思っていなかったのか、思いっきり吹き飛ばされる。

 

そして、その隙を俺は見逃さない。

直ぐにマジックチップを取り換え、≪アクアバインド≫と≪シャープネス≫をセットする。

 

そして、直ぐに≪アクアバインド≫を発動し、動きを鈍らせる。

≪アクアバインド≫は≪スパークバインド≫と違い、完全に動きを止めることは出来ないが、耐性を持つものがおらず、更に≪スパークバインド≫よりも長時間機能する。

 

まあ、その性質上、≪アクアバインド≫を使っても普通に殴り殺される可能性があるんだけど………。

 

ただ、今回に関しては≪シャープネス≫と≪フィジカルオーガ≫の効果がまだ持続しているので大丈夫。

 

≪モメントアップ≫よりも効果は弱い(癒羽希さんのものを除く)が≪フィジカルオーガ≫は効果時間がモメントアップよりは長いという特徴がある。

 

まあ、一般的な長さなだけだけど。

 

いや、そんなことはどうでもいい、俺は動きが鈍った(自前の肉体強化だけの俺と同じくらい)魔物を一刀両断する。

 

ふう、雑兵級恐れるに足らず。

 

ドヤァ

 




おまけ

ここは男子寮の大浴場。多少、喋り声などは気になるが、それでもその場にいる男子達は行儀よく大浴場を利用していた。

棚加「なぁなぁ、見てくれよ、俺の水鉄砲めっちゃ飛ぶだろ⁉」

棚加は両手の平を握るように合わせ、右手の人差し指と親指の間から水を飛ばす。

音長「ああ、懐かしい、昔、両手使って簡易水鉄砲とか良くやったわ。」

音長が昔を懐かしんでいると、棚加の水鉄砲が音長の顔面に直撃する。

音長「ッ‼水鉄砲を人に向けるな!」

棚加「いやぁ、何か年寄りみたいなこと言いだすからさ。こうすれば若さを取り戻すかなって?若さ注入ってな!」

音長はその表情にカチンときた。自分で年寄りみたいだと思うのは良い、だが、他人に指摘されるのは我慢ならない。音長はそう言う人種であった。

そのため、両手を握り、即席の水鉄砲を作る。そして、棚加を狙い撃つ。

〈ドンッ!〉

その威力は先程の棚加のものとは比較にならなった。

棚加「痛った!ちょっとまった⁉何だその威力は‼」

音長「クックック、水鉄砲は若さじゃないんだよ、若さじゃ。ロートルの実力見せてやる!小童。」

こうして、血で血を洗う、いや、お湯でお湯を洗う戦いが勃発する。ここにいる二人はそう予感していた。しかし…………。

毒ノ森「やめなよ二人とも、見苦しい。他の生徒もいるんだから迷惑だって気づきなよ」

音長・棚加「「うるせぇ、若さ注入」」

諫める毒ノ森に対し、二人は息ぴったりの連携で毒ノ森の顔面に水鉄砲を直撃させる。

音長「よしっ、決着をつけるか。」

棚加「そうだな。俺たちはどちらが上か決めなければいけない運命にあるようだ」

毒ノ森「…………優しく言っている内に聞いておきなよ?それとも、人の神経を逆撫でしないと気が済まないの?」

それは目にも止まらぬ四連射撃だった。それは音長と棚加の瞳を正確に撃ち抜く精密射撃だった。

音長・棚加「「ギャァァァァァァァァァァァァァァッッッ!!!!!!!!目ぇ、目に入ったぁぁぁぁぁ‼」」

毒ノ森「…………君たちみたいな人種は徹底的にやらないと学ばないから、手加減、しないよ?」

その攻撃で音長と棚加は理解する。自分たちのやっていたことは児戯であったと。自分たちは真の強者によって蹂躙されるのだと。

自分たちが自慢していた水鉄砲は火縄銃、対し、毒ノ森の水鉄砲はさながら機関銃であった。

音長「こっ、降伏する。俺は降伏するよ!毒ノ森君」

棚加「お、俺もだっ‼お前の軍門に下る毒ノ森」

毒ノ森「もう無駄さ、僕は止まらない。せいぜいあの世で後悔するん「随分楽しそうなことしてんなぁ。一年共?」えっ?」

三人は後ろを振り向く。そこには青筋を浮かべた上級生が立っていた。三人は湯船に使っていることが原因で出る汗とは別に冷や汗をかく。

上級生「…あっちで話そうぜ?一年」

音長「…ここじゃ、駄目ですか?」

音長はか細い、蚊が鳴くような声を出す。他の二人も声は出していないが、高速で首を縦に振る。

上級生「何度も言わせんなよ。向こうで、話をしようぜ?」

音長・棚加・毒ノ森「…は、はい」

それから三人は大浴場のタイルの上に正座させられ、全裸で何十分にも渡る説教を受けるのであった。




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