自分の書いたゲーム転生小説の主人公に成り代わってしまった主人公の話   作:ぱgood(パグ最かわ)

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すれ違ってるって分かっていても言えないことってあるよね

☆☆☆

 

俺と毒ノ森君は現在、魔剣士科の授業を終え、ダンジョンに潜るために、待ち合わせ場所の

学生ホールへと向かっていた。

 

学生ホールは緊急時には生徒たちの避難場所となっているが、通常時には生徒たちの憩いの場となっている。

むしろ、多くの生徒が利用し、場所を把握しているからこそ、いざと言う時の避難場所に指定されていると言っていい。

 

「おいおい、あいつらって確か…………。」

「ああ、癒羽希のおこぼれ貰ってる奴らだよ。」

 

多くの生徒が利用する場所なため、学生ホールへの通路は多くの生徒が通る。

 

「いやぁ、恥ずかしくないんかね?実力者入れて自分たちの成績上げるの」

「…………癒羽希さん、可哀想。」

 

そうすると、こう言う心無い言葉を、俺たちに聞こえるか聞こえないかくらいの声量で言ってくる奴らもいる。

いや、俺達と癒羽希さんの実力が見合ってないのは事実だけどね?

 

以前、癒羽希さんがたらい回しにされているのは本人が攻撃魔法のマジックチップを入れていないからだ、と話したが、真相は違ったのかもしれない。

 

確かに表向きは攻撃魔法のマジックチップを入れていないことだったのだろう。

噂はそう流れてきたし、本人も加入時に攻撃魔法を使えないことを謝ってきた。

 

だけど、本当の所はこういう風に陰でコソコソ言われるのに耐えかねて、癒羽希さんを脱退させたのかもしれない。

 

まあ、因みに陰でコソコソ言ってる奴ら、全員実技の成績は大したことがなかった。

そのため、ダンジョン攻略では余り者同士で組んでるようだ。

正直、仮に癒羽希さんがいなくてもダンジョン攻略の成績はうちの方が高い。

 

ただ、俺は大人だから、彼らの言ってることを負け犬の遠吠えとして、切って捨てない。

 

彼らの言うことを真摯に受け止め、そして、こう思った。

 

いや、成績を良くする努力をしない君たちにそんなことを言われても、全然響かん。

 

むしろ、命が懸ってるのに何でそんな余裕なん?

 

少なくとも、もっと強くなる努力した方が良いよ。

 

せめて、授業だけでももっと真剣に受けよう?

 

別に剣凪さんとか穿間さんに潜ってもらえるか頼んだら?とかは思わんし、されたらこっちが困るんだけどさ。

 

「……まったく、好き勝手言ってくれる。」

「毒ノ森君。気にしちゃ駄目だよ。」

 

俺はあんま響かなかったんだけど、毒ノ森君は結構参ってるみたい。

彼って口は悪いけど、結構、情に厚いし、まともな感性してるよね。

 

未だに俺の友達でいてくれてるしね!

 

俺は彼の背中をぽんぽん叩く。元気出せよ。

別に否定的な人ばかりじゃないんだ。

むしろ、安定した実力のパーティーは割と俺たちのこと認めてるよ?

 

俺達も頭下げてでも女性メンバーに入って貰えば良かった~っとか、あそこが取って無かったらうちが取れてたかもってさ。

 

 

ただ、どうやら、みんな否定的な声ばかりを意識してしまってるらしい。

ダンジョンでは今まで通りのパフォーマンスを発揮できてるし、癒羽希さんに当ったりもしていない。

 

それでも、癒羽希さん大好き人間だった棚加君まで参ってるとなるとちょっと困るよねぇ。

 

後、癒羽希さんに関しても何故か思い悩む素振りがある。

今までもこんな風な雰囲気になって、脱退を言い渡されたのかもしれない。

 

う~む、困ったなぁ。

 

凄く困った。

 

何に困ってるのかだって?

 

いやさ、……………………みんなとはダンジョン攻略を通して絆も深まったし、心の底から困ってるなら力になりたって思ってるんだよ。

 

 

でも…………俺も命かかってるからさ。

 

ぶっちゃけ、癒羽希さんには剣凪さんと穿間さんのパーティーに入って欲しいって思ってるんだよね。

 

うん、つまり、誠に遺憾ながら、俺も癒羽希さん脱退派ではある。

 

 

☆☆☆

 

最近、皆さんとってもピリピリしています。

ようやく、今のパーティーの方たちとも打ち解けて、頑張るぞー‼って思ってたのに。

 

この嫌な感じにはとっても、とっても、馴染みがあります。

私を皆さんが、追い出すときの雰囲気です。

 

私がパーティーを組んだ方たちは皆さんとってもいい人たちでした。

 

攻撃魔法のマジックチップを入れようとしない私を受け入れてくれて、「癒羽希さんのお陰でスムーズに抵抗力上昇(レベル)が上がるようになったありがとう」、「癒羽希さんが後ろに控えてくれるから、勇気を出して戦える。ありがとう」そう言ってくれます。

 

なのにある時を境に、その人たちが突如、私をパーティーから追い出します。

 

やっぱり、攻撃魔法を入れない私を徐々に疎ましく感じるようになったのでしょうか?

 

私は…………私は、攻撃魔法を使うべきなのでしょうか?

 

ワンドをギュッと握る。そして、攻撃魔法を使う自分を想像する。

 

怖い、怖い。

魔物を傷つけるのが怖いんじゃない。

 

自分が変わってしまうのが怖いんだ。

 

私のおばあちゃんは皆から救恤の戦巫女と呼ばれていた。

そんなおばあちゃんが私は大好きだった。そんなおばあちゃんみたいになりたいと思っていた。

 

だけど、おばあちゃんは私の頭を撫でながら、「私みたいになるんじゃない。」そう言った。

私は納得いかなくて、何度も何度もなんでそんなこと言うのって尋ねた。

 

『おばあちゃん。何でおばあちゃんみたいになったらダメなの?おばあちゃんはきゅうじゅつのいくさみこでしょ‼』

『…………そんないいもんじゃないよ……その肩書は…………。』

『かっこいいもん‼私なるもん‼』

『…………いいかい、カルミア。救恤の戦巫女ってのはね。敵を殺せて味方を癒せる。そう言う意味を込めて呼ばれるようになったもんさ。』

『そんなの知ってるもん‼敵をやっつけて味方を助けるんでしょ!』

『まぁ、いいから、最後まで聞きなさい。…………私はさ、いつの間にかその肩書に反して敵を殺す事ばかりを考えるようになったんだ。』

『なんで?』

『知っちまったんだよ。敵を殺すことで、救える数の方がよっぽど多いってね。

 

魔物を一人殺せば、その魔物が殺そうとしていた人、殺すかもしれない人たちを救える。ただ、人を癒して救える数は、癒した人間ただ一人。

 

魔物を殺すのは一瞬なのに、人を癒すのには時間がかかる。それに、場合によっては助けられないかもしれない。

 

回復魔法を以てしても。

 

そうして、私は敵を殺すことに傾倒していった。

 

間違ったことだなんて思っちゃいなかった。…………ただ、ある日ね、回復魔導士のテントに子供が運ばれてきたんだ。

 

魔物に襲われた子がね。

 

その子は一度、私たち回復魔導士の下に連れてこられた。

その時は息もあった。

 

………………私は当時、攻撃魔法士としても上位の実力者であったから、その子を他の回復魔導士に任せて、敵を殺しに行った。』

『その子は…………死んじゃったの?』

『…………ああ、死んだ。…………私なら間違いなく助けられた。………………いいかい、カルミア。私は回復魔導士は魔物を殺したらおしまいだと思ってる。

 

心に潜む怪物に魅入られちまうんだ。だから、あんたが……本気で回復魔導士として活躍したいなら攻撃魔法は使わないことだ。』

『…………うん。分かった』

 

 

おばあちゃんと交わしたその約束は、未だに私の脳裏に焼き付いている。

私は怖いんだ。攻撃魔法を使うようになって、敵を殺すことに重きを置くようになって、そうしていずれ、大切な人を見殺しにしてしまうんじゃないかと、怖くてたまらないんだ。

 

…………でも、このままだとまた、追い出されてしまう。

 

私は、私は攻撃魔法を使うべきなんだろうか?

 

分からない、分からない。どうするのが正解なのか分からない。

 

「…………大丈夫?癒羽希さん、顔色があまり良くないけど……」

「いえ、大丈夫です。私は全然問題ないですよ。元気もりもりです‼」

「そう?ならいいんだけど」

 

どうやら、私が考え込んでいたから未裏さんが心配してくれたようです。

しっかりしなくちゃいけませんね。

 

私は前を向いてずんずんと歩いていきます。

その時、偶々、考え込んでいる様子の音長君が目に入りました。

だから私もさっき気を使ってくれた未裏さんの真似をして声をかけてみることにしました。

 

「音長君!どうされましたか?」

「…………ん?いや…………仮に癒羽希さんが回復魔法のみで戦っていくのなら別のパー「ってめぇ‼おとながぁぁ‼それ以上言ったらぶっ飛ばすぞ‼」……ごめん、ごめん、冗談だよ。」

 

音長君が別のパーティーへの移籍を提案しようとした所で、棚加君が怒りながら止めにかかります。

ただ、棚加君は怒りを抑えられない様子で未だに音長君の胸倉を掴んでいます。

…………私が原因なんだから、私が止めなくちゃ‼

 

「あ、あの「やめろ‼二人とも、みっともないぞ‼」」

 

私が声を張ろうとした所で、毒ノ森君が二人を止める。

 

「…………すいません。癒羽希さん、君は僕たちにとってかけがえのないパーティーメンバーだ。

是非、これからも僕たちと共にパーティーを組んで欲しい。」

 

毒ノ森君が頭を下げながら、私にパーティーに居て欲しいと頼んでくる。

 

「……はいっ!勿論です。」

「ありがとう。……それと、音長君、次、似たようなことを言ったら冗談でも許さない。

…………その時は、君がパーティーを脱退する時だと覚えておいて欲しい。」

「……………わかったよ。すまなかったね、癒羽希さん」

「い、いえ!私は全然気にしてませんので!」

 

…………私のせいで、皆さんの関係が壊れちゃうのは嫌だな…………。

 

その後のダンジョン攻略は皆さんいつも通りの力を発揮し、弧囃子さんからも「いつも通り安定した立ち回りが出来ているわ。私が離れるのも時間の問題かもしれないわね。」と言って貰った。

 

でも、このままで本当に良いのかな?

 

私がいなくなれば全部丸く収まる。

本当はそうするのが正解なんじゃないのかな?

今ままでそうしてきたみたいに…………。

 

もう、何が何だか、分からないよ。どうすれば正解なの?

どうすれば、良いの?…………攻撃魔法が使えれば良いの?

 

そうすれば、音長君も私をパーティーメンバーとして認めてくれるの?

 

おばあちゃん。私、どうすれば良いのか分かんないよ。

 

☆☆☆

 

ふむ、それとなく剣凪さんのパーティーとくっつけようとしたら棚加君にめっちゃ怒られた。

毒ノ森君からも注意を受けた。

 

解せぬ。

 

いやぁ、癒羽希さんさえ納得させられれば、後は魔導師Pとして真道君辺りに接触して、何とか癒羽希さんを剣凪さんのパーティーに入れられるように取り計れたのになぁ、残念。

 

さてさて、一番簡単なプランAが失敗してしまったし、プランBを…………考えなきゃだよなぁ。

勿論、俺としても円満に別れられるように取り計らうつもりだ。

 

癒羽希さんやうちのパーティーメンバーとはぜひぜひこれからも仲良くしていきたいしね。

にしても、普通ならこんな過剰な反応されないと思うんだけどなぁ。

だって、俺らと彼女では実力が釣り合ってないのはみんな分かってるだろうし。

あっ、勿論彼女が上で俺らが下って意味ね?

 

そう考えると、やっぱり、外野の野次のせいかなぁ?

 

個人的にはどうでもいいけどちょ~っと邪魔くさく感じて来たなぁ。

 

まっ、勿論だからって彼らに危害を加えたりはしないんだけどね!

 

人の恨みって怖いし、彼らにだって、肉壁とか囮とか彼らにしかできない重要な役目があるからね!

 

取り敢えずは皆の機嫌を損ねっちゃったから、ご機嫌を取らなくちゃ。

 

特に、癒羽希さんには誤解を生むようなことを言ってしまったしね。

彼女の力を高く買っていることを伝えないと!

 

その上で、どうにか、こうにか、君の実力的に剣凪さんたちと組むのが良いよって教えなくては。

 

…………本来ならこんな出来事無かったんだけどなぁ…………。

 

いや、そんな考えをしてはダメだ‼

多くの生徒が生き残ったことを喜ぼう。

 

戦力が増えれば、俺の死亡率も下がるしね。

 

俺はそう決意を固め、寮に帰った。

 

寮に帰った後は毒ノ森君と棚加君に謝った。

 

「ごめん‼二人とも、ダンジョン前であんなこと言って。」

「いや…………僕も言い過ぎた。はぁ……他人に強い言葉を使っちゃうのは僕の悪い癖だ。」

「その………俺もすまん!お前が悪い訳じゃないのに、カリカリして、当たっちまった。」

「…………二人とも………ううん、陰でコソコソ言う人たちの話を聞いて、確かに俺たちの班と癒羽希さんじゃあ釣り合いが取れてないかもって思っちゃったんだ。

それで…………あんなこと言っちゃって…………。」

「…………音長君の言いたいことは分かるよ。でも僕は、癒羽希さんがこのパーティーに居たいと言っている間は居させてあげるべきだと思う。」

「ああ、俺も毒ノ森の意見に賛成だ。」

「……そうだよね。二人とも」

 

うん、そうだよね~。

 

俺としても剣凪さんたちとパーティーは組んで欲しいけど、無理矢理組ませてやる気が無かったら意味ないし…………どうにか、円満に移籍して貰わなくちゃ。

 

 

 


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