自分の書いたゲーム転生小説の主人公に成り代わってしまった主人公の話   作:ぱgood(パグ最かわ)

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反省も後悔も大切だけど、そういったことが許されない状況もある

☆☆☆

 

ダンジョンを出た俺たちは喋ることもなく、学校へ向かって歩く。

 

誰も喋る気力なんてなかった。話せる精神状態ではなかった。

 

俯きながら、無力感に苛まれながら、歩いていた。

 

それは俺とて同じだ。

俺は所詮、只の端役(モブ)、皆を守れる英雄ではない。

そんなことは分かっていた。分かってはいても、歯がゆかった。

 

それに、実感が伴っていなかった。今までなんやかんやで上手くいっていたから。

作者であり、物語の創造主という驕りがあった。

 

でも、なんてことは無い。俺は神じゃないのだ。

この世界の住人になっている今、俺はちっぽけな防人候補生でしかない。

 

人は死ぬ。物語を作っている時、当たり前のように端役(モブ)が被害に遭っていた。

 

犠牲になっていた。

 

物語を引き立てるスパイスとして。

 

そして、物語のように端役(モブ)たちが今日もまた犠牲にあった。

 

棚加君が捕まり、弧囃子さんが死んだ。

 

それはとても悲しい事だ。

棚加君と過ごした何気ない日常が昨日のことのように思い出せる。

弧囃子さんが教えてくれたことが脳裏をよぎる。

 

でも、それ以上に、俺は自分が死ぬことが怖い。

体の震えを抑えられない。

 

やっぱり俺は物語の主人公のようには慣れない。

肉体に宿る才能だけじゃない。

 

仲間に対する想い、恐怖を抑え込む勇気、味方を鼓舞するカリスマ。

 

俺は何一つ持ち合わせていなかった。

 

結局、心の中で他人に対し優位を取ろうとする、浅ましく醜い心の持ち主は、只、物語を引き立てる端役に戻るのが相応しかったのだろう。

 

いや……………もしそうなら、一番最初に死ぬべきだったのは俺であるべきではないのか?

 

端役(モブ)であるにも関わらず、その在り方から脱却しようとした身の程知らず(このおれが)が死ぬべきだ。

 

だったら、これは運命の強制力なんかじゃない、魔物の悪意が原因だ。

 

勘違いしちゃ駄目だ。何かを為すのは意思の力だ。

 

神様でも運命でもない。

 

人が死ぬのも、人が生かされるのもそれは誰かの意思によるものだ。

もしくは、観測できる道理の上で成り立っている必然だ。

 

目にも見えず、抗うことも叶わない理外の力なんかじゃない。

 

現実として、俺は生きている。

 

なら、まだ足搔こう

足掻けば、それは仮定として現れる。

 

下を向くのはやめよう、未来に怯えるのはやめよう。

 

だって、俺は死にたくない。出来れば今いる皆にも死んで欲しくない。

その想いは今も変わっていないのだから。

 

俺はしっかりと前を見据える。

 

未裏さんは俯き、涙を流していた。

癒羽希さんは震える体を必死に手で押さえていた。

毒ノ森君も唇を咬み、手を強く握りしめていた。

 

みんな、今回の件で心に傷を負ったのだろう。

 

俺だけじゃない。それが分かった。

 

それも、きっと俺よりも深い、深い、傷を負った筈だ。

 

俺は毒ノ森君の肩を叩く。

 

「…………どうしたんだい?」

「着いたよ、学校」

 

そう、既に学校の目の前までついていた。

俺も含め、只々、ぼうっと歩いていたため、気づくことが出来なかったのだ。

 

「……ああ、そうか。じゃあ、取り敢えず今回の件を学園長に報告しないとな」

 

毒ノ森君は幽鬼のように、ふらふらと事務を目指す。

うちの学校では死者が出た場合は生徒自ら学園長に報告する義務がある。

 

これは死亡者の連絡の際に間違った情報が流れないようにするためと、学園側は死者が出る現在の状況を重く考えている、と外部に示すための演出だ。

 

まあ、演出とは言っても、現在の状況を軽く見ているわけでは無い。

だからこそ、腕の立つ防人を派遣しているわけだし。

 

ただ、それと同時に学園側は多少の犠牲はやむを得ないとも考えている。

 

いや、国がそう考えている。

 

だからこそ、学生の内からダンジョンなんて命がけの場所に潜らせる。

 

現実問題として、そこまでしないと人間は魔物に太刀打ちできないから国が悪いとも言えないけど。

 

 

ただ、心ここに非ず、と言った様子の毒ノ森君を見ると心配になってくる。

そのため、面会の手続きに関しては俺が代わりにおこなった

 

いくら、死者の報告と言う重大な話とは言っても学園長という役職上多忙になってしまうため、面会できるまでには時間が必要だと考えていたのだが、流石、と言うべきかそれから五分と経たず、学園長の下に通された。

 

学園長室は木材を使った非常に重厚感のある部屋であり、ソファには白髪の男が座っている。

 

男は白髪であることからかなり高齢であるだろうに、その体は今も現役であると言いたげな程逞しかった。何よりもその顔には無数に傷があり、歴戦の戦士であると否が応でも理解させられる。

 

 

「………ふむ。まずはお疲れ、っと言って置こう。」

「…………いえ」

 

毒ノ森君は学園長を目の前にしても、尚、弱弱しい様子を隠そうとはしない。いや出来ないでいた。

 

学園長にもそれが分かったのか、俺たちを見回し、ピタリと俺で視線を止める。

 

「分かった、済まなかったな。君は少し休んでいてくれ。それで、代わりにそこの君、名前は?」

「音長盆多です」

「分かった。何が起こったか教えてくれるか?」

「はい、俺たちは雑兵級ダンジョンに潜っていたのですが、そこに≪シャドーモール≫を使う魔物が二体現れました。また、一体に関しては≪創剣≫も使用していました。

 

とはいえ、魔物たちが二体同時に襲ってきたわけでは無いです。接敵時は一体だけが俺たちの前に姿を現し、もう一体は≪シャドーモール≫で潜伏していたようです。」

「ふむ、では片方が囮として君たちの前に現れた、ということか?」

「はい、初めに姿を現した敵は俺と毒ノ森君が抑えにいったのですが、敵が≪創剣≫を使った時点で雑兵級でないと判断したため俺たちは担当防人の方に助けを求めました。」

「……悪くない判断だな。」

「ありがとうございます。しかし、相手はそれが狙いだったようで担当防人の方が俺たちの下に辿り着いた時点で≪シャドーモール≫を発動し、陰に潜伏。我々が潜伏した魔物を警戒した所で、()()()()()()()()()()()()()()が棚加君……うちの攻撃魔法士の体を影に引きずり込みにかかりました。

 

そして、それを見ていた担当防人は自分の目の前で≪シャドーモール≫を使った個体が攻撃魔法士を引きずり込もうとしていると誤認し、いえ、誤認させられ、が正しいのでしょう。……そうして、誤認させられたことによって背後への注意が疎かになり、無防備な背中から一突きされ、死亡しました。攻撃魔法士に関しても、助けようとはしたのですが………………残念ながら」

「……分かった。

君たちのお陰で最近の行方不明騒動に関して色々分かった。

今日はゆっくり休むといい。」

 

俺たちは頭を下げると学園長室を出る。

 

そして、今日はもう流れ解散かと思ったとき、未裏さんが俺の胸倉を掴む。

 

「…………ねぇ。何であんたは平気そうなの?

仲間が死んだのよ?悲しくないの?」

「悲しいよ。………ただ、悲しんでばかりもいられないだけだ。」

「あんたはッ‼そうやって直ぐ上っ面の言葉を吐く。本当はどう考えてるよ。何考えてるのよッ‼

いえ、当ててあげる。あんたは仲間のことなんて考えてない。仲間の死なんてどうでもいいんでしょ?じゃなきゃ可笑しいわよッ‼

 

動揺一つ見せずに撤退を選択し、さっきだって淡々と報告を行った‼」

「それは、それが必要だっただけだ………………。」

「……それよ、あんた、必要なら機械にでもなるわけ?そんな訳無いでしょ?

人間なんだからッ‼必要だからって出来るわけないッ‼」

「…………やめろ、音長君を責めても何も変わらない」

「…………それは」

「……みんな疲れてるんだ。今日はここで解散としよう。」

 

毒ノ森君はそう言うとその場を歩き去ってしまう。

そして、俺達もその場で各々の寮へと帰っていく。

 

帰る際に未裏さんには睨まれたが、彼女も今日のことで不安定になってしまったのだろう。

 

きっと、休めば良くなる。

 

良くなるはずだ。

 

皆の精神も俺たちの関係も。

 

☆☆☆

 

あれから俺たちは新しいメンバーと担当防人が決まるまで自主訓練を言い渡された。

ダンジョンは非常に危険な場所であるため、当然と言えば当然だろう。

 

とはいえ、不幸中の幸いと言えるかと言われれば微妙だ。

それは毒ノ森君たちの精神面もあるが何よりも………………。

 

「あいつら、癒羽希さんに面倒見て貰ってるのに班員に死人出したらしいぜ?」

「ええっ?こわ~い。まあ、癒羽希さん以外大したことないんだから当然よね。」

 

前よりもやっかみの量は減ったが、それでも時折こういう奴は現れる。

因みに量が減った理由は生徒自体が物理的に消えたからだ。

 

「そう言えば、死んだ奴って誰なんだろうな?」

「あ~、棚加よ、棚加。あいつって女子に目が無くてちょっときもかったのよね。

わたしも~、何だか、性的な目で見られてた気がするし~」

「おいおい、安心しろ俺が守ってやるからっ、ともういないんだったな。ははははは」

 

そう言って笑いあう男女の組を俺は無視して歩き続ける。

しかし、隣にいた毒ノ森君はピタリと足を止めた。

 

そして、笑いあう男女の組の前で足を止めると、思いっきり拳を振りぬいた。

 

「ヴォハッ‼」

「きゃぁぁぁぁ、あんた何すんのよ‼」

 

男が殴り飛ばす。それを目のあたりにした女は悲鳴を上げ、抗議をするも毒ノ森君の拳により吹き飛ばされる。

しかし、それでも毒ノ森君は止まらなかった。

 

起き上がり殴り返そうとする男の腕を受け止め、一度引いてから再度押すことで相手のバランスを崩し、片足が浮いたところで地面に着いたままの足を払う。

そして、綺麗に転んだところにマウントを取り両手で交互に両頬を殴る。

 

それを見ていた女も初めは止めようとしていたが、毒ノ森君が止めようとした女を再度殴ったことで恐れをなしたのか、只々呆然と見ていた。

 

俺もこんな怖い毒ノ森君見たことが無くて止めることが出来ず、その場で立ち尽くしていた。

 

………………いや、マジで怖かった。

 

完全に顔が般若のそれだった。

 

そんな混沌とした状況を止めたのは、その場を通りかかった教師だった。

 

「おいっ!お前たち何をしている」

 

教師に見つかってからは早かった。

 

あれよあれよと俺たちは何故か学園長の下まで連れていかれたのだ。

 

学園長は自前の顎髭に撫でながら鋭い視線をこちらに向けてくる。

 

っていうか、めっちゃ手入れされてるな、その顎髭。

 

「…………毒ノ森班、一つ聞きたいんだが………俺はお前たちに自主訓練を命じた筈だが、お前らにとっての自主訓練ってのは同胞を殴ることだったのか?」

「…………………………。」

「……いえ、相手がこちらの仲間を侮辱してきたので殴ったまでのことです。不和を持ち込む人間の方が組織にとって有害だと判断したのですが?」

 

俯き続ける毒ノ森君に変わり俺は学園長に反論をする。

 

「成程な、だが、そこでボコボコの顔を晒してる奴らもオレ達からすりゃ、大切な生徒であり、未来の防人だ。その辺分かってんのか?」

「…………はぁ、ならその防人が組織の害になる前で良かったじゃないですか。

ほら?俺たちは防人とかいう血生臭い職業に就くことが決まっていますし、むしろ、拳で語っているぐらいが健全じゃないですか?」

「あのなぁ、てめぇの考え方はふりぃんだよ。今は生徒を大切に大切に育てるってのが潮流だぜ?」

「…………黙れよ」

 

俺と学園長が言いあっていると、俯いていた毒ノ森君が口を開いた。

しかも、地獄の底から聞こえているかのようなとても低い声で。

 

いや、低いっていうか怖い声で。

 

学園長はその声に少しだけ口角を上げる。

 

いや、何が面白いんだよ!

 

「あ?何だって?聞こえねぇよ」

「…………うるせぇっつってんだよ‼さっきから聞いてれば体裁だけ整えやがって、何が今は生徒を大切にだよッ‼

なら、コソコソ言ってくる奴をまず黙らせろよッ‼ダンジョンなんて危険な場所に生徒を放り込むんじゃねぇよッ‼

昨日だって、仲間が死んで間もないのに平然と現状の報告とか頼んでたじゃねぇかッ‼この狸爺がッ‼てめぇの息の根から止めてやろうか⁉」

 

そう言うと毒ノ森君は学園長に殴りかかった。

うん、止める暇すらなかった。

 

あの学園長死んだわ。

 

俺はそう思っていたのだが、学園長はパシッと毒ノ森君の拳を止める。

そして、上機嫌そうに歯を剝き出しにし笑う。

 

「あっはっはっは。いいなぁ、お前、最近の甘ったれたガキよりもそこの賢しいガキよりもよっぽどいい‼根性入ってんじゃねぇか‼」

 

学園長は甘ったれたの部分でボコボコされた二人をちらりと見、賢しいの部分で俺の方をちらりと見た。

俺ってそんなに賢しいかな?

普通に愚直に頑張ってるだけなのに………………。

 

ちょっとショック

 

「いやぁ、今日は良い日だ。うん、今回のことは水に流そう。

そこの賢しいガキが言ってたみたいに拳で語らねぇと伝わらねぇこともある。

俺達、防人は特になっ!つーわけで解散‼」

 

そう言うと俺たちは学園長を追い出された。それでも毒ノ森君は学園長に殴りかかろうとしていたから、俺は必死に毒ノ森君を寮まで引きずった。

というか、この後、授業が無いから良かったけど授業があったら、このバーサーク状態で受けたのだろうか?

 

…………普通に死人が出そう。

 

俺でさえ手負いの獣みたいで怖かったのに。

 

 

ふぅ。

まあ、そんなこともありつつ、部屋に着いたら流石におとなしくなってくれたので俺は自分を癒すため甘いものを買いに売店に向かう。

 

 

売店では相変わらず、ピーマンの被り物が売り切れの状態だった。

というか、あの後、学園内で前代未聞のピーマンブームが巻き起こり、ピーマンは死地に赴く際の生還の御守りとして崇められるようになったらしい。

 

いや、マジか。

まぁ、ピーマンの被り物しても正体がバレずらくなったし、別にいいか。

 

「はい、お会計、950円だよ。にしても、そんなお菓子ばっかりかって、ちゃんとご飯も食べるんだよ?」

「はいよ~」

 

俺は心配する売店のおばちゃんの言葉に返事を返すと、再度、男子寮へと引き返す。

売店自体は、四階に存在するため、校門までの道が見える窓も存在する。

 

俺は何気なく、それを眺める。

 

やっぱり、いるのかな?

 

学校抜け出して逢引きとかしてる奴。

 

ちょっと、まあそう言った下世話な好奇心もあった。

 

一応言って置くと別に逢引きしようとする生徒が現れるまで、眺めていたわけじゃない。

ちょうど視線を向けた際に彼女が通ったのだ。

 

他の生徒と比べて小柄な体躯、光を反射する金色の髪、不釣合いなほど大きなワンド、そうその姿は俺たちのパーティーメンバーの癒羽希カルミアだった。

 

 

………………………………………………

 

えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ。

 

癒羽希さん逢引きすんのッ⁉

 




おまけ


棚加「なぁ、音長。癒羽希さんをデートに誘うならどんな店が良いと思う?」
音長「えっ?そうだなぁ、ココアの美味しい店とか?」
棚加「浅いッ!浅いなぁ、音長は」
音長「……なら、棚加君ならどんな場所を選ぶの?」
棚加「ふっ、抹茶専門店、かな」
音長「その心は?」
棚加「この前!癒羽希さんは親子丼のお供に緑茶を選んでいた‼つまり、ココアが好きと言うのは男を試すためのフェイク!本当は緑茶が好きなんだ。」
音長「…………それは親子丼とココアが絶望的に合わないだけでは?というか緑茶って抹茶なのか?」

その後、インターネットで調べたところ、抹茶は緑茶の一種とされていた。

音長「いやマジかよ」

棚加君はもしかしたら博識なのかもしれない。

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