エルデンエムブレム   作:yononaka

100 / 513
竜族

「ええい、わしが道を開けてくれるわ」

 

 マフーこそないが、カダイン製の試作魔道書を幾つか持ってきている。

 量産に伴って威力は落ちたものの、

 あの程度の野盗にはこの試作リザイアでも勿体ないとは思うが、使用実例が欲しい。

 わしは生命簒奪(リザイア)を持って外に出ると、声が聞こえてくる。

 

『襲われていたのはマムクートだったのか』

『─────』

『はい』

『竜族だ、いいな』

『え、ええ』

『それは蔑称、いい言葉じゃない

 恨んでもいない、悪とも限らない連中にそういう言葉は向けるもんじゃない』

『そう……でしたね、ごめんなさい』

『謝れるのはえらいぞ』

 

 全てを聞けたわけでもないが、

 ……今どきの者にしては珍しい考えを持っておるな。

 ドルーアを相手にした人間は竜族を虐げても止む得ぬことだと思うが。

 

 その直後に馬鹿げた大喝が響く。

 頭が割れるかと思った。

 

 その直後から戦いは始まる。

 少年魔道士がサンダーを放ち、横合いから少女魔道士がウィンドを放っている。

 ん?ウィンド?カダイン学生か……?

 

 大喝を発した男はと言えば……なんだ、アレは。

 短剣を振るうと青白い光の剣が生み出され、それが猟犬のように野盗共を切り裂いている。

 あんな魔法は見たこともない、聞いたこともない。

 何者だ、あやつは!

 

 ではこの二人もカダイン学生ではなく、あの男の徒弟か?

 ……ん?

 

 あの片方の、少年魔道士……エルレーンではないか!

 

 思わず口に出しそうになるのを我慢し、わしは馬車へと戻ると布を何枚か用意し、変装を急ぐのであった。

 

 ────────────────────────

 

 戦いはあっけなく終わった。

 所詮は野盗。

 

「生き残ってるのはお前だけか」

 

 ボロ布を纏う人影に近づく。

 

「立てるか?」

 

 反応はない。

 周りには同じような服装の者たちの死体が転がっている。

 

「……もう少し早く来ていたなら、か

 恨んでもいい、が……この辺りは物騒だ

 せめて安全そうな場所まで一緒に来る気はないか

 恨みつらみはそこで──」

「私は……竜族……恐ろしくはないのですか……?」

「今すぐ変身して噛みついてきたりするのか?」

「そんなことは……しない……」

「じゃあ怖くないだろう」

「竜族は高く売れる……竜石だけでも……高く売れると」

「あー……オレがお前を捕まえて売るかもってことか?」

 

 声の感じからすると女性だ。

 であれば彼女との話はシーダにさせるべきだったかもしれないな。

 

「いいえ……そうではない……です」

「ああ、また連中みたいなのがお前狙いで襲ってくるかもってか?」

「……」

 

 こくりと頷く。

 

「あんな連中百人来ようが千人来ようがどうにでもなる

 オレは聖王レウス、今様のアンリなんぞと呼ばれている

 そんくらい強いってことだ、安心しろ」

 

 オグマからも受けた、オレルアンの人々に流れるアンリの伝説に対する信頼感。

 今回はそれを利用させてもらおう。

 

「アン……リ?」

 

 あれ、ピンと来てない感じか。

 

「とにかくすげえ強いんだよ、だからその点は安心していい」

 

 逡巡の末に彼女はオレの手を取る。

 そっと手を引いて起こし、シーダを呼んだ。

 

「馬車に乗せてやってくれ」

「はい、レウス様」

 

 彼女の手をバトンタッチするようにしてシーダに預ける。

 

「あー、名前聞き忘れたな」

「名前……」

 

 意味は通じているが、言葉は続かない。

 

「周りで倒れているのがお仲間か、ご家族だったとしたなら

 精神的な負担から来る記憶の欠落かもしれません」

 

 エルレーンが耳打ちするように。

 

「名前は、まあ後ででいいか

 じゃあ馬車に」

 

 そりゃまあ、そうだとしたらむしろ喋れるのは心が強い方でもあるか?

 正気を取り戻せたら近くの街でも、ダメそうならアリティアの治癒が専門の連中に任せるしかないか。

 

「そこのお方、お見事であられる」

 

 シーダが馬車に送っている後に話しかけてきたのは、布でくぐもってはいる男。

 

「野盗って感じじゃないな」

「故あって旅をしている魔道士でな……先程のお主が使っておった魔法に驚かされた

 それにあの竜族をマムクートと呼ばなかった心根にもな」

「誰だって蔑称で呼ばれたらムカつくだろ、殺し合いする相手なら別にいいけどよ」

「高潔なのか粗暴なのかわからぬお方であるな」

 

 少し困ったような声。

 どう対応すればいいやら、と言った感じか。

 

「で、オレの魔法に興味があるのか?」

「独学で魔道を研究していてな、今までに見たことのない魔法の構築であったことに驚かされた

 一体、それは?」

「あー……」

 

 戦灰です、なんて言えるわけもないし。

 

「秘密だ」

「それは、そうでしょうな……」

 

 残念そうにする男。

 だが、直ぐに。

 

「先程の話を意図せず聞いてしまったのですが、聖王と呼ばれているとか」

「アリティア聖王国でな、アンタは……いや、いいさ」

 

 顔を隠しているのであれば相応の理由がある。

 深く追求するのも野暮ってもんだろう。

 そりゃ美女とか美少女だったとしたら見たいけど、どう考えても男だしな。

 

「身分を明かせと仰っしゃらないのですな、王族であるならば命令もできるはず」

「言いたくないから顔隠してるんだろう」

「……ご配慮に感謝する」

 

 戦いのお手伝いはできませなんだが、と言葉を続け、薬を取り出す。

 

「これをお持ちになられよ、聖王殿」

「薬、だよな」

「先程の竜族が精神を起因としたもので苦しむのであれば気休めになるやも知れぬ」

「へえ」

 

 怪しい……と思ったのがバレたのか。

 

「友人にも竜族がいましてな、そのものに頼まれて調合した薬

 その集団に属していた竜族には副作用はなく、

 一時的ではあるものの精神錯乱の緩和を認められたものになる」

「竜族は竜のままだと理性を失っていくんだっけか」

「本当に、よくご存知で

 ただ、あくまでそれはその場しのぎにしかなりえませぬ

 それの完成ができたならよかったのですが……」

 

 口ぶりからすると解決策にはならないんだろうな。

 ま、経口薬で理性が戻るってならメディウスだって穏便な手段を取っていたかもしれない。

 ……いや、それはどっちにしろ無理筋か。

 

「もらっておくよ、流れの魔道士」

「いいえ、ではわしも先を急ぎますゆえ……」

 

 オレが竜族相手になにかできるわけもないし、薬の信頼性は……まあ、ちょっとアレだが、

 いざとなったら使ってみるとしよう。

 

 エルレーンはのろのろと去っていく馬車を見ている。

 

「どうした?」

「いえ、どこかで見たか、お会いした気もしたのですが」

「思い出せないか」

「ええ、申し訳ありません」

「あんだけ顔隠してたらな、声だって意識して変えているだろうし」

 

 数人分の竜族の亡骸を布に包み、馬車の後方の荷物エリアに安置する。

 この近くに村があったらそこで葬らせてもらおう。

 それなりの金を握らせれば頷いてくれるだろう。

 

 あとはまあ、戦利品も拾わせてもらった。

 何が役に立つかわからんからね。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。