エルデンエムブレム   作:yononaka

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魔王への道のり

「交渉?」

「アリティア聖王国に魔道学院を作ってもらいたい

 必要なノウハウなどは全てこちらから提供する」

「条件は」

「カダインを受け取ることが条件となる」

「……ん?」

「学長、条件になっていないように感じますが……」

 

 オレとエルレーンが疑問符をそのままに質問にする。

 

「レウスの下で魔道を究め、広めたい、そう言っているんだと思うが……

 違うのか」

 

 事も無げにナギが言う。

 平文的に受け取ればそうだろうけども……。

 

「レウス殿が覇王になるのであれば、

 魔道発展の最大の近道こそが聖王国にとって最大の学術団体になる、と考えるが間違っておるかね」

「いや、そりゃあまあ、そうだが

 カダインを手放すって言っているに等しいことだと受け取っているが、それは間違いないか?」

「手放すのではない、迎え入れてもらいたいのだ

 ああ、運営にわしを絡める必要もない

 ただ、研究だけは続けさせてもらいたい」

 

 こりゃ本気か。

 本気なんだな。

 

「それに以後の魔道の発展にも、灰のオーブの研究の残りをするにしてもお主がいてくれることは何よりの近道になる」

「だが、国を手放すって……そうあっさりとできるものか?」

「できるのさ、今のカダインは国とは名乗っているが、信心深いものはガトーが消えてからはそれを求めて旅立った

 文化的な生活を求めたものはミロアが去るときに共に出ていった

 街に残っているのは細々と生活する開派の市民がごく一部だ」

 

 リーザでも、手放すでなく主となった。

 オレをその国の信仰対象という形ではあるが、頂点に置いていると考えれば近いことなのだろうか。

 

「汲んであげてほしい、レウス」

 

 ナギが言う。

 

「ガーネフは私と同じなのだと思う」

「同じ?」

「レウスに夢を見た、己が見たいという風景を見せてくれる人間だと確信を持ってしまった」

 

 そう言われると、納得はできる、が。

 ガーネフを見やる。

 

「老骨に咲かせる徒花、その手伝いをしてほしいのだ」

「研究者だけじゃ居させないぞ、ガーネフという人間が持つ力、知恵、経験はオレに取って重大で重要になる」

「ああ、カダインが認めた我が能力、いかようとも使われるがよい」

「……わかった

 その代わり、実現させてみせるさ

 アカネイアの地に、魔道を(あまね)く普及した未来って奴を」

「頼もしいことよ

 魔道のしもべを従わせし王となられよ、それが魔王と称され恐れられたとしても……

 このガーネフ、

 お主が魔王を目指す限り、魔王で居続ける限り、いかな冥府魔道にも付き従おう」

 

 こうして、ガーネフが支配したカダインはアリティア聖王国の支配下に置かれることとなった。

 

 ────────────────────────

 

 大変なのはここからだ。

 カダインの運営を補佐するものたちを呼び、あれこれと折衝を重ねる。

 とはいえ、カダインはその勢力をかなり小さくしており、運営自体は開派のみで取り仕切られている。

 

 急な話であるから焦ると思っていたが、ガーネフがオレに対するプレゼンを行うとあっさりと受け入れた。

 その上でエルレーンにやっかみの声も上がった。

 ただ、それは出世がどうのではない。

 

「聖王陛下が使った能力についての報告書は纏めてあるんだろうな」

「間近で魔力を感じたのだろう、どのような波長だった」

「我々の知る魔道とは違う魔法を使うとはどういうことだ」

 

 と、質問攻めの中身は研究者としてのものだった。

 エルレーンはほとほと困った顔をしながらも対応する。

 だが、その顔は心から嫌だと言うものではなく、一人の魔道士として対話できている喜びに溢れていた。

 

 結果として、カダインの魔道学院はまるまるアリティア聖王国に引っ越しとなる。

 輸送コストに関しては全てアリティア聖王国持ちとなる。

 莫大なコストではあるが、運び込まれる中に存在する魔道書、杖は全て聖王国の所持物となる。

 特に研究用に作られた魔道書で、実用実験まで完了しているものだけでも優に六部隊ほどの量があり、

 杖にしても同様の、それもライブやリライブでは収まらない品も大量に作り出されていた。

 

「聖王陛下!これを見てください!」

 

 研究者が自信満々に杖を見せる。

 

「なんだこれ」

「これを使うと……ハッ!」

 

 杖が輝く。

 が、なにか起こった様子がない。

 

「……?」

 

 オレが疑問符を浮かべていると、

「わかりませんか」とドヤ顔でこちらを見てくる。

 

「す、すまん

 わからん」

「一時的にですが運が良くなった気がする杖です!どうです!」

「……わ、わからん」

 

 幸運が上がる杖、ってことだろうか?

 

「なんかもっとわかりやすい効果のものはないのか、力が強くなるとか」

「ああ、ありますよ」

 

 そう言うと実につまらなさそうな表情で試作品の杖が収まる樽から一つを引き抜いてこっちに振るう。

 筋肉がムキムキになる!とかはないが、確かに腕から手に掛けての筋肉がいつもよりも靭やかに感じる。

 おそらく微小な効果なのだろうが、強力な兵団同士のぶつかり合いでなければ微小な効果は馬鹿にならない差にもなる。

 戦争においてはかなり強力な効果だろうが……研究者は不満そうだった。

 

「素晴らしいじゃないか!」

「まあ、そうですね……でもそんな目に見えた効果を実証するのはつまらないんですよ

 何度やったって数値ぶれたりしないので研究としては完了扱いですから」

 

 カダインの研究者はこともなげに言う。

 こいつら戦場を一変させるようなものを、そんな風に……。

 

「もしかしてその樽一杯の杖が実証が済んでるものか?」

「まさか」

「ああ、だよな」

「これは今年の分です、我々の成果物はこれの十倍……もう少しあったかな、という程度です

 ガーネフ学長はその二倍は作っておられますよ」

「な、なんでそれらを戦闘に使わないんだ?」

「誰が使えるってんです」

 

 そうか……そもそも研究の過程のそれらは作って終わりである以上、ドクトリン(戦闘教義)に組み込むってプロセスがないのか。

 ガーネフにしてもそうだ。

 聞いていれば、闇のオーブを手に入れる以前からずっと学生、そして研究者へとステップアップした男で、戦場に出るようなことはなかった。

 

「……おい」

「はい、なんです?」

「絶対に、何も置いていくなよ!お前らの研究はオレの宝だからな!!」

「は……は、はい!」

 

 この後日から、研究者がオレを見る目がなんだか「次の出資者」程度の目だったものから「信仰対象」めいたものに変わっていったのだが、その理由は研究者でもないオレには永らくわからないものだった。


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