次に向かう宛。
それは宴の最中に頼まれたことがある。
「レナというシスターがデビルマウンテンに行ったきり戻ってこない、彼女を助けてほしい」
どちらにせよ次にどうするかも決めていなかったので、台本に従うが如くにデビルマウンテンへと進む。
昼であっても薄暗く、遠くから風の音なのか、それとも人の悲鳴だったのかもわからないものが聞こえる。
ここにはサムシアンという凶悪な山賊が棲み着いている。
オレの記憶ではナバールという剣士の説得と、レナとジュリアンの救出を同時に行わねばならないマップだったはずだ。
上空から周囲を見渡していたシーダが戻ってくると、状況を報告してくれる。
女性と青年が山賊から逃げている、と。
どうやら頼まれていた心優しきシスター・レナと元サムシアンのジュリアンがこちらへと向かっているらしい。
ただ、問題があるとすると、こちらに素直に逃げてきてくれるかどうか。
───────────────────────────────
「レナさん、こっちだ!
杖はオレが後で何とかするから!」
「ですが……」
一時はサムシアンに捕らわれたレナであったが、サムシアンの盗賊ジュリアンによって救出された。
だが、それがサムシアンの頭目であるハイマンの逆鱗に触れて、追討指令が出されたのだった。
(……くそ、この先に進んだって……逃げ道もない)
常ならば、
この先にはアリティア軍が進んできたことをジュリアンは知っている。
アリティア軍を警戒していたハイマンからの情報があったからだ。
だが、今は違う。
ガルダの港での戦いはゴメスとガザックの仲間割れによって共倒れたとされており、
そもそもアリティア軍はそのガザックによって全滅させられているのだ。
レウス、シーダ、リフの三人ともなれば、もはや物見遊山の旅人としか見られない可能性すらある。
常ならば、
彼らは全速力で南下していた。
だが、今回は逡巡してしまった。
リライブの杖か、ここではないどこかへの逃走を果たすか。
その逡巡こそが致命的なものとなった。
「どこまで逃げようと、無駄だ」
長髪の剣士がジュリアンに追いついてしまう。
剣士ナバール。
その名声は周辺だけでなく、島国タリスにまで聞こえてくるほどの腕前を持つ。
だが名声と善性は必ず繋がるものでもない。
今の彼はサムシアンに雇われた傭兵でしかない。
追討指令に従って、裏切り者であるジュリアンを始末しに向かった死神なのだ。
「レナさん、このまま南下するんだ!早く!!」
「でも、ジュリアン……」
「早く、逃げろッ!!」
必死の声にレナは走り出す。
それを見たジュリアンは満足げに微笑むと、腰に吊っていた鉄の剣を抜き払う。
「抜くまで待っててくれるなんて、優しい所があんだな」
「どうせ長くは掛かるまい、お前が剣を抜こうと、命を賭して時間を稼ごうと……いずれ無意味な事になる」
「ああ、でも、それでも……一歩分でもオレは時間を稼──」
言葉が最後まで紡がれることはなかった。
一瞬の踏み込みとしか見えない動きは、目で追うことができないほどの速度で振られた居合の一撃が同居していた。
キルソード。
名の通り、殺しに特化した薄刃の刀剣。
ナバールがひと度これを抜けば、倒れぬ敵はいなかった。
「ナバールの旦那!……ジュリアンをやったんだな!
げへへっ、ざまあみやがれ、腐れ裏切り者がよ!!」
死体を蹴り上げるサムシアン。
それを冷ややかにナバールは見ている。
「そんなもので遊んでいていいのか
あのシスターが逃げ切るぞ」
「っと、いけねえいけねえ
ナバールの旦那はどうするんで?」
「オレは裏切り者の始末を命じられた、シスターの捕縛は仕事に入っていない」
「そうですかい……それじゃあオレたちはこのまま南に向かわせてもらいやすぜ」
サムシアンたちが進んでいく。
蹂躙され、見る影もなくなったジュリアンの亡骸を一度だけ見て、ナバールは与えられた居住区へと戻るのだった。