エルデンエムブレム   作:yononaka

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旧カダインの黎明

 狭間の地からこっち、やっていないことがある。

 

 アイテムクラフトだ。

 クラフトするための手引が書かれた製法書と材料があれば空気中に漂うルーンの影響か、アイテムを作り出すことができる。

 ルーンそのものが理想を実現化させるための力を持っていて、

 都合よくものを作り変えているのだろうというのがオレの理解だ。

 

 つまり、オレはこのアカネイアの地ではアイテムクラフトはできない。

 製法書はあれど、空気中にルーンを含んでいないからだ。

 

 逆に言えば、ルーンさえ含ませれば可能であるかもしれない。

 

 オレの目の前にはカダインから引き上げるときに集められた研究レポートが大量にある。

 その中で目を引いたのは竜族に関わるものだった。

 元はガトー肝いりの研究であり、ガトーが去ったあとはミロアの弟子たちがほそぼそと研究を続けていたもの。

 彼らだけでは結実に至ることはできず、メディウスからの命令もありガーネフが彼らと協力して作り上げたもの。

 

 一例として存在するのはナギに飲ませるよう渡されたあの薬だ。

 レポートでも「理性を失っていない竜族の精神状態を悪化させないもの」という記述がある。

 求めていた結果としては理性の回復だったのだろうが、それを解決する手段はどうにも見つけることはできなかったらしい。

 

 研究レポートの中で、ペーパープランでしかないものは幾つもあった。

 その中で気になったものがある。

 

『逆竜石』

 力を(うち)へ裡へと封じ込めるのが竜石であれば、逆竜石は名前の通り竜としての力を外に拡散させるものだという。

 素材となる竜石の希少性に加えて、発散するという性質上凄まじい勢いで消費されるらしく、実現されなかったらしい。

 

 これだ。

 竜族は理性を失い、恐ろしい野生生物となってしまうことを語られている。

 飛竜やら火竜やらは竜族の成れの果てだ。

 だが、彼らはそれでも徒党を組んで襲ってきたりもする。

 その理由は野生に戻ったが故の力による明瞭な原始的な上下関係が構築されているからだろう。

 

 であれば、圧倒的な力を見せ、従うべき相手だと思わせたなら……どうなるのだろうか。

 

 冒頭に戻り、アイテムクラフトを試してはいない。

 ルーンが周囲に無いからだ。

 であれば、それを用意し、素材、製法書があれば可能であるのかもしれない。

 

 ここに用意しましたるは黄金のルーン。文字通りルーンが固まったものだ。

 それに竜石やいくつかの素材、研究レポートという名の製法書。

 オレは黄金のルーンを砕き、霧散するルーンの中でつなぎ合わせるように竜石と素材に触れる。

 ルーンの霧に隠されるようにしていたそれが晴れると『逆竜石』がそこに鎮座していた。

 

 成功だ。

 これならアイテムクラフトができる。

 大いなる問題としては固形化したルーンの残りはそう多くないことだ。

 製法が不明なものも当然作ることはできない。

 制限は多いし、作り出したものが効果を発揮するかもわからない。

 わからないのならば試せばいい。

 

 ……と、言うことが試したいことに含まれていたわけだ。

 

 飛竜たちが咆哮を上げて砂漠の部族を威嚇する。

 ナギが叫ぶのを止めろと言いたげに片手で飛竜に触れると、飛竜たちは大人しく従った。

 

 成功している!……んだよな?

 これで単純にナギの持つ強さとカリスマ性に従っているだけだったら作り損というか、効果の有無がわからないが……この辺りは引き続き観察する必要があるだろう。

 

 ────────────────────────

 

 砂漠の部族はアカネイア大陸で『最も新しい王』への恭順を誓った。

 彼らにとってある意味での象徴たる飛竜を従えたものには当然の行為でもあった。

 

 彼らが戴いた王、レウスはもぬけの空になったカダインを守護するように命じる。

 つまりは砂漠のオアシスでもあるカダインに住むことを許したことに驚きながらも、

 言葉も通じないはぐれ飛竜を従わせたものたちだ。

 何を言ってきても不思議ではないと納得も早かった。

 

 部族の主にはアリティアから彼らを監督する立場の者を送ることも決め、

 細かいことは彼と取り決めよと言われるのに従った。

 

 はぐれ飛竜を従わせた王が去っていったその数日後に、アリティアから監督者が現れた。

 

 ────────────────────────

 

「どうしてこんな事に……?」

 

 私の名はヨーデル。

 カダイン魔道学院の駿才だ。

 自分で言うのもなんだが、優秀な男さ。

 

 誰より早くガーネフ学長が出した課題である灰のオーブからマフーを作り出すことにも成功し、

 それからの意識はないが、きっと私のことだ上手くやったのだろう。

 優秀なるこのヨーデルが意識を取り戻したのはつい最近だ。

 

 カダインが引っ越しし、アリティア聖王国とかいう聞いたこともない国に統合されていた。

 駿才ヨーデルはそんなことでは驚かないが。

 

 私は王からじきじきに召喚される。

 聖王レウスという人物はオレを評価していた、見る目のある男だと思う。

 やや粗暴そうな雰囲気もあるが、人を見る目がある人物に従えというのが親の教え。従おう。

 

「ヨーデル、駿才のお前に頼みたいことがある」

「ハッ!この駿才ヨーデルに何なりとご命令を!

 カダイン魔道学院の実質的主であるあなたは私の主でもあります!」

「良い返事だ

 では旧カダイン魔道学院及びカダイン領の運営と安定をお前に命じる

 今日付でお前には領主としての位も授け、カダイン侯ヨーデルと名乗ることを許す」

「な、なんと……そのご意思とご慧眼に背かぬよう、このヨーデル、命の全てを以て励みます!!」

 

 学院ではマリクやエルレーンに声望で負けていた。

 フン、たしかに奴らは外見が美しい。

 風采というのは人を彩る。

 だが、才能が負けたわけではない!

 聖王レウス陛下は私の才を見抜いてくださった!

 

 私は数名の文官(ヨーデル最初の部下だ!)を連れてカダイン領へと到達した。

 そこで華々しい生活が待っていると思ったのだが……。

 

「どうしてこんな事に……?」

 

 私は呻いていた。

 砂漠の部族たちは従いこそすれど、私のようなシティ・ボーイとは文化がまるで違う。

 

 力こそ全て。

 欲しいものは奪う。

 味付けが異常に濃い。

 

 舐めた態度を取られるのは寛大であるからこそ許すが、命令に従わないのは困る。

 カダインの運営上、好きにされすぎると収拾がつかないからだ。

 

「では、領主

 力の強いものこそが砂漠の掟なのだから、力比べをしよう」

「何をすればよい」

「殺す以外は何をしてもいい、この土俵から出たら負けだ」

 

 なんたる!なんたる蛮的思考!

 父よ、母よ。

 私を教育してくれた全ての者たちよ。

 今日、私は天命を知った。

 

「わかった、では力比べをしようではないか」

 

 私は領主になったことのお祝いだと我が友、エルレーンが渡してくれたボルガノンを構える。

 

 我が天命。それは教化。

 このカダインの地に住まう蛮族たちを教化し、第二の学術都市を作り出すのだ!!


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