エルデンエムブレム   作:yononaka

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パレスの黎明

「このような攻めではニーナ殿下の威光を知らしめることなどできぬ!」

 

 机を叩き、激するのはアカネイア攻略軍の指揮官が一人、ミディア。

 

「だというのに、軍を後方に下げろというのはどういうことか!

 パレスには到達しているのだぞ!!」

「で、ですからこの状況が大きな危険を孕んでいるのだと、ハーディン将軍が……」

「ふん、ヤツのようなオレルアン人にはわからんのだ

 この戦局の重大さが!

 ニーナ殿下のお側に長くいながらそれが何故わからんのだ!?」

 

 アカネイア攻略軍の軍議は踊っていた。

 パレス攻略の位置についたオレルアン連合であったが、本格的な防衛隊を相手にすると状況は一気に膠着した。

 もともとのアカネイア軍は野戦での迎撃には殆ど興味を向けなかったが、

 パレスへの侵攻となると話は別だと言わんばかりに積極的に参加を始める。

 

 パレスを守るアカネイア防衛軍はハーディンの勢力下にあるアカネイア貴族たちに対して

「故国を、都市を破壊するものを同国人とは認めない」と反発。

 それまでは五大侯に従うばかりであったアカネイアの小規模軍閥が手を取り合い参加したのだ。

 特にオレルアン連合が手を焼いたのは防衛の中核を担うトムス、ミシェランの装甲兵コンビと弓兵のトーマスであった。

 

 彼らはミディア、ボアと共に囚われていたが、オレルアン連合と繋がっている内通者の手で解放。

 途中までは共に行動していたが、オレルアン連合がパレスを攻撃したことを知った途端に別離を取った。

 

「パレスを得れば、ニーナ殿下の名においてアカネイアは再出発ができるというのに、

 あやつらは……」

 

 ミディアの怒りの矛先はトムス、ミシェラン、トーマスに向いていた。

 正直な所、彼らが参加することでここまで攻略難易度が上がるとは思っていなかった。

 ミディアたちも必死であったが、故国を守る意思を持つ彼らもまた必死であった。

 

「どうしても退けというのならば、次の攻めを最後とする!

 それでよいな!」

 

 伝令はほとほと困っていた。

 もう戻ってこいという命令をどう捉えたら「あと一回攻めてもよい」になるというのか。

 だが、アカネイア貴族に反抗することもできない。

 その事を伝えますとだけ言って伝令は去った。

 

「アストリア、ジョルジュ、パレス攻めだ

 率いている兵を全て使う」

「そう激するな、ミディア

 苛烈な君も美しいが

 安心してくれ、この戦いで君の気持ちを鎮めてみせよう」

「アストリア……」

 

 それを目の端で見ながらジョルジュは溜息を飲み込んで兵に号した。

 

「明朝、攻めを再開する!」

 

 ────────────────────────

 

 アカネイアパレスの会議室では城の防衛を担うグルニアの将ボーゼン、

 グルニア騎士のヒムラー。

 遊撃と偵察から戻ってきたミネルバ。

 治癒を受けながらのトムス、ミシェラン、

 彼らと共に虜囚から兵士へと戻ったトーマス。

 そしてそれ以外にも多くの指揮官や騎士たちが集まっていた。

 

「防衛はどうなっている」

「このままであれば問題ないはずだ」

 

 ボーゼンの言葉にトムスが返す。

 

「正面はわしとミシェランさえ入れば守りきれる

 多少の増援であってもトーマスもおるからな」

 

 その報告を聞きながら、ヒムラーはミネルバを見やって

 

「ミネルバ王女、この後の展開どう予想される」

「このまま戦い続けても兵を失うだけ

 オレルアン連合の大義名分を考えれば兵士をすりつぶすような真似はできぬはず

 撤退すると思いたいが」

「そうは思えない、と?」

「相手が五大侯の家に連なる者だからな、兵の命は我らが考えるよりも軽く扱うかもしれん

 それこそ、ハーディン将軍が考えるよりもだ」

「……なるほど」

 

「あの、ボーゼン様」

「なんだ」

 

 トーマスが手を挙げ、ボーゼンへの質問を求める。

 

「ボア司祭から回収したトロンはどうなったのです?」

「グルニアへの手土産にしたいところだが、そうもいかんだろうな

 ミネルバ王女が考えた最悪のプランが実現すれば、このボーゼンも前に出て戦わねばなるまい

 その時に使わせてもらおうと思っている……がどうしたのかね」

「いえ、それならば構わないのですが」

「ああ、着服を考えていたと言いたげか」

「それは」

「よいよい、そう思われてやむもない

 こんな顔付きの男を信用せよという方が無茶というものよ、ははは!」

 

 ボーゼンはグルニアの司祭であったが、心情としては新ドルーア派の人間であり、

 メディウスの計画である竜族の国を作るということに賛成している人間としてはマイノリティである『竜族復権派』の人間である。

 その立場のせいでグルニアからアカネイアという遠方まで送られてはいるものの、

 パレスの守護を任せられるのには彼の才覚があった。

 

「わしもミネルバ王女と考えは同じ

 ただ恐らくは兵士を消費する前にジョルジュとアストリアが露払いに現れるだろう

 連中も必死であろうし……何よりパレスを奪還したとしても兵士を消費したあとであれば声望もあるまい」

 

 ボーゼンは軍略家として確かな目を持つ男であるからこそ、パレスの守護を任されていた。

 事実、これまでの攻めの全てをボーゼンはしっかりと見抜いて、対策を講じてきた。

 トムスたちが捕らえられたのも彼の手腕であり、

 グルニア、アカネイア、マケドニアの三カ国が奇妙な一枚岩で成り立っているのもまた実績あってのものだ。

 

「ミネルバ王女、貴女には悪いが明日は危険な任務に付いてもらうことになる」

 

 その男がこう言うのだから、想像よりも悪いものになるのだろう。

 ミネルバは覚悟を決めて頷いた。


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