エルデンエムブレム   作:yononaka

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きっと、同じ御旗であったはず

 怒りに任せた騎兵など取るに足らない、ネギを背負ったカモのようなものだ。

 城門を守る歩兵たちは突撃してきたミディアに対して武器を構える。

 だが、その突撃を止められるものも、その槍を受けて耐えることができたものもいない。

 

 その槍が振るわれれば例え盾を構えようと吹き飛ばされ、壁や家に叩きつけられる。

 逆の手には手槍を構え、馬を走らせながら城壁の上に立つ弓兵に打ち当てる。

 

「き、鬼神の類か?」

「ミシェラン!よそ見するなァァ!!」

 

 その声に暴れまわるミディアから目線を外すミシェラン。

 ぎぃんと鈍い音が響く。

 

「反応がいい

 お前たちがそれほどまでに強いのは誤算だった」

 

 盾による防御が間に合った。

 それはアストリアの疾風めいた一撃だった。

 

「アストリア、ここは通さんぞ」

「ほう、どのようにして?

 まさか盾と槍を使ってなどと言うまいな」

「そのまさか──ぐぉあ!!」

 

 盾を構え直そうとした瞬間にタワーシールドとガントレットが切り開かれ、真っ赤な花が咲くようにしておびたたしく出血する。

 

「確かにお前たちは強い

 だが、それでもまだ私の剣を超えるには随分と差があったようだがな」

「よくもミシェランをッ!」

 

 トムスがアストリアに襲いかかり、城門の戦いの継続を知らせる。

 

 その一方で睨み合いが続くものがいた。

 

 ────────────────────────

 

 ──ジョルジュとトーマスである。

 名声も実力もジョルジュは遥か格上の相手である。

 だが、それでもトーマスは退けなかった。

 

「ジョルジュ様、私は未だあなたの望む弓の腕には到達していません

 ですが、それでもここであなたに挑まねばならない」

「トーマス、オレはお前を打ちたくない」

「私もです、ですが……」

「ああ、そうだ

 それでもオレたちは弓を引き合わねばならない

 ここが戦場であり、オレたちはこの弓以外で自らを表現することなどできないからだ」

 

 ジョルジュは当人すら気がついていないことに気がついていた。

 トーマスの才能の開花は起こっている。

 そして戦いの運が少しでもトーマスに寄せられたならば射抜かれるのは自分であろうかと思えるほどに、

 今のトーマスは、現時点での彼が保つ力の全てを弓によって表現できることを。

 

「我が一矢に全てを込めましょう、ジョルジュ様!」

「お前のその才に矢を以て敬意を示そう、トーマス」

 

 トーマスは弓を引き絞り、矢を放つ。

 一瞬だけ遅らせてジョルジュもまた矢を放つ。

 

 たった一瞬だ。

 ジョルジュはトーマスが射った矢を狙って矢を放った。

 空中でトーマスの矢は真っ二つに割れ、勢いを殆ど失わないままにその矢がトーマスの体を刺し穿った。

 

 大陸一の弓使いの名はメレディ家が喧伝したもの。

 ジョルジュはそれを過分なるキャッチコピーだと嫌っていた。

 

 しかし、その腕前は紛れもなくこのアカネイアの頂点に君臨する腕前である。

 

「……」

 

 ジョルジュは配下の兵に見られぬよう、目線を落としていた。

 オレはあと何度、同じ故郷のものに矢を放たねばならぬのだろうか、と苦しんでいた。

 

「ジョルジュ様、我らも進まねば

 アストリアめに手柄を全て奪われてしまいますぞ」

 

 何も知らない部下たちが急かしてくる。

 こんな思いをするならば弓の才覚など欲しくはなかった。

 だが、それでも五大侯の呪いめいた責任感が背を押してくる。

 

「ああ、進撃せよ、それのみがこの戦いを終わらせる鍵に他ならん」

 

 そういって配下を進ませる。

 そういって自分を進ませる。

 

 この地獄に終りがあることを祈って、ジョルジュは進むしかなかった。

 

 ────────────────────────

 

 なぜ、我らの戦いの正しさがわからないのか。

 ミディアは激昂していた。

 確かにニーナ殿下は戦いに御出にならない。

 それは彼女が優しき人であり、

 そして戦いがない時代になったときに自らが戦いに参加しなかったことで、

「戦わずとも平和を作り出したもの」、

「武器を持たぬからこそ平和を口に出すことを許される唯一の存在」になるためである。

 ニーナ自身から聞いたわけではないが、同じアカネイアの人間として心で理解している。

 彼女こそがこのアカネイアに恒久的平和を生み出す現人神になられる方だ、とも。

 

 血風が吹かぬ場所での戦いはボア司祭が上手くやってくれる。

 彼こそがニーナ殿下の最大の理解者だ。

 戦いは私やアストリア、ジョルジュが担当すればいい。

 

 盟主がオレルアンの王弟(ハーディン)であることは引っかかるが、

 それでもあの将軍の軍才は紛れもなくこの戦乱を吹き消せるだけのものだ。

 

 我らの正しさを示す手段はたった一つ。

 このパレスに巣食う不心得者を排除し、正しき王を戴くことだけ。

 

 戦いの中でそうした事を考えながら、敵を屠り続けるミディア。

 

 鬼神と呼ばれるようになった女騎士は視線の先にあるパレスを望む。

 ……落としきれば、あの城を凌辱するボーゼンを打ち取れば、正しさの証明ができるだろうか。

 そうすれば戦いは終わるだろうか。

 

(何を弱気なことを

 戦いは終わる、終わらせてみせる

 誰でもないこのミディアの手で、必ず)

 

 そう心に思うとミディアは次の瞬間にはパレスへと一心不乱に突撃を敢行していた。


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