エルデンエムブレム   作:yononaka

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乱闘はアカネイアの華

 第六感って言葉がある。

 平たく言えば直感とか嫌な予感とかそういうもんだろう。

 これが物語の主役だってんなら、そういうものが備わっているからこその華麗な回避……とかできるんだろう。

 

 オレの場合は残念ながらその手の素質はないらしい。

 

 だが、今回に限っては主役であろうとなかろうと気がつくことができる。

『ぎよん』とか『ぐうおん』とか聞いたこともない空気の破裂音が響いた。

 

 それがオレに飛んできているのは明らかで、瞬間的に回避運動(ローリング)で飛び跳ねると、

 オレが居た位置を何かが通過し、その先にある家屋に命中し、その壁一面が文字通り粉砕した。

 

 がらんがらんと音が響く。

 飛んできたものは手槍だった。

 

 

「アストリアぁぁぁぁーーーーっ!!!」

 

 女の声とともに跳躍した馬が傷つき倒れているアストリアの前に降り立つ。

 片手に鋼の槍、もう片手には手槍。

 馬も甲冑も血に汚れているが、それら全てが返り血であることは明白だった。

 

 髪の毛の色や姿からそれがミディアであることはわかる。

 だが、事前に聞いていた苛烈な性格が許される実力って話だったが、こりゃどう見ても女呂奉先って感じだぞ。

 別に大柄になってるとか世紀末もびっくりな肉体ってわけじゃない。

 纏っている気配が猛将というべきか、むしろ猛獣のそれだ。

 

「ごほ、み、ミディアか……情けない姿を見せてしまったね」

「……私がまた一人で突き進んだから、巻き込んでしまったんだ

 ごめんなさい、アストリア……」

 

 槍を振るうとミディアが一歩前に出る。

 

「アストリアを回収して撤退を、この男は私が抑える」

 

 そう言うと大急ぎでアストリアに向かう兵士たち。

 普通ならオレはミディアとじりじりと睨み合い……とかなるんだろう。

 普通ならな。

 

 オレはそういうお約束が大嫌いなんでな、お定まりの台本展開なんて知らねえ。自由にやらせてもらう。

 

 小盾のグリップから手を離し、ダガーを取り出す。

 戦灰、起動。

 輝剣の円陣を発動して、左側の兵に即時に打ち出す。

 発射と同意にオレは右側へと突き進み、獣人の曲刀を振るう。

『突撃』が発動し、一人殺した直後に更に巻き添えでもう一人も殺す。

 倒れかけている兵士を踏み台にし、さらに輝剣の円陣を発動。周辺にいる兵士を撃ち抜く。

 

 飛び跳ねた先は最初に犠牲になった左側。

 着地と同時に獣人の曲刀が閃く。一人を解体し、『追撃』も発動したので手近な奴にも犠牲になってもらう。

 

 最高だ。

 雑魚を散らばすならグレートソードでもまったく問題はないが、小回りを利かせたい状況なら獣人の曲刀は適切だ。

 二刀流できたらさぞかし気持ちいいだろうが、ないものねだりは良くねえからな。

 片方が小盾なら小盾で読み合いありきの戦いなら多いに意味がある。

 それに今みたいにダガーを取り出して輝剣の円陣を頼ったりするトリックも活かせるしな。

 

『追撃』と『突撃』は知っている効果(出典準拠)なら戦闘しているものにしか発動しないが、

 オレ(褪せ人)にとっちゃあ敵がいりゃあそれは戦闘中ってことか、武器に封じられている力の発動を対象に限定しない。

 勿論、そもそも追撃や突撃も普通(この世界)で使えばそのようになるのかも知れないが、使える奴は見たこともないので実証しようもない。

 

「き、貴様ぁ!!」

 

 一瞬のことで呆気にとられたミディアはすぐにその状況を理解する。

 

「それでも騎士か!!」

「はあ?騎士?誰がいつ騎士だなんて名乗ったよ

 お前の尺度で計るなよ、三品キングダムの傲慢ナイト様がよォ」

「があぁあああぁ!!!」

 

 獣じみた咆哮を上げてミディアは大上段から振り下ろすようにして鋼の槍を操り出す。

 流石に馬上の騎士相手だと、こりゃあ『この先、グレートソードが有効だ』ってヤツか。

 

 攻撃自体は避ける。

 大振りだからこそ見切りやすい。

 

 しかし更にそこに新たな混迷の種が割り込んできた。

 手槍がオレたちの間合いを潰すように振ってきたのだ。

 流石に先程の手槍のような爆音はない。

 

 オレとミディアは距離を取り、飛来してきた方向を見る。

 そこにはドラゴンナイトが滞空していた。

 髪の毛も目も、鎧も赤い。

 凛とした姿が戦場に映える。

 一目でわかる、あれはマケドニアの王女ミネルバだ。

 

 こりゃあ、アレか、もしかしなくても三つ巴になるのか?

 

 ────────────────────────

 

「我が名はミネルバ、マケドニアの王女

 野性的でありながらも流麗、その刃に敵に危難の全てを感じさせる手並みは見事

 そこの戦士の名を伺いたい」

 

 将たる素質を強く感じさせる要素ってのは声だと思っている。

 狭間の地でもただ強い奴と、強さの中に理由を感じさせる奴の二種類がいた。

 ミネルバの声はよく通り、耳障りな音でもなく、しかし使い方によっては安息も恐怖も与える低い音が調和している。

 

「いい声だな、ミネルバ王女!

 その音色には名乗りで返させてもらおうか」

 

 オレは血糊を払うように獣人の曲刀を振るい、肩に担ぐ。

 

「アリティア聖王国が聖王レウス!

 孤軍にてなお輝く我が威名、忘れじのものとするがよい!」

 

 名乗りはミネルバにだけ向けたわけではない。

 この猪武者にもしかと覚えておいて貰わねばならない。

 ここまで名乗れば流石のイノシシでも忘れないだろうよ。

 

「……貴方が聖王国の現人神……

 なるほど、噂はあてにならないものだな」

 

 ミネルバは手斧を竜に備えたウェポンラックに納め、代わりに戦斧を引き抜く。

 オートクレール。

 メリクルソードと同じ、アカネイア大陸の至宝が一つか。

 

「マケドニアの戦姫にアリティアの聖王か……」

 

 両手の槍を構え、ミディアは二正面を相手取るように構える。

 名乗りなどの合間にアストリアは兵士たちに連れられてなんとか距離を稼いでいた。

 

「アストリアも渡さない、アカネイアも渡さない

 我ら貴族の誇りは誰にも奪わせはしないッ!」

 

「三つ巴の戦いか、ぞっとしないな」

 

 ミネルバは冷静に状況を俯瞰しているようだ。

 オレの技も見ていたということは相手取る二人はどちらも飛兵に対して届く技を持っている。

 一方でオレもミディアも重装甲ではないならばオートクレールでの一撃必殺を狙えるだろうとも思っているのだろう。

 

 オレもまるで構えを変えるみたいなフリをして、発生に隙が生まれる輝剣の円陣を発動する。

 

「あんまりいじめないでくれよ」

 

 本心であった。


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